第2章 地域別に見た外交 3 中南米各国(カリコム諸国については92ページ 2(3)を参照) (1)メキシコ メキシコには約1,300社もの日本企業が進出し、日本にとって中南米地域最大の経済拠点となっている。特に、近年は2020年に発効15周年を迎えた日・メキシコ経済連携協定(日・メキシコEPA)を軸として、経済分野における二国間関係がますます強化されている。また、2018年末に発効したTPP11協定のメンバーでもあるメキシコは、8月に議長国としてオンライン形式による第3回TPP委員会(閣僚レべル)を開催した。 隣国である米国との関係では、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が7月に発効した。同協定発効の機会に、ロペス・オブラドール大統領は、大統領就任後初の外遊としてワシントンDCを訪問し、トランプ米国大統領と首脳会談を行った。メキシコは、新型コロナの感染拡大により停滞した経済を活性化させるための手段として同協定を重要視している。 USMCAについては、NAFTAに比べ自動車に係る域内調達率が引き上げられることから、日本の進出企業への影響が懸念されている。12月にオンライン形式で実施した第10回日・メキシコEPA合同委員会では、日本側からメキシコ側へ、現地進出企業が直面しているビジネス環境に係る要望に加え、USMCAの運用に関して十分な情報提供を行うよう要請を行った。 また、2021年1月には茂木外務大臣がメキシコを訪問し、エブラル外相やクルティエル経済相と会談した。会談では、新政権が成立する米国と緊密な関係を有するメキシコとの戦略的連携の一層の強化を確認したほか、2021年及び2022年に国連安全保障理事会メンバーを務めるメキシコと国際社会・地域の諸課題で協力していくことを確認した。また、ビジネス環境の整備と安定化、新型コロナが流行する中での進出日系企業への支援を要請し、TPP11協定の着実な実施と拡大、世界貿易機関(WTO)改革の実現に向け引き続き連携することを確認した。 (2)中米(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ドミニカ共和国、ニカラグア、パナマ、ベリーズ、ホンジュラス) 2020年は、日本と中米5か国との外交関係樹立85周年に当たることを記念し、日・中米統合機構(SICA)友好記念式典が行われ、中米各国産のコーヒーが日本の医療従事者に贈呈された。1月のグアテマラ大統領就任式には山口泰明特派大使(衆議院議員)が出席した。 11月に勢力の強いハリケーン「イータ」及び「イオタ」が相次いで中米諸国に甚大な被害をもたらしたことに対し、茂木外務大臣からのお見舞いメッセージを発出したほか、被害の深刻なニカラグア、ホンジュラス、グアテマラに対しては緊急援助物資の供与などの支援を行った。 日・SICA友好記念式典(9月15日、東京) (3)キューバ 新型コロナの世界的拡大を受け、主要産業の観光業を始め国内経済は打撃を受け、国民生活は厳しさを増した。その一方で、キューバは約40の国・地域に対し約4,000人の医療関係者を派遣し、各国の新型コロナ対策に協力した。11月にはハバナで日本の厚生労働省とキューバ保健省との間の協力覚書の署名式が実施された。 (4)ブラジル ボルソナーロ大統領は、新型コロナが拡大した4月以降、国内の政治的混乱と相まって国内外のメディアから新型コロナ対策をめぐって批判を受け、さらに7月には大統領自身も新型コロナに感染したにもかかわらず、就任以来掲げる経済重視の姿勢を変えなかった。一方、新型コロナが悪化の一途をたどる4月、ブラジル最高裁は、新型コロナ対策に関する措置の最終決定権は地方政府にあるとの判決を出し、各自治体の現場では生活に不可欠なサービス以外の全ての施設を強制的に閉鎖するなど厳格な措置が取られた。 日本との関係では、2月に鈴木外務副大臣がブラジルを訪問した。その後、新型コロナ流行下において要人往来が制限される中、10月には日・ブラジル外相電話会談が実施され、両大臣は、日・ブラジル両国が基本的価値を共有し日系人を通じた絆を有する「戦略的グローバル・パートナー」として、幅広い分野で良好な二国間関係や国際場裡での協力を更に深化させていくことを確認した。