第4章 国際社会で存在感を高める日本 第2節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組 1 安全保障に関する取組 (1)国際協調主義に基づく「積極的平和主義」 日本を取り巻く安全保障環境は、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している。国際社会のパワーバランスの変化は加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性は増大しており、こうした中、自らに有利な国際秩序の形成や影響力の拡大を目指した国家間の競争が顕在化している。さらに、国際社会においては、安全保障上の課題が広範化・多様化し、一国のみでの対応が困難になっている。宇宙領域やサイバー領域に関しては、国際的なルールの確立が安全保障の観点からも課題となっている。海洋においては、既存の国際秩序とは相いれない主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、または行動する事例が見られ、国連海洋法条約(UNCLOS)を始めとする国際法上の権利が不当に侵害される状況が生じている。近年、安全保障の裾野が経済・技術分野に一層拡大していることを踏まえ、これらの分野における安全保障政策に係る取組の強化が必要となっている。大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、深刻化する国際テロは、引き続き国際社会にとっての重大な課題である。こうした中、日本の周辺には、質・量ともに優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっている。 このような安全保障環境などに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。日本の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、日本がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。今後とも、日本は、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、日本の安全及び地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に貢献していく。 (2)「平和安全法制」の施行及び法制に基づく取組 日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守るためには、力強い外交を推進し、安定し、かつ、見通しがつきやすい国際環境を創出していくことが重要である。その上で、あらゆる事態に対し切れ目のない対応を可能とするとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することが重要であり、そのための「平和安全法制」が、2016年3月に施行された。 この法制は、専守防衛を始めとする日本の平和国家としての歩みをより確固としたものにしていくためのものである。また、これにより、日米同盟を強化し、日本の抑止力を向上させ、紛争を未然に防ぐとともに、国際社会へのより一層の貢献が可能となった。 「平和安全法制」については、様々な機会を捉えて、諸外国に対し、その内容を丁寧に説明してきている。これに対し、米国はもとより、オーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、ヨーロッパ諸国、中南米諸国、国連を始め多くの国・機関から、理解と支持が表明されている。これは、「平和安全法制」が、世界の平和と安全に貢献する法律であることの何よりの証である。 (3)領土保全 領土保全は、政府にとって基本的な責務である。日本の領土・領空・領海を断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅然(きぜん)としてかつ冷静に対応するとの考えの下、政府関係機関が緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するための取組を推進している。同時に、在外公館の人脈や知見をいかしつつ、領土保全に関する日本の主張を積極的に国際社会に発信している。