第4章 国民と共にある外交 2 外交実施体制の強化 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、国際社会におけるパワーバランスの変化が加速化・複雑化する中で、外交課題はますます難しく多様化している。こうした中、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を更に前に進めるため、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開し、着実な成果を上げるためには、外交実施体制を一層強化していくことが不可欠であり、外務省は、大使館や総領事館などの在外公館や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。 大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わるとともに、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。 2020年1月には、新たに在バヌアツ日本国大使館を開設した。その結果、2019年度の日本の在外公館(実館)数は、227公館(大使館152、総領事館65、政府代表部10)となっている。 バヌアツは、親日国であり、地政学的に重要なメラネシア地域における情報収集・対外発信の重要拠点の一つとなっている。同国への大使館の新設を通じ、より高いレベルで二国間関係を構築するとともに、国際場裡(じょうり)での協力を強化していく。 在外公館数の推移CSV形式のファイルはこちら 主要国との在外公館数の比較CSV形式のファイルはこちら 2020年度には在ハイチ日本国大使館及び在セブ日本国総領事館(フィリピン)を新設する予定である。ハイチは、カリブ共同体内で最大の人口を有する一方で、中南米の最貧国であり、自然災害が頻発する中、同国をめぐる国際社会の関心は高い。また、ハイチは、国際場裡において、日本の立場を数多く支持してきた伝統的な親日国である。セブは、マニラに次ぐフィリピン第二の都市圏であり、セブを含むビサヤ地域では近年、旅行者や語学留学生を含む邦人渡航者や日系企業が大幅に増加している。この地域において邦人保護及び日系企業支援を強化するとともに、政治・経済関連の情報収集拠点を設けることで、両国関係を重層的に深化させることが必要である。 在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、情報収集・分析能力強化、インフラ輸出の促進を含む日本経済の活性化、戦略的対外発信の更なる強化、安全保障、二国間関係・地域情勢などに対応するため、外務省の定員数は6,288人となった(2018年は6,173人)。しかしながら、依然として他の主要国と比較して人員は十分とは言えず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2020年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、在外邦人保護・安全対策及び情報収集・分析能力の強化、インフラ輸出の促進を含む日本経済の更なる活性化、戦略的対外発信の更なる強化、積極的平和主義の展開、二国間関係・地域情勢への対応などの重要課題に取り組むため、70人の人員増を行う予定である。 主要国外務省との職員数比較CSV形式のファイルはこちら 外務省職員数の推移CSV形式のファイルはこちら また、国際的な取組や議論を主導すべく、一層積極的な外交を展開するため、外務省は2019年度予算で7,306億円(対前年度比339億円増)を計上した。外務省所管の2019年度補正予算の総額は1,304億円であり、追加財政需要としては難民問題を含む人道・テロ対策・社会安定化支援など、経済対策としては広域感染症などの地球規模課題への対応支援やインバウンド促進のための支援などに関する予算を計上している。 2020年度当初予算政府案では、①基本的価値に基づいた国際秩序を様々な挑戦から守り続ける、②積極的な経済外交を推進する、③戦略的対外発信を強化し、親日派・知日派を拡大する、④地球規模課題の解決に積極的に貢献する、⑤大規模人的交流時代を第一線で支える、⑥外交実施体制を抜本的に強化することを重点項目とし、7,120億円を計上している。この中で、太平洋島嶼(とうしょ)国を含めた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現などのためにODA予算を増額計上しているほか、法の支配に基づく国際秩序を強化するための体制強化などの予算も拡充している。 日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化が不可欠である。今後も、引き続き、更なる合理化への努力を行いつつ体制の整備を戦略的に進め、外交実施体制を一層拡充していく。 公邸料理人 ~外交の最前線の担い手として~ 宮村幸成 私は在ミャンマー日本国大使館の公邸料理人を経て、2018年10月から在スリランカ日本国大使館の杉山大使の下で勤めています。公邸料理人になる前は海外に渡航したこともなく、この仕事のことも専門学校で少し話を聞いた程度で、まさか自分が携わることになるとは思いもしませんでした。着任当初は自分に務まるのかという不安もありましたが、大使御夫妻の多大なるお力添えや現地スタッフの温かいサポートもあり、仕事にも現地の環境にもすぐに慣れることができました。主な仕事は大使が公邸に招待する要人の皆様をおもてなしすることです。会食の形は、2人で着席の場合もあれば20人を超えることもありますし、30人から40人の立食ビュッフェのこともあります。お客様は駐在国の要人はもとより、各国の大使や日本から来られる総理大臣や外務大臣を始めとした閣僚など、普段生活している中では想像もつかない方々です。そうした方々に自身の料理を提供できることは、大きなやり甲斐(がい)の一つだと思っています。和食を楽しみに来られるお客様がほとんどなので、地場の食材をなるべく使い、新しい調理法を取り入れながら、一品入魂で作っております。 調理場で現地スタッフと(筆者中央) スリランカは日本と同じ島国で、市場には豊富な魚種が並びます。仕入れのために市場に行く時には、料理の仕上がりをイメージしながら食材選びに知恵を絞るのが楽しみの一つです。こうして仕入れや仕込み、メニュー構成や器決め、料理に合うお酒、ワイン決めなど、一貫してその責任を担うことができるため、とてもやりがいのある仕事だと思っております。ミャンマー、スリランカは、仏教やイスラム教、ヒンドゥー教などが混在し、宗教ごとに食べられない物が異なるため、メニューを考える時が一番大変です。例えばピュアベジタリアン(完全菜食主義者)のお客様の場合は、動物性のものを一切お出しできませんので、昆布と鰹(かつお)のお出汁(だし)を鰹を抜いた昆布出汁に変えなければいけません。 こうした注意点を踏まえた料理を会食の席に供することもさることながら、毎回強く意識しているのは会食の目的です。招待されるお客様ごと、そのシチュエーションごとに、会食を通じて大使や大使館職員が達成したい目的も異なります。自身が関わる会食を通じて、その目的の達成に少しでも貢献できるのであれば、それに勝る喜びはありません。会食後に労(ねぎら)いを受ける際に、そうした手応えを感じられたときには、準備中の大変な思いなど吹き飛んでしまうほど嬉(うれ)しく思います。また、そういった仕事は決して一人でできるものではなく、特に調理や配膳を共にする現地スタッフとの協働は欠かすことができません。こうした協働パートナーとなる現地スタッフとも、お互いの信頼関係が築けるようなコミュニケーションを心がけ、チームワークを第一に、日々仕事にあたっています。 今や和食は日本の伝統的食文化としてユネスコ無形文化遺産にも選ばれ、ますます世界から注目されています。そのことを念頭に、五感全てを喜ばせる料理を研究しながら、皆様にご堪能(たんのう)いただける料理を作っていけたらと思っております。 厨房での様子 公邸料理人の活躍・採用に関する情報はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/zaigai/ryourinin.html