第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 地球規模課題への取組 (1)持続可能な開発のための2030アジェンダ 「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年9月の国連サミットで採択された、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向けた2030年までの国際開発目標である。 SDGs全17ゴールのロゴ(出典:国連広報センター) 2030アジェンダは、先進国を含む国際社会全体の開発目標として相互に密接に関連した17の目標と169のターゲットから成る「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げている。 日本は、国際社会の議論が本格化する前から、2030アジェンダの議論や交渉に一貫して積極的に貢献してきた。2030アジェンダ採択後は、まず、SDGs実施に向けた基盤整備として、日本は内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とするSDGs推進本部を設置し、SDGsの実施に向けた日本の指針となるSDGs実施指針を策定し、日本が特に注力する八つの優先課題を掲げた。また、SDGs実施に向けた官民パートナーシップを重視するため、NGO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まるSDGs推進円卓会議をこれまで6回開催し、SDGs推進に向けた地方やビジネス界の取組、次世代・女性のエンパワーメントの方策、国際社会との連携強化等について意見交換を行っている。 これまでSDGs推進本部会合は計6回開催され、2018年12月に行われた第6回会合では、外務省のみならず関係府省庁のSDGs達成に向けた主要な取組を「SDGsアクションプラン2019」として発表した。同アクションプランに掲げた日本のSDGsの三本柱である①官民を挙げたSDGsと連動する「Society5.0」の推進、②SDGsを原動力とした地方創生、③SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントに沿って、国内実施・国際協力の両面においてSDGs達成に向けた取組を更に推進していく。また、同アクションプランは、日本が「人間の安全保障」の理念に基づき、強靱かつ環境に優しい「国づくり」及び世界の「人づくり」に貢献し、2019年のG20 議長国として国際社会においてリーダーシップを発揮していく際のSDGsの主要課題についても明記している。 第6回SDGs推進本部会合の様子 (12月21日、東京 写真提供:内閣広報室) 第6回SDGs推進本部会合の同日には、SDGsに向けて優れた取組を行っている企業・団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」第2回表彰式も開催され、食品廃棄物の有効活用等に取り組む株式会社日本フードエコロジーセンターがSDGs推進本部長賞(内閣総理大臣賞)を受賞した。 世界の注目が日本に集まる2019年のG20 大阪サミット、TICAD7等の機会を通じ、日本がリーダーシップを発揮し、SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会に対して示すとともに、2019年9月のSDGs首脳級会合において、これらの成果をG20 議長国として発信すべく、具体的な取組を今後より一層推進・強化していく。 また、2030年までにSDGsを達成するためには、毎年約2兆5,000億ドル(約280兆円)もの資金ギャップを克服しなければならないと国連貿易開発会議(UNCTAD)が推計している。日本は、この資金ギャップの克服に向けて、国際連帯税を含む革新的資金調達に関する議論の活発化に貢献する観点から、2019年1月に有志国・機関がメンバーとなっている「開発のための革新的資金調達リーディング・グループ」の議長国に就任した。 ア 人間の安全保障 人間の安全保障とは、一人ひとりを保護するとともに、自ら課題を解決できるよう能力強化を図り、個人が持つ豊かな可能性を実現できる社会造りを進める考え方である。