第4章 国際社会で存在感を高める日本 2 文化・スポーツ・観光 (1)概要 日本文化がきっかけとなって日本に関心を持つに至る外国人は大変多い。外務省及び国際交流基金は、諸外国で良好な対日イメージを形成し、日本全体のブランド価値を高めるとともに、対日理解を促し、親日派・知日派を育成し、訪日観光客を増やすため、海外での日本文化の紹介や、スポーツ、観光促進を通じた様々な事業を行っている。例えば、「在外公館文化事業」では、茶道、華道、武道などの日本の伝統文化やアニメ、マンガ、ファッションといった日本の現代文化、日本の食文化など日本の魅力を幅広く紹介している。2020年は、新型コロナの流行により、集客を伴う事業の実施は困難であったが、各在外公館では、オンラインでの発信を活用し、多数の事業を実施した。 「日本ブランド発信事業」では、日本の国家ブランドを確立し、世界における日本のプレゼンスを強化するため、様々な分野の専門家を海外に派遣し、講演会や実演、ワークショップなどを通じて日本の経験・英知が結集された優れた文物を発信してきている。新型コロナの感染拡大に伴い、専門家の海外派遣は困難な状況が続いていることを踏まえ、オンライン形態による事業も取り入れながら引き続き日本の多様な魅力や強みの発信に努めていく。 また、2020年東京大会の機会を捉え、スポーツ分野での日本の存在感を一層示すことが重要である。外務省は、「Sport for Tomorrow(SFT)」プログラムの一環として、各国での様々なスポーツ交流・スポーツ促進支援事業、国際協力機構(JICA)海外協力隊によるスポーツ指導者の派遣、文化無償資金協力を活用したスポーツ器材の供与や施設の整備を実施している。さらに、これらの取組を外務省「MofaJapan×SPORTS」と題するツイッターを通じて内外に発信している。また、2020年東京大会への参加国・地域との相互交流を図るホストタウンの取組を支援している。 次世代の親日層・知日層の構築や日本研究を通じた対日理解促進のため、外務省は、在外公館を通じて、日本への留学機会の広報や元留学生とのネットワーク作り、地方自治体などに外国青年を招へいする「JETプログラム」への協力、アジアや米国との青少年交流事業や社会人を招へいする交流事業、日本研究支援などを実施している。 海外における日本語の普及は、日本との交流の担い手を育て、対日理解を深めるとともに、諸外国との友好関係の基盤となるものである。また、2019年6月には「日本語教育の推進に関する法律」が公布・施行され、2020年6月には「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」(閣議決定)が策定されるなど、日本語教育の重要性はますます高まってきている。外務省は、国際交流基金を通じて、日本語専門家の海外への派遣、海外の日本語教師に対する研修、日本語教材の開発などを行っている。また、日本における労働力不足を背景にして、2019年4月から在留資格「特定技能」による外国人材の受入れが開始されたが、就労目的での来日を希望する外国人に対する日本語教育という新たなニーズに対しても取組を行っている。 日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)などと協力し、世界の有形・無形の文化遺産の保護支援にも熱心に取り組んでいる。また、世界遺産条約や無形文化遺産保護条約などを通じ、国際的な遺産保護の枠組みの推進にも積極的に参加している(268ページ (7)参照)。 新型コロナ流行下においてもオンラインなどの工夫を凝らしてこれら文化・スポーツ外交を推進し、日本の魅力を海外で高めることによって、訪日観光客の増加にも貢献している。 (2)文化事業 各国・地域における世論形成や政策決定の基盤となる国民一人ひとりの対日理解を促進するとともに、日本のイメージを一層肯定的なものとすることは、国際社会で日本の外交政策を円滑に実施していく上で重要である。この認識の下、外務省は、在外公館や国際交流基金を通じて多面的な日本の魅力の発信に努めている。2020年には「英国における日本文化季間」として、新型コロナが流行している状況にあっても安全に日本文化を体験できる機会を創出すべく、オンラインイベント「Japan Matsuri Presents」を実施した。