第2章 地球儀を俯瞰する外交 7 地域協力・地域間協力 アジア太平洋地域は世界の成長センターの一つであり、平和で繁栄した同地域の実現は日本外交の最重要課題の一つである。こうした観点から、日本は、日米同盟を基軸としながら、日・ASEAN、日・メコン協力、ASEAN+3(日中韓)、東アジア首脳会議(EAS)、日中韓協力、APECなどの多様な地域協力枠組みを通じ、国際法にのっとったルールを基盤とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を近隣の国々と共に実現していくことを重視している。また、FOIPと6月にASEANが採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」とのシナジーを追求し、ASEANの中心性と一体性を尊重しつつ、ASEAN各国との協力を強化、インド太平洋全体の安定と繁栄に寄与したいと考えている(66ページ 特集参照)。 インド太平洋に関するASEANアウトルック ~ASEANのASEANによるASEANのためのインド太平洋ビジョン~ 地域の平和と繁栄の礎たる法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋。その太平洋とインド洋、「2つの海の交わり」に位置するASEAN諸国が一体性と中心性を発揮し、6月、ASEAN首脳会議において「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP※1)」が採択されました。 AOIPは、平和、自由及び繁栄の維持に貢献するために、①地域における協力の指針となる展望の提供、②信頼の強化、③既存のASEAN主導のメカニズムの強化、④ASEANの優先協力分野の探求を目的とし、ASEAN中心性の強化に加え、開放性、透明性、包摂性、ルールに基づく枠組み、グッドガバナンス、主権の尊重、不干渉、既存の協力枠組みとの補完性、平等、相互尊重、相互信頼、互恵、国連憲章及び国連海洋法条約その他の関連する国連条約を含む国際法の尊重といった原則を基礎として、海洋協力、連結性、SDGs及び経済などの分野での協力の推進を掲げています。 日本は、2016年に安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP※2)」の考え方を表明して以来、①法の支配、航行の自由、自由貿易などの普及・定着、②経済的繁栄の追求、③平和と安定のために取り組んできました。そのような中、ASEAN自身が、インド太平洋の連結性強化に向けてAOIPを発表したことは画期的です。日本はAOIPへの全面的な支持を表明し、ASEANに協力していくとともに、FOIPとAOIP、さらには志を共にする国々の取組とのシナジーを追求し、インド太平洋全体の安定と繁栄に寄与したいと考えています。 FOIPとAOIPのシナジーを示す、日本とASEANとの具体的な協力は既に始まっています。日本はこれまでにも、巡視船の供与・派遣などを通じた海上法執行能力の強化や、メコン地域の発展に貢献する東西及び南部経済回廊の開発を通じた連結性の強化に向けた具体的な協力を重ねてきました。それに加え、11月の日・ASEAN首脳会議では、連結性に関する共同声明を発出し、この共同声明を資金面からも支えるため、安倍総理大臣は対ASEAN海外投融資イニシアティブの立ち上げを表明しました。また、12月、茂木外務大臣は本イニシアティブの下で、質の高いインフラ、金融アクセス・女性支援、グリーン投資の分野について、2020年から2022年までの3年間に、官民合わせて30億米ドル規模の資金の動員を目指すべく、JICAが12億米ドルの出融資を提供する用意がある旨を発表しました。さらに、日・ASEAN技術協力協定を締結(5月)し、ASEAN全体を対象とした技術協力の実施が可能となり、その第1号案件として、サイバーセキュリティに関する研修を2020年1月に日本で実施しました。 第1回東京グローバルダイアログで、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」の詳細を発表する茂木外務大臣(12月、東京) AOIPが掲げる原則に沿って、法の支配に基づく海洋安全保障の強化、質の高いインフラを通じた連結性の強化、違法漁業対策を含む海洋資源の持続可能な利用といった分野で、日本はこれまで以上にASEANの国々との協力を進め、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けてASEAN各国と協働していきます。 インドネシアへの巡視船派遣 (2018年7月 写真提供:海上保安庁) 防災分野での人材育成 無睡眠待機訓練 写真提供:AHAセンター※3 ※1 AOIP:ASEAN Outlook on the Indo-Pacific ※2 FOIP:Free and Open Indo-Pacific ※3 ASEAN coordinating Centre for Humanitarian Assistance on Disaster Management (ASEAN防災人道支援調整センター) (1)東南アジア諸国連合(ASEAN)情勢全般 2015年11月のASEAN関連首脳会議(マレーシア・クアラルンプール)では、「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」の三つの共同体によって構成されるASEAN共同体が同年内に設立されることが宣言され(ASEAN共同体設立に関するクアラルンプール宣言)、加えてASEAN共同体の2016年から2025年までの10年間の方向性を示す「ASEAN2025:Forging Ahead Together(共に前進する)」が採択された。