日本は、人間の安全保障を外交の柱の一つと位置付け、2015年に決定した開発協力大綱でも日本の開発協力の根本にある指導理念と位置付けており、これまでも国連などでの議論を主導し、日本のイニシアティブにより1999年に国連に設置された「人間の安全保障基金」に累計約468億円拠出し、国連機関による人間の安全保障の普及と実践を支援してきた。また、二国間協力においても「草の根・人間の安全保障無償資金協力」などの支援を通じ、この概念の普及と実践に努めてきた。2030アジェンダも、「人間中心」や「誰一人取り残さない」といった理念に基づくものとなっており、人間の安全保障の考え方を中核に据えている。 イ 防災分野の取組 毎年世界で2億人が被災(犠牲者の9割が開発途上国の市民)し、自然災害による経済的損失は年平均2,500から3,000億米ドルに及ぶ。防災の取組は、貧困撲滅と持続可能な開発の実現にとって不可欠である。 日本は、幾多の災害の経験により蓄積された防災・減災に関する知見をいかし、防災の様々な分野で国際協力を推進している。2015年3月に第3回国連防災世界会議を仙台で開催し、同年から15年間の国際社会の防災分野の取組を規定する「仙台防災枠組」の採択を主導した。また、日本独自の貢献として「仙台防災協力イニシアティブ」を発表し、2015年から2018年までの4年間で計40億米ドルの協力の実施や計4万人の人材育成を行うという目標を達成するなど、防災分野での協力を積極的に進めている。 さらに、日本が提案し2015年12月に第70回国連総会で全会一致で制定された「世界津波の日(11月5日)」に合わせ、日本では2016年以降、世界各国の高校生を招へいし、日本の津波の歴史や、震災復興、南海トラフ地震への備え等の実習を通じ、今後の課題や自国での展開等の提案を行う「世界津波の日 高校生サミット」をこれまで3回実施している。 第1回「世界津波の日」高校生サミットは2016年11月25日及び26日に高知県黒潮町で、第2回は2017年11月7日及び8日に沖縄県宜野湾市で開催した。第3回は2018年10月31日及び11月1日に和歌山県和歌山市で開催し、日本を含む48か国の高校生約380人が参加した。今後も災害で得た経験と教訓を世界と共有し、各国の政策に防災の観点を導入する「防災の主流化」を引き続き推進する考えである。 ウ 教育分野の取組 教育分野では、2015年9月の2030アジェンダ採択のタイミングに合わせて、日本の教育協力分野の新たな戦略となる「平和と成長のための学びの戦略」を発表した。同戦略では、基本原則として、「包摂的かつ公正な質の高い学びに向けての教育協力」、「産業・科学技術人材育成と持続可能な社会開発のための教育協力」及び「国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大」を掲げており、同戦略の下、世界各地で様々な教育支援を行っている。また、教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)などの教育支援関連会合にも積極的に参加している。2018年6月のG7シャルルボワ・サミットでは、途上国の女児・少女・女性のための質の高い教育、人材育成のために2億ドルの支援を行っていくことを発表した。 エ 農業分野の取組 日本はこれまでG7やG20などの関係各国や国際機関とも連携しながら、開発途上国の農業・農村開発を支援している。2016年4月にはG7新潟農業大臣会合を開催し、食料需要の増加、異常気象等の農業を取り巻く新たな課題に対処するため、世界の食料安全保障の強化に向けた「新潟宣言」を採択・発出し、同年5月のG7伊勢志摩サミットで「食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン」を発表した。 日本の灌漑稲作振興協力案件「タンライス」・佐藤外務副大臣による現場視察(8月2日、タンザニア・キリマンジャロ) オ 水分野の取組 日本は、1990年代から継続して水分野での最大の支援国であり、日本の経験・知見・技術をいかした質の高い支援を実施している。国際社会での議論にも積極的に参加しており、日本のこれまでの貢献を基に、水分野のグローバルな課題に取り組んでいる。 (2)国際保健 人々の生命を脅かし、あらゆる社会・文化・経済的活動を阻害する保健課題の克服は、「人間の安全保障」に直結する国際社会の共通の課題である。日本は「人間の安全保障」を提唱し、それを「積極的平和主義」の基礎とするとともに各種の取組を推進し、保健をその中心的な要素と考えている。日本は、世界で最も優れた健康長寿社会を達成しており、保健分野における日本の積極的な貢献に一層期待が高まっている。