第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 7 人権 (1)国連における取組 ア 国連人権理事会 国連人権理事会は、国連での人権の主流化の流れの中で、国連の人権問題への対処能力の強化を目的に、人権委員会を改組する形で2006年に設立された。1年を通じてジュネーブで会合が開催され(年3回の定期会合、合計約10週間)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。日本は、これまで、2006年6月から2011年6月(1期目・2期目)まで、2013年1月から2015年12月(3期目)まで及び2017年1月から2019年12月(4期目)まで理事国を務めた。直近では、2019年10月の選挙で当選し、2020年1月から2022年12月まで理事国を務めている(5期目)。 2019年2月及び3月に開催された第40会期のハイレベル・セグメント(各国の主要な代表者による会合)では、辻外務大臣政務官がスピーチを行った。その中で、辻政務官は、日本は、「人間の安全保障」の考え方に基づき、人権の保護・促進に国内外で引き続き貢献していく決意である旨述べた。さらに、拉致問題の早期解決の重要性を訴えるとともに、アジアの人権状況改善や民主化の進展に向けた取組や社会的弱者の権利の保護・促進に係る取組などを紹介した。 同会期では、EUが提出した北朝鮮人権状況決議が無投票で採択された(採択は12年連続)。同決議は、拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性、日本人に関する全ての問題の解決、特に全ての拉致被害者の早期帰国の実現などに言及する内容となっている。さらに、2017年3月の人権理事会決議で決定された国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の能力強化の取組について、2年間の延長を決定している。 9月の第42会期では、日本はカンボジア人権状況決議案を主提案国として提出し、同決議は、全会一致で採択された。同決議は、カンボジアにおける最近の人権状況に対する国際社会の懸念を反映しつつ、カンボジアの人権状況に関する特別報告者のマンデートを2年間延長することを決定している。 イ 国連総会第3委員会 国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会では、例年10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議での採択を経て、国際社会の規範形成に寄与している。 第74会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された。同決議は、拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性、拉致被害者及び家族が長きにわたり被り続けている多大な苦しみ、日本人拉致被害者の帰国の問題の早期解決、さらには、被害者の家族に対して被害者の安否及び所在に関する正確な情報提供などに言及する内容となっている。 さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)についての議論にも積極的に参加した。これまでと同様、女性NGO代表を第74回国連総会第3委員会の政府代表顧問として派遣するなど、市民社会とも連携しつつ、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。 ウ 子どもに対する暴力撲滅 日本は、2018年以降、「子どもに対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」(GPeVAC)に参加し、子どもに対する暴力の撲滅に向けて取り組む「パスファインディング国」として、GPeVACの活動に積極的に関与している。その一環として、市民社会や民間企業と協力しながら、子どもに対する暴力撲滅に向けた国別行動計画の策定に取り組んでいる。8月から10月には、同行動計画に子どもの意見を取り入れるため、インターネット上で「子どもパブコメ」が実施された。日本は、引き続き国際社会と連携しつつ、国内外で子どもに対する暴力を無くすための取組を推進していく。 エ ビジネスと人権に関する行動計画 日本は、2011年6月の第17回国連人権理事会において支持された「ビジネスと人権に関する指導原則:国連「保護、尊重及び救済」枠組みの実施」の履行に向けて積極的に関与しており、そのコミットメントの一つとして、企業行動における新たな世界基準となりつつある人権の尊重に係る行動計画の策定に向けて取り組んでいる。 2018年に企業活動における人権保護に関する既存の法制度や施策の現状を確認するため、現状把握調査を実施後、行動計画の策定に向けて、関係府省庁、経済界、労働界、法曹界、学術界などからの関係者が集まり意見交換を行うことを目的とした作業部会を設置した。