和太鼓や武道を始めとする日本の伝統文化から、和食及び日本酒の紹介、現地でも知られている「登美丘高校ダンス部」によるダンスなどのポップカルチャーまで、日本の多様な魅力を発信し、約3万人の視聴者を得た。 在外公館では、管轄地域での対日理解の促進や親日層の形成を目的とした外交活動の一環として、多様な文化事業を行っている。例えば、茶道・華道・折り紙などのワークショップ、日本映画上映会、邦楽公演、武道デモンストレーション、伝統工芸品などの展示会、日本語弁論大会などを企画・実施している。また、近年では、アニメ・マンガなどのポップカルチャーや日本の食文化などの生活文化も積極的に紹介している。 和食レクチャー・デモンストレーション(1月27日、米国・マイアミ) 和食レクチャー・デモンストレーション(2月17日、ボリビア・ラパス) いけばなレクチャー及びデモンストレーション(1月6日、中国・香港) また、外交上の節目となる年には、効果的な対日理解の促進を目指して、政府関係機関や民間団体が連携して大規模かつ総合的な記念事業(要人往来、各種会議、広報文化事業など)を集中的に実施し、活発な交流を行っている。2020年には、日本・チェコ交流100周年や日本・フィジー外交関係樹立50周年を記念して大型の文化事業を実施した。 日本・チェコ交流100周年記念狂言公演(9月23日、チェコ・プラハ) 国際交流基金では、外務省・在外公館との連携の下、日本の文化や芸術を様々な形で世界各地に発信する文化芸術交流事業、日本語教育、日本研究の推進及び支援などを行っている。文化芸術交流事業としては、新型コロナの感染拡大を踏まえ、オンライン事業を含む文化交流活動への緊急支援、基金本部・海外事務所によるオンラインでの文化発信・対話を行った。11月から国際交流基金の初の試みとして、世界10か国で「オンライン日本映画祭」を開催した。 また、2013年12月に安倍総理大臣が発表した「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」については、国際交流基金アジアセンターを通じた日本語学習支援事業と双方向の芸術文化交流事業を柱として、多岐にわたる文化交流事業を着実に実施している。アジアでの日本語学習支援の主要事業の一つである日本語パートナーズ派遣事業では、派遣前研修の一部を、地方創生の視点を踏まえ、立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)を拠点として実施した上で、2019年度末までに東南アジア10か国、中国及び台湾の中等教育機関などに計2,375人を派遣し、日本語教育のサポートのみならず、日本文化の紹介を通じた交流事業を実施した(2020年度は新型コロナの感染拡大により派遣中止)。その結果、多くの派遣先の学校関係者から、日本語パートナーズの活動は生徒の学習意欲などの向上に貢献があったとして高い評価を受けた。 派遣先で活躍する日本語パートナーズ (2月、インドネシア 写真提供:国際交流基金) 双方向の芸術文化交流事業では、新型コロナの感染拡大を受けて、日本とアジア諸国の人々の間での国境を越えた人の移動を伴わない共同事業への助成事業や、国際交流の可能性についての議論を配信する「オンライン・アジアセンター寺子屋」事業を実施した。また東京国際映画祭と連携し、「アジア交流ラウンジ」を実施し、日本とアジアの映画人による対談をオンライン形式で行った。 日本国際漫画賞は、海外への漫画文化の普及と漫画を通じた国際文化交流に貢献する漫画家を顕彰することを目的として2007年に外務省が創設した。第14回目となる2020年は、61の国・地域から過去最高となる383作品の応募があり、台湾の作品が最優秀賞に輝いた。また、今回はモーリタニア及びモンテネグロの2か国から初めて応募があった。 東京国際映画祭「アジア交流ラウンジ」に登壇した是枝裕和監督、 キム・ボラ監督(韓国)と女優の橋本愛さん (11月、東京 ©2020 TIFF 写真提供:国際交流基金) (3)人物交流や教育・スポーツ分野での交流 外務省では、諸外国において世論形成・政策決定に大きな影響力を有する要人、各界で一定の指導的立場に就くことが期待される外国人などを日本に招き、人脈形成や対日理解促進を図る各種の招へい事業を実施している。また、教育やスポーツの分野でも、幅広い層での人的交流促進のために様々な取組を行っている。