第2章 地域別に見た外交 第3節 北米 1 米国 (1)米国情勢 ア 政治 2020年の米国政治の最大の焦点は、新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」という。)の急激な感染拡大と人種差別への抗議運動の激化を背景に行われた大統領選挙であった。 トランプ大統領は、2019年12月にウクライナ疑惑を受けて下院によって弾劾訴追されたが、2月、上院の弾劾裁判で無罪となった。このような政治情勢の中、11月の大統領選挙に向け、同大統領は、一般教書演説を始めとする様々な機会に雇用の増大や失業率の低下、株価の上昇、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効などの政権の実績を国民に積極的に発信した。一方の民主党は、2月に始まった大統領候補者選びの予備選序盤で苦戦していたバイデン元副大統領が、サウスカロライナ州予備選での勝利を契機に勢いを得て、3月のスーパーチューズデーで大勝、撤退した他の候補からの支持も獲得し、4月、左派のサンダース上院議員を抑えて指名を確実にした。 その傍ら、1月下旬には西部ワシントン州において米国初の新型コロナ感染者が確認された。同月31日、トランプ大統領は公衆衛生緊急事態を宣言するとともに、米国入国前14日以内に香港とマカオを除く中国全土に滞在歴のある外国人の2月2日以降の入国を禁止した。しかし、3月に入って米国内の感染は急速に拡大し、3月下旬には累積感染者数が中国を抜いて、米国が世界最大の新型コロナ感染国となった。これに伴い、米国全土で外出禁止令や経済活動制限措置が取られ、人々は家族や友人との集まりを制限された。それまで好調であった米国経済は大きく減速し、学校などの公的教育機関は休校若しくはオンラインでの授業に移行、また、病院では病床不足が深刻化し医療崩壊の危機が懸念された。 このような中、5月25日、ミネソタ州ミネアポリスにおいて黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官により約9分間にわたり首を膝で圧迫され、搬送先の病院で死亡する事件が発生した。フロイド氏が地面に押さえつけられながら「息ができない」と懇願する動画が拡散し、人種差別への抗議行動が「ブラック・ライブズ・マター」運動として全米各地に拡大した。警官との衝突などにより多くの逮捕者、一部の都市では死傷者が発生し、南北戦争の南軍将軍の銅像を始め歴史的人物の像の撤去や破壊なども相次いだ。また、8月23日には、ウィスコンシン州ケノーシャで白人警官による黒人男性ジェイコブ・ブレイク氏銃撃事件が発生した。これを受けて抗議行動は再燃し、構造的な人種差別への対処や警察改革の必要性についての議論も活発化した。 トランプ大統領とバイデン元副大統領はこれらの事象に関して異なるアプローチを取った。新型コロナに関し、トランプ大統領はウイルス拡散に対する中国の責任や経済活動継続の重要性を強調しつつ、年内のワクチン開発と迅速な供給を実現すると繰り返し主張した。これに対してバイデン元副大統領は、トランプ大統領がウイルスは致命的だと知りながら国民に嘘をつき、必要な感染拡大対策を怠ったことで多くの人命が失われたと非難した。また、「ブラック・ライブズ・マター」運動に関し、トランプ大統領は極左や無政府主義者による暴動から国民を守るとして、「法と秩序」の維持を最優先に厳しく対処する立場を取った。これに対してバイデン元副大統領は、あらゆる暴力に反対の立場を示しつつ、トランプ大統領は人種間の格差などに共感を示さず憎悪と分断をあおっていると非難した。これにより、新型コロナ対策、経済・社会保障、人種間格差や「法と秩序」の維持が大統領選の大きな争点になった。 そのほかにも、トランプ大統領の経済運営に対し、バイデン元副大統領は「より良い再建」をスローガンに掲げた。具体的には、環境・インフラ分野での大規模投資や、法人税増税や最富裕層への課税強化、連邦最低賃金の引上げの実現を公約に掲げ、中産階級の再興を達成すると主張した。また、外交面では、トランプ大統領の米国第一主義に対し、バイデン元副大統領は多国間協調や同盟関係重視の姿勢を鮮明にし、米国の世界におけるリーダーシップの復活が必要と主張した。公約としてパリ協定や世界保健機関(WHO)への回帰などが掲げられた。一方、中東地域などに駐留する米軍の撤退・縮小、中国への断固とした対応の必要性などについて、両候補の主張に大きな隔たりはなかった。 このような状況の中、8月17日から民主党が、8月24日から共和党が、それぞれ党大会を開催し、大統領・副大統領候補が正式に指名された。