第2章 地球儀を俯瞰する外交 3 中南米各国(カリブ諸国については上記2(3)を参照) (1)メキシコ メキシコは約1,200社もの日本企業が進出し、日本企業にとって中南米地域最大の経済拠点となっている。2018年12月に就任したロペス・オブラドール大統領は内政重視の政策を推進し、就任1年経過後も約70%の支持率を維持している。一方で、選挙時の公約どおり大統領就任後は外国訪問を行っていない。また、2019年6月には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を、12月には同協定修正議定書を、いずれも米国・カナダに先がけて連邦上院で承認した。USMCAは、メキシコに進出している日本企業の活動にも影響を与える可能性があり、今後米国及びカナダにおける本協定の議会承認の時期及び発効後の本協定の運用が注目される。 米国との関係では、トランプ政権は、メキシコを通じて流入する不法移民が急増したことを受け、5月末に、状況が改善されなければメキシコからの全輸入品に関税を課すと発表したが、両国政府間の協議の結果、米国による関税賦課は回避された。この際に発出された共同宣言に基づき、メキシコは、国内の移民対策を実施している。 2019年はG20大阪サミットに大統領代行として出席したエブラル外相と河野外務大臣との間で、ロペス・オブラドール政権下で初の日・メキシコ外相会談が実施され、二国間関係の更なる強化で一致した。 日・メキシコ外相会談(6月29日、大阪) (2)中米(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ドミニカ共和国、ニカラグア、パナマ、ベリーズ、ホンジュラス) エルサルバドル、グアテマラ及びホンジュラスは、不法移民対策を重視するトランプ政権下の米国との間で、それぞれ移民関連の協力に関する合意を結んだ。これらの合意により、米国は、米国内で保護された移民をこれら3か国に移送することが可能となった。 日本は中米諸国における民主主義定着の努力を支持しており、6月及び8月のグアテマラ大統領選挙に際しては米州機構(OAS)の選挙監視団に要員を派遣した。また、中米統合機構(SICA)を通じた域内統合支援と域内各国の開発協力を軸に関係を強化している。 (3)キューバ 4月に新憲法が公布され、10月にディアスカネル大統領、12月にマレーロ首相が選出され、新憲法の下での新たな体制が構築された。その一方で、社会主義や共産党による一党指導体制は継続し、政権運営や政策方針に大きな変更は見られない。引き続き対米関係、外資誘致と国内産業の育成が課題となっている。2019年は、日・キューバ外交関係樹立90周年の節目の年であり、古屋圭司総理特使(衆議院議員)や辻清人外務大臣政務官の同国訪問など要人交流や両国で多くの記念行事が行われた。 (4)ブラジル 1月に就任したボルソナーロ大統領は政権発足後、選挙公約に掲げていた省庁組織の合理化などの各種施策の実施に乗り出した。その一環として、財政赤字解消のため、年金制度の改革法案を議会に提出し、10月にこれを成立させた。経済改革の方向性を市場は好感し、ブラジルの株式相場は史上最高値を突破した。外交政策では2000年代から続いた労働者党政権における開発途上国との連携を重視する方針を転換し、日本や米国を始めとする先進国との関係強化を重視している。 日本との関係では、ボルソナーロ大統領就任直後の1月、ダボス会議の機会に日・ブラジル首脳会談が行われ、幅広い分野における二国間協力を一層推進することで一致した。また、ボルソナーロ大統領は6月のG20大阪サミットへの出席及び10月の即位礼正殿の儀参列のため2度訪日し、日・ブラジル首脳会談も実施された。1年間で3回の首脳会談は近年にない頻度であり、両国の強固な二国関係の証左と言える。 日・ブラジル首脳会談(10月23日、東京 写真提供:内閣広報室) (5)アルゼンチン 2015年に就任したマクリ大統領は開放的な経済改革を推進したが、経済状況は好転せず、2019年10月の大統領選挙で敗北した。