これらの事業は、相互理解や友好関係を増進させるだけではなく、国際社会での日本の存在感を高め、ひいては外交上の日本の国益増進の面でも大きな意義がある。 ア 留学生交流関連 外務省は、在外公館を通じ日本への留学の魅力や機会を積極的に広報するとともに国費外国人留学生受入れのための募集・選考業務、各国の「帰国留学生会」などを通じた元留学生との関係維持や親日派・知日派の育成に努めている。2020年は各国の状況に応じオンラインも活用しこれらの活動を行った。 在外公館担当による日本留学説明(2月、フランス) 各地域の帰国留学生会組織数及び会員数 イ JETプログラム 外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る目的で1987年に開始された「JETプログラム」には、現在までに7万人が参加し、全国に配置されてきている。このプログラムは、総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会の運営協力の下、地方自治体などが外国青年を自治体や学校で任用するものであり、外務省は、在外公館における募集・選考や渡日前オリエンテーション、18か国に存在する元JET参加者の会(JETAA、会員数約2万4,000人)の活動を支援している。JETAAは各国で日本を紹介する活動を行っており、数多くのJET経験者が親日派・知日派として各国の様々な分野で活躍するなど、JET参加者は日本にとって貴重な人的・外交的資産となっている。2020年は世界的な新型コロナの影響下ではあったが、参加予定者の一部が必要な対策をとった上で来日している。 在ニュージーランド日本国大使館におけるJETプログラム参加者への事前研修(11月、ニュージーランド) 元JET参加者の会(JET Alumni Association)支部数及び会員数(2020年12月現在) ウ スポーツ交流 スポーツは言語を超えたコミュニケーションを可能とし、友好親善や対日理解の増進の有効な手段となる。2020年東京大会に向けて、世界各国から日本への関心が高まる中、日本政府は、2014年から2020年までに100か国以上、1,000万人以上を対象にスポーツを通じた国際貢献策「Sport for Tomorrow(SFT)」を実施しており、予定よりも早く2019年9月時点で目標を達成した。外務省は、2015年度から、「スポーツ外交推進事業」による選手やコーチの派遣・招へい、器材輸送支援、在外公館によるスポーツ関連レセプションなどのスポーツ交流を実施し、二国間関係の発展にも貢献している。2020年は新型コロナの感染拡大の影響から、国際的な人の往来が制限されたため、器材輸送支援を通じた交流を実施した。これらSFT事業は、日本のスポーツ関係者の国際スポーツ界におけるプレゼンス強化にもつながっている。 SFT事業:器材輸送支援により届けられたトライアスロン用品の寄贈式の様子(2月、ルワンダ) パラリンピックを通じてハートのレガシーを 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会 委員長 河合純一 これまで一人のパラリンピアンとして、様々な国を訪れたり、様々な国の方々と交流したりする機会をいただいてきました。大会、合宿で訪れることもあれば、会議や講演会の講師として訪問することもあります。特に印象に残っているのが、国際協力機構(JICA)の海外協力隊の隊員として、2006年にマレーシアで視覚障がいのある子供たちに水泳を教えたことです。文化、宗教、言語、障がいの有無を超える力がスポーツにはあるのだと実感する体験でもありました。また、「Sport for Tomorrow※」の一環として、2016年に中国から招へいされ、大学や盲学校などで「パラリンピックと共生社会」について講義、講演する機会もいただきました。このとき、勇気、強い意志、インスピレーション、公平というパラリンピックの四つの価値については、パラリンピアンだからこそ伝えられることがあるのだということを強く感じ、それらを伝えていく責任があるのだと実感しました。 日本においても、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定後、パラリンピック競技大会の準備を通して、多くの社会課題の解決につながる動きが具体化しました。例えば、東京2020アクセシビリティ・ガイドラインが取りまとめられ、競技会場の基準に沿ったスタジアム、アリーナなどが整備され、ハードのレガシーが築かれていきました。