民主党大会の直前、バイデン元副大統領はハリス上院議員を副大統領候補に指名し、同上院議員は黒人女性として初の副大統領候補となった。なお、新型コロナの感染拡大の影響を受け、両党大会は規模の大幅縮小やオンライン方式の採用を余儀なくされる異例の事態となった。 9月、リベラル派として知られた最高裁判事ギンズバーグ氏が死去すると、トランプ大統領は後任候補に保守派とされる女性のバレット連邦巡回区控訴裁判事を速やかに指名した。米国社会や市民生活に影響を与える事例で判断を下す最高裁判事の人事は国民の関心が高く、また民主党は次期大統領が指名を行うべきとの立場をとったため、選挙の大きな争点に浮上した。10月下旬、バレット氏は共和党多数の議会上院により承認され、就任した。 米国では7月の第2波、10月以降の第3波と新型コロナの感染拡大が続いた(2021年1月末時点で、累積感染者数は約2,500万人、死者数は約40万人)。遊説や資金収集が制約を受ける中、トランプ大統領は早期に対面の政治集会を再開し、支持層に直接訴えかける方法を重視した。一方、バイデン元副大統領は、感染拡大への配慮から、オンラインの集会やテレビ広告をより多く活用するなど、選挙活動の形態の違いも顕著であった。そのような中、10月2日、トランプ大統領が自身の新型コロナ感染を発表した。同大統領は入院後僅か3日で退院し、10月10日には集会を再開したが、ホワイトハウスでの行事でクラスターが発生するなど、大統領の感染予防策が適切でなかったとの批判も多くなされた。また、自身の感染で、大統領選の争点が再び新型コロナとなった。 11月3日の大統領選挙の一般投票の結果、バイデン元副大統領は、2016年のトランプ候補勝利州のうち、いわゆる「ラスト・ベルト」の3州(ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン)、アリゾナ州、ジョージア州を制し、合計306人の選挙人を獲得し勝利した(トランプ大統領は232人を獲得)。新型コロナの感染拡大を受け、郵便投票が大幅に増えたこともあり、投票総数は1億5,000万以上と過去最多となり、米国民の関心の高さがうかがわれた。バイデン元副大統領は史上最多となる8,100万を超える票を得る一方、トランプ大統領も2016年選挙から1,000万票以上増やし、過去に当選したどの大統領よりも多い約7,400万票を獲得した。 また、大幅に増加した郵便投票を含む事前投票が全投票の約3分の2を占めたことも、今次選挙の大きな特徴であった。このため、各州の開票に長い時間を要し、バイデン元副大統領の当選確実が報じられたのは、一般投票から4日後の11月7日であった。トランプ大統領は、事前投票における不正の存在などを主張して7日以降も敗北宣言を行わず、接戦で敗れた州で再集計を求め、訴訟を提起するなど、選挙結果の正当性を争う姿勢を維持した。これら訴訟の多くは根拠がないとして却下されたものの、トランプ大統領は徹底して大統領選挙の敗北を認めず、11月23日まで正式な政権移行のための引継ぎ業務を行うことを行政府に認めなかったため、現政権から次期大統領に対するブリーフの実施や、政権移行チームに対する連邦政府予算の支出などに遅れが生じる異例の事態となった。 米国大統領選挙及び連邦議会選挙結果 選挙結果を受け、バイデン次期大統領は、新政権の最重要課題として新型コロナ対策、経済再建、人種間平等、気候変動対策の四つを掲げた。また、11月11日にクレイン氏を首席補佐官に指名した後、サリバン氏を国家安全保障担当大統領補佐官に、ブリンケン氏を国務長官に、イエレン氏を財務長官に、オースティン氏を国防長官に指名するなど、次期政権閣僚・高官人事を順次発表した。その陣容の特徴として、クレイン氏やブリンケン氏などバイデン氏を長く支えてきた旧知の側近を枢要なポストに充てていること、オバマ政権の高官を多く登用し、重視する気候分野でケリー元国務長官、国内政策でライス元大統領補佐官といった経験のある人物を起用したこと、女性や人種的マイノリティを多く登用していることが挙げられる。 大統領選挙と同日に行われた連邦議会選挙について、下院では民主党が過半数を維持したものの、議席数を減らした。また、上院では共和党が半数に相当する50議席を固めたものの、どちらが多数党となるかは2議席をかけた2021年1月5日のジョージア州決選投票の結果に委ねられた。多くの注目を集めた同選挙は、最終的に両議席で民主党の候補が共和党の現職を敗って勝利し、上院議席数は50対50となった。議席数が同数の場合は上院議長である副大統領の政党が多数党となるため、民主党は6年ぶりに上院での多数を奪還し、上下両院で多数派を確保した。