第2章 地球儀を俯瞰する外交 2 欧州地域情勢 (1)欧州連合(EU) EUは、総人口約5億1,000万人を擁する28加盟国から成る政治・経済統合体であり、日本と基本的価値・原則を共有し、日本が地球規模の諸課題に取り組む上で重要なパートナーである。 〈EUの動き〉 2018年は、EUにとって、前年に引き続き、英国のEU離脱交渉、移民・難民問題への対応、ポピュリズム(大衆主義)勢力の伸張といった諸課題に直面した一年であった。こうした課題への対応等に多くの時間が当てられたこともあり、数年前から気運が高まりつつあった欧州統合の将来像及びEU改革に関する議論では、大きな進展は見られなかった。 2017年6月に開始された英国のEU離脱交渉については、英国・EU間の唯一の陸上国境である英国領北アイルランドとアイルランドとの間の国境への物理的障壁の設置を回避しつつ、両者間の将来関係の枠組みについて合意することが課題となっていた。しかし、国境の開放性を維持するための施策等をめぐって交渉は難航し、交渉妥結の目標期日とされてきた10月の欧州理事会(EU首脳会議)においても決着を見ることはなかった。11月14日にようやく離脱協定案が交渉官レベルで合意され、その後、英国内閣の承認を得て、同月25日の特別欧州理事会にて英国を除くEU27か国によって承認された。一方、2019年1月には英国議会下院が同離脱協定等の承認動議を否決する等、3月末に予定される英国の離脱を前に、具体的な打開策が見つからない状況が続いた。 移民・難民問題については、EUへの移民・難民の流入数は前年よりも更に低い水準となった。しかし、難民を乗せた船舶の入港がイタリアに拒否される事案や、EU域内の他の国に最初に入国した難民のドイツへの移動をめぐるドイツ国内での対立等、EU難民庇護制度が必ずしもうまく機能していないとの議論が再び注目された。 安全保障分野においては、2018年は、前年に引き続き、EU内で協力強化の動きが見られた。前年12月に立ち上げられた欧州連合条約上の防衛協力枠組みである常設構造的協力(PESCO)においては、2018年中に計34件の事業の実施が決定された。 また、EUにアジアへの関心の高まりが見られ、5月の外務理事会では「アジアにおけるEUの安全保障協力の推進」と題する結論文書が採択されたほか、9月には欧州・アジア連結性戦略が発表され、幅広い分野での連携強化に向けた姿勢が示された。 経済面では、2018年のユーロ圏の経済成長率は、過去10年間で最も高かった2017年に比して低下したものの、前半に引き続き好調を維持した。 〈日・EU関係〉 2018年には、7月の第25回日EU定期首脳協議において、日EU・EPA及び日EU・SPAの署名が行われるなど、日・EU関係の強化にとって歴史的な進展が見られた。日EU・EPA及びSPAは、日本において、12月に国会にて承認され、EU側においては、同月に欧州議会の同意を得た。年内に日・EU間で国内手続完了の相互通告が行われた結果、2019年2月1日、日EU・EPAは発効し、SPAは一定の規定の適用が開始された。 安倍総理大臣は、7月の日EU定期首脳協議のほか、10月のブリュッセル(ベルギー)における第12回ASEM首脳会合、11月のアルゼンチンにおけるG20ブエノスアイレス・サミットの機会に日・EU首脳会談を行い、日・EU関係、英国のEU離脱及び世界経済・貿易等につき意見交換を行った。英国のEU離脱については、EUに対し、日系企業や世界経済に与える悪影響が最小限となるよう、プロセスの透明性、予見可能性及び移行期間の設置による法的安定性の確保を一貫して求めた。このほか、外相間でも緊密な対話が行われ、4月のシリア及び地域の将来の支援に関するブリュッセル会合、8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議の機会に日・EU外相会談を実施したほか、計4回の電話会談を実施した。 第25回日EU定期首脳協議 (7月17日、東京 写真提供:内閣広報室) 経済面では、日EU・EPA発効に向け精力的な調整が行われた年となった。