第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 5 国際連合(国連)における取組 (1)日本と国連との関係 国連は、世界のほぼ全ての国(2019年12月現在193か国)が加盟する普遍性を備えた国際機関であり、紛争解決や平和構築、テロ対策、軍縮・不拡散、貧困・開発、人権、難民問題、環境・気候変動、防災、感染症を含む多種多様な分野において、高度な専門性を持って、国際社会が直面する諸課題に取り組んでいる。 日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国連を通じた協力を強化し、一国では実現できない外交目標の達成に向けて積極的に取り組んでいる。また、日本はこれまで国連安全保障理事会(国連安保理)の非常任理事国を加盟国中最多の11回務めるなど、国際社会の平和と安全の維持のために、主要な役割を果たしてきている。国際社会が直面する諸課題に、国連がより効果的に対応できるよう、国連安保理を始めとする国連改革にも引き続き積極的に取り組んでいく。 9月に開会した第74回国連総会ハイレベルウィークには、安倍総理大臣及び茂木外務大臣が出席した。 国連本部(写真提供:UN Photo/Steven Bomholtz) 国連総会に出席する安倍総理大臣 (9月24日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) 安倍総理大臣は、一般討論演説を行い、G20大阪サミット、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)、京都コングレス、東京オリンピック・パラリンピック競技大会など、2019年から2020年に日本で開催される国際的なイベントに言及するとともに、教育・女性分野における日本の貢献、北朝鮮・中東情勢を含む地域情勢、多国間枠組みを利用した格差への対処の重要性について述べた。 安倍総理大臣は、「国連ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ハイレベル会合」に出席し、国民皆保険制度の導入によってUHCを達成したことが、日本の社会経済発展、健康長寿の達成を支えてきたことを紹介した。加えて、G20大阪サミット及びTICAD7において、保健に加え、栄養、水・衛生などの分野横断的取組の促進、保健財政の強化について議論したことに触れ、その重要性を強調した。 また、安倍総理大臣は「SDGサミット」に出席し、G20大阪サミットやTICAD7における成果を含む過去4年間のSDGs推進の実績を共有した。また、安倍総理大臣自身も全閣僚が参加する「SDGs推進本部」の本部長として、「ジャパンSDGsアワード41」や「SDGs未来都市42」の取組を始め、オールジャパンでSDGsを推進してきたことを紹介し、12月までに日本のSDGs推進の中長期戦略である実施指針を改定し、進化した日本の「SDGsモデル」を示すと述べた。 このほか、安倍総理大臣は、米国、イラン及びヨルダンとの首脳会談、ミシェル次期欧州理事会議長(ベルギー首相)及びグテーレス国連事務総長との会談、並びにトゥスク欧州理事会議長との夕食会を実施した。また、バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長及び2018年ノーベル平和賞受賞者ムラド女史から表敬を受けた。 グテーレス国連事務総長との会談では、2020年、国連が創設75周年を迎えることを踏まえ、国連安保理を含む国連改革が重要であることを確認した。また、北朝鮮について意見交換し、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認した。さらに、安倍総理大臣から拉致問題の早期解決に向け改めて理解と協力を求め、グテーレス国連事務総長の支持を得た。 茂木外務大臣は、開発のための革新的資金調達リーディンググループ会合を主催したほか、日米豪印閣僚級協議や国連安保理改革に関するG4外相会合など、計7つの多国間会合に出席した。また、日米、日中など11の外相会談などを行い、国連総会出席の機会を通じて各国の外相との間で相互の信頼関係を強化した。 このように、安倍総理大臣及び茂木外務大臣は、世界中から要人が集まる国連総会の機会を活用し、国際社会が直面する様々な課題の解決に向けた日本のリーダーシップを示すとともに、各国要人との二国間会談を精力的に実施して二国間関係の強化を図り、国際社会に向けて日本の政策や立場を積極的に発信した。 