議会選挙の結果はバイデン新政権にとって追い風となったが、両院共に議席数の差は僅かであり、バイデン政権がその公約を前進させるために議会共和党とも協力を進められるかが注目される。 11月の大統領選挙の結果は、2021年1月6日に開催された連邦議会両院合同会議で正式に確定したが、その過程で、選挙結果を受け入れないトランプ大統領の支持者が暴徒化し連邦議事堂に侵入する事案が発生した。この結果、複数名が死亡、議会の審議も一時中断され、治安の悪化により首都ワシントンDCでは夜間外出禁止令が発出されるとともに州兵が動員された。また、その他の州でも抗議行動が発生するなど、事態は大混乱となった。トランプ大統領は支持者に首都集結を呼びかけ、事案発生の直前の演説で暴動を煽(あお)ったとして厳しく非難され、任期終了を目前にして、下院で2度目の弾劾訴追が決定された。 バイデン次期大統領は11月7日の勝利宣言で、米国には民主党の州も共和党の州もなく、アメリカ合衆国であると強調し、米国社会の結束の必要性を訴えた。しかし、トランプ大統領支持者による暴動は米国社会の分断を改めて露呈させることとなった。2021年1月20日の大統領就任式以降、バイデン新政権がこの大きな課題にどのように対応するか、また、トランプ大統領の退任後、共和党がどのような方向に進んでいくかも今後の米国政治の注目点である。 イ 経済 (ア)経済の現状 2020年の米国経済は、新型コロナの感染拡大により大打撃を受けた。感染拡大前の2月には約60年ぶりの低水準(3.5%)を記録していた失業率はわずか2か月後の4月には戦後最悪の水準(14.7%)へと急速に悪化し2020年の実質GDP成長率も前年比でマイナス3.5%と、1946年(マイナス11.6%)に次ぐ、戦後2番目のマイナス成長となった。GDPの構成項目別に見ると、いずれの項目も記録的なマイナスとなっているが、特に米国経済の7割を占める個人消費の落ち込みが大きく寄与しており、感染拡大に伴う経済活動の制限や解雇がサービス業などの個人消費を急速に冷え込ませたといえる。米国議会予算局(CBO)は、ワクチン普及による経済活動再開期待から、2021年半ばには新型コロナ感染拡大前のGDPに回復すると予測した(2021年通年のGDP成長率は前年比4.6%)。 (イ)経済政策 2020年の米国と第三国の通商関係に関しては、中国との関係では、1月、「第一段階の合意」に署名し、米国が追加関税の一部を引き下げること、中国が2年間で少なくとも2,000億米ドル分の対米輸入を拡大させることなどを約束した。一方、9月、世界貿易機関(WTO)は米国による中国からの輸入品に対する米国通商法第301条に基づく追加関税賦課がWTO協定(GATT)に違反すると判断し、係る措置を是正するよう勧告したが、米国はこれを不服として上級委員会に上訴した。 カナダ・メキシコとの関係では、7月1日、USMCAが発効した。 欧州連合(EU)との関係では、8月、EUがロブスターへの関税を撤廃することで合意したが、そのほかで米・EU間の貿易交渉は大きな進展を見せていない。10月、WTOは長年の係争案件となっている米国によるボーイング社への補助金について、EUに年間約40億米ドル相当の対抗措置を認めると判断し、これに基づき、EUは米国からの輸入品に対して追加関税を賦課した。 そのほか、米国通商拡大法第232条に基づく追加関税賦課の動きとして、5月、商務省は新たに変圧器、移動式クレーン、バナジウムに関する調査を開始した。 2020年は新型コロナの感染拡大を受け、戦後最悪の失業率を記録する中、失業給付の拡充や現金給付策などの個人支援策、中小企業支援策、医療機関への支援策、新型コロナ対策で疲弊する州政府への支援策などが総額3兆米ドル規模で実施された。これにより2020会計年度(2019年10月から2020年9月)の財政赤字は約3兆米ドル(米国財務省)と、リーマンショックが起きた2009会計年度の約1.4兆米ドルと比較しても倍以上の財政赤字を記録し、連邦債務残高も約26兆米ドルとGDPの120%以上の水準まで膨らんだものの、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は一貫して財政赤字の縮減よりも財政政策の必要性を訴えている。 FRBも、2020年は新型コロナの感染拡大を受け金融政策を大きく転換した。リーマンショック期から2015年12月まで導入していたゼロ金利政策を復活させ、財務省とも連携して社債の購入プログラムを初めて導入し、積極的な金融政策を展開した。さらに、インフレ率の政策目標を従来の「2%」から「平均2%程度」へと転換し、一時的な2%超のインフレを許容するよう方針転換を図り、市場の不安払拭に努めた。 (2)日米政治関係 2020年、日米は首脳間で5回(全て電話会談)、外相間で5回(うち電話会談が3回)会談を行うなど、新型コロナにより国際的な人の往来が制限される厳しい状況下においても、ハイレベルで頻繁な政策のすり合わせを継続して行い、日米同盟は史上かつてなく強固なものとなっている。特に、8月の安倍総理大臣とトランプ大統領の電話会談や、9月の菅総理大臣とトランプ大統領の電話会談、11月の菅総理大臣とバイデン次期大統領の電話会談など、日米両国の政権の節目の時期にあっても、北朝鮮への対応を始めとする地域及び国際社会の諸課題の解決や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、緊密に連携して対応している。 1月13日から16日まで、茂木外務大臣はサンフランシスコを訪問し、日米韓外相会合に参加するとともに、ポンペオ国務長官と会談した。会談では、両外相は、中東情勢に関し、地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けて外交努力を尽くしていくことの重要性を確認した。また、両外相は、北朝鮮における拉致、核、ミサイルの諸懸案の解決に向けて、今後も日米及び日米韓で一層緊密に連携していくことで完全に一致した。 新型コロナの感染が拡大する中、3月13日と20日には安倍総理大臣とトランプ大統領、茂木外務大臣とポンペオ国務長官がそれぞれ電話会談を行い、両国内の感染状況や感染拡大防止策について意見交換を行った。3月13日の日米首脳電話会談では、双方の努力を議論する中で、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「2020年東京大会」という。)の開催に向けた日本の努力に対し、トランプ大統領から評価すると述べた。両首脳は、北朝鮮を含む地域情勢についても意見交換を行った。 3月25日の日米首脳電話会談では、安倍総理大臣から、3月24日のバッハ国際オリンピック委員会会長との電話会談において、2020年東京大会を1年程度延期し、遅くとも2021年の夏までに開催することで合意したと説明した。トランプ大統領は、開催延期は大変素晴らしく賢明な決定であり、安倍総理大臣の立場を100パーセント支持すると述べた。両首脳は、人類が新型コロナに打ち勝った証(あかし)として、2020年東京大会を「完全な形」で開催するため、緊密に連携していくことを確認した。また、治療薬やワクチンの開発を含む日米協力や情報共有について、引き続き連携していくことで一致した。両首脳は、北朝鮮情勢についても意見交換を行った。 5月8日、安倍総理大臣は、新型コロナへの対応に関し、日米の首脳レベルでも不断の意思疎通が必要であるとの認識の下、トランプ大統領との間で日米首脳電話会談を行った。両首脳は、両国内の状況や感染拡大防止策、治療薬やワクチン開発、経済の再開に向けた取組などにおける、日米間の緊密な連携を確認した。また、感染症拡大防止のためには、中国を含む国際社会が一丸となって取り組む必要があるとの認識を共有した。また、両首脳は、北朝鮮を含む地域情勢についても意見交換を行った。 感染拡大を受け、米国を含めた外国要人の往来は止まっていた。その中で、特に日米間では対面での率直な意見交換の必要性が高いとの考慮から、感染拡大後に外国要人として初めてビーガン国務副長官兼北朝鮮担当特別代表が訪日し、7月10日には茂木外務大臣を表敬した。茂木外務大臣から、世界的な感染拡大にあっても、日米が連携して「自由で開かれたインド太平洋」を強化することが重要であると述べた。ビーガン国務副長官は、訪日に向けた日本政府による様々な調整に謝意を示すとともに、日米同盟はアジアの平和、安定、繁栄の礎であり、新しい時代に即して更に発展させていきたいと述べた。また、両者は、強固な日米同盟の下で、北朝鮮情勢を含む地域情勢や国際社会における共通の課題に連携して取り組んでいくことを確認し、幅広い意見交換を行った。 8月31日、安倍総理大臣が内閣総理大臣の職を辞することとなったことを受け、安倍総理大臣とトランプ大統領、茂木外務大臣とポンペオ国務長官がそれぞれ電話会談を行った。日米首脳会談では、安倍総理大臣からトランプ大統領に対し、同大統領との深い信頼関係の下、数多くの往来や電話を重ねることで、日米関係がこれまでになく強固になったことへの謝意を述べた。これに対し、トランプ大統領からは、安倍総理大臣との特別な友情と安倍総理大臣の強いリーダーシップに感謝する発言が繰り返し述べられた。また、安倍総理大臣から、拉致問題に関し、これまでの協力に謝意を表明した上で、同問題の解決に向け、引き続きの支持を求めた。 