第2章 地球儀を俯瞰する外交 3 北アフリカ地域情勢(リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ) マグレブ地域は、欧州・中東・アフリカの結節点に位置する地理的優位性や豊富かつ廉価な若年労働力などによる高い潜在性から、アフリカにおいて経済面で高い重要性(アルジェリア、モロッコ及びチュニジアはいずれもアフリカのGDP上位10か国に入っており、モロッコにはアフリカで第2位の規模の日本企業が集積)を有しており、域内の各国はそれぞれの手法で「アラブの春」を乗り越え政治的な安定を維持してきた。 チュニジアでは9月から10月にかけて大統領選挙及び国民代表議会選挙が実施され、独立候補のサイード氏が大統領に選出された。2020年1月現在、組閣交渉が続いている状況であり、今後、経済・社会政策が安定的に実施されていくか注目されている。 安倍総理大臣とムーレイ・ラシッド・モロッコ王子殿下の会談 (10月24日、東京 写真提供:内閣広報室) 一方、アルジェリアでは2019年2月以降、ブーテフリカ大統領の長期政権への反発から抗議デモが発生・長期化し、同政権は4月に退陣を余儀なくされた。12月に大統領選挙が実施され、テブン大統領が選出されたところであり、新政権による安定的な政権運営がなされるかが課題である。 また、アルジェリアでは国家財政を支えるエネルギー収入の減少が深刻化しているほか、モロッコ及びチュニジアでも地域格差や高失業率などの克服が課題となっている。加えて、リビアやサヘル地域からの武器や不法移民の侵入による治安面への影響が懸念されている。 こうした中、日本とモロッコ、チュニジア、アルジェリアとの間では、2018年末の河野外務大臣の各国訪問以降もTICAD7や即位礼正殿の儀などを機会とする活発な要人往来が続き、各国とのパートナーシップ強化の機運が高まっており、日本としては同地域の経済・社会安定化に引き続き寄与していくこととしている。 特にモロッコとの間では、両国の皇室・王室の関係を基礎に、長年にわたり友好関係を発展させてきている中、2019年はTICAD7へのブリタ外務・国際協力相の出席などを始めとして、ハイレベルの往来が相次いで実現した。9月には日・モロッコ友好議員連盟が同国を訪問したほか、即位礼正殿の儀には、モハメッド6世国王の弟君であるムーレイ・ラシッド王子が参列し、安倍総理大臣との会談を行った。こうした一連の要人往来などを通じ、両国は緊密な二国間関係を一層発展させていくことで一致した。 リビアでは、2011年のカダフィー政権崩壊後、議会と政府が東西に並立し、不安定な治安状況が続いている。2019年4月、東部勢力の実力者であるハフタル「リビア国軍」総司令官は、トリポリへの進軍を指示し、国民統一政府傘下の部隊との間で空爆を含む武力衝突へと発展した。その後も武力衝突は継続しており、戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。一般市民を含む犠牲者の数も1,000人を超えており、停戦の実現と国連による政治プロセスの再開が期待される。 こうした中、8月、TICAD7出席のため訪日したシヤーラ外相との間で、日・リビア外相会談を行い、リビアの紛争に対する軍事的解決はなく、平和的解決が不可欠であるとの認識で一致した。