12月に発足したフェルナンデス政権は前政権の経済政策を行き過ぎた自由化路線と批判し、平等な発展と弱者保護を主張している。 日本との関係では、6月にマクリ大統領がG20大阪サミットに出席した際、安倍総理大臣と首脳会談を行い、両国の関係を強化していくことで一致した。 日・アルゼンチン首脳会談(6月27日、大阪 写真提供:内閣広報室) (6)ペルー ビスカラ政権の下、ペルー経済は堅調な成長を維持している。一方で、同大統領は国会に政治基盤を持たないこともあり、国会と対立する形で9月に国会を解散し、2020年1月に国会議員選挙を実施することを発表した。 日本との関係では、5月に外相会合が行われ、両国が140年を超える外交関係を有し、普遍的価値を共有する戦略的パートナーであることを確認した。また11月には日・ペルー租税条約が署名された。 日本人移住120周年 ~眞子内親王殿下のペルー及びボリビア御訪問~ 眞子内親王殿下は、ペルー政府及びボリビア政府からの招待を受け、両国への日本人移住120周年の機会に開催された記念式典などに出席されるため、7月9日から20日まで、両国を訪問されました。 現在、ペルーの日系人は約10万人、ボリビアの日系人は約1万3,000人と言われ、両国の各界で活躍しています。 1899年(明治32年)4月3日、790人の日本人を乗せた「佐倉丸」がペルーのカヤオ港に到着し、農業契約移住が始まりました。ペルーに到着した790人のうち、サトウキビ畑における過酷な環境に耐えかねた91人は、同年9月、国境を越え、隣国ボリビアのラパス県北部サンアントニオのゴム園に到着し、ここから、ボリビアにおける日本人の移住が始まりました。 その後、第二次世界大戦中には、ペルー、ボリビア共に連合国側に参加したため、1952年に日本と両国が国交を回復するまでの間、両国で生活していた日本人や日系人は日本語の使用禁止や日本人学校の閉鎖、資産の凍結などにより様々な苦労を重ねました。戦後、ペルーにおいて、日系2世や3世は、現地校の教育を通じて急速にペルー社会に溶け込み、ペルー社会の様々な分野で徐々に活躍の場を広げていきました。ボリビアにおいては、1954年以降、米国政府による当時の琉球政府に対する資金援助によりボリビアに移住した沖縄県出身移住者がオキナワ移住地を設置したほか、日本政府による計画移住により、1,684人がサンフアン移住地に入植しました。 現在では、両国の日系人の方々は、現地政府、国民の信頼を得て、日本との架け橋として、様々な分野で重要な役割を担っています。 2019年の眞子内親王殿下のペルー及びボリビア御訪問においては、こうした歴史を踏まえ、ペルーの首都リマのペルー日系人協会や日系人ゆかりの施設、ボリビアのラパス日本人会、サンタクルス中央日本人会、サンフアン移住地、オキナワ移住地などを訪問されました。2019年は、日本人移住120周年という特別な年であり、現地の日系社会の方々は、記念式典などの準備に熱心に取り組み、また、眞子内親王殿下はこれらの行事を通じて各地の日系社会の方々と笑顔で触れ合われ、大きな感動を残されました。 日本人移住120周年という二国間関係の節目に眞子内親王殿下にペルー及びボリビアを御訪問いただけたことは、今後の日本と両国の友好関係を一層増進し、確固たるものとして次の世代につなぐ上で、真に時宜を得たものとなりました。 日本人ペルー移住120周年記念式典会場で歓迎を受ける眞子内親王殿下(7月10日、ペルー・リマ 写真提供:ペルー新報) 日本人ボリビア移住120周年記念式典に御臨席になる眞子内親王殿下(7月17日、ボリビア・サンタクルス) (7)チリ ピニェラ大統領は、経済成長を促す経済政策を重視しつつ、教育・年金制度の改善などに取り組んでいたが、10月に地下鉄運賃値上げを契機として格差是正などを掲げる反政府抗議活動が活発化し、一部が暴徒化し治安部隊と衝突した。