一方で、2017年には、日本財団パラリンピックサポートセンター様との協働により、パラリンピック教材である「I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル)」日本版を発表し、パラリンピックに散りばめられた「できない(Impossible)」を「できる(I'mPOSSIBLE)」に変えるための工夫や発想の転換(「'」)について学ぶ機会も提供しています。さらに2020年度からは学習指導要領にパラリンピック教育の記述が入り、学校でのパラリンピック教育がますます促進されることになりました。つまり、ハートにレガシーを残す取組が着実に動き出したのです。 私は、パラリンピック競技大会は「人間の可能性の祭典」であると考えています。パラアスリートたちの想像を超えるパフォーマンスに人間の可能性を見つけることもできますし、そのことにより、自分自身の中にある可能性に気付くきっかけをパラリンピックが与えてくれるからです。私も15歳で失明したとき、これまでの見えていた世界、当たり前だった状態が当たり前ではなかったことを痛感しました。パラリンピアンたちの考え方、不条理な困難への向き合い方は、子供たちだけでなく、新型コロナウイルス感染症により当たり前を失った世界中の人々にとっても、大いに参考になることと信じています。 このように、「できない」を「できる」に変えていく様々な気付きを、パラリンピック競技大会を通じて世界中に届けていきたいと思っています。それこそが、2020年東京パラリンピック競技大会から生み出されるハートのレガシーになっていくと信じているからです。 「超えろ、みんなで。」 4度目のパラリンピック競技大会で3大会連続の 金メダル獲得! JICA海外協力隊として視覚障がい児への水泳指導。世界どこでも子供の向上心は同じ! ※日本政府が官民連携で実施しているスポーツ分野における国際貢献策 エ 対日理解促進交流プログラム 日本とアジア大洋州、北米、欧州、中南米の各国・地域との間で、二国間・地域間関係の発展を念頭に、将来を担う人材を招へい・派遣し、政治、経済、社会、文化、歴史及び外交政策などに関する対日理解の促進を図るとともに、未来の親日派・知日派を発掘している。新型コロナの感染拡大を踏まえ、招へい・派遣の前後にオンラインによる講義などを行い、新型コロナ流行下においてもプログラムを継続している。さらに、被招へい者・被派遣者から日本の外交姿勢や魅力などについて、ソーシャルメディアなどを通じて積極的に発信してもらい、対外発信力を強化することで日本の外交基盤を拡充している。 (4)知的分野の交流 ア 日本研究 国際交流基金は、海外における日本の政治、経済、社会、文化などに関する様々な研究活動を複合的に支援している。国際交流基金の日本研究フェローシップ事業では、毎年、多くの海外の日本研究者が来日しているが、2020年は新型コロナの感染拡大により、世界各地で国際的な人の往来を伴う事業の実施を見合わせざるを得なかったこともあり、前年に来日し新型コロナ流行下の日本で過ごした外国の日本研究者が、日本人が新型コロナをどう受け止め、日本がどのように変化したのかについて、それぞれの専門分野の視点から論じる動画シリーズを配信した。 外国の日本研究者が見た新型コロナ流行下の日本を専門分野から論じる動画シリーズの配信(写真提供:国際交流基金) また、19か国・地域の39か所の日本研究機関に対し、日本関係図書の拡充、研究助成、セミナー・シンポジウムの開催支援などを行ったほか、各国・地域の日本研究者や研究機関のネットワーク構築を促進するため、学会活動への支援なども行っている。 イ 知的交流 外務省は、国際交流基金を通じ、知的交流事業も実施している。具体的には、共通の国際的課題をテーマとしたセミナー・シンポジウム、海外の主要大学において現代日本に対する理解を深めるための講義などを行うプログラムに助成しているほか、グラスルーツからの日米関係強化のための日米交流ファシリテーター及び日本語教育サポーター派遣事業、NPOや他の交流団体とも協力しつつ、様々な分野・レベルでの対話を通じて関係を強化し相互理解を深める交流事業などを企画・支援した。 ウ 日米文化教育交流会議(CULCON:カルコン) 日米の官民の有識者が両国の文化・教育交流について議論するカルコンでは、その分科会に当たる美術対話委員会と教育レビュー委員会が最終報告書を作成した。