さらに、11月には第1回日米伯(ブラジル)協議(JUSBE)がブラジリアにおいて対面で開催され、自由、民主主義、法の支配などの共通の価値を基礎として、具体的な協力関係を持続的に追求していくことが確認された。2021年1月には茂木外務大臣がブラジルを訪問し、日米との協調を重視する新しい外交を進めるボルソナーロ政権との間で、民主主義などの基本的価値の共有や伝統的な日系人の絆を改めて確認した。また、日米伯協議の活用を含め、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた戦略的連携の一層の強化を確認するとともに、二国間では、経済、環境、人的交流など幅広い分野での協力関係を更に深化させることで一致した。 アラウージョ・ブラジル外相と会談する鈴木外務副大臣 (2月14日、ブラジル・ブラジリア) 茂木外務大臣ブラジル訪問時の「ニオブ及びグラフェンの生産及び利用に関する協力覚書」及び「アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用に関するトメアス協力覚書」署名式(2021年1月8日、ブラジル・ブラジリア) ブラジルの日系社会 ゴイアス・日本ブラジル協会会長 マルコ・トゥリオ・トグチ ゴイアス日伯協会主催の盆踊り大会(2019年) 2020年は、日伯修好通商航海条約が結ばれてから125周年の記念の年でした。両国の間には、特に、日本からの移民及びブラジルからの移民を双方向で迎えたという、人の移住による相互協力の歴史があります。日本人移住者はブラジルで、日本文化の伝統を守りながら、名誉、献身、誠実さという遺産を築き上げました。 日系社会はブラジル全土にわたって形成されており、また、ブラジルで日本文化を後世へ引き継いでいくための、日本に関係する各種協会が存在します。こうした協会で行われる日本文化や日本食に関する伝統的な行事の始まりに、ブラジル国歌とともに日本の国歌「君が代」が流れるとき、日系人は感動を覚えるのです。 日系人の間には、先祖に対する誇りや感謝の思いがあり、その思いが、日本人移住者によって築かれた遺産を後世へ引き継いでいこうと、何千人もの日系社会の活動に関わるボランティアを駆り立てるのだと思います。 ゴイアス州では、「ゴイアス・日本ブラジル協会」(以下「ゴイアス日伯協会」という。)の取組を通じて、日本文化が生き続けており、日系人の団結も維持されています。同協会では、日本語の学習講座や、生け花、折り紙、剣道、太鼓などの芸術、またゲートボール、サッカー、バレーボール、卓球、テニスなどのスポーツを楽しめるコースが非営利で提供されています。ここのコミュニティでは、婦人会、老人会、生徒会、青年会といったグループが活発に活動を続けており、ゴイアス州で日本文化を普及するため、会員は連携して文化や食に関するイベントを開催しています。中でも若手グループの活躍は特筆すべきで、彼らが協会の活動に関わり続けていることは、協会の取組が将来も続いていくことに希望をもたらすものです。 「ゴイアス日本語モデル校」に加えて、ゴイアス日伯協会は、日本移民資料館や図書館を含む、「ゴイアス社会統合・日本文化研究センター」の設置を計画しています。その目標は、ブラジルの一般市民が日本文化に親しみ、国内でそれを継承していけるようにすることです。 ゴイアス日伯協会は、スポーツ交流や若者の交流に関する活動も行っています。例えば、2019年に「頑張って!青年!」プロジェクトを立ち上げました。その第1回目のゲストは、その後見人である山田彰駐ブラジル日本国大使でした。このプロジェクトはこれまでに10回開催されており、ブラジル全土の日系社会から講師を招き、彼らとの対話を通じて、若者の中の日系人としての誇りを呼び起こしてきています。 同様に特筆すべきは、日本外務省による、日系社会の強化を目的とした訪日招へいプログラム「Juntos!! 中南米対日理解促進交流プログラム」という重要なインセンティブと、常に日系社会の大義を支持し、日系人の協会を強化しようとしている在ブラジル日本国大使館の外交官の皆さんの協力です。私は2019年の同招へいプログラムに参加しましたが、そこでの経験は有益で、モチベーションを高めてくれるものでした。 