第1章 2019年の国際情勢と日本外交の展開 2 日本外交の展開 世界の安定と繁栄を支えてきた基本的な価値に基づく国際秩序が様々な挑戦を受ける中で、日本は、各国との連携を図りながら、従来以上に大きな責任と役割を果たさなければならない。このような認識の下、日本は、引き続き国益の増進に全力を尽くすとともに、国際社会の平和と繁栄に貢献し、これまでの平和国家としての歩みを更に進めていく。 (1)地球儀を俯瞰(ふかん)する外交と「積極的平和主義」 日本にとって望ましい、安定しかつ予見可能性が高い国際環境を創出していくためには、外交努力をもって世界各国及び国際社会との信頼・協力関係を築き、国際社会の安定と繁栄の基盤を強化し、脅威の出現を未然に防ぐことが重要である。この観点から、日本政府は国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地球儀を俯瞰する外交を展開してきた。 安倍総理大臣はこれまで80か国・地域(延べ176か国・地域)を訪問し、茂木外務大臣は、2019年9月の就任以来、11月にG20愛知・名古屋外務大臣会合の議長を務めたのに加え11か国・地域(延べ12か国・地域)を訪問した(2020年2月末時点)。この結果、国際社会における日本の存在感は着実に高まり、安倍総理大臣と各国首脳、茂木外務大臣と各国外相や国際機関の長との個人的な信頼関係も深まっている。 さらに、2019年は、日本を舞台に外交を展開し、「令和」の時代の幕開けにふさわしい年ともなった。日本が初めてG20議長国として主催した6月のG20大阪サミットに始まり、8月に横浜で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)にはTICAD史上最多となる42人の首脳級が参加するとともに、10月の即位の礼に際しては191か国・機関などが参列した。また、9月から11月にかけて日本各地で開催されたラグビーワールドカップには、世界各国から多くのラグビーファンが訪れた。 安倍総理大臣の外国訪問実績など 河野外務大臣の外国訪問実績など 茂木外務大臣の外国訪問実績など 日本は国際社会の安定勢力として、引き続き各国のリーダーと信頼関係を築き、日本の国益を増進するとともに、世界の平和と繁栄のため国際社会を主導していく。 (2)日本外交の六つの重点分野 日本は、日本の国益を守り増進するため、①日本外交の基軸である日米同盟の更なる強化、②北朝鮮をめぐる諸懸案への対応、③中国・韓国・ロシアといった近隣諸国外交、④緊迫する中東情勢への対応、⑤新たな共通ルール作りを日本が主導する経済外交及び⑥地球規模課題への対応を中心に、外交に取り組んでいる。 【1 日本外交の基軸である日米同盟の更なる強化】 日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、地域と国際社会の平和と繁栄にも大きな役割を果たしている。地域の安全保障環境が引き続き厳しい状況にある中で、日米同盟の重要性はこれまで以上に増している。 こうした中、首脳や外相間の頻繁なやり取りを通じた深い信頼関係、及び、同盟強化のための、政治、経済、安全保障など様々な分野での不断の努力により、日米同盟は史上かつてなく強固なものとなっており、両国は、北朝鮮問題を始めとする地域及び国際社会の諸課題の解決や「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific:FOIP)」の維持・強化に向け、緊密に連携している。 2019年は、4月の安倍総理大臣訪米、5月のトランプ大統領の令和初の国賓訪日(77ページ コラム参照)、6月のトランプ大統領のG20大阪サミット出席のための訪日という、3か月連続の往来を含む5度の首脳会談が実現するなど、ハイレベルの往来が活発に行われた。こうした二国間の往来や各種国際会議の機会も捉え、首脳及び外相間で会談を行い、地域及び国際社会の様々な課題について緊密に連携している。 また、日米両国は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制の下、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化に取り組んでおり、弾道ミサイル防衛、宇宙、サイバー、海洋安全保障などを含む幅広い分野における協力を拡大・強化している。普天間(ふてんま)飛行場の移設や在沖縄海兵隊のグアムなどへの国外移転を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減のため、日米で緊密に連携して取り組んできている。 日米経済関係は、安全保障、人的交流と並んで日米同盟を支える三要素の一つである。とりわけ、2019年には、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定(220ページ 特集参照)が締結され、日米経済関係の更なる深化の年となった。2018年9月の日米共同声明を踏まえ、4月以降、茂木内閣府特命担当大臣(経済再生担当、2019年9月まで)/外務大臣(2019年9月以降)とライトハイザー米国通商代表による閣僚協議が8回にわたり行われた。