美術対話委員会の報告書では、次世代の美術専門家の育成やネットワーク技術を利用した広報などの具体的な活動が取り上げられた。教育レビュー委員会の報告においては、2013年にカルコンの教育タスクフォースが設定した日米学生の交流数を倍増するというカルコンの目標に向けた日米の官民の具体的な取組が、レビュー期間中の実際の留学生数の推移や社会情勢の変化とともに広く取り上げられた。 グラスルーツからの日米関係強化(派遣事業)(3月、米国・テキサス、写真提供:国際交流基金日米センター) エ 国際連合大学(UNU)との協力 日本政府は、地球規模課題の研究及び人材育成を通じて国際社会に貢献するUNUの創設を重視し、1975年に本部を日本に誘致して以来、様々な協力と支援を行ってきている。UNUは、日本の大学や研究機関と連携し、平和、開発、環境など日本が重視する国際課題に取り組むことで、日本政府の政策発信にも貢献している。また、UNUは、2010年に大学院プログラムの修士課程、2012年に博士課程をそれぞれ開設しており、グローバルな人材育成プログラムの質の向上にも努めている。 (5)日本語普及 日本経済のグローバル化に伴う日本企業の海外進出の増加や日本のポップカルチャーの世界的な浸透などにより、若者を中心に外国人の日本語への関心が増大している。海外において日本語の普及を一層進めることは、日本の国民や企業にとって望ましい国際環境作りにつながるものである。国際交流基金が2018年度に行った調査では、142の国・地域で約385万人が日本語を学習していることが確認された。また、同基金が実施する日本語能力試験は、2019年には87の国・地域、307都市で行われ、受験応募者数は過去最高の約137万人となった(国内実施分を含む。)(2020年は新型コロナの感染拡大に伴い部分的に実施)。一方、これらの多くの国・地域では、多様化する日本語学習への関心・ニーズに応える上で日本語教育人材の不足が大きな課題となっている。 外務省は、国際交流基金を通じて海外の日本語教育現場での多様なニーズに対応している。具体的には、日本語専門家の海外派遣、海外の日本語教師や外交官、公務員を対象とした訪日研修、インドネシア及びフィリピンとの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士候補者への訪日前日本語予備教育、各国・地域の教育機関などに対する日本語教育導入などの働きかけや日本語教育活動の支援、日本語教材開発、eラーニングの運営、外国語教育の国際標準に即した「JF(国際交流基金)日本語教育スタンダード」の普及活動などを行っている。 また、日本における少子高齢化を背景とした労働力不足への対応として、2019年4月から新たな在留資格「特定技能」による外国人材の受入れが開始されたが、「外国人材の受入・共生のための総合的対応策」(2018年12月25日「外国人材の受入・共生に関する関係閣僚会議決定」)に基づき、来日する外国人の日本語能力を測定する「国際交流基金日本語基礎テスト」(JFT-Basic)の実施や、その日本語能力を効果的に習得することを目的とした教材・カリキュラムの開発・普及、就労希望者に日本語教育を行う現地日本語教師の育成などの新しい取組を行っている。 (6)文化無償資金協力 開発途上国での文化・高等教育を支援し、日本と開発途上国の相互理解や友好親善を深めるため、政府開発援助(ODA)の一環として文化無償資金協力を実施している。2020年は、一般文化無償資金協力3件(総額約5億6,100万円)、草の根文化無償資金協力16件(総額約1億2,000万円)を実施した。2020年は、一般文化無償資金協力では文化遺産の保存や展示及び図書館のデジタルアーカイブ化のための機材供与など、草の根文化無償資金協力ではスポーツ振興と日本語普及分野での協力を重点的に実施した。 (7)国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)を通じた協力 日本は、教育、科学、文化などの分野でユネスコの様々な取組に積極的に参加している。ユネスコは1951年に日本が戦後初めて加盟した国際機関であり、以来、開発途上国に対する教育、科学、文化面などの支援で日本と協力してきた。 