日本は、保健分野への支援を通じて、人々の健康の向上、健康の権利が保障された国際社会の構築を目指している。 このような理念の下、日本はこれまで多くの国や、世界保健機関(WHO)、世界銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)、Gaviワクチンアライアンス(Gavi)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)といった様々な国際機関と協力しながら、感染症や母子保健、栄養改善などの保健課題の克服に大きな成果を上げてきた。 2015年に策定された開発協力大綱の課題別政策である「平和と健康のための基本方針」に基づき、日本は全ての人に対する生涯を通じた基礎的保健サービスの提供を確保するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成を念頭に、指導力を発揮し、国際的な議論を主導した。 9月の国連総会結核ハイレベル会合では、SDGs3.3(伝染病等に関するターゲット)で明記された「2030年までに結核を終息させる」との目標を達成するために、各国から首脳級、閣僚級及び国際機関の長が参加し、対策を促進させる政治的なコミットメントを確認した。開会式において、政治宣言が了承され、結核対策の強化、対策資金の確保、研究開発の強化、進捗を確認する仕組みの強化に取り組むことが明記された。同会合に参加した加藤厚生労働大臣は、日本が、長年にわたり結核に対する国際的な技術協力を行い、また国際機関に対して資金支援してきた実績を紹介しつつ、今後も同分野において貢献していく意思を表明した。 (3)労働・雇用 雇用を通じた所得の向上は、貧困層の人々の生活水準を高めるために重要である。また、世界的にサプライチェーンが拡大する中で、労働環境の整備等を図り、国際的に「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現に取り組んでいく必要がある。このディーセント・ワークの実現は、2019年に創設100周年を迎える国際労働機関(ILO)でも、その活動の主目標に位置付けられている。 こうした中で、日本も労働分野での開発協力に取り組んでいる。2018年には、ILOへの任意拠出金や国際的な労使団体のネットワークへの支援を通じ、アジア太平洋地域の開発途上国に対し、自然災害発生に伴う緊急雇用創出の支援や、労働法令の整備、労働安全衛生の実施体制の改善のための技術協力等を行った。 また、6月には、第1回日ILO年次戦略協議(ジュネーブ(スイス))を開催し、①「仕事の未来」イニシアティブ等に関する一層の連携強化、②労働分野での開発協力支援における日本のこれまでの財政的・人的貢献及び一層のパートナーシップ強化、③ILOにおける日本人職員の一層の増強に向けて共同で具体的な行動をとることなどについてILOとの間で確認した。 (4)環境・気候変動 ア 地球環境問題 2030アジェンダにおいて環境分野の目標が記載されるなど、地球環境問題への取組の重要性が国際的により一層認識されている。日本は、多数国間環境条約や環境問題に関する国際機関等における交渉及び働きかけを通じ、自然環境の保全及び持続可能な開発の実現に向けて積極的に取り組んでいる。 (ア)海洋環境の保全 海洋プラスチックごみ問題は、海洋の生態系、観光、漁業及び人の健康に悪影響を及ぼしかねない喫緊の課題として、近年その対応の重要性が高まっている。6月のG7シャルルボワ・サミットにおいて、安倍総理大臣は、この問題に開発途上国を含む世界全体の課題として対処する必要があること、リデュース(削減)・リユース(再利用)・リサイクル(再資源化)の「3R」や廃棄物処理に関する能力向上等の対策を国際的に広げていくことが不可欠であること、また、2019年のG20大阪サミットでこの問題に取り組むことを表明した。 さらに、11月のASEAN+3(日中韓)首脳会議において、安倍総理大臣は「ASEAN+3海洋プラスチックごみ協力アクション・イニシアティブ」を提唱し、各国から歓迎を受けた。同イニシアティブの下で日本は、中国や韓国とも連携し、「3R」や廃棄物処理に係る能力構築及びインフラ整備、国別行動計画策定支援等を通じて、ASEAN諸国の海洋プラスチックごみ対策を支援していく。また、11月の日・ASEAN首脳会議において安倍総理大臣から、海洋プラスチックごみ対策に関するASEAN支援の拡大を表明した。 