また、ASEANが地域協力の中心として重要な役割を担っている東アジア地域では、ASEAN+3(日中韓)、EAS、ARFなどASEANを中心に多層的な地域協力枠組みが機能しており、政治・安全保障・経済を含む広範な協力関係が構築されている。特に経済面では、ASEANは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を締結するとともに、日本、中国、韓国、インドなどとEPAやFTAを締結するなど、ASEANを中心とした自由貿易圏の広がりを見せており、RCEP協定についても2019年11月の共同首脳声明に基づき、2020年中の署名を目指している。 地政学的要衝に位置しており、日本にとって重要なシーレーンに面しているASEANの安定と繁栄は、東アジア地域のみならず国際社会の安定と繁栄にも大きく関わることから、ASEANが法の支配などの価値に沿った統合を進めることは日本を含む国際社会全体にとって重要である。 (2)南シナ海問題 南シナ海をめぐる問題は、地域の平和と安定に直結し、国際社会の正当な関心事項であるとともに、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、南シナ海を利用するステークホルダー(利害関係者)である日本にとっても、重要な関心事項である。開かれ安定した海洋の維持・発展に向け、国際社会が連携していくことが求められている。 フィリピン政府が開始した南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関する国連海洋法条約(UNCLOS32)に基づく仲裁手続については、2016年7月12日に、仲裁裁判所から最終的な仲裁判断が示された。日本は、同日外務大臣談話を発出し、「国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、これによって、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待する」との立場を表明してきている。 2019年に入っても、中国は紛争のある地形に南シナ海のほぼ全ての海域を射程とするミサイル・システムを配備したほか、対艦弾道ミサイルの発射実験を行うなど、現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みを一段と進めており、日本を含む国際社会は深刻な懸念を表明している。日本は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持するとともに、航行・上空飛行の自由及びシーレーンの安全確保を重視してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、UNCLOSを始めとする国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を強調してきていることに加え、中国による南シナ海に対する「歴史的権利」に関する主張は、その国際法上の根拠が明らかでなく、また2016年に発出された比中仲裁最終判断でも明確に否定されたことや、中国による南シナ海における基線に関する主張がUNCLOSと整合的でないことなどを指摘してきている。2018年には、中国とASEANの間で南シナ海行動規範(COC)の交渉が開始されたが、日本としては、そのような取組が現場の非軍事化、そして平和で開かれた南シナ海の実現につながることが重要であると主張してきている。 (3)日・ASEAN関係 ASEANは、様々な地域協力の中心かつ原動力である。ASEANがより安定し繁栄することは、地域全体の安定と繁栄にとって極めて重要である。このような認識の下、日本は、2013年に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議で採択された「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」及び「共同声明」を着実に実行しつつ、ASEAN共同体設立以降も「ASEAN共同体ビジョン2025」に基づきASEANの更なる統合努力を全面的に支援していくことを表明している。 2019年には、ASEAN議長国であるタイで開催された8月の日・ASEAN外相会議、そして11月の第22回日・ASEAN首脳会議などを通じて、広範な分野での協力関係を一層強化していくことが確認された。11月の日・ASEAN首脳会議で、安倍総理大臣は、6月にASEANが自らのイニシアティブで採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」への全面的な支持を表明しつつ、日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想とのシナジーを追求し、日・ASEAN協力関係を強化していくと言及した。また、同首脳会議では、議長声明に加えて、全ての参加国の賛同を得て、連結性に関する日・ASEAN首脳会議共同声明が発出され、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、ASEANと協力していくことを確認した。