9月にニューヨークで行われた日米首脳会談では、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が最終合意に達したことを確認し、日米共同声明が発出された。そして10月に米国ホワイトハウスにおいて両協定の署名が行われ、両協定は2020年1月1日に発効した。 また、日米同盟を基軸として、インド、オーストラリア、EUや英国、フランス、ドイツなどの欧州主要国を始めとする戦略的利益を共有する各国との枠組みや、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含むインド太平洋の地域協力など、同盟国・友好国のネットワーク化を推進し、引き続き地域の平和と繁栄に主導的な役割を果たしていく。 【2 北朝鮮をめぐる諸懸案への対応】 日本は、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、引き続き様々な取組を進めている。米朝間では、2019年2月に、ハノイ(ベトナム)において第2回米朝首脳会談が開催され、6月に、板門店においてトランプ大統領と金正恩(キムジョンウン)国務委員長が面会し、10月に、米朝実務者協議がストックホルム(スウェーデン)において行われた。この間、北朝鮮は、5月から11月にかけて、20発を超える頻繁な弾道ミサイル発射を繰り返した。このような中、朝鮮半島の非核化に向けて、引き続き、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことが重要である。日本としては、北朝鮮問題の解決に向けて、引き続き、米国や韓国と緊密に連携し、中国やロシアを始めとする国際社会と協力していく。 また、北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。日本は、拉致問題の解決を最重要課題と位置付けており、引き続き米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。 【3 中国・韓国・ロシアといった近隣諸国外交】 日本の平和と繁栄を確保していく上では、近隣諸国との間で安定的な関係を築いていくことが重要となる。 〈中国〉 東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している。2019年は、首脳・外相を含むハイレベルでの対話が活発に行われ、「日中新時代」に向けて日中関係を新たな段階へ押し上げていく一年となった。また、両国の首脳・外相相互往来のほか、議会間・政党間交流も活発に行われ、各分野における日中間の実務的な対話と信頼醸成が着実に進められた。 6月には、習近平(しゅうきんぺい)国家主席が、G20大阪サミットへ出席するため国家主席としては約9年ぶりに訪日し、翌年春の習近平国家主席の国賓訪日について原則一致した。12月には、安倍総理大臣が、第8回日中韓サミットへ出席するために中国を訪問した。しかし、2020年3月、日中両国は、習近平国家主席の国賓訪日について、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を最優先する必要があり、また、習近平国家主席の国賓訪日を十分成果が上がるものとするためには、両者でしっかり準備を行う必要があるとの認識で一致し、双方の都合が良い時期に行うことで改めて調整していくこととなった。 同時に、東シナ海で継続する中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは断じて認められず、引き続き、関係国との連携を強化しつつ冷静かつ毅然(きぜん)と対応するとともに、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすべく、中国との意思疎通を強化していく。 〈韓国〉 韓国は、日本にとって重要な隣国であり、日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約、日韓請求権・経済協力協定その他関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきた。しかし、2019年は、前年に続き、旧朝鮮半島出身労働者問題に関し韓国が依然として国際法違反の状態を是正していないことを始め、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の終了通告(ただし、後に終了通告の効力を停止)、慰安婦問題に関する「和解・癒やし財団」の解散に向けた動き、韓国国会議員などによる竹島上陸や竹島における軍事訓練、竹島周辺海域における韓国海洋調査船の航行、東京電力福島第一原発の処理水に関する韓国側による非建設的な問題提起など、韓国側による否定的な動きは止まらず、日韓関係は厳しい状況が続いた。このような中、日韓間では、12月には、1年3か月ぶりとなる日韓首脳会談を実施したほか、頻繁に外交当局間の協議を行った。 〈ロシア〉 ロシアとは、3度の首脳会談及び7度の外相会談を始め、政治対話が活発に行われた。