文化面では、世界の有形・無形の文化遺産の保護・振興及び人材育成分野での支援を柱として協力するとともに、文化遺産保護のための国際的枠組みにも積極的に参画している。その一環として、カンボジアのアンコール遺跡、ウガンダのカスビ王墓、ネパールの文化遺産の震災後の復興を始め、日本人の専門家が中心となって、現地の人々が将来は自らの手で遺跡を守ることができるよう人材育成を行うとともに、遺跡の保存修復を支援している。特にアンコール遺跡保存修復事業(カンボジア)に対しては、1994年以降、継続的な支援を行っている。また、アフガニスタンでは、2003年からバーミヤン遺跡保存事業を実施しており、現地の人々の心のよりどころであるバーミヤン遺跡の修復に貢献している。無形文化遺産保護についても、開発途上国における音楽・舞踊などの伝統芸能、伝統工芸などを次世代に継承するための事業、各国が自ら無形文化遺産を保護する能力を高めるための国内制度整備や関係者の能力強化事業に対し、支援を実施している。 人文科学分野では、ユネスコのAI(人工知能)の倫理に関する規範的文書の策定が進められており、日本は、2019年8月のTICAD7の際に、ユネスコとの共催で、「AIの活用に関するパネルディスカッション」を開催し、また、2020年4月から開催されてきている複数の専門家会合に積極的に参画するなど、その策定に向けた議論に貢献している。 また、アズレー事務局長の下、ユネスコは、非政治化のための戦略的改革を推進しており、日本もこのユネスコ改革を支持している。10月には、茂木外務大臣がパリのユネスコ本部を訪問してアズレー事務局長と会談し、組織改革を含むユネスコ強化へ向けた同事務局長の取組への支持を表明した上で、引き続き、教育、文化、科学、情報・コミュニケーションの分野で知的・人的側面も含め積極的に貢献していくと伝えた。 ア 世界遺産条約 世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体の遺産として国際的に保護することを目的としており、日本は1992年にこの条約を締結した(2020年12月現在締約国数は194か国)。この条約に基づく「世界遺産一覧表」に記載されたものが、いわゆる「世界遺産」である。建造物や遺跡などの「文化遺産」、自然地域などの「自然遺産」、文化と自然の両方の要素を持つ「複合遺産」に分類され、2020年12月現在、世界遺産一覧表には世界全体で1,121件が記載されている。このうち、日本からは文化遺産19件、自然遺産4件の計23件が記載されている。 また、2020年3月には、産業遺産情報センターを設置し、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」を中心とした産業遺産に関する情報発信などを行っている。 イ 無形文化遺産保護条約 無形文化遺産保護条約は、伝統芸能や伝統工芸技術などの無形文化遺産について、国際的保護の体制を整えるものである(2020年12月現在締約国数は180か国)。国内の無形文化財保護において豊富な経験を持つ日本は、この条約の作成作業の牽引(けんいん)役となり、運用指針の主要部分を取りまとめるなど、積極的な貢献を行っている。2020年12月に開催された無形文化遺産保護条約第15回政府間委員会において日本の推薦案件である「伝統建築工匠の技」が登録された結果、現在、条約に基づき作成されている「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」には、日本の無形文化遺産として計22件が記されている。 ウ ユネスコ「世界の記憶」事業 ユネスコ「世界の記憶」事業は、貴重な歴史的資料の保護と振興を目的に1992年に創設された。2020年12月現在、427件が登録されている。 従来の制度では、加盟国が登録の検討に関与できる仕組みとなっておらず、また登録申請案件について、関係国間での見解の相違が明らかであるにもかかわらず、一方の国の主張のみに基づき申請・登録がなされ政治的対立を生むことは、ユネスコの設立趣旨である加盟国間の友好と相互理解の推進に反するものとなることから、新規申請を凍結した上で同事業の制度改善が進められている。2018年10月の執行委員会において、制度の包括的な見直しに関する改定行動計画が採択され、1年間にわたり議論が行われたが、2019年10月及び2020年7月の執行委員会においてそれぞれ議論の延長が決議され、現在も議論が継続されている。