第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 第4節 日本への理解と信頼の促進に向けた取組 1 戦略的な対外発信 (1)戦略的対外発信の取組 外務省では、対外発信の最前線である在外公館の体制強化を図りつつ、①日本の正しい姿を含む政策や取組の発信に一層力を入れるとともに、②日本の多様な魅力の発信及び③親日派・知日派の育成を推進するという3本の柱に基づいて戦略的に対外発信を実施している。日本の正しい姿を含む政策や取組の発信については、主に国際社会の平和安定・繁栄や法の支配に基づく国際秩序の維持・強化に対する日本の貢献への理解、歴史認識や領土保全の問題に対する理解の促進などを念頭に取り組んでいる。具体的には、まず、総理大臣や外務大臣を始め政府関係者が、記者会見やインタビュー、寄稿、外国訪問先及び国際会議でのスピーチなどで日本の立場や考え方について積極的に発信してきている。また、在外公館においても、歴史認識や領土保全を始め幅広い分野で、日本の立場や考え方について各国政府・国民及びメディアに対する発信に努めており、海外メディアによる事実誤認に基づく報道が行われた場合には、速やかに在外公館の大使、総領事や本省の外務報道官の名前で客観的な事実に基づく反論投稿や申入れを実施し、正確な事実関係と理解に基づく報道がなされるよう努めている。加えて、政策広報動画などの広報資料を作成し様々な形で活用しているほか、ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。日本の基本的立場や考え方の理解を得る上で、有識者やシンクタンクなどとの連携を強化していくことも重要である。こうした認識の下、外務省は海外から発信力のある有識者やメディア関係者を日本に招へいし、政府関係者などとの意見交換や各地の視察、取材支援などを実施している。さらに、日本人有識者の海外への派遣を実施しているほか、海外の研究機関などによる日本関連のセミナー開催の支援を強化している。 政策広報動画『日本がシェアするソリューション:パラスポーツ・フォー・オール』(2019年7月19日からYouTube外務省チャンネルで公開。CNN Internationalで放送) 2019年は、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序が動揺し、国際社会の不透明性・不確実性がますます増大する中で、初のG20議長国、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催などの機会を通じて、国際協調主義に基づく日本のリーダーシップや、国際社会の平和・安定・繁栄に対する日本の貢献などを重点的に発信した。 さらに、いわゆる慰安婦問題を始めとする歴史認識、日本の領土保全をめぐる諸問題などについても、様々な機会・ツールを活用した戦略的な発信に努めている。また、一部で旭日旗について事実に基づかない批判が見られることから、政府として、外務省ホームページに旭日旗に関する説明資料を多言語で掲載するなど、旭日旗に関する正しい情報について、国際社会の理解が得られるよう様々な形で説明してきているところである1。 日本の多様な魅力の発信については、対日理解を促進し親日感を醸成するという観点から、また、現在オールジャパンで取り組んでいる訪日観光促進につなげるべく、在外公館を中心に様々な広報文化事業を実施している。世界各地の在外公館における文化事業(251ページ 2(1)参照)、「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」(253ページ 2(2)参照)や、「Japan 2019」(252ページ 2(2)参照)を始めとする国際交流基金事業及び第13回日本国際漫画賞を実施するとともに、災害の影響を受けた地域を含め日本各地の魅力をソーシャルメディアなどを通じ積極的に発信した。 親日派・知日派の育成については、人的・知的交流や日本語の普及に努め、「対日理解促進交流プログラム」を通じてアジア大洋州、北米、欧州及び中南米との青少年交流を含む交流の推進、日米文化教育交流会議(CULCON:カルコン、260ページ 2(4)ウ参照)の開催、世界の主要国の大学・研究機関での日本研究支援を進めている。