6月の大阪での日露首脳会談において、安倍総理大臣とプーチン大統領は、2018年11月にシンガポールで共に表明した、「1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」との決意の下で、引き続き交渉を進めていくことで一致した。さらに9月のウラジオストクでの日露首脳会談では、両首脳は平和条約締結問題について忌憚(きたん)のない意見交換を行い、未来志向で作業することを再確認した。また、交渉責任者である日露両外相に対して、双方が受け入れられる解決策を見つけるための共同作業を進めていくよう、改めて指示した。これを受け、茂木外務大臣とラヴロフ外務大臣は、9月にニューヨーク、11月に名古屋で日露外相会談を実施し、平和条約交渉を含む今後の協議の進め方などについて議論した。さらに、12月のモスクワでの日露外相会談では、平和条約交渉について時間をかけて議論を行い、本格的な協議に入ることができた。日露両首脳の強いリーダーシップの下、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく、引き続き、ロシアとの交渉に粘り強く取り組んでいく。 〈インド太平洋地域の主要なパートナー諸国〉 インド太平洋地域は世界の成長センターの一つであり、平和で繁栄した同地域の実現は日本外交の最重要課題の一つである。こうした観点から、日本は、国際法に則(のっと)ったルールを基盤とする「自由で開かれたインド太平洋」を、このビジョンを共有する国々と共に実現していくことを重視しており、このビジョンは今や、米国から、オーストラリア、インド、更にはASEAN、欧州まで広がりつつある。 とりわけ、ASEANは東アジアにおける地域協力の中心として重要な役割を担っており、2015年には、「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」の三つの共同体によって構成されるASEAN共同体が構築された。そうした中、日本は、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と、2019年6月にASEANが採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」(66ページ 特集参照)とのシナジーを追求し、ASEANの中心性と一体性を尊重しつつ、ASEANの更なる統合努力を支援することにより、ASEAN及びASEAN各国との関係を強化している。 インドとは、2014年に二国間関係が「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に引き上げられてから5年を迎えた。2019年には、G20大阪サミット、ウラジオストク(ロシア)での東方経済フォーラム、バンコク(タイ)でのASEAN関連首脳会議において首脳会談を行うとともに、11月には、日印にとって初の外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を開催し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力関係を確認するなど、多くの具体的な成果を得た。 オーストラリアとは、6月のG20大阪サミットの際のモリソン首相の訪日や8月のG7ビアリッツ・サミットの機会に首脳会談を実施した。首脳間の個人的信頼関係は深まっており、日豪両国は基本的価値と戦略的利益を共有する特別な戦略的パートナーとして、安全保障、経済、地域情勢など、あらゆる分野での重層的な協力・連携を一層深化させている。さらに、日米豪、日米豪印といった多国間での連携及びパートナーシップも着実に強化されている。 太平洋島嶼(とうしょ)国との関係でも、太平洋・島サミットプロセスや活発な要人往来を通じて関係をより一層強化してきている。 【4 緊迫する中東情勢への対応】 日本は、近年、経済のみならず、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。2019年には中東地域における緊張の高まりを受け、6月の安倍総理大臣のイラン訪問や、12月のローハニ・イラン大統領の訪日を含め、積極的な外交努力を行った。また、日本関係船舶の航行の安全を確保するため、12月、政府として地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けた更なる外交努力、航行安全対策の徹底とともに、情報収集態勢強化のための自衛隊の活用を行う方針を閣議決定した。 【5 新たな共通ルール作りを日本が主導する経済外交】 経済の構造が変化し、保護主義の台頭や、貿易上の紛争など、国際社会は様々な課題に直面している。こうした中、日本は、6月にG20大阪サミットを開催し、議長国としてリーダーシップを発揮した結果、自由貿易の礎たる自由、公正・無差別、公平な競争条件といった原則を確認するなど、主要国の首脳が一致して主要な世界経済の課題に団結して取り組む姿を示すことができた(4ページ 巻頭特集参照)。 〈自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作り〉 経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)には、物品の関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃、貿易・投資のルール作りなどを通じて海外の成長市場の活力を取り込み、日本経済の基盤を強化する効果がある。