SDGsの実現への貢献の観点から、海洋環境の保全、漁業、海洋資源の利用等について議論を行う「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」がノルウェーの主導で立ち上げられた。同パネルには、安倍総理大臣を始めとする12の海洋国家の首脳が参加している。9月、ニューヨーク(米国)で同パネルの第1回会合が開催され、安倍総理大臣は同会合に寄せたメッセージの中で、海洋プラスチックごみ問題、気候変動が海洋にもたらす影響への対応、IUU(違法・無報告・無規制)漁業に関する取組の重要性を指摘した。 このほか、10月、モスクワ(ロシア)で、日本海及び黄海の海洋環境保全について日本、中国、韓国及びロシアが協力する北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の第23回政府間会合が開催され、2018年から2023年までの中期戦略の評価枠組み、SDG14(SDGsの目標14:海の豊かさを守ろう)の達成に向けたNOWPAPの貢献等に関する議論が行われた。 (イ)生物多様性の保全 近年、ゾウやサイを始めとする野生動植物の違法取引が深刻化し、国際テロ組織の資金源の一つとなっているとして、国際社会で注目されている。10月、ロンドン(英国)で開催された「第4回野生動植物の違法取引に関する国際会議」に、阿部外務副大臣が出席し、国際的に特に関心の高い象牙の違法取引対策について、日本の積極的な取組を発信した。具体的には、6月に日本は象牙の国内取引の規制を強化したところであり、主要国と遜色のない国内象牙取引管理を引き続き厳格に実施していくこと、また、生息国におけるゾウの密猟対策支援を推進していくこと等を表明した。 10月、ラムサール条約第13回締約国会議(COP13)がドバイ(アラブ首長国連邦)で開催され、潮間帯湿地の保全、気候変動に関する決議等について議論が行われた。同会議の開催に合わせて、宮城県志津川湾と東京都葛西海浜公園の二つの湿地が新たにラムサール条約湿地登録簿に掲載された。 11月、横浜での国際熱帯木材機関(ITTO)第54回理事会において、持続可能な森林経営の促進に向けた議論が行われた。 11月、生物多様性条約(CBD)第14回締約国会議(COP14)がシャルムエルシェイク(エジプト)で開催され、2020年のCOP15で採択予定の2020年以降の生物多様性に関する世界目標を検討するためのプロセスとして、公開作業部会及び地域別ワークショップの開催等が決定された。このほか、遺伝資源に関する塩基配列情報や合成生物学への対応等の幅広い事項について議論が行われた。 (ウ)化学物質・有害廃棄物の国際管理 11月、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」第30回締約国会合がキト(エクアドル)で開催された。同会合では、2019年1月1日に発効する、規制対象物質にハイドロフルオロカーボン(HFC)を追加した改正議定書の運用等に関する議論が行われた。12月、日本政府は、同議定書改正の受託書を国連に寄託し、同改正の発効時からの締約国となった。 11月には、「水銀に関する水俣条約」第2回締約国会議がジュネーブ(スイス)で開催された。日本は、条約を運営するビューロー会合(理事会に相当)のアジア太平洋地域の代表として同会合の円滑な実施に貢献したほか、EUや米国と共同で三つの決議案を提出するなど、水銀の規制に係る国際的なルール作りに積極的に貢献した。 イ 気候変動 (ア)パリ協定と国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24) 気候変動の原因である温室効果ガスの排出削減には、世界全体での取組が不可欠であるが、1997年のCOP3で採択された京都議定書は、先進国にのみ削減義務を課す枠組みであった。2015年12月、パリで開催されたCOP21で、先進国・途上国の区別なく、温室効果ガス削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成に向けた取組を実施すること等を規定した公平かつ実効的な枠組みである「パリ協定」が採択された。同協定は2016年11月に発効し、日本を含む180か国以上の国が締結している(2018年12月時点)。2017年6月、米国はパリ協定から脱退する意向を表明したが、引き続きCOP等の気候変動交渉には参加している。 パリ協定の採択後は、2020年以降のパリ協定の本格運用に向け、パリ協定の実施指針に関する交渉が開始された。