また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(2020年東京大会)の成功に向け、スポーツを通じた国際貢献策「Sport for Tomorrow(SFT)」を推進している。さらに、国内外の関係者と協力し、世界の有形・無形の文化遺産の保護への取組と、日本の文化遺産の世界遺産一覧表及び人類の無形文化遺産の代表的な一覧表への記載を推進した。 今後、2020年東京大会の機会も活用して日本の対外発信を強化し、外交政策や国益の実現に資するべく、戦略的対外発信関連予算を効果的に活用し、これら3本の柱に基づく取組を引き続き戦略的かつ効果的に実施していく。 (2)ジャパン・ハウス 外務省は、日本の多様な魅力や政策・取組の発信を通じ、これまで必ずしも日本に関心がなかった人々を含む幅広い層をひきつけ、親日派・知日派の裾野を一層拡大することを目的に、サンパウロ(ブラジル)、ロサンゼルス(米国)及びロンドン(英国)の3都市に対外発信拠点「ジャパン・ハウス」を設置している。 本活動を行うに当たっては、①政府、民間企業、地方公共団体などが連携したオールジャパンで発信すること、②現地のニーズを踏まえること及び③日本に関する情報が一度に入手できるワンストップ・サービスを提供することで、効果的な発信に努めている。 ジャパン・ハウスでの展示の一部は、日本での公募及び専門家による選定を経て3拠点共通で開催する巡回企画展の方式で実施することで、幅広い団体・個人に参加を呼びかけるとともに、「一流」の日本を発信することを目指している。このように、現地・日本双方の専門家の知見をいかすことで質の高い企画を実施することに努めている。 2017年開館のサンパウロでは、建築、技術、食、ファッション、芸術など様々な日本の魅力をテーマに展示企画を行っている。2019年4月から7月には、「NIPPONの47人CRAFT展」を開催し、47都道府県の職人の作品を通じて日本の伝統や歴史を紹介したほか、現地の県人会の協力を得て実施した各都道府県の連動型セミナーを開催し好評を博した。また、日本の外交政策、日・ブラジル関係、経済協力、科学技術、サッカー交流など様々な分野の講演会を実施した。2020年2月には累計来館者数が200万人を達成し、サンパウロの主要文化施設として定着している。 2018年開館のロンドンでは、日本古来の天然染色技術をテーマにした展示から、最新技術を駆使した映像インスタレーション作品まで、幅広く企画展示を行っている。2019年4月から5月には日本の美しい伝統色をテーマにした「かさねの森 染司(そめのつかさ)よしおか」展を開催。また、8月から10月には島根出身の画家「安野光雅」展を開催した。同展は単なる作品展示にとどまらず、画家自身の人生にフォーカスし、昭和という時代を展示やワークショップなど様々な手法で表現することに成功した。11月から2020年3月末まで開催の映像インスタレーション作品「WOW 都市の光 郷(さと)の灯(あかり)」展では、作品の内容と連動し、東北地方で制作された伝統玩具を販売し好評を博している。また、国際関係、震災復興、日英投資促進、科学技術などの分野の講演会やセミナーを実施した。 ジャパン・ハウス ロンドン「かさねの森 染司よしおか」展 (英国・ロンドン 写真提供:JAPAN HOUSE London) 2018年全館開館のロサンゼルスでは、建築や漫画をテーマとした展覧会、日本の食に関する体験型企画、セミナー・講演会、映画上映など様々な発信事業を展開している。7月から9月には、東北地方の祭りや伝統行事の要素を取り入れた体験型の映像インスタレーション「BAKERU」展を開催した。同展会期中の9月には、政府関係機関や地方公共団体とも連携し、2020年東京大会の「復興ありがとうホストタウン」イベントも開催した。また、日本の外交政策・日米関係、女性の活躍など様々な分野の講演会を実施した。 ジャパン・ハウス ロサンゼルス「BAKERU:Transforming Spirits」展(米国・ロサンゼルス 写真提供:JAPAN HOUSE Los Angeles) (3)諸外国における日本についての論調と海外メディアへの発信 2019年の海外メディアによる日本に関する報道については、日本が議長国となったG20、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を含む日韓関係、日米貿易協定を含む日米関係、日中関係、北朝鮮への対応、国内経済といった点を中心に関心が集まった。