日本はこれまでに21か国・地域との間で18のEPA/FTAを署名・発効済みである。また、日米貿易協定が2020年1月1日に発効し、これにより、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)、日EU・EPAと合わせて世界のGDPの6割をカバーする自由な経済圏が形成された(223ページ コラム参照)。 今後も、TPP11協定の着実な実施及び参加国の拡大や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の早期署名に向けて主導的な役割を果たしていくとともに、日中韓自由貿易協定(FTA)などの交渉にも精力的に取り組み、自由で公正な21世紀型の貿易・投資ルールを世界に広げていく。また、経済協力開発機構(OECD)等の国際機関や関連するフォーラムを通じて、自由貿易や包摂的な成長に関する議論をリードしていく。さらに、世界貿易機関(WTO)が、ルール形成機能の不全や、紛争解決で上訴審を担ってきた上級委員会の機能停止などの課題に直面していることを受け、G20大阪サミットでは、日本のリーダーシップの下、G20首脳がWTO改革への支持を再確認した。今後も、WTO改革の取組を主導していく(233ページ 特集参照)。 〈官民連携の推進による日本企業の海外展開支援〉 新興国を始めとする海外の経済成長の勢いを取り込み、日本経済の着実な成長を後押しするため、在外公館において、日本企業からの相談対応や日本産品のプロモーションイベントなど、日本企業の海外展開支援を行っている。また、既に海外に展開している日系企業に対しても、英国・EU間での離脱交渉の動向などを踏まえた支援も行っている。さらに、新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラ輸出を促進するため、トップセールスの精力的な展開や、政府開発援助(ODA)の戦略的な活用のための制度改善を進めるなど、積極的に取り組んでいる。 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた日本産農林水産物・食品に対する輸入規制については、科学的根拠に基づく早期撤廃及び風評被害の払拭に向けた働きかけ及び情報発信を継続してきている(238ページ コラム参照)。 【6 地球規模課題への対応】 平和構築、テロ、軍縮・不拡散、法の支配、人権、女性、防災、国際保健、環境・気候変動など地球規模課題は、一国のみで対処できるものではなく、国際社会が一致して対応する必要がある。これらの課題は日本を含む国際社会の平和及び繁栄に直結する問題であり、これらの課題への取組は日本の「積極的平和主義」の重要な一部分ともなっている。 日本は、国際社会において自由、民主主義、人権、法の支配を普遍的価値として尊重し、脆弱な立場に置かれた人々を大切にし、個々人がその潜在力を最大限いかすことができる社会を実現すべく、人間の安全保障の考えの下、国際貢献を進めている。 〈国際平和協力の推進〉 日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、国連平和維持活動(PKO)を始めとする平和維持・平和構築分野での協力を重視しており、1992年以来、計28の国連PKOミッションなどに延べ約1万2,500人の要員を派遣してきた。最近では、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の4人に加えて、2019年4月からはエジプト・シナイ半島で活動する多国籍部隊・監視団(MFO)でも2人の自衛官が、司令部要員として国際平和協力業務を実施している。 〈テロ及び暴力的過激主義対策〉 拡大するテロ・暴力的過激主義の脅威に対しては、日本がG7伊勢志摩サミットにおいて取りまとめた「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」などに基づき、①テロ対処能力向上、②テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び③穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る包括的アプローチでテロ対策強化に取り組んでいるほか、6月のG20大阪サミットでは、「テロ及びテロに通じる暴力的過激主義(VECT)によるインターネットの悪用防止に関するG20大阪首脳声明」を採択した。また、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)を通じた情報収集の更なる強化に努め、関係各国とテロ対策に関する協力を強化している。これらと並行して、在外邦人の安全対策強化に取り組んでいる。 〈軍縮・不拡散への積極的取組〉 日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取組をリードしていく責務がある。