また、その共同声明を資金面からも支えるべく、安倍総理大臣は、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」の立ち上げを表明し、ASEAN地域を中心に、質の高いインフラ、金融アクセス・女性支援、グリーン投資の分野について、民間を含む資金の動員を目指し、今後JICAの出資・融資を倍増させていく用意がある旨を表明した。さらに、日・ASEAN技術協力協定について言及し、第1号案件として、2020年1月に日本でサイバーセキュリティに関する研修を実施すると述べた。 日・ASEAN首脳会議で発言する安倍総理大臣 (11月4日、タイ・バンコク 写真提供:内閣広報室) 安全保障分野では、安倍総理大臣から、防衛協力などについて「ビエンチャン・ビジョン(日・ASEAN防衛協力イニシアティブ)」の下で、人道支援及び災害救援や海洋安保の分野を中心とした協力の進展に言及した。また、地域・国際情勢に関しては、北朝鮮について、拉致被害者救出は一刻の猶予も許されない状況である旨発言し、拉致問題の早期解決に向け、各国の引き続きの理解と協力を求めた。南シナ海問題に関しては、南シナ海の現状に対する深刻な懸念を表明しつつ、ASEANの国々が声を一つにして、悪化する現状に対して改善を求めていくことが必要である旨述べた上で、日本としても引き続き最大限の努力を惜しまないと発言した。 経済分野では、日本は、政府開発援助(ODA)や日・ASEAN統合基金(JAIF33)を通じ、ASEAN連結性強化を通じた域内格差の是正支援など、様々な分野でASEANの更なる統合の深化を支援してきている。11月の日・ASEAN首脳会議(タイ)では、安倍総理大臣から、日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の署名を歓迎し、サービス貿易や投資を更に活性化すべく、早期の発効に期待すると発言した。 また、安倍総理大臣から、「日・ASEANスマートシティ・ネットワークハイレベル会合」における官民評議会の立上げ、「日・ASEAN交通連携イニシアティブ」、「第4次産業革命ダイアログ」、「『文化のWA(和・環・輪)』プロジェクト」(国際交流基金アジアセンター)、「スポーツ・フォー・トゥモロー」などの日本の取組を説明し、幅広い分野で進展する日・ASEAN協力を積極的に発信した。 同首脳会議でASEAN側からは、今回の日本の新たなイニシアティブである、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」及び日・ASEAN技術協力協定に基づく第1号案件であるサイバーセキュリティに関する研修に対する謝意と支持の表明があった。さらに、国際交流基金アジアセンターへの評価及び今後の活動への期待が表明されたほか、10月に開催されたスマートシティハイレベル会合(横浜)、第四次産業革命ダイアログの創設、ASEAN-Japan Dayの開催(ベトナム・ハノイ)、JENESYSなど、日本の対ASEAN協力について謝意が表明された。 (4)日・メコン首脳会議(参加国:カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム及び日本) メコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ及びベトナム)は、陸上・海上輸送の要衝に位置し、力強い経済成長を遂げつつある将来性豊かな成長のパートナーである。メコン地域の平和と繁栄は、ASEAN域内の格差是正や地域統合にも資するものであり、日本を含むアジア全体にとって極めて重要である。メコン地域では、近年ハード面のインフラ整備が進み、進出日系企業数や日本からの直接投資も順調に推移するなど、今後の更なる経済活動の活発化が期待される。 2019年11月に、バンコクで開催された第11回日・メコン首脳会議(タイ)では、「2030年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)のための日メコン・イニシアティブ」が採択された。同イニシアティブでは、メコン地域諸国及び日本は、環境・都市問題、持続可能な天然資源の利用、包括的な成長を優先分野として定め、メコン地域のSDGsの実現に向けて取り組むことを表明した。メコン地域諸国の首脳は、日本の継続的な支援に謝意を表明し、2019年に日本がメコン地域諸国によるエーヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略会議(ACMECS34)の開発パートナーとなったことを歓迎した。今後も日本は、メコン地域諸国にとっての信頼のおけるパートナーとして、同地域の繁栄及び発展に貢献していく。 また、2019年は、2009年に日本とメコン地域諸国で実施した「日メコン交流年」から10周年を迎えた年であり、「日メコン交流年2019」を実施した。日本やメコン地域諸国において、政治、経済、文化などの幅広い分野での交流事業を170件以上実施した。 (5)ASEAN+3(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国) ASEAN+3は、1997年のアジア通貨危機を契機として、ASEANに日中韓の3か国が加わる形で発足し、金融や食料安全保障などの分野を中心に発展してきた。現在では、金融、農業・食料、教育、文化、観光、保健、エネルギー、環境など24の協力分野が存在し、2017年8月に採択された「ASEAN+3協力作業計画(2018-2022)」の下、各分野で更なる協力が進展している。 