また、総理大臣や外務大臣による「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」における積極的な外国訪問も、訪問国のメディアを中心に海外メディアの注目を集めた。 外務省は、日本の立場や取組について国際社会からの理解と支持を得るため、海外メディアに対して迅速かつ積極的に情報提供や取材協力を行っている。海外メディアを通じた対外発信としては、総理大臣、外務大臣へのインタビュー、外務大臣による定例の記者会見、プレスリリース、プレスツアーなどによる在京特派員への情報提供を行っており、外交日程を踏まえて、時宜を得た発信を行うことにより、戦略的かつ効果的な対外発信となるよう努めている。 例えば、安倍総理大臣は、1月のロシア訪問を前に同国インターファクスのインタビューに応じ、日露間の平和条約交渉の展望などについて発信した。2月には、訪日していた国営ベトナム通信社のインタビューを受け、日本とベトナムの友好・協力関係の評価及び今後の展望について発信した。河野外務大臣は4月、日米安全保障協議委員会(「2+2」)への出席後、ワシントン・ポスト紙のインタビューを受け、日米貿易交渉に向けた展望や北朝鮮への対応における日本の立場や日米の連携の重要性を訴えた。 また、安倍総理大臣、河野外務大臣及び茂木外務大臣の外国訪問やG20などの国際会議開催の機会を捉えた発信も積極的に行っている。河野外務大臣は、1月のインド訪問時に同国のTVニュースチャンネル「WION」のインタビューに応じ、一層深化する日印関係の重要性について発信した。安倍総理大臣は、6月にはG20を前に、汎アラブ紙「シャルクルアウサト」のインタビューを受け、中東地域の緊張緩和と航行の安全確保への取組における日本の役割などについて発信した。さらに茂木外務大臣は、11月にフィナンシャル・タイムズ紙によるインタビューに応じ、日米貿易協定の評価や今後の展望、日韓関係に関する日本の立場などを発信した。 このような形で、2019年には、安倍総理大臣の寄稿・インタビューを9件、河野外務大臣及び茂木外務大臣の寄稿・インタビューを計38件、安倍総理大臣外国訪問中の内外記者会見を2回、河野外務大臣外国訪問中の外国プレス向け記者会見を1回実施した。 また、外務報道官などによる海外メディアに対する発信も積極的に実施した。例えば、6月のG20大阪サミットの機会に実施した記者ブリーフには延べ約350人が出席した。 こうした取組に加えて、日本に拠点がないメディアなど世界各国の記者104人及びテレビチーム2組を日本に招へいし、日本の重要政策や立場への理解を促進した。例えば、日本が初めて議長国となったG20大阪サミット及び関連会合の発信のため、記者グループ4組(G20及び招待国などから計29人)とテレビチーム2組を招へいし、開催地大阪の魅力を含む同サミット関連の取材機会を提供した。また、日本の自由貿易への取組の具体例として、3月と10月に日EU・EPAグループ招へいを実施し、関連取材の機会を設けた。7月にはTICAD7の事前広報グループ(アフリカ6か国6人)を招へいし、日本の対アフリカ支援の実績や特徴に関する説明機会を設けたほか、8月と9月には南西アジア(5か国5人)と大洋州島嶼(とうしょ)国(4か国4人)の記者グループをそれぞれ招へいし、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理解増進を促した。11月には福島復興・風評被害対策記者グループ(5か国5人)に対して、福島の食の安全性や復興への歩みについて取材機会を提供した。 (4)インターネットを通じた情報発信 外務省は、日本の外交政策に関する国内外の理解と支持を得るため、ウェブサイトやソーシャルメディアなどインターネットを通じた情報発信に積極的に取り組んできている。2019年はG20大阪サミットやTICAD7を始めとした様々な外交行事についての情報を発信した。 外務省ホームページ(英語)については、広報文化外交の重要なツールと位置付け、領土保全、歴史認識、安全保障などを含む日本の外交政策や国際情勢に関する日本の立場、さらには日本の多様な魅力などについて英語での情報発信を強化してきている。さらに、海外の日本国大使館、政府代表部及び総領事館のウェブサイトを通じ、現地語での情報発信も行っている。 1 旭日旗に関する説明資料の外務省ホームページ掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000481575.pdf