この影響により、チリで開催予定だったAPEC首脳会議・閣僚会議及び国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が中止となった。 日本との関係では、G20大阪サミットに出席するためピニェラ大統領が6月に訪日し、8月のG7ビアリッツ・サミットの機会には首脳会談を実施したほか、11月にはG20愛知・名古屋外務大臣会合に出席するためリベラ外相が訪日して外相会談を行い、今後の二国間協力の強化や自由貿易の推進に向けた緊密な連携を確認した。 日・チリ首脳会談 (8月25日、フランス・ビアリッツ 写真提供:内閣広報室) (8)ウルグアイ 2018年12月に安倍総理大臣が日本の総理大臣として初めてウルグアイを訪問したことを踏まえ、2019年2月には日本産牛肉とウルグアイ産牛肉の相互輸出が解禁され、また9月には日・ウルグアイ租税条約が署名されるなど、近年多方面で関係が緊密化している。11月、大統領選挙で野党国民党が勝利し、ラカジェ・ポウ候補が次期大統領に選出された。2020年3月に同候補が大統領に就任し、中道左派政権から、15年ぶりに中道右派政権へと政権が交代した。 (9)パラグアイ アブド・ベニテス政権は、自由開放的な経済政策を引き続き推進している。日本との外交関係樹立100周年を迎えた2019年は、3月に辻外務大臣政務官、12月に尾身朝子外務大臣政務官がパラグアイを訪問し、10月には即位礼正殿の儀参列のためにベラスケス副大統領が訪日するなど、要人往来を通じて、二国間関係が進展した(91ページ コラム参照)。 日・パラグアイ外交関係樹立100周年記念式典で植樹する尾身外務大臣政務官(12月19日、パラグアイ) 日・パラグアイ外交関係樹立100周年 パラグアイというと何を思い浮かべるでしょうか。同国伝説のゴールキーパー・チラベルト選手や、2010年のサッカーW杯で日本代表と激闘を繰り広げたサッカーのイメージが強いかもしれません。 1919年、日本はパラグアイと日・パラグアイ通商条約を締結し、両国は2019年に外交関係樹立100周年を迎えました。 この100年、日・パラグアイ関係は大きな発展を遂げてきました。1936年に最初の日本人移民集団がパラグアイに移住し、農業分野を中心にパラグアイの発展に大きく貢献、現在ではおよそ1万人の日系人が活躍しています。東日本大震災の際には、日系社会から送られた100万トンの大豆で作られた豆腐が被災地に届けられ、被災者の皆様から喜ばれました。また、近年、開放的な経済政策の下、堅調な経済成長が続くパラグアイにおいて、進出日系企業はここ6年で2倍以上に増えました。2019年8月には経団連及び日本貿易振興機構(JETRO)のビジネス視察団が派遣されるなど、日本経済界のパラグアイへの注目が高まっています。さらに、経済協力分野においても、インフラ整備や人材育成、NGOによる協力など、日本は長年にわたり顔の見える支援を行ってきており、これらを通じて、パラグアイは中南米でも有数の親日国となっています。そうした緊密かつ友好な両国関係を背景に、10月の即位礼正殿の儀及び饗宴(きょうえん)の儀にはベラスケス副大統領夫妻が参列し、天皇陛下の御即位に祝意を表しました。 外交関係樹立100周年に先立つ2018年12月、安倍総理大臣は日本の総理大臣として初めてパラグアイを訪問し、アブド・ベニテス大統領との首脳会談において、二国間関係の更なる強化や、国際場裡(じょうり)における連携の促進について一致しました。また、両首脳は「日・パラグアイ外交関係樹立100周年」ロゴマークを発表しました。 「日・パラグアイ外交関係樹立100周年」ロゴマーク。パラグアイのレース編み民芸品「ニャンドゥティ」をモチーフにし、両国が紡いできた歴史、これから紡ぐ新しい未来を表現 そして迎えた2019年。この一年を通じて、日本とパラグアイでは多くの記念行事が行われました。