グテーレス国連事務総長は、6月及び8月の二度にわたり訪日した。6月の訪日は、2017年1月の事務総長就任後3度目であり、G20大阪サミットに出席した。その際の安倍総理大臣との会談では、安倍総理大臣からSDGs達成など、地球規模課題解決に向けた具体的取組を進めていくと述べたところ、グテーレス国連事務総長から支持を表明するとともに、気候変動問題への取組の重要性を強調した。安倍総理大臣はグテーレス国連事務総長の国連改革の努力や平和構築の取組を最大限支援していくと述べ、グテーレス国連事務総長は謝意を表明した。双方は、北朝鮮などの地域情勢についても意見交換し、イラン情勢について緊張緩和の必要性があることで一致した。 グテーレス国連事務総長と握手を交わす安倍総理大臣 (6月28日、東京 写真提供:内閣広報室) 8月のTICAD7に際してグテーレス国連事務総長は再び訪日し、安倍総理大臣との会談を行った。安倍総理大臣は、TICAD7の大きなテーマである平和と安定の実現に向けて、アフリカ自身の取組を後押しするとともに、平和の持続に重点を置くグテーレス国連事務総長の取組を最大限支援していきたいと述べ、双方が引き続き努力していくことを確認した。グテーレス国連事務総長は、日本のアフリカ支援に高い評価を示した。 7月下旬には、9月の第74回総会議長就任を控えたムハンマド=バンデ第74回国連総会議長が訪日し、安倍総理大臣を表敬するとともに、河野外務大臣と国連安保理改革、北朝鮮情勢、SDGs、気候変動、海洋プラスチックごみ、保健などのグローバルな課題について意見交換を行った。 (2)国連安全保障理事会(国連安保理)、国連安保理改革 ア 国連安全保障理事会(国連安保理) 国連安保理は、国連の中で、国際の平和と安全の維持に主要な責任を有している。国連安保理決議に基づく国連平和維持活動(PKO)などの活動は多様さを増しており、大量破壊兵器の拡散やテロなどの新たな脅威への対処など、その役割は年々拡大している。 日本は、2016年1月から2017年12月末まで国連加盟国中最多となる11回目の国連安保理非常任理事国を務めるなど、地域情勢や平和構築などに関する国連安保理での議論に積極的に貢献している。11回目となる任期中は、北朝鮮による3度の核実験(2016年1月、9月及び2017年9月)及び累次の弾道ミサイル発射を受けて採択された6つの国連安保理決議の作成に貢献するなど、北朝鮮の核・ミサイル問題などの解決に向けて尽力してきた。また、2019年12月に開催された「不拡散/北朝鮮」を議題とする国連安保理公開会合では、北朝鮮による弾道ミサイル発射は、国連安保理決議違反であり、日本のみならず国際社会全体にとって深刻な挑戦であること、国連安保理決議の完全な履行が重要であることを呼びかけるなど、国際の平和と安全の維持に関わる議論に力を尽くしてきた。 イ 国連安保理改革 国連発足後75年が経(た)とうとする中、国際社会の構図が大きく変化するに伴い、国連の機能が多様化した現在でも、国連安保理の構成は、基本的には変化していない。国際社会では、国連安保理改革を早期に実現し、その正統性、実効性、代表性及び透明性を向上させるべきとの認識が共有されている。 日本は、これまで軍縮・不拡散、平和維持・平和構築、人間の安全保障などの分野で国際社会に積極的に貢献してきており、国連を通じて世界の平和と安全の実現により一層積極的な役割を果たすことができるよう、常任・非常任議席双方の拡大を通じた国連安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを目指し、各国への働きかけを行っている。 ウ 国連安保理改革をめぐる最近の動き 国連では、2009年から総会の下で国連安保理改革に関する政府間交渉が行われている。第73回国連総会の政府間交渉(2019年1月から6月まで計5回開催)の共同議長(アラブ首長国連邦及びルクセンブルクの国連常駐代表)は各国・グループのコメントを基に前会期の文書の改訂に取り組んだ。2019年6月に第73回会期においてまとめられた文書を含め第74回国連総会(2019年9月から2020年9月まで)へ引き継ぐ決定が国連総会でコンセンサスにより採択された。 ムハンマド=バンデ第74回国連総会議長は、アラブ首長国連邦の国連常駐代表を第72回会期から引き続き政府間交渉共同議長として再任するとともに、ポーランドの国連常駐代表を新たな政府間交渉共同議長に任命した。 