4月にはブリュッセルを訪問中の河野外務大臣がマルムストローム欧州委員(貿易担当)と会談し、同協定の早期発効に向けた協力を確認した。7月の日EU定期首脳協議の際の署名実現後、9月には欧州議会国際貿易委員会議員団が訪日し、河野外務大臣及び宮腰総理大臣補佐官への表敬等を実施、本協定の早期承認・発効に向け協力していくことを確認した。10月にはカタイネン欧州委員会副委員長が訪日し、第1回日EUハイレベル経済・産業・貿易対話(日本側共同議長:河野外務大臣・世耕経済産業大臣、EU側議長:カタイネン欧州委員会副委員長)が開催され、国際貿易、エネルギー・環境、投資、デジタル経済等の分野について日・EUが直面している課題に関し意見交換を行うとともに、日EU・EPAの早期発効に向けた双方のコミットメントを確認した。 (2)英国 英国のEU離脱について、英国内ではその方向性をめぐって対立が続いており、政府の方針に反対するとして複数の閣僚が辞任する等不安定な政治状況が続いている。7月、離脱後のEUとの将来の関係に関する交渉方針が閣議決定された際には、強硬離脱派のジョンソン外務・英連邦相及びデービス離脱担当相が辞任した。また、11月に英・EU間で交渉が妥結し、離脱協定案及び将来の関係に関する政治宣言案を内閣として了承した際には、ラーブ離脱相ほか閣外大臣を含む4人が辞任した。2019年1月、英国議会は離脱協定等の承認を求める動議を歴史的大差で否決した。一方、政府に対して提出された不信任案については与党が一致して反対し否決された。その後議会は、アイルランド国境問題をめぐりEUと改めて協議するという政府が新たに提出した動議等を可決したが、2019年1月現在、見通しが立たない状況が続いている。 経済面では、EU離脱交渉の動向が不確実性リスクとして影響している。英国国家統計局は、2018年の経済成長率を過去6年で最も低水準の1.4%と予測している。10月の失業率は4.1%と70年代中盤以降で最も低水準となっているが、実質賃金は伸び悩んでいる。2017年の物価上昇率は2013年以降最も高い水準の2.7%となり、2018年8月には政策金利が0.75%に引き上げられた。 日英両国は、首脳、外相を始め様々なレベルでの政策協調や交流を通じ、二国間関係を強化してきている。安倍総理大臣とメイ首相は、2018年6月のG7シャルルボワ・サミット(カナダ)及び11月から12月にかけて行われたG20ブエノスアイレス・サミット(アルゼンチン)の際に首脳会談を行った。さらに、2019年1月、安倍総理大臣は英国を訪問し、メイ首相と首脳会談を実施した。両首脳は、2017年8月のメイ首相訪日後の日英関係の大幅な進展を確認するとともに、今後10年の課題と機会を見据え、「日英首脳共同声明」を発出した。また、G20等の場で両国が主導的役割を果たすことで一致するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、ルールに基づく開かれた自由貿易体制の維持・拡大に向けた協力の強化等を確認した。また、安倍総理大臣から、英国のEU離脱について、「合意なき離脱」は是非回避すべきことを伝達した。 握手を交わす日英両首脳 (2019年1月10日、英国・ロンドン 写真提供:内閣広報室) また、河野外務大臣は、ジョンソン外務・英連邦相と、5月のG20ブエノスアイレス外相会合(アルゼンチン)の際に外相会談を行った。9月にはハント外務・英連邦相が訪日し、第7回日英外相戦略対話を実施した。 安全保障・防衛分野では、4月に英海軍フリゲート艦「サザーランド」が、8月に英海軍揚陸艦「アルビオン」が日本に寄港し、それぞれ海上自衛隊との共同訓練(関東南方海域)を実施した。9月にはインド洋において英海軍フリゲート艦「アーガイル」と海上自衛隊の共同訓練が実施された。また、5月に英海軍フリゲート艦「サザーランド」が北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動に従事した際には、日英間で情報交換等の協力が実施された。