11月に開催された第22回ASEAN+3首脳会議(タイ)では、安倍総理大臣から、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を歓迎し、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」とのシナジーを追求し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて、連結性の向上に貢献したいと言及した。また、質の高いインフラ投資は、地域の連結性を強化し、持続可能な経済成長をもたらすことから、各国によるASEAN連結性に関連するプロジェクトの推進は、G20大阪サミットにおいて承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」にのっとったものであるべきと発言した。これらに加え、日本として、ASEAN+3協力において、海洋プラスチックごみ対策や貿易分野を推進していくことに言及した。 北朝鮮について、安倍総理大臣は、北朝鮮の弾道ミサイル発射は、安保理決議の明白な違反であると強く非難し、朝鮮半島の非核化に向け、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことが重要であり、安保理決議の完全な履行の堅持が不可欠である旨述べた。また、拉致問題の早期解決に向け、引き続きの理解と協力を求めた。 (6)東アジア首脳会議(EAS)(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国及びロシア) EASは、地域及び国際社会の重要な問題について首脳間で率直に対話を行うとともに、首脳主導で政治・安全保障・経済上の具体的協力を進展させることを目的として、2005年に発足した地域のプレミア(主要な)・フォーラムである。また、EASには多くの民主主義国が参加しており、域内における民主主義や法の支配などの基本的価値の共有や貿易・投資などに関する国際的な規範の強化に貢献することが期待されている。 ア 第9回EAS参加国外相会議 8月に開催された第9回EAS参加国外相会議(タイ)では、河野外務大臣から、「インド太平洋に関するASENAアウトルック(AOIP)」の採択を歓迎し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現すべく、質の高いインフラ投資に関するG20原則で確認された国際的なスタンダードに従い、協力していくと述べた。また、北朝鮮や南シナ海問題についての日本の立場を述べた。 北朝鮮について、河野外務大臣から、北朝鮮による弾道ミサイル発射について遺憾の意を表明し、安保理決議に従って、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄(CVID35)を実現するため、米朝プロセスを後押ししていくことや、安保理決議の完全な履行の重要性を強調した。また、拉致問題の早期解決に向けて各国による協力への期待を表明した。 南シナ海問題については、悪化する状況に関して、深刻な懸念を共有すると表明した上で、一方的な現状変更の試みや他国に対する威圧に強い反対を表明し、非軍事化及び紛争の平和的解決を要請した。さらに、ASEANと中国の間で交渉中の南シナ海行動規範(COC36)は、第三者の権利や利益を侵害するものであってはならないと強調した。 ミャンマーのラカイン情勢について、河野外務大臣は、避難民の早期帰還の実現のために、ミャンマーとバングラデシュとの間の直接対話が必要であると強調した。さらに、避難民とホストコミュニティを支援し、避難民帰還のための環境を整備するようミャンマーに求めつつ、この問題についてのASEANの役割の拡大を評価した。 イ 第14回EAS 11月に開催された第14回EAS(タイ)ではインド太平洋の在り方及び政治・安全保障について議論が行われた。安倍総理大臣は、地域の平和と繁栄の礎は、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」であり、ASEAN自身による「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の発出を歓迎し、全面的に支持すると表明した。また、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想とのシナジーを実現し、AOIPの具体化に向け協力していきたいと表明した。さらに、国際ルールに基づく開かれた公正な経済秩序こそが、地域の平和と繁栄のもう一つの礎であり、G20大阪サミットで確認した基本的原則と「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の重要性に言及した。 EAS首脳会議(11月4日、タイ・バンコク 写真提供:内閣広報室) 北朝鮮について、安倍総理大臣は、北朝鮮による弾道ミサイル発射を強く非難し、安保理決議に従って、北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルのCVIDを実現するため、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことの重要性に言及し、安保理決議の完全な履行の堅持が不可欠であると述べた。さらに、拉致問題の早期解決に向けて協力を求めた。これに対し、多くの参加国が、完全な非核化及び対話を通じた平和的解決の重要性について言及した。複数の国からミサイル発射への非難や国連安保理決議の遵守の重要性について言及があった。 