9月16日に就任した菅総理大臣は、9月20日にトランプ大統領と就任後初めての日米首脳電話会談を実施した。菅総理大臣から、日米同盟は地域や国際社会の平和と安定の礎であり、安倍前総理大臣とトランプ大統領の深い信頼関係の下でかつてなく強固になった日米同盟を一層強化していきたいと述べた。これに対して、トランプ大統領からは、内閣総理大臣就任への祝意が述べられた上で、菅総理大臣と共に日米関係を一層強固なものとしていきたいとの発言があった。また、菅総理大臣から、拉致問題の早期解決に向け果断に取り組んでいく考えであると述べ、同問題の解決に向け、引き続きの全面的な支援を求めた。 10月6日、菅総理大臣は、日米豪印外相会合出席のため訪日中のポンペオ国務長官による表敬を受けた。本表敬は、菅総理大臣の就任後、外国要人との初の対面形式での会談となった。双方は、厳しさを増す地域情勢に関する認識を共有した上で、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米同盟をより一層強化し、同志国とも緊密に連携していくことで一致した。また、拉致問題を含む北朝鮮情勢についても意見交換を行い、菅総理大臣から拉致問題の早期解決への全面的支持を要請したのに対し、ポンペオ国務長官からは拉致問題解決のための日本の取組を引き続き全面的に支持するとの発言があった。 また、同6日、茂木外務大臣とポンペオ国務長官は日米外相会談を行い、両外相は、同日開催される日米豪印外相会合での議論も踏まえつつ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、有志国間の連携の重要性を確認した。東シナ海、南シナ海及び北朝鮮情勢について意見交換を行う中で、茂木外務大臣から、拉致問題は政権の最重要課題であるとした上で、両外相は、北朝鮮の拉致、核、ミサイルの諸懸案の解決に向けて今後も日米間で一層緊密に連携していくことで一致した。 日米外相会談(10月6日、東京) 11月12日、菅総理大臣は、米国大統領選挙に勝利したバイデン次期大統領に対して、祝意を伝えるべく、電話会談を行った。菅総理大臣から、日米同盟は北朝鮮の拉致、核、ミサイルなど、厳しさを増すインド太平洋地域の平和と安定にとって不可欠であり、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて連携していきたいと述べた。これに対し、バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットすることの表明とともに、日米同盟の強化を含め、インド太平洋地域の平和と安定のために菅総理大臣と共に協力していくとの発言があった。また、菅総理大臣から拉致問題での協力を要請した。 2021年1月20日にバイデン大統領が就任すると、同27日に茂木外務大臣とブリンケン国務長官が、28日に菅総理大臣とバイデン大統領が、それぞれバイデン政権発足後初めての電話会談を行った。日米首脳電話会談では、日米同盟を一層強化すべく、日米で緊密に連携していくことで一致した。バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントが表明された。また、両首脳は、米国のインド太平洋地域におけるプレゼンスの強化が重要であること及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に連携するとともに、地域の諸課題にも共に取り組んでいくことで一致した。日米外相電話会談では、日米同盟の更なる強化に取り組むことを確認するとともに、中国や北朝鮮、韓国などの地域情勢や「自由で開かれたインド太平洋」の重要性についても意見交換を行った。また、引き続き、地域や国際社会が直面する諸課題について、日米や日米豪印などの同志国間で緊密に連携していくことで一致した。 3月16日、茂木外務大臣は、国務長官就任後初の外遊先として日本を訪問したブリンケン国務長官と、初めて対面で日米外相会談を行った。両外相は、引き続き日米が主導して、オーストラリアやインド、ASEANなどと連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋」という構想の実現に向けた協力を強化していくことを改めて確認し、また、中国、北朝鮮、韓国、ミャンマーやイランなどの地域情勢について意見交換を行った。さらに、両外相は、新型コロナ対策や気候変動問題といった国際社会共通の課題についても意見交換を行った。ブリンケン国務長官は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けた日本の決意を支持し、両外相は、同大会の成功に向け今後とも緊密に協力していくことで一致した。