パリ協定の実施指針は、緩和・適応・透明性枠組み・市場メカニズム・資金等の各議題についての議論を基に、2018年12月にカトヴィツェ(ポーランド)で開催されたCOP24において採択された。日本は、各議題で積極的に交渉に参加し、パリ協定の精神に即した、全ての国に共通するルールの策定に貢献した。また、COP24では、世界全体の温室効果ガス排出削減の取組状況を確認し、野心の向上を目指す、「タラノア対話」3の閣僚級の議論を実施した。日本からは原田環境大臣が参加し、日本の技術や国際協力実績等につき積極的に発信した。 (イ)開発途上国支援に関する取組 開発途上国が十分な気候変動対策を実施できるよう、日本を含む先進国は開発途上国に対して、資金協力、能力構築(キャパシティ・ビルディング)、技術移転といった様々な支援を行ってきている。こうした観点から、開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への適応を支援する多国間基金である緑の気候基金(GCF)も重要な役割を果たしている。日本は、2015年に成立した「緑の気候基金への拠出及びこれに伴う措置に関する法律」に基づき資金を拠出しているほか、GCF理事を派遣し、支援案件の選定を含む基金の運営に積極的に参画している。2018年12月までに93件の支援案件がGCF理事会で承認された。 (ウ)二国間オフセット・クレジット制度(JCM) JCMは、開発途上国への優れた低炭素技術等の普及や対策の実施を通じ、地球規模での温暖化対策に貢献するとともに、温室効果ガス排出削減・吸収に対する日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用する仕組みである。日本は、2018年12月時点で17か国とJCMを構築しており、120件以上の温室効果ガス排出削減・吸収プロジェクトを実施している。2018年も、モンゴル、ベトナム、パラオ、インドネシア及びタイのJCMプロジェクトからクレジットが発行されるなど、成果を着実に上げている。 (エ)日本による気候変動と脆弱性リスクに関する取組 気候変動が各国の経済・社会の安定に影響を及ぼし得るとの見方は近年強まっており、紛争や平和構築といった安全保障上への影響についての関心も高まりを見せている。G7外相プロセスなどにおいても気候変動と脆弱性というテーマで議論されてきた。日本は気候変動の脆弱性リスクに関する取組として、2018年7月に「アジア・大洋州における気候変動と脆弱性に関する国際会議」を東京で開催し、気候変動と安全保障及びビジネスに関する国際的な議論の動向を参加者に共有するとともに、アジア・大洋州における気候変動の脆弱性や安全保障、展開する企業の危機管理、投資に与える影響や、今後生じ得るリスクに対して政府・自治体・企業等それぞれがとるべきアプローチ等について議論を深めた。 (オ)非国家主体による気候変動分野の取組 気候変動対策においては、政府に加え、民間企業や自治体、NGO等の非国家主体の取組も重要であり、過去のCOP決定においても、その重要性が言及されている。日本でも、気候変動対策に向けて積極的な行動を取ることを目的とした企業グループである日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)の精力的な活動や、事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する国際的なイニシアティブ(RE100)に参加する日本企業数が増加する等、企業の取組は一層進展している。こうした国内での機運の高まりを背景に、7月には、脱炭素化を目指す非国家主体のネットワークである気候変動イニシアティブ(JCI)が発足する等、気候変動に関する国内での取組は一層の進展を見せている。日本はこうした非国家主体のイニシアティブとも連携しながら、気候変動外交を進めていく考えである。 「気候変動イニシアティブ(JCI)」が発足! ~日本の企業、自治体、NGOの活動を世界へ発信~ 気候変動イニシアティブ事務局 公益財団法人 自然エネルギー財団 常務理事 大野輝之 2015年のパリ協定の成立以降、脱炭素社会の実現に向けた企業、自治体、NGOなど国家以外の多様な主体、「非政府アクター」への注目が高まっています。今世紀半ばまでに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという高い目標を達成するためには、経済活動、日常生活を実際に担うこれらのアクターの役割が決定的に重要だからです。 2018年7月6日、こうした非政府アクターのネットワーク組織「気候変動イニシアティブ(JCI:Japan Climate Initiative)」が設立されました。日本を代表する大手企業、地域経済を担う中小企業、大都市から農村地域まで様々な自治体、消費者団体、環境NGOなど、設立時に105団体が参加しました。その後メンバー数は拡大を続け、2018年末までで既に3倍以上になっています。 JCI設立記者会見(7月6日 写真提供:JCI) JCIへの参加要件は、設立宣言「脱炭素化をめざす世界の最前線に日本から参加する」を承認することです。この設立宣言では、JCIの各参加団体が「自らの活動において、2℃未満目標の実現に向けた世界のトップランナーとなるよう」取組を強めることを宣言するとともに、それを通じて国際社会での日本のコミットメントも高めていくことを述べています。 2018年10月12日には、最初の国内イベント「気候変動アクション日本サミット」が開催されました。企業の執行役員、自治体幹部など気候変動対策の第一線を担う責任者が多数登壇し、今後の活動強化に向け熱心な議論を展開しました。企業トップ、自治体首長による「トップリーダーズセッション」も行われ、全国各地から700人以上の参加で会場は熱気に包まれました。 日本の非政府アクターの活動を世界に発信することもJCIの重要な目的です。9月に米国・サンフランシスコで開催された「世界気候アクションサミット(GCAS)」、12月にポーランドで開催されたCOP24にもJCIメンバーが多数参加し、各種イベントに登壇して日本の企業、自治体の活動を紹介しました。 気候変動アクション日本サミット (10月12日 写真提供:JCI) 日本に続き、メキシコ、アルゼンチンなどでも非政府アクターの国内ネットワークが生まれてきています。また、米国にはトランプ政権のパリ協定脱退方針に抗して気候変動対策を進めるネットワーク“We Are Still In”があります。2019年は日本でG20が開催される年であり、世界の注目が日本に集まります。JCIは、これら各国のネットワークとも連携して、日本と世界における脱炭素社会の実現をめざす取組を強化していくことにしています。 (5)北極・南極 ア 北極 (ア)北極の現状と日本の北極政策 地球温暖化による北極環境の急速な変化は、この地域で生活する先住民を始めとする北極圏の人々の生活や生態系に深刻で不可逆的な影響を与えるおそれがある。一方、海氷の減少に伴い利用可能な海域が拡大し、北極海航路の利活用や資源開発を始めとする経済的な機会が高まっている。 日本の北極政策は、2015年に総合海洋政策本部で決定された「我が国の北極政策」を基本としている。また、2018年5月に閣議決定された「第3期海洋基本計画」では北極政策について初めて独立の項目を設け、主要施策として日本の海洋政策の中に位置付けられた。 北極サークルにおける河野外務大臣の基調講演 (10月19日、アイスランド・レイキャビク) 河野外務大臣の北極サークル出席 ~「望ましい北極」に向けた日本の取組~ 北極サークルは、グリムソン・アイスランド前大統領等により2013年に設立された、政府関係者、研究者、ビジネス関係者等が集まる民間の国際会議です。10月、河野外務大臣が、日本の外務大臣として初めてこの北極サークルに参加し、日本の北極政策に関する基調講演を行いました。 北極サークル 講演で、河野外務大臣は、天然資源の開発等、北極に生まれつつある「機会」をとらえるとともに、生態系への悪影響といった北極の「課題」に国際社会が適切に対応するためには、北極の環境変化のメカニズムを解明し、その影響を理解することが特に重要であると強調しました。また、河野外務大臣は、国際社会にとって「望ましい北極」を提起し、その要素として、①環境変化のメカニズムが解明され、その対応策を国際社会が共有すること、②先住民の生活や生態系に配慮し、持続可能な経済利用が探求されること、③法の支配に基づき、平和で秩序ある形で国際協力がなされることを挙げつつ、こうした「望ましい北極」を実現するために、日本はすべてのステークホルダーと協力を推進するとのメッセージを発信しました。さらに、「望ましい北極」の実現のため、①科学研究(北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の推進、ブラックカーボンの排出抑制をめぐる北極圏国との協力等)、②持続可能な経済利用(より多くの日本企業が北極ビジネスに関心を向けるよう奨励(北海道はアジアから北極海航路へのゲートウェイ)、ロシアとの北極圏での包括的なエネルギー開発協力、北極に関する国際ルール形成への積極的参加)、③法の支配(「ルールを基礎とした海洋秩序」の確認)の三つの側面について、日本の具体的な取組やその方向性を紹介しました。 2015年には「我が国の北極政策」が策定され、日本は北極への取組を活発に進めています。2018年には、5月に閣議決定した「第3期海洋基本計画」において初めて独立の項目を立てて、北極政策を主要施策として位置付けました。10月には、北極における研究観測や主要な社会的課題への対応の推進、関係国間や先住民団体との科学協力の更なる促進を目的として開催された北極科学大臣会合について、次回会合を日本とアイスランドの共催により2020年にアジアで初となる日本で開催することが決まりました。 こうした流れの中で、日本は河野外務大臣が国際社会に発信したメッセージを着実に実施し、日本や国際社会の利益を確保しながら、北極をめぐるグローバルな課題の解決に貢献していきます。 (イ)日本の国際的取組 10月、河野外務大臣は日本の外務大臣として初めて「北極サークル4」に出席し、日本の北極政策に関する基調講演を行った。 また、日本の北極担当大使は、オブザーバーとして参加する北極評議会(AC)の北極高級実務者会合を始め、フィンランド、ノルウェー、ポーランド、中国、韓国で開催された北極関係の国際会議に出席し、北極をめぐる課題に対する日本の取組や考えを発信するとともに、デンマークやEUとの二国間北極協議を始め、関係国との意見交換を行った。6月には、2015年の第6回日中韓サミットで立ち上げられた北極に関する日中韓ハイレベル対話の第3回会合が上海で開催され、3か国による北極協力(特に科学研究の分野)を促進する重要性を再確認する共同声明が採択された。日本は、北極に関する国際ルール形成にも積極的に参画している。10月に日本を含む10か国・機関により署名された「中央北極海における規制されていない公海漁業を防止するための公海漁業規制協定」も日本が国際ルール形成に関わった良い例である。 さらに、日本は、北極において、北極圏国を始めとする関係国と国際協力を進めている。2015年度に立ち上げた北極域研究推進プロジェクト(ArCS)を通じて、米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、グリーンランド(デンマーク)の研究・観測拠点で研究や人材育成のための国際連携を推進している。また、特定のテーマについて専門的に議論するACの作業部会に研究者を派遣し、日本の北極域研究の成果を発信し、議論に貢献している。 経済利用においては、日本は、北極海航路を利活用すべく、より多くの日本企業が北極ビジネスに関心を向けるよう奨励している。ロシアのヤマルLNGプロジェクトに示されるように、北極の環境に十分配慮しつつ、ロシアと共に北極圏での包括的なエネルギー開発協力を進めている。 イ 南極 (ア)南極条約 1959年に採択された南極条約は、基本原則として、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力及び③領土主権・請求権の凍結を定めている。 (イ)南極条約協議国会議と南極の環境保護 2018年5月にブエノスアイレス(アルゼンチン)にて開催された第41回南極条約協議国会議(ATCM41)では、最近の課題として、観光等での南極地域への渡航者が年々増加していることを踏まえ、観光者数の増加に伴う南極の環境への影響等について議論が行われた。 (ウ)日本の南極観測 日本の南極観測では、南極地域観測第9期6か年計画(2016年から2021年)に基づき、現在、過去及び未来の地球システムに南極域が果たす役割と影響の解明に取り組み、特に「地球温暖化」の実態やメカニズムの解明を目指し、長期にわたり継続的に実施する観測に加え、大型大気レーダーを始めとした各種研究観測を実施している。 3 タラノアとは、COP23の議長国のフィジーの言葉で、包摂性・参加型・透明な対話プロセスを意味する。 4 グリムソン・アイスランド前大統領等により2013年に設立され、政府関係者、研究者、ビジネス関係者等、約2,000名が集まる国際会議。北極版ダボス会議。日本は、第1回会合から北極担当大使等が参加しており、全体会合でのスピーチを行っているほか、分科会において日本の研究者が科学研究の成果を発表している。