さらに、10月には米国以外とは初となる日本国内での陸軍種共同訓練が日英間で実施されたほか、12月には日英米共同訓練(本州南方海空域)が実施されるなど、アジア及び欧州において、互いに最も緊密な安全保障上のパートナーである日英の安全保障・防衛協力が進展した。防衛装備・技術協力の分野では、2月から「ジェットエンジンの認証プロセスに係る共同研究」が開始されるなど引き続き協力が進展している。 文化面では、6月にジャパン・ハウス ロンドンが開館、9月に開館記念行事が開催され、英国王室からケンブリッジ公爵殿下の御臨席を賜り、日本側からは麻生副総理大臣が出席した(第3章第4節1 240ページ参照)。また、2017年8月のメイ首相訪日の際に発出された日英共同宣言に盛り込まれたとおり、ラグビーワールドカップ2019と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の二つの大型スポーツ行事を橋渡しする形で、2019年及び2020年を「日英文化季間」と定めて様々な日本関連行事を集中的に実施すべく、準備が進められている。 (3)フランス 2017年5月に、伝統的に二分されていた右派と左派の糾合を唱え大統領に就任したマクロン大統領は、国民議会における安定多数の確保を背景に、内政課題に対する改革を推進した。失業率の改善や、ユーロ圏加盟国に求められる財政赤字のGDP比3%以下の基準を満たすなど、一定の成果を出した反面、「黄色いベスト運動」に代表される改革への反発や相次ぐ重要閣僚の辞任等により支持率は低下傾向にあり、マクロン政権の改革は正念場を迎えている。 具体的な内政改革としては、6月にフランス国鉄(SNCF)の株式会社化や鉄道員の特権見直しに係る国鉄改革法を成立させたほか、議会制度の改革を主な内容とする国家制度改革、年金制度改革、医療制度改革、企業の成長・変革のための行動計画等に取り組んだ。外政面では、マクロン大統領は、1月及び4月に国賓としてそれぞれ中国及び米国を訪問するなど、活発に外国訪問を行った。また、11月には70か国以上の元首・首脳を迎えて第一次世界大戦終結100周年式典をパリで開催した(日本からは麻生副総理大臣が参加)。マクロン大統領は引き続き多国間主義を掲げ、気候変動や通商・貿易問題、EU統合の推進等において主導力を発揮した。 日本との関係では、2018年は日仏友好160周年に当たり、日仏両政府の合意の下、7月から2019年2月にかけて、大型日本文化紹介事業「ジャポニスム2018」が開催された(コラム「日仏外交関係樹立160周年~『ジャポニスム2018』を通じて浸透する日本文化~」103ページ及び特集「文化外交の推進~『ジャポニスム2018』を通じて~」245ページ参照)。要人往来としては、1月にル・ドリアン欧州・外務相が外務省賓客として訪日し、河野外務大臣らとの間で第4回日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)及び第7回日仏外相戦略対話を開催、日・仏物品役務・相互提供協定(ACSA)の大枠合意を歓迎した。5月には、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア)に際し、安倍総理大臣がマクロン大統領と首脳会談を実施、7月には、「ジャポニスム2018」開会式及び革命記念式典パレードに出席するため、河野外務大臣が安倍総理大臣の代理としてフランスを訪問し、この機会に外相会談を実施したほか、パルリ軍事相との間で日仏ACSAへの署名を行うなど安全保障面での協力が進んだ。また、10月に安倍総理大臣がフランスを訪問し、マクロン大統領と共に、2019年にそれぞれG20(日本)/G7(フランス)の議長国となる日仏両国間の緊密な連携を確認した。また、「自由で開かれたインド太平洋」のための日仏協力の具体的な連携として、12月に幅広い海洋政策を包括する形で、東京で日仏海洋セミナーが開催された。 