日本は、2017年に立ち上げた「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」などを通じて核兵器国と非核兵器国の間の橋渡しに努めつつ、核兵器国も参加する現実的かつ実践的な取組を積み重ねてきている。 日本は、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石として核兵器不拡散条約(NPT)を重視しており、次回のNPT運用検討会議に向けた議論に積極的に参加している(170ページ 特集参照)。また、日本がオーストラリアと共に主導して立ち上げた軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)は、現実的・実践的な提案を通じてNPT運用検討プロセスに積極的に貢献してきており、11月には、名古屋で第10回NPDI外相会合を開催した。 日本は、核兵器国と非核兵器国の双方が参加する現実的な核軍縮措置として包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進を重視し、発効要件国を含む未署名国や未批准国に対しCTBTへの署名・批准を促す外交努力を継続している。茂木外務大臣は、9月に開催されたCTBT発効促進会議第11回会合において、日本の取組を紹介するとともに、核軍縮の取組の着実な進展への期待と決意を表明した。 また、日本は、1994年以降、全面的な核廃絶に向けた具体的かつ実践的な措置を盛り込んだ核兵器廃絶決議案を国連総会に提出してきており、2019年の決議案は160か国の幅広い支持を得て採択された。 さらに、日本は、国際的な不拡散体制・ルールの維持・強化、国内における不拡散措置の適切な実施、各国との緊密な連携・能力構築支援などを通じて、不拡散政策にも力を入れている。 〈国連・国際機関との連携強化と国連安保理改革〉 日本はこれまで、国連加盟国中最多となる11回にわたり、国連安全保障理事会(安保理)非常任理事国を務めた。 国際社会が直面する諸課題に国連安保理がより効果的に対応できるよう、国際社会の現実を反映した国連安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを目指し、働きかけを行っている。また、日本が常任理事国入りするまでの間も国際社会の平和と安全の維持に貢献し続けるため、2022年の国連安保理非常任理事国選挙に立候補している。 さらに、日本は国連を始め国際機関が様々な課題に取り組む上で、政策的・財政的貢献に加え、人的貢献を行ってきており、日本人職員の増員、幹部職員ポストの獲得にも努めている。 〈法の支配の強化の積極的取組〉 日本は、様々な分野でルール作りとその実施を推進するとともに、国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際刑事裁判所(ICC)などの国際司法機関の機能強化に人材面・財政面からも積極的に協力している(186ページ コラム参照)。海洋国家である日本は、力ではなく法とルールが支配する海洋秩序に支えられた自由で開かれ安定した海洋を維持・発展させるべく、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、航行・上空飛行の自由の普及・定着に向けた取組、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策及びアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)情報共有センター(ISC)への支援などを通じたシーレーンの安全確保のための取組、宇宙・サイバー空間における法の支配の強化のための国際的なルール作り(164ページ 特集参照)や北極における法の支配の強化を含む国際社会の努力に積極的に参加し、各国との協力を強化している。 〈人権〉 人権の保護・促進は国際社会の平和と安定の礎である。日本はこの分野において、アジアでの橋渡しや社会的弱者の保護といった視点を掲げつつ、二国間での対話や国連など多数国間のフォーラムへの積極的な参加、国連人権メカニズムとの建設的な対話を通じて、世界の人権状況の改善に向けて取り組んでいる。 〈女性が輝く社会〉 3月の第5回国際女性会議WAW!では、安倍総理大臣から、途上国における女性の教育機会拡大のため、2020年までの3年間で少なくとも400万人の女児・女性に質の高い教育や人材育成の機会を提供することを表明した(193ページ 特集参照)。また、6月のG20大阪サミットでは、女性が主要議題の一つとなり、G20首脳や国際機関の長が一堂に会して、女性のエンパワーメントに対するG20のコミットメントを再確認した。 〈開発協力大綱とODAの活用〉 2015年2月に閣議決定された開発協力大綱の下、国際社会の平和、安定及び繁栄並びにそれを通じた日本の国益確保に取り組むべく、日本企業の海外展開と相手国の経済社会開発の双方に資する形で、引き続き積極的かつ戦略的なODAの活用に努めている。 〈質の高いインフラ〉 インフラの整備に当たっては、6月のG20大阪サミットにおいて、開放性、透明性、経済性、債務持続可能性を含む「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が首脳間で承認された。