第3章 国益と世界全体の利益を増進する経済外交 2 食料安全保障の確保 2020年の世界の人口は約78億人と推定されており(国連人口部発表)、今後、アフリカやアジアを中心に人口の増加が見込まれている。また、開発途上国の食生活の変化に伴い、飼料用穀物の生産を急増させる必要があるとされている。国内では、日本の食料自給率(カロリーベース(農水省発表))は長期的に低下傾向で推移してきたが、近年は横ばいで推移し、2019年度実績は38%となっている。日本は食料の多くを輸入に依存しており、国民への安定的な食料の供給のためには、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、輸入と備蓄を適切に組み合わせることが必要である。 世界的に中長期的に需給のひっ迫が懸念される中、安定的な輸入を確保するためには、世界全体の食料増産を進める必要があり、環境負荷を低減しつつ増産を図る持続可能性の確保も求められている。加えて、作況や自然災害などによる食料価格の不安定化に備え、安定的な農産物市場や貿易システムを形成するなどの取組により、日本の食料安全保障の確立を図っていかなければならない。 新型コロナの感染拡大は、世界の食料安全保障に影響を与えた。一時的に中国産加工野菜の日本への輸出の停滞がみられたほか、ロシアやベトナムなどが小麦、コメなどの輸出制限を実施する動きがみられた。また、国連食糧農業機関(FAO)によると、経済の落ち込みやサプライチェーンの混乱による食料アクセスの低下に伴い、特に脆弱(ぜいじゃく)な地域の1億人以上が栄養不足に陥る可能性が指摘されている。世界の主要な穀物などの生産は、需要に対して十分な量が確保される見込みであるが、感染拡大の長期化による影響が懸念されることから、食料サプライチェーンの強靭化が急務である。 (1)食料安全保障に関する国際的枠組みにおける協力 新型コロナの影響による食品の輸出規制やサプライチェーンの途絶の状況を踏まえ、国際的な枠組みにおいて、サプライチェーンの維持・回復、不当な貿易制限の回避などの重要性を確認してきている。3月、FAO、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)は、共同声明において、貿易関連措置が食品サプライチェーンの混乱を生じさせることがないよう各国に呼びかけた。 G20の枠組みでは、議長国サウジアラビアの下、4月にG20農業大臣臨時テレビ会議、9月にG20農業・水大臣会合(テレビ会議)が開催され、新型コロナによる食料安全保障などの諸課題への対応などについて議論が行われ、それぞれ「新型コロナウイルス感染症に関するG20農業大臣声明」及び「G20農業・水大臣宣言」が採択された。 APECでは、民間セクターとも連携した形でAPEC食料安全保障に関する政策パートナーシップ(PPFS)6を通じた協力が進められている。2020年の議長国マレーシアの下では、10月にAPEC食料安全保障閣僚級政策対話(テレビ会議)が開催され、新型コロナによる影響を踏まえた食料安全保障の確保について議論が行われ、「APEC食料安全保障閣僚級政策対話声明」が採択された。 (2)国連食糧農業機関(FAO)との連携 日本は、国際社会の責任ある一員として、食料・農業分野における国連の筆頭専門機関であるFAO7の活動を支えている。特に、日本は第3位の分担金負担国であり、主要ドナー国の一つとして、食料・農業分野での開発援助の実施や、食品安全の規格などの国際的なルール作りなどを通じた世界の食料安全保障の強化に大きく貢献している。また、日・FAO関係の強化にも取り組んでおり、年次戦略協議の実施や、国内への理解の向上のためのシンポジウムなどを実施している。 6 PPFS:Policy Partnership on Food Security 7 FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations