第4章 国民と共にある外交 2 外交実施体制の強化 日本を取り巻く安全保障環境は大変厳しく、外交課題はますます難しく多様化している。こうした中、外交実施体制を一層強化していくことは不可欠であり、外務省は、大使館や総領事館などの在外公館や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。 大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わるとともに、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。 2019年1月には、新たに在ベラルーシ日本国大使館、在ダバオ日本国総領事館(フィリピン)、国際民間航空機関(ICAO)日本政府代表部(カナダ)を開設した。その結果、2018年度の日本の在外公館(実館)数は、226公館(大使館151、総領事館65、政府代表部10)となっている。 ベラルーシは、EUとロシアとの境界国として、地政学的に重要な国である。また、同国はチェルノブイリ原発事故の被災国でもあることから、日本は同国との間で原発事故後協力協定を締結し、知見の共有を進めている。 在外公館数の推移 主要国との在外公館数の比較 ダバオ(フィリピン)は、ドゥテルテ大統領(前ダバオ市長)の地元であり、政治的重要性が高まっている。また、ダバオを中心とするミンダナオ地域には日系企業及び在留邦人も多く、日本企業支援や邦人保護等のニーズが拡大している。さらに、ミンダナオ地域には、イスラム過激派によるテロ発生という不安定要因があり、治安・テロ対策の観点からも情報収集の必要性が高まっている。 ICAOは、国際民間航空のルールの策定・実施確保に取り組む国連専門機関であり、空の外交・安全保障にも密接に関連している。北朝鮮による弾道ミサイルの発射や中国による防空識別圏の設定等、日本の安全保障及び民間航空の安全確保に重大な影響を及ぼす事案に関し、日本はICAOで情報収集を行うとともに、ICAOに対し適切な措置を採るよう働きかけを行ってきている。 これら実館の新設のほか、2018年7月には、北大西洋条約機構(NATO)に日本政府代表部(兼館)を設置した。日本は、NATOとの間で、海洋安全保障、サイバー等の危機管理、国際協力分野における実質的協力を行ってきている。日米欧間の同盟のネットワークを強化し、国際社会全体の秩序の維持や平和と安定に寄与する観点からも、同代表部の開設によってNATOとの協力を強化することは重要である。 2019年度にはバヌアツに大使館を新設する予定である。バヌアツは、親日国であり、地政学的に重要なメラネシア地域における情報収集・対外発信の重要拠点の一つとなっている。同国への大使館の新設を通じ、より高いレベルで二国間関係を構築するとともに、国際場裏での協力を強化していく。 在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、安全対策と情報収集・分析能力強化、インフラ輸出を含む経済の活性化、戦略的対外発信の更なる強化、地球規模課題への取組などに対応するため、外務省の定員数は6,173人となった(2017年は6,065人)。しかしながら、依然として他の主要国と比較して人員は十分とは言えず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2019年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、情報収集・分析能力の強化、インフラ輸出の促進を含む日本経済の活性化、戦略的対外発信の更なる強化、安全保障、二国間関係・地域情勢への対応などの重要課題に取り組むため、115人の人員増を行う予定である。 主要国外務省との職員数比較 外務省職員数の推移 また、国際的な取組や議論を主導するべく、一層積極的な外交を展開するため、外務省は2018年度予算で6,967億円(対前年度比41億円増)を計上した。外務省所管の2018年度補正予算の総額は1,496億円であり、追加財政需要としては広域感染症等の地球規模課題への対応支援、難民問題を含む人道・テロ対策・社会安定化支援など、緊要性の高い案件に関する予算を計上している。 2019年度当初予算政府案では、①日本で開催する国際的行事を通じ日本の存在感・影響力を一層高める、②日本の国益と国際社会の平和と繁栄を実現すべく外交力を強化する、③「正しい姿」を含む政策・取組や日本の多様な魅力を戦略的に発信し親日派・知日派の育成を図る及び④テロ等の脅威から在外邦人や国内を守ることを重点項目とし、7,306億円を計上している。この中で、増大する外交需要に対応するため、外務大臣のチャーター機利用や質の高い公邸料理人の確保等にかかる予算を拡充するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の具体化等のため、ODA予算についても増額計上している。 日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化が不可欠である。今後も、引き続き、更なる合理化への努力を行いつつ体制の整備を戦略的に進め、外交実施体制を一層拡充していく。 外務省の業務合理化・業務改善 外務省の業務、というと、どのような印象をお持ちでしょうか。華やかなイメージもあるかもしれませんし、多忙な姿を連想される方もいらっしゃるかもしれません。確かに、外務省の仕事には、考え方や立場の違う外国とのやり取りや、緊急事態への迅速な対応の必要性などの特徴があります。また、グローバル化が進み、外交で扱う課題が多様化したことで、外務省職員が対応を求められる分野はより幅広くなり、より専門性が増し、業務の全体量も増加しています。 そのような中、外務省は、職員が持てる能力を最大限発揮し外交政策立案に注力できる環境を整えるため、業務の合理化や業務改革に取り組んでいます。 河野外務大臣は就任以降、積極的に外国を訪問し、相手国との信頼関係を構築してきました。同時に、増加する外国訪問を継続して実施していくため、大臣の出張準備・調整に関する支援業務を見直し、従来と比べて4割ほど少ない人数で対応するようにしました。また、日本で行う閣僚会議の関連業務を一部民間企業に委託することで、業務に動員する職員数を減らし、全体として職員一人ひとりが本来の担当業務に集中できる環境整備を心がけました。 国民に直結するサービスである領事事務においても、IT技術の活用を通じ、サービス向上・合理化を図っています。例えば3月に実施した領事関連システムの統合によって、旅行者や在留邦人への各国の安全情報メールがより迅速に送信されるようになりました。旅券の電子申請や電子ビザの導入、手数料のクレジットカード納付に向けた検討も進めています。 さらに、多様な人材が活躍できる環境を整えるため、働き方改革に努めています。すでに当省に勤める職員のうち約3割が女性職員であり、共働きの職員も多くいます。子育てや介護中の男性・女性職員が仕事と私生活を両立できるよう、テレワーク(在宅勤務)やフレックスタイム等の制度整備を始め、セミナーや研修を通じて職員の意識改革を図っています。 外交の最大の資産である「人」が生き生きと活躍する職場環境を作り、また国民の皆様にも適切なサービスを提供できるよう、今後も継続的に業務の合理化・改善に取り組んでいきます。 公邸料理人 ~おもてなし外交の最前線から~ 北村典子 在マレーシア日本国大使館の公邸料理人として、宮川大使の下で2014年の3月から大使公邸でお料理をお出ししています。公邸料理人の大きな仕事の一つは、大使がマレーシアの要人を公邸に招いてお食事でもてなす午餐会(ごさんかい)や晩餐会(ばんさんかい)を取り仕切ることです。お席は5、6人くらいの小規模なものから20人くらいまで様々です。当地のお客様は美味しい日本食を期待して公邸にお越しになられます。 マハティール首相と筆者 マレーシアは主にマレー系、中華系、インド系で構成される多民族国家であり、ムスリム(イスラム教徒)はアルコールや豚を食することを、またインド系(ヒンドゥ-教徒)は牛を食することを、それぞれ禁じられています。それらのお客様が一つの晩餐会に参加されることがしばしばあり、更にベジタリアンのお客様が加わると、献立作りには大いに悩まされます。 公邸料理人はメニュー立案、仕入れ、仕込み、調理まで全てを一人で担います。機械的にお料理を作っているととても無機質なものになるので、私は出来るだけ参加されるお客様の情報を事前に集め、その情報を基にお料理のコースの中にこっそり正客の大好物や郷土料理、名物を作ってお出ししようと努めています。情報を集めれば集めるほどお客様へのイマジネーションが膨らみ、お客様が驚き喜ばれるその瞬間を想像しながら料理を作ることが張り合いにもなります。 また、なかなかお目にかかれないような要人にお料理をお出しする機会もありました。それも公邸料理人の妙味というべきでしょうか。過去にはマレーシアのマハティール首相、日本からお越しになった皇太子殿下、外務大臣、国土交通大臣などにお料理をお出しする機会に恵まれました。要人のメニュー立案はいつも難産ですが、最終的には奇をてらったお料理より、お客様にお出ししているいつもどおりのお料理を、心をこめてお出しすることしかないという結論に達します。いずれにしても、このような方々にお料理をお出しできたことは料理人としての財産です。 私は宮川大使がジュネーブで次席大使兼総領事を勤められた2007年から2009年にも公邸料理人を務めました。ジュネーブではフランス料理やイタリア料理など西洋の食文化の良さに触れました。また当地マレーシアでは東洋の食文化に親しみ、料理人としての引き出しが増えたと思います。公邸料理人にとって、料理の知識はもちろん、他言語を学ぶ機会に恵まれること、異なる文化に接し、見聞を深められることも大きな魅力であり、後の人生の糧となります。 マレーシアで和食といえば寿司や天ぷら、鉄板焼きと答えが返ってくるほど皆さん和食に親しんでいます。ただ本格的な懐石料理のお店はまだありません。いつかマレーシアにも本格的な和食のお店が出来ることを願っています。マレーシアの方の舌は確実に本当の美味しい和食を求めていますから。