若い世代の関わりが増えていることで、日系社会の取組が引き続き成果を収めていき、日本の伝統が継承され、先祖の歴史が忘れ去られないようになるものと希望を持っています。 ゴイアス日伯協会の太鼓グループ (筆者後列左から2人目)(2019年) ゴイアス日伯協会主催の運動会(2019年) (5)アルゼンチン 2019年12月に発足したフェルナンデス政権は、前政権の政権運営を「行き過ぎた自由主義」と批判し、新型コロナ拡大に直面する中、国内各セクターとの対話、平等な発展と弱者保護を主張し、施策を実施している。経済面では、民間債務再編が不可欠となり、グスマン経済相を中心に債権者と協議を行った結果、8月にほぼ全ての債権者と債務再編に合意し、今後は、国際通貨基金(IMF)などとの公的債務再編交渉が重要な課題となっている。国内経済は引き続き厳しい状況が続いており、現政権の経済政策に注目が集まっている。 日本との関係では、12月に政策協議がオンラインで実施され、引き続き二国間の協力関係を強化することなどで一致した。2021年1月には茂木外務大臣がアルゼンチンを訪問し、フェルナンデス政権発足後、初の外相会談を実施した。同訪問において、基本的価値を共有する「戦略的パートナー」として、自由で開かれた国際秩序の維持・強化、新型コロナ対策やWTO改革などの国際的課題についての連携の一層の強化のほか、進出日系企業のビジネス環境整備など、経済を始めとする様々な分野での二国間関係の更なる強化を確認した。また、両国の「架け橋」である日系社会との更なる連携強化を確認した。 日・アルゼンチン外相会談 (2021年1月7日、アルゼンチン・ブエノスアイレス) (6)ペルー 2018年に就任したビスカラ大統領は、国会と対立する形で2019年9月に国会を解散し、2020年1月に国会議員選挙を実施した。新型コロナ対策に注力したものの、国会との関係は改善されず、11月、汚職疑惑により罷免された。その後、ペルー憲法に従いメリーノ国会議長が大統領に就任したがわずか5日で辞任し、新たに選出されたサガスティ国会議長が大統領に就任した。2021年4月に大統領選挙が実施される予定となっている。 日本との関係では、5月に首脳電話会談、10月に外相電話会談が行われた上、12月には第2回政策協議がオンラインで実施され、二国間及び国際場裡において緊密に連携し、引き続き協力を継続することで一致した。 (7)チリ 2019年10月、地下鉄運賃値上げを契機とした反政府抗議活動が社会経済構造への抗議活動に発展し、この影響により、同年末に開催予定のAPEC首脳会議・閣僚会議及び国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の開催が中止された。国民の要求を踏まえて、2020年10月に新憲法制定の是非及び制憲議会の形式を問う国民投票が実施され、8割近い賛成により新憲法制定及び全員民選による制憲議会の採用が可決された。今後、制憲議会(選挙は2021年4月11日実施予定)による新憲法制定プロセスが開始される。 日本との関係では、11月末に第9回政策対話がオンラインで実施され、「戦略的パートナー」として引き続き協力関係を強化することで一致した。 (8)ウルグアイ 3月1日に発足したラカジェ・ポウ政権は、同月13日には国家衛生緊急事態宣言を発動するなど、発足当初から新型コロナ対策として様々な施策を進めたこともあり、政府への国民の評価は高く、同政権は高い支持率を維持している。 日本との関係では、3月の大統領就任式に河村建夫衆議院議員が特派大使として出席し、ラカジェ・ポウ大統領と会談したほか、9月にはオンラインでの局長級協議が実施された。2021年1月には外交関係開設100周年の機会を捉え、茂木外務大臣が日本の外務大臣として35年ぶりにウルグアイを訪問し、民主主義などの定着の模範であり、自由貿易を推進するウルグアイと、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた戦略的連携の一層の強化と、経済を中心とする様々な分野での二国間協力の強化を確認したほか、税関相互支援協定に署名した。 茂木外務大臣ウルグアイ訪問時の「日本・ウルグアイ外交関係開設 100周年記念」ロゴマークの発表 (2021年1月6日、ウルグアイ・モンテビデオ) (9)パラグアイ アブド・ベニテス政権は、自由開放的な経済政策を引き続き推進している。