両外相は、新型コロナの状況を見極めつつ、できる限り早い時期に茂木外務大臣が訪米し、外相会談を行うことで一致した。 日米外相会談(2021年3月16日、東京) 4月15日から18日にかけて、菅総理大臣は、世界の首脳に先駆けてワシントンDCを訪問し、バイデン大統領にとって初となる対面の首脳会談を行った。両首脳は、個人的信頼関係を強化するとともに、自由、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値を共有し、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である日米同盟をより一層強化していくことで一致した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米両国が、オーストラリアやインド、ASEANといった同志国などと連携しつつ、結束を固め、協力を強化していくことを確認した。 会談後、日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」が発出された。また、両首脳は、日米両国が世界の「より良い回復」をリードしていく観点から、「日米競争力・強靭(きょうじん)性(コア)パートナーシップ」に合意し、日米共通の優先分野であるデジタルや科学技術の分野における競争力とイノベーションの推進、新型コロナ対策、グリーン成長・気候変動などの分野での協力を推進していくことで一致した。さらに、パリ協定の実施、クリーンエネルギー技術、開発途上国の脱炭素移行の各分野での協力を一層強化していくため、「野心、脱炭素化及びクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ」を立ち上げることでも一致した。 日米首脳共同記者会見 (2021年4月16日、ワシントンDC 写真提供:内閣広報室) (3)日米経済関係 日米経済関係は、安全保障、人的交流と並んで日米同盟を支える3要素の一つである。1月1日に発効した日米貿易協定によって、世界のGDPの約3割を占める日米両国の二国間貿易を強力かつ安定的で互恵的な形で拡大するのみならず、既に発効している環太平洋パートナーシップ(TPP11)協定、日EU経済連携協定(EPA)に加え、日英包括的経済連携協定及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定と合わせ、世界のGDPの約8割をカバーする自由な経済圏が形成されることになる。また、1月1日に発効した日米デジタル貿易協定は、世界経済がますますデータ駆動型へと移行する中、デジタル分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルール作りにおいて主導的な役割を果たしていく基盤となっている。 このほか、日米経済関係において特筆すべきは日本企業による対米投資である。2019年、米国内の直接投資残高で日本は英国を抜いて世界最大の対米投資国となった(6,193億米ドル、米国商務省統計)。また、対米直接投資は日本企業による米国における雇用創出(約95万人(2018年、同)という形でも米国経済に貢献している。また、R&D分野(企業の研究開発活動)の投資額(2018年、同)、米国へのグリーンフィールド投資(新たに法人を設立する形態などの投資)の投資額及び雇用創出(2019年、同)も日本が1位となっており、こうした活発な投資や雇用創出を通じた重層的な関係強化が、これまでになく良好な日米関係の基礎となっている。 日米間では経済面における協力として、「インフラ」、「エネルギー」、「デジタル」の3分野について推進している。 インフラ分野については、2019年6月のG20大阪サミットにおいて承認された、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の普及・定着のため、2020年10月に米国政府がベトナムのハノイで開催したインド太平洋ビジネスフォーラムにおいて、国際協力銀行(JBIC)が質の高いインフラに関するプレゼンテーションを行うなど、第3国へのセミナーなどにおいて、日米で協力を進めている。また、「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向けた第三国における協力については、日米間のインフラ協力について、2月にテキサス州において開催された「第3回日米インフラフォーラム」において、インフラ整備に関する知見共有や日米協力の在り方が議論された。 