パラグアイでは、辻清人外務大臣政務官(当時)出席の下開催された100周年キックオフイベント(3月)を皮切りに、雅楽公演、日本祭、和太鼓コンサートなど60以上の記念行事が行われました。日本においては、パラグアイの伝統刺繍である「ニャンドゥティ」展、パラグアイ・ハープ(アルパ)の演奏会やクラシックギター・コンサートなどが開催されました。これらの記念行事は、両国の国民がそれぞれの文化に触れ、盛り上がり、相互理解を深める機会となりました。12月には、100周年行事のフィナーレとしてパラグアイにおいて記念式典が開催され、日本からは尾身朝子外務大臣政務官が出席し周年事業を締めくくりました。 日本における文化イベントの様子 (5月3日、東京 写真提供:駐日パラグアイ大使館) パラグアイにおける日本祭の様子 (11月9日、パラグアイ・アスンシオン) 日本とパラグアイは、地理的には遠く離れていますが、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する重要なパートナーです。100周年の慶賀の年に強化された両国の絆(きずな)を、次の100年を見据え、政治、経済、文化、市民交流など様々な分野において更に深めていきます。 (10)コロンビア 2018年8月に就任したドゥケ大統領は、コロンビア和平合意7の一部修正を掲げつつ、社会再統合に取り組んでいる。また、2019年に日本人コロンビア移住90周年を迎え、10月にはサンティアゴ・デ・カリ市において記念式典が行われ、尾身外務大臣政務官が日本政府を代表し出席した。10月にはトゥルヒージョ外相が即位礼正殿の儀に参列するため訪日し、外相会談を行った。 日・コロンビア外相会談(10月21日、東京) (11)ベネズエラ 2018年5月に実施された大統領選挙の正統性に疑義がある中、2019年1月にマドゥーロ大統領の就任式が実施された。同月、グアイド国会議長(野党)が憲法の規定に基づき暫定大統領就任を宣言したことにより、政権側と野党との間の対立が激化した。また、ハイパーインフレなどの影響で多くのベネズエラ人が避難民として周辺国に流入し、受入れが地域的課題となっている。日本はグアイド暫定大統領を支持し、自由で公正な大統領選挙の早期実施を求め、避難民を含むベネズエラ国民及び影響を受けているコロンビアなど周辺国に対する支援を実施している。 (12)ボリビア 10月に実施された大統領選挙において、現職のモラレス大統領が選挙不正を疑われ、抗議活動が激化した。11月、同大統領は辞任を発表し、国外に亡命したことから、暫定的に上院副議長のアニェス氏が大統領に就任した。同暫定大統領の下、2020年に改めて大統領選挙の実施が予定されている。 (13)エクアドル モレノ大統領の下で経済の自由化を進めている。緊縮財政政策によるガソリンへの補助金廃止などを契機として10月に全国で反政府抗議活動が発生したが、2019年末現在は収束している。日本との関係では、即位礼正殿の儀に参列するためバレンシア外相が訪日した。 (14)日系社会との連携 日系社会は、中南米諸国の親日感情の基礎を築いてきたが、移住開始から100年以上を経て世代交代が進んでおり、日本とのつながりが希薄な若い世代も増えている。そうした中、日本は、若手日系人の訪日招へいに加え、各国の若手日系人によるイベント開催を支援し、若手日系人同士のネットワーク作りを後押しするなど、日系社会との連携強化に向けた施策を実施している。また、9月には、サンフランシスコ(米国)で開催されたパンアメリカン日系人大会(COPANI)に中南米日系社会連携担当大使を派遣し、参加した中南米日系人との意見交換を実施するなど、国を超えた日系社会の連携にも力を入れている。 中南米次世代日系人指導者一行による西村明宏官房副長官表敬 (10月4日、東京) 7 サントス大統領(当時)は半世紀以上に及ぶ国内紛争を終結させるため、2012年にコロンビア最大のゲリラ組織であるコロンビア革命軍(FARC)との間で和平交渉を開始。2016年、和平合意を発表