さらに、関係府省庁の諮問に応じて、同作業部会で協議された事項に関し、有識者からの見解を示すことを目的とした諮問委員会を設け、議論を重ねてきた。また、国内からの有識者だけでなく、国連「ビジネスと人権」作業部会委員などを含む海外の有識者と意見交換をする機会も設けた。 日本は、この行動計画の策定を通じ、責任ある企業活動の促進を図ることにより、国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進に貢献し、日本企業の信頼・評価を高め、国際的な競争力及び持続可能性の確保・向上に寄与することを目指しており、引き続き、様々なステークホルダー(利害関係者)などの意見を踏まえつつ、計画策定の作業に取り組んでいく。 (2)国際人権法・国際人道法に関する取組 ア 国際人権法 人権理事会の下には、18名の個人資格の専門家から構成される人権理事会諮問委員会が存在する。同委員会の任務は、研究の結果と調査に基づく助言を主に行うことにより、人権理事会に専門的意見を提供することである。9月に開催された第42回人権理事会において、人権理事会諮問委員会委員選挙が行われ、日本から立候補した中井伊都子甲南大学法学部教授が当選を果たした。日本は、同委員会が活動を開始した2008年から現在まで、同委員会に継続して委員を輩出しており、中井教授は日本出身の3人目の委員となる。 また、日本は、日本が締結している人権諸条約について、各条約の規定に従い、国内における条約の実施状況に関する定期的な政府報告審査に真摯に対応してきている。1月にはジュネーブで児童の権利条約の政府報告審査を受けた。 イ 国際人道法 日本は、3月に最終会合が開催されたジュネーブでの国際人道法に関する政府間プロセスに積極的に参加することによって国際人道法の履行強化に積極的に取り組んできた。10月には日本赤十字社との共同で国際人道法国内委員会を開催した。12月の第33回赤十字・赤新月国際会議では、他国と共同で国際事実調査委員会(IHFFC)の認知度向上と利用促進に関する共同プレッジ(約束)を提出し、ステートメントにおいては、サイバー攻撃や自律型致死兵器システムなどの先端技術の出現が紛争の様相を大きく変化させている中での国際人道法の普及・履行強化について述べた。また、国際人道法の啓発の一環として、例年同様、赤十字国際委員会主催の国際人道法模擬裁判大会に講師を派遣した。 (3)二国間の対話を通じた取組 国連など多国間の枠組みにおける取組に加え、日本は、人権の保護・促進のため二国間対話の実施を重視している。1月には第13回日・イラン人権対話(テヘラン)、3月には第6回日・ミャンマー人権対話(東京)、8月には第10回日・カンボジア人権対話(プノンペン)を開催した。それぞれ人権分野における両者の取組について情報を交換するとともに、国連などの多国間の場での協力について意見交換を行った。 (4)難民問題への貢献 日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から2014年度まで第三国定住(難民が、庇護(ひご)を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)により、タイに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れた。 2015年度以降は、マレーシアに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れるとともに、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族を呼び寄せることを可能とし、2010年度から2019年度までに合計50家族194人が来日した。 来日後は首都圏の自治体を中心に定住を実施してきたが、難民問題への全国的な理解を促進することなどの観点から、首都圏以外の自治体での定住を積極的に進めることとし、2018年は広島県呉市及び神奈川県藤沢市、2019年は兵庫県神戸市において定住を開始した。 難民を取り巻く国際情勢などは大きく変化しており、こうした国際社会の動向をふまえ、難民問題に関する負担を国際社会において適正に分担するとの観点から、日本は、6月、新たな枠組みによる第三国定住による難民の受入拡大を決定した。具体的には2020年度から、難民の出身国・地域を限定することなくアジア地域に滞在する難民及び第三国定住により受け入れた難民の親族を、年1から2回、60名の枠内で受け入れることとした。 第三国定住による難民受入れは欧米諸国が中心となって取り組んできたが、アジアで初めて日本が受入れを開始し、さらにはその拡大を決定したことから、日本の積極的な難民問題への取組について、国際社会からの注目を集めている。