日仏首脳共同記者発表 (10月17日、フランス・パリ 写真提供:内閣広報室) 日仏外交関係樹立160周年 ~「ジャポニスム2018」を通じて浸透する日本文化~ パリ日本文化会館館長 杉浦 勉 「ジャポニスム2018:響きあう魂」とは、パリを中心にフランスで行われている今世紀最大ともいえる日本文化博覧会です。日仏外交関係樹立160周年を記念して2018年7月から2019年2月まで開かれています。古代から現代までの美術を扱った展覧会のほか、雅楽、文楽、能・狂言、歌舞伎、現代演劇、舞踊・舞踏、太鼓といった舞台公演、日本映画特集、食文化や禅文化など日本の生活文化の紹介事業、そして祭りなど日本の地方文化の魅力を紹介する事業などが、文字どおり毎日のように行われています。 ©Nobutada OMOTE SANDWICH まるでパリが日本の首都になったような錯覚にとらわれそうになります。各イベントへの参加者や来場者数は、2018年12月末現在、250万人に上りました※。その数字には、皇太子殿下がボタンを押されたのを契機に点灯したエッフェル塔のイルミネーションをライブで見た推定40万人も含まれています。 一方、ルーブル美術館のピラミッド内に設置される名和晃平さん制作の巨大な黄金の玉座“Throne”を見た人の数は前述の250万人にはカウントされていません。広場に集まる人や外を通る人からも昼夜問わずこの作品を見ることができますので、何人が見たかは想像もつかないほどです。 さて、今回の「ジャポニスム2018」の効果は、私が見たところ、次の二つに集約されます。 一つは、一般の大人から子供まで日本文化に馴染(なじ)んだことです。それが端的に現れたのがチームラボ「Au-delà des limites(境界のない世界)」展と祭りや踊りなどの地方の魅力の紹介事業です。チームラボ展は、高さ11mの滝や足下に流れる水、四方の壁に飛び交うカラスの群れと四季の花々がデジタル映像で投射され、触ると水が分かれ、草木が枯れる、といったインタラクティブな展覧会です。同展には内覧会の日からお子様連れで来た人が沢山いました。そのため、千人の招待客に対して実際の参加者は2千人に膨らみました。また、ブーローニュの森にある広大なアクリマタシオン庭園では、青森県の佞武多(ねぶた)祭りや奈良県の春日若宮おん祭り、山梨県の信玄公祭りのほか、徳島県の阿波踊りや岩手県のさんさ踊りなど、日本の地方の祭りや踊りが披露されました。そこには3日間で6万人が参加し、庭園が人の波で埋め尽くされました。子供を肩車して催しを見るフランス人の姿も随所に見られました。 Exhibition View, teamLab:Au-delà des limites, 2018, Grande Halle de La Villette, Paris©teamLab もう一つは、知識人の間でも「ジャポニスム2018」が話題になったことです。知識人の最高峰フランス学士院会員が11月に開催した集会では、倫理・政治等アカデミー終身書記のロベール・ピットさんが日本の歴史をテーマに30分ほどの特別講演を行い、その冒頭で「ジャポニスム2018」に言及しました。普段、日本に縁の薄かった学士院会員も、講演後日本のことがよく理解できたと語り、「ジャポニスム2018」の事業にも興味を掻(か)き立てられたようでした。 こうしたことはほんの一例に過ぎませんが、かつてないほどに幅広く日本文化がフランス国民の間に浸透することは間違いないと思われます。前述のピットさんは講演をこう締めくくりました。「日本人はフランス人が日本を知っているよりも良くフランスを知っている。(「ジャポニスム2018」を通じて)その均衡が戻る時が来ている。我々アカデミーはその均衡回復に貢献できるし貢献すべきである」と。 ※ 2019年2月に閉会式を終えた時点で、来場者数は300万人を超えた。 (4)ドイツ ドイツでは、夏以降、難民問題への対応や連邦憲法擁護庁長官の人事をめぐり、連邦大連立政権(キリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)及び社会民主党(SPD))内で対立が顕在化した。