日本は、国連安保理改革の推進のために協力するグループであるG4(日本、インド、ドイツ及びブラジル)の一員としての取組も重視している。茂木外務大臣は2019年9月の国連総会ハイレベルウィークに合わせて開催されたG4外相会合に出席した。G4の外相は同会合で、今期総会において進展を得るため、ムハンマド=バンデ総会議長と連携して政府間交渉のプロセス改善に取り組むこと、2020年の国連創設75周年を念頭に、平和・安全の維持に責任を負う能力と意思を有するG4が緊密に連携しつつアフリカを含む他の有志国に対する関与を継続していくことで一致した。日本は引き続き、改革推進派諸国と緊密に連携し、国連安保理改革の実現に向けたプロセスに前向きに関与していく。 国連安保理改革に関するG4(日本、インド、ドイツ、ブラジル)外相会合(9月25日、米国・ニューヨーク) (3)国連行財政 ア 国連予算 国連の予算は大きく分けて通常予算(1月から翌年12月までの2か年予算。2020年から2022年までは試験的に1月から同年12月までの1か年予算を導入)とPKO予算(7月から翌年6月までの1か年予算)で構成されている。 このうち、通常予算については、2019年12月、国連総会において、2020年予算として約31億米ドルの予算が承認された。また、PKO予算については、2019年7月に2019年から2020年度のPKO予算が承認され、予算総額は約65.2億米ドル(前年度最終予算比約8%減)となった。 国連2か年通常予算の推移 PKO予算及びPKO予算で賄われるミッション数の推移(2003年~2020年) 主要国の国連通常予算分担率 順位※ 国名 2016-2018年 2019-2021年 増減ポイント 1 米国 22.000% 22.000% ±0 2 中国 7.921% 12.005% +4.084 3 日本 9.680% 8.564% -1.116 4 ドイツ 6.389% 6.090% -0.299 5 英国 4.463% 4.567% +0.104 6 フランス 4.859% 4.427% -0.432 7 イタリア 3.748% 3.307% -0.441 8 ブラジル 3.823% 2.948% -0.875 9 カナダ 2.921% 2.734% -0.187 10 ロシア 3.088% 2.405% -0.683 ※2019年から2021年の順位 主要国のPKO予算分担率 順位※ 国名 2018年 2019年 2020-2021年 1 米国 28.4344% 27.8912% 27.8908% 2 中国 10.2377% 15.2197% 15.2195% 3 日本 9.6800% 8.5640% 4 ドイツ 6.3890% 6.0900% 5 英国 5.7863% 5.7900% 5.7899% 6 フランス 6.2801% 5.6125% 5.6124% 7 イタリア 3.7480% 3.3070% 8 ロシア 3.9912% 3.0490% 3.0490% 9 カナダ 2.9210% 2.7340% 10 韓国 2.0390% 2.2670% ※2019年から2021年の順位 出典:国連文書 イ 日本の貢献 国連の活動を支える予算は、各加盟国に支払が義務付けられている分担金と各加盟国が政策的な必要に応じて拠出する任意拠出金から構成されている。このうち、分担金については、日本は2019年通常予算分担金として約2億3,878万米ドルを負担しており、米国、中国に次いで3番目である。2019年PKO分担金としては約8億143万米ドルを負担しており、これも米国、中国に次いで3番目である。日本は、主要財政貢献国の立場から、国連が予算をより一層効率的かつ効果的に活用するよう働きかけを行ってきている。 グテーレス国連事務総長は、平和への取組及び開発とともに国連のマネジメント改革を優先課題として位置付け、事務局機能の一層の効率化・効果向上に取り組んでいる。日本は同改革の目的を支持しつつ、各国の厳しい財政事情を踏まえ、加盟国への追加的な財政負担を求めることなく改革が進められるよう働きかけを行っている。2017年12月末に採択されたマネジメント改革の方針などに関する国連総会決議に基づき、2019年1月には新たな組織体制が発足した。今後、新たな体制の下で国連の財政・予算・人的資源管理の効率化が進んでいくことが期待される。 41 SDGs達成に向けて優れた取組を行っている企業・団体を表彰 42 地方自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取組を提案する都市を選定