第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 3 科学技術外交 科学技術は、経済・社会の発展を支え、安全・安心の確保においても重要な役割を果たす、平和と繁栄の基盤的要素である。日本はその優れた科学技術をいかし、「科学技術外交」の推進を通じて、日本と世界の科学技術の発展、各国との関係増進、国際社会の平和と安定及び地球規模課題の解決に貢献している。その一例として、外務大臣科学技術顧問の活動を通じた取組に力を入れている。 2015年9月に就任した岸輝雄(きしてるお)外務大臣科学技術顧問は、外務大臣の活動を科学技術面で支え、各種外交政策の企画・立案における科学技術の活用について外務大臣及び関係部局に助言を行う役割を担っている。内外の科学技術分野の関係者との連携強化を図りながら、日本の科学技術力についての対外発信にも取り組んでいる。また、2019年4月、岸顧問を補佐するために狩野光伸(かのみつのぶ)外務大臣次席科学技術顧問を新たに任命した。 2019年には、岸顧問を座長とする「科学技術外交推進会議」を3月、7月、11月に開催し、科学技術と外交に係る諸課題について議論を行った。この3月の会議でとりまとめられた、TICAD7に向けた提言「イノベーション・エコシステムの実現をアフリカと共に」は、岸顧問から阿部俊子外務副大臣に提出され、TICAD7における日本の取組として反映された。 岸顧問は、内閣府と外務省の連携による科学技術・イノベーションの対外発信19を推進している。3月にアルゼンチン及びブラジル、5月にイスラエル及びエジプトを訪問して、講演を実施し、今後の連携可能性等について関係機関・研究者らと議論した。 また、岸顧問は、米国、英国、ニュージーランド等の各国政府の科学技術顧問と意見交換を行い、ネットワークの構築・強化に努めている。11月にハンガリーで開催された「世界科学フォーラム(WSF)」で日本の科学技術外交について紹介し、オーストリアで開催された「外務大臣科学技術顧問ネットワーク(FMSTAN)」会合では、各国の科学技術顧問と議論を深めた。12月、外務省は政策研究大学院大学と「第2回科学技術外交シンポジウム」を開催し、科学技術外交の方向性について有識者から示唆を得た。さらに、岸顧問は、外務省内の知見向上のため科学技術外交セミナーを定期的に開催している。 第2回科学技術外交シンポジウム (12月11日、東京 写真提供 政策研究大学院大学) 日本は32の科学技術協力協定を締結しており、これらは現在、46か国及びEUとの間で適用され20、同協定に基づき定期的に合同委員会を開催して政府間対話を行っている。2019年は、カナダ、ドイツ、米国、オランダ、オーストラリア、EUとの間でそれぞれ合同委員会を開催し、関係省庁等も出席の下、多様な分野における協力の現状、今後の方向性などを協議した。 多国間協力では、旧ソ連の大量破壊兵器研究者の平和目的研究を支援する国際科学技術センター(ISTC)の理事国として、米国及びEUと協力し、中央アジア諸国を中心に支援を行っているほか、核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証するイーター計画に参画している。 19 将来の国際協力や日本の研究開発成果の国際展開の布石とするため、内閣府(総合科学技術・イノベーション会議)が司令塔機能を発揮し、省庁・分野横断的な11の課題において産学連携により基礎研究から実用化・事業化までを見据えて一気通貫で研究開発を促進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」について、外務省(在外公館)との連携により、諸外国に向けて紹介する取組(通称「SIPキャラバン」) 20 日ソ科学技術協力協定をカザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、アルメニア、ジョージア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、トルクメニスタン、タジキスタンが各々異なる年月日に承継。日チェコスロバキア科学技術協力取極を1993年にチェコ及びスロバキアが各々承継。日ユーゴスラビア科学技術協力協定をクロアチア、スロベニア、マケドニア(国名は当時)、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロが各々異なる年月日に承継