かかる状況下で連立与党の支持率が下がる中、10月にバイエルン州(14日)及びヘッセン州(28日)の州議会選挙が実施された。バイエルン州議会選挙では、単独与党のCSUが大幅に得票率を減らす(前回47.4%から37.2%)一方で、反難民政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」は二桁(10.2%)の得票率を獲得した。また、ヘッセン州議会選挙では、CDUが引き続き第一党の座を維持したものの、SPDと共に得票率を前回選挙から10%以上減らした。AfDが二桁(13.1%)の得票率を獲得し同州で議会入りを果たした結果、同党は、連邦議会を含む全ての議会に進出することとなった。 ヘッセン州議会選挙の翌日(10月29日)、メルケル首相(CDU党首)がこれらの州議会選挙の結果等を受け、自らが2000年以降務める党首のポストについて次回の党首選に立候補しないと発表した(ただし、同時に2021年までの今次議会会期中の首相続投を表明した。)。これを受け、クランプ=カレンバウアーCDU幹事長、メルツ元CDU/CSU会派院内総務、シュパーン連邦保健相の3人が党首のポストをめぐり争ったが、12月7日にドイツ北部ハンブルクでのCDU党大会に際して行われた党首選では、クランプ=カレンバウアーCDU幹事長がメルツ元院内総務との決選投票にもつれ込んだ接戦を制し、新たなCDUの党首として選出された。 日本との関係では、3月に就任したマース外相が、7月に外相として初のアジア歴訪の最初の訪問地として日本を訪問し、河野外務大臣と外相会談を行ったほか、安倍総理大臣を表敬した。9月には、河野外務大臣がドイツを訪問し、外相会談、メルケル首相への表敬のほか、与党CDU/CSU院内会派会合に出席し、東アジア情勢や国際経済システムが直面する課題等について日本の立場を説明し、戦後の自由で開かれた国際秩序の下で平和国家として発展してきた両国が、ルールに基づく国際秩序の維持・強化のために一層緊密に協力していくことが重要であると述べた。その後、10月にブリュッセルで開催されたASEM首脳会合の際には、日独首脳会談を実施した。2019年2月、メルケル首相が国際会議等への出席ではない二国間の文脈では4年ぶりに訪日し、安倍総理大臣との間で日独首脳会談を行った。 日独首脳会談(2019年2月4日、東京 写真提供:内閣広報室) DAIKU2018 ~ベートーベン「第九」を通じた日独交流~ 2018年、今や年末の風物詩となったベートーベン交響曲第九番(「第九」)の全曲が日本で初めて演奏されてからちょうど100周年を迎えたことを、皆様はご存じでしたか。 第一次世界大戦中、ドイツの租借地であった中国の青島で日本軍の捕虜となったドイツ兵の一部は、徳島県鳴門市にあった板東俘虜(ふりょ)収容所に収容されました。同収容所のドイツ兵は、会津出身の松江豊寿所長の下で人道的な待遇が与えられ、文化、芸術やスポーツ活動等を通して地元住民との交流が生まれました。また、ドイツ兵が持っていた野菜栽培や畜産、乳製品やパンの製造等に関する知識・技術が、地元住民との交流を通じて広まることとなりました。地元住民は、ドイツ兵のことを、親しみを込めて「ドイツさん」と呼んでいました。このような交流の様子は、松平健氏主演の映画「バルトの楽園」で紹介されています。今から100年前、同収容所においてドイツ兵により結成された楽団が「第九」を日本で初めて全曲演奏したのです。 日独両国政府は、「第九」の日本初演100周年を記念して、2018年を「DAIKU2018」と名付け、日独両国で実施される「第九」にちなんだ事業を記念事業として認定し、「第九」を通じた日独交流・相互理解を促進してきました。 2018年6月、記念事業の一環として、陸上自衛隊中央音楽隊がドイツを訪問し、在ドイツ日本大使公邸で、元ドイツ兵の御子孫及びその御家族も招待して「第九」の演奏会を開催した際、参加した御家族の一人から、当時、板東俘虜収容所でドイツ兵により作成されたスケッチ集(石版印刷)を日本に寄贈したいとの申し出がありました。