日本との外交関係樹立100周年を迎えた2019年をステップに、新型コロナ流行下においても日本とパラグアイは友好関係を維持し、日本は上下水道整備のための支援などを行った。 また10月には、日・パラグアイ政策協議が実施されるなど、着実に二国間関係が進展し、2021年1月には茂木外務大臣が日本の外務大臣による初のパラグアイ二国間訪問を実現した。民主主義などの基本的価値をとりわけ重視し、伝統的な日系人の絆を有するパラグアイとの間で、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた連携で一致し、インフラ、科学技術、貿易投資など多様な分野で両国関係の拡大・深化のための連携を強化することを確認した。また、同訪問では茂木外務大臣から電力分野で93億円の円借款を供与する方針を伝達した。 日・パラグアイ外相会談(2021年1月7日、パラグアイ・アスンシオン) (10)コロンビア 2018年8月に就任したドゥケ大統領は、2016年のコロンビア和平合意7履行に取り組むとともに、汚職対策、年金制度改革などを推進した。2020年は新型コロナが大都市及び港湾都市を中心に拡大し、国内経済の立て直しが喫緊の課題となっている。外交面では、4月に経済協力開発機構(OECD)への正式加盟が発表されたほか、12月から自由貿易を推進する太平洋同盟の議長国となった。 日本との関係では、10月に第4回政策協議がオンラインにて実施され、引き続き協力関係を強化することで一致した。 (11)ベネズエラ 2018年5月に実施された大統領選挙の正統性に疑義がある中、2019年1月にマドゥーロ大統領の就任式が実施された。同月、グアイド国会議長(野党)が憲法の規定に基づき暫定大統領就任を宣言したことにより、政権側と野党との間の対立が激化した。2020年12月、主要野党不在のままベネズエラ国会議員選挙が実施され、マドゥーロ側政党が勝利を宣言したが、これに対し、主要野党を含むベネズエラ国内及び国際社会は、選挙が正統性を欠くとして反発した。また、国内の経済・社会情勢及び人道情況の悪化によりベネズエラ国民が避難民として周辺国に流入し、その受入れが地域的課題となっており、日本は避難民を含むベネズエラ国民及び周辺国に対する支援を実施している。 (12)ボリビア 2019年10月の大統領選挙時に開票手続不正疑惑が生じ、一度勝利宣言した現職のモラレス大統領(2006年から現職)が、抗議活動や国際社会からの批判・軍部の離反などを受けて11月に辞任・亡命し、親米右派のアニェス暫定政権が発足した。2020年10月、改めて選挙を実施した結果、モラレス元大統領の側近であったアルセ元経済・財務相が勝利し、11月には新大統領に就任して、左派政権に回帰した。 (13)エクアドル 3月以降、新型コロナ拡大の影響で、原油価格の下落及び需要縮小から経済は大打撃を受けたが、8月には対外債務の再編交渉が成立し、モレノ大統領の下で経済改革が進展している。日本との関係では、1月に首都キトで政策協議が行われ、今後の更なる経済関係の深化及び協力関係の促進を確認した。 (14)日系社会との連携 日系社会は、中南米諸国の親日感情の基礎を築いてきたが、移住開始から100年以上を経て世代交代が進んでおり、日本とのつながりが希薄な若い世代も増えている。そうした中、日本は、若手日系人の訪日招へいに加え、各国の若手日系人によるイベント開催を支援し、若手日系人同士のネットワーク作りを後押しするなど、日系社会との連携強化に向けた施策を実施している。2月には、サンパウロ(ブラジル)で開催された第24回日系国際スポーツ親善大会(CONFRA)の開会式に鈴木外務副大臣が出席し、11月にはこれまでの外務省招へい者によるOB会(外務省研修生OB会ラテンアメリカ会合)がオンラインで開催され、宇都外務副大臣がメッセージを寄せるなど、国を越えた日系社会の連携にも力を入れている。 7 サントス大統領(当時)は半世紀以上に及ぶ国内紛争を終結させるため、2012年にコロンビア最大のゲリラ組織であるコロンビア革命軍(FARC)との間で和平交渉を開始。2016年、和平合意を発表