南シナ海問題について、安倍総理大臣は地域の平和と繁栄は挑戦を受けており、EAS参加国と深刻な懸念を共有すると発言し、一方的な現状変更のあらゆる試みや他国に対する威圧に強く反対し、非軍事化と国際法に基づいた平和的な解決を訴えた。また、南シナ海行動規範(COC)がUNCLOSを始めとする国際法に合致すべきであり、全てのステークホルダーの正当な権利や利益を侵害してはならないと述べた上で、ASEANが掲げてきた「法的・外交的プロセスの完全な尊重」、「航行の自由」、「非軍事化と自制の重要性」といった基本原則への支持を表明した。 (7)日中韓協力 日中韓協力は、地理的な近接性と歴史的な深いつながりを有している日中韓3か国間の交流や相互理解を促進するという観点から引き続き重要である。また、世界経済で大きな役割を果たし、東アジア地域の繁栄を牽引(けんいん)する原動力である日中韓3か国が、協力して国際社会の様々な課題に取り組む観点からも、大きな潜在性を秘めた協力分野の一つである。 ア 日中韓外相会議 8月には、中国の議長の下、中国・北京郊外の古北水鎮において第9回日中韓外相会議が開催された。日中韓の3外相は、日中韓協力が始まってから20周年となる節目の年に、日中韓外相会議が開催されたことを評価した。また、約3年ぶりの日中韓外相会議で幅広い分野における3か国協力の着実な進展を確認し、具体的な協力の現状や将来の方向性について議論を行った。河野外務大臣からは、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を遵守・推進することの必要性及び人的交流の重要性を強調し、とりわけ3か国のリレー開催となるオリンピック・パラリンピック競技大会を契機とする人的交流の拡大を訴えるとともに、「キャンパス・アジア」(日中韓大学間交流強化構想)などの学術交流の進展を歓迎した。 日中韓外相会議(8月22日、中国・北京・古北水鎮) イ 日中韓サミット 12月には、中国の成都において第8回日中韓サミットが開催された。3首脳は、日中韓協力20周年の節目に、これまでの3か国協力を総括し、今後10年の協力の方向性を議論した。特に、環境、高齢社会、人的交流の3分野における協力を中心に3か国協力を推進していくことで一致した。また、北朝鮮情勢を始めとする地域情勢について議論したほか、安倍総理大臣から、G20大阪サミットで採択した貿易・投資・質の高いインフラ投資・海洋プラスチックごみなどの分野での合意を含む大阪首脳宣言をふまえて、アジアを代表する3か国が一致してこれらの合意内容を実施し、アジアを含む世界に対して発信していきたいと述べた。さらに、国際情勢についても意見交換を行った。 日中韓サミット(12月24日、中国・成都 写真提供:内閣広報室) 日中韓サミットで発言する安倍総理大臣 (12月24日、中国・成都 写真提供:内閣広報室) (8)アジア太平洋経済協力(APEC)(234ページ 3章3節2(3)参照) APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)は、アジア大洋州地域にある21の国・地域(エコノミー)で構成されており、各エコノミーの自主的な意思によって、地域経済統合と域内協力の推進を図っている。「世界の成長センター」と位置付けられるアジア太平洋地域の経済面における協力と信頼関係を強化していくことは、日本の一層の発展を目指す上で極めて重要である。 2019年チリAPECにおいて、日本は2019年のG20議長として、デジタル経済や海洋ごみ、女性のエンパワーメントなどに関するG20大阪サミットの成果をAPECの場でも共有し、APEC議長のチリと連携を図った。首脳会議はチリの国内情勢により開催されなかったが、5月に開催された貿易担当大臣会合などの場において、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」の核であるアジア太平洋地域全体の成長と発展に向けて、日本は自由貿易の旗手として引き続き貢献していくことを表明した。 (9)南アジア地域協力連合(SAARC) SAARC37は、南アジア諸国民の福祉の増進、経済社会開発及び文化面での協力、協調などを目的として、1985年に正式発足した。2019年現在、加盟国はインド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブ、アフガニスタンの8か国、オブザーバーは日本を含む9か国・機関で、首脳会議や閣僚理事会(外相会合)などを通じて、経済、社会、文化などの分野を中心に、比較的穏やかな地域協力の枠組みとして協力を行ってきた。日本は、SAARCとの間の青少年交流の一環として、これまで約3,615人を招へいしている(うち2019年度は162人)。 32 UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea 33 JAIF:Japan-ASEAN Integration Fund 34 ACMECS:Ayeyawady-Chao Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy 35 CVID:Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement 36 COC:Code of Conduct in the South China Sea 37 SAARC:South Asian Association for Regional Cooperation