これらを国際スタンダードとして普及・定着させ、個別のプロジェクトに反映し実践すべく、努めている。 〈持続可能な開発目標(SDGs)〉 SDGsは、2015年の国連サミットで全会一致で採択された17の国際目標である。日本は、SDGsの達成に向けた国際社会の取組を主導すべく、国内外で具体的な取組を加速させてきた。2019年9月、安倍総理大臣はSDGサミット2019に出席し、G20大阪サミットや第7回アフリカ開発会議(TICAD7)における成果を含む過去4年間のSDGs推進の実績を共有するとともに、自らもSDGs推進本部の本部長としてオールジャパンでSDGsを推進してきたことを紹介した(208ページ 特集参照)。12月に行われたSDGs推進本部の第8回会合では、G20大阪サミットやSDGサミット2019の成果、円卓会議構成員による提言やあらゆる関係者の声を踏まえ、2016年の策定以来3年ぶりに「SDGs実施指針」を改定した。今後も、人間の安全保障の理念に基づき、下記の分野に加えて、防災、教育、農業、水といった分野において貢献していく。 〈アフリカ〉 アフリカは、近年成長が著しい一方、多くの課題に直面している。日本は、1993年以来、アフリカ開発会議(TICAD)を通じてアフリカの開発に貢献してきており、8月にはTICAD7が横浜で開催された。日本は今後とも、TICAD7の成果も踏まえつつ、日本の強みや日本らしさをいかした取組を通じ、アフリカとの関係を強化し、アフリカ自身が主導する発展を力強く後押ししていく。 〈国際保健〉 保健分野は、個人を「保護」し、その「能力を開花」させるという、人間の安全保障の具現化において極めて重要である。これまで日本は、各国や国際機関と協力しながら、感染症や母子保健、栄養改善などの克服に大きな成果を上げてきた。また、6月のG20大阪サミットでは、全ての人に対する生涯を通じた基礎的保健サービスの提供を確保するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成などを取り上げ、G20として初めて財務・保健大臣合同会合を開催した。さらに、安倍総理大臣は、8月のTICAD7や9月の国連総会UHCハイレベル会合において、栄養、水・衛生など分野横断的取組の促進、保健財政の強化の重要性を改めて強調した(211ページ 特集参照)。 〈環境〉 海洋プラスチックごみ問題は、喫緊の課題として、近年その対応の重要性が高まっている。6月のG20大阪サミットにおいて、安倍総理大臣は、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をG20と共有した(213ページ 特集参照)。 〈気候変動〉 国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)(2018年)においてパリ協定の本格運用に向けた実施方針が採択されたが、市場メカニズムの実施指針の交渉についてはCOP25(2019年)でも合意に至らず、依然として継続検討となっている。日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2019年6月に閣議決定し、国連に提出した。また、6月に開催したG20大阪サミットにおいて、G20全体で「環境と成長の好循環」というコンセプトの重要性に合意した。 〈科学技術の外交への活用〉 科学技術は、平和と繁栄の基盤的要素である。日本はその優れた科学技術をいかし、「科学技術外交」の推進を通じて、日本と世界の科学技術の発展、各国との関係増進、国際社会の平和と安定及び地球規模課題の解決に貢献している。 (3)対外発信と外交実施体制の強化 ア 戦略的な対外発信 外交政策を展開していく上では、国内及び国際社会における日本の政策・取組についての理解と支持が必要不可欠である。外務省では、①日本の正しい姿を含む政策や取組の発信に一層力を入れるとともに、②日本の多様な魅力の発信及び③親日派・知日派の育成を推進するという3本の柱に基づいて戦略的に対外発信を実施している。 具体的には、政策の具体的内容や政府の役割などについて、各種メディア、講演会、刊行物などを活用した情報発信を行うとともに、各種ソーシャルメディアを含むインターネットを通じた機動的かつ効果的な情報発信にも努めている。また、文化や食といった日本の様々な魅力の積極的発信は、国際社会での対日理解の増進に資するとともに、観光や輸出など経済面でも重要であり、2019年は東南アジアや米国において大型の文化交流事業も実施した。地方の魅力の発信についても、地方から世界へ発信するのみならず、世界から地方へ多くの外国人観光客、対内投資などを誘致すべく取り組んでいる。 イ 外交実施体制の強化 外交課題が一層複雑化・多様化する中、「地球儀を俯瞰する外交」を更に前に進め、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開し着実な成果を上げるためには、外交実施体制の強化が不可欠となっている。更なる合理化のための努力を行いつつ、体制の整備を戦略的に進め、外交実施体制を一層拡充していく。