エネルギー分野では、2019年9月、米国の1か月の石油輸出量が初めて輸入量を上回り、米国は石油の「純輸出国」となった。一方、新型コロナによる需要減少、在庫量増加の影響を受け、4月に原油先物価格は史上初のマイナスになった。液化天然ガス(LNG)については、2014年6月、日本企業が関与している全てのプロジェクトの輸出承認取得を完了し、2019年12月までにメリーランド州コーブポイントLNGプロジェクト、ルイジアナ州のキャメロンLNGプロジェクト、テキサス州のフリーポートLNGプロジェクトが生産・出荷を開始している。今後米国からのLNG輸入が本格化する見通しであり、これらの成果は日本のみならず新興LNG市場である東南アジアなどを含む地域のエネルギー安全保障及びエネルギーの安定供給に大きく貢献することが期待される。また、「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向けて、2018年に日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)1を立ち上げ、2020年には各地域における具体的なプロジェクトを議論するためのJUSEP会合を計2回開催した。また、9月には、日米メコン電力パートナーシップ(JUMPP)2の立ち上げから1周年の機会に、JUMPPに関する日米共同閣僚声明を発表し、メコン域内の電力インフラ連結性を一層加速させるための機会の特定、民間投資の促進、国境を越えた電力取引増大のためのパートナー間での能力構築及び技術支援の拡大などを決定した。そのほか、2月には、米国政府との間でエネルギー・インフラ金融及び市場形成の協力強化のための協力覚書に署名し、ファイナンス面での協力を促進している。 デジタル分野では、5G(第5世代移動通信システム)、スマートシティ、サイバーセキュリティなどの分野における日米協力を強化している。9月の「インターネットエコノミーに関する日米政策協力対話(IED)」第11回会合では、安全で信頼のおける強靭な5Gネットワーク及びサービスの推進、IoT(モノのインターネット)セキュリティに係るベストプラクティスの共有や自由なデータ流通の推進などに係る国際協調及び信頼のおけるAI(人工知能)の責任ある管理を支援する官民連携など、日米両国間でインターネットエコノミーに関する幅広い事項について議論された。また、「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向けた第3国協力については、2019年に日米戦略デジタル・エコノミーパートナーシップ(JUSDEP)3作業部会を立ち上げ、2020年9月に第5回作業部会を開催するなどデジタル分野における日米協力の具体化に向け、議論を進めている。1月に開催した第4回作業部会以降は、スマートシティ、5G、光海底ケーブルなどの重要分野に絞って重点的に議論し、案件形成を進めている。 また、米国の各州など地方レベルとの協力も進んでいる。ワシントン州、メリーランド州、インディアナ州及びシカゴ市などの地方政府との間の経済及び貿易関係に関する協力覚書に基づく協力が行われている。また、各州との間で運転免許試験の一部相互免除に関する覚書を作成し、現地邦人の運転免許取得の負担軽減を図っており、メリーランド州、ワシントン州、ハワイ州に加え、2月にはバージニア州との間で覚書を作成した。 2017年の「グラスルーツからの日米関係強化に関する政府タスクフォース」の立ち上げ以降、日米の紐帯(ちゅうたい)をより確かなものとするために、一般国民にも行き届く草の根レベル(グラスルーツ)での取組を打ち出していくことが重要との認識の下、各地域の特徴や訴求対象の日本への関心度に応じたテイラー・メイドのアプローチに基づく取組を行ってきた。2020年においては、日米経済関係に焦点を当てたセミナー、レセプションなどの各種イベントや情報発信を実施したほか、新型コロナの感染拡大以降はオンライン形式のイベントや動画配信による日本産食品のプロモーションや日本文化の発信、日米経済関係をテーマとしたウェビナー(オンライン形式のセミナー)の開催など様々な取組が各省庁、機関の協力体制の下で実施されている。今後も日米経済関係の更なる飛躍のため、様々な取組をオールジャパンで実施し、草の根レベルでの対日理解促進などを図っていく。 1 JUSEP:Japan-U.S. Strategic Energy Partnership 2 JUMPP:Japan-U.S. Mekong Power Partnership 3 JUSDEP:Japan-U.S. Strategic Digital Economy Partnership