調査の結果、同スケッチ集は、板東俘虜収容所にまつわる多くの史料を所蔵する鳴門市ドイツ館でも所有していない、貴重な史料であることが明らかとなりました。そこで、御家族の同意も得て、鳴門市ドイツ館にスケッチ集が寄贈されることになりました。かつて板東俘虜収容所で作成されたスケッチ集が、「第九」をきっかけに、100年という長い年月を経て、再び徳島・鳴門の地に「里帰り」することになったのです。 スケッチ集には、地元住民が見守る中での競歩大会や、ビリヤードに興じるドイツ兵の姿が表情豊かに描かれており、当時の地元住民との交流や収容所での生活の様子をうかがい知ることができます。スケッチ集の「里帰り」により、日独両国民の相互理解と友好関係が更に発展することが期待されます。 スケッチ集から:競歩大会の様子 スケッチ集から:ビリヤードに興じるドイツ兵 (5)イタリア 3月に実施された総選挙を受け、6月、コンテ首相を首班とする「五つ星運動」及び「同盟」の連立政権が発足した。新政権は、政権公約で掲げた移民対策や国内経済・社会保障対策を優先課題として取り組んでいる。 6月、安倍総理大臣は、G7シャルルボワ・サミットの際に、就任後間もないコンテ首相と初めての日伊首脳会談を実施し、地域情勢や地球規模課題への対応について意見交換を行った。両首脳は、10月のASEM首脳会合の際にも首脳会談を行った。また、河野外務大臣とモアヴェロ=ミラネージ外務・国際協力相は、9月の国連総会の機会に日伊外相会談を行い、G7の一員であり基本的価値を共有する両国が、緊密に連携していくことを確認した。さらに、11月には、河野外務大臣が地中海対話に出席するためイタリアを訪問した際にも外相会談を行った。 日伊外相会談(11月23日、イタリア・ローマ) (6)スペイン 6月、ラホイ民衆党政権に対する内閣不信任案が可決され、同時に、サンチェス社会労働者党(PSOE)書記長が首相に就任した。 2018年は日本とスペインの外交関係樹立150周年に当たり、両国で数多くの記念行事が実施された。1月、中根外務副大臣がマドリードを訪問し、150周年開幕式典に出席するとともに、ダスティス外務・協力相と会談した。10月、安倍総理大臣がスペインを訪問し、フェリペ6世国王陛下を謁見するとともにサンチェス首相と首脳会談を実施し、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げすることで一致した。この機会に日・スペイン新租税条約への署名が行われた。11月には、山口市において、「日本スペイン外交関係樹立150周年のその先へ」と題して、第20回日本・スペイン・シンポジウムが開催された。 サンチェス・スペイン首相と握手を交わす安倍総理大臣 (10月16日、スペイン・マドリード 写真提供:内閣広報室) 中根外務副大臣とダスティス・スペイン外務・協力相との会談 (1月16日、スペイン・マドリード) (7)ウクライナ 11月、クリミア半島東部のケルチ海峡付近において、同海峡を通航しようとしたウクライナ海軍船舶3隻が、ロシア国境警備局により拿捕(だほ)される事案が発生した。これを受け、ウクライナ政府は同国一部地域において30日間の戒厳令を導入する等、両国間の緊張が高まった。欧米諸国を中心とする各国はこの事態に懸念を表明するとともに、自制と沈静化を求めた。 ウクライナ東部では、停戦が履行されていないことに伴う不安定な状況が継続している。8月末には、分離派武装勢力による被占領地域である「ドネツク人民共和国」でザハルチェンコ「首長」がテロにより暗殺され、これを受けて、11月、東部被占領地域において「選挙」が実施された。日本を含む欧米諸国等は同「選挙」について、東部被占領地域の地方選挙に関する合意を含む当事者間の合意(ミンスク合意)に基づかないものであるとして正当なものと認めていない。ミンスク合意の履行に向けた関係国の協議に大きな進展は見られなかった。 内政面では、2016年4月に発足したフロイスマン内閣の下、各種改革が進められる中、6月、高等反汚職裁判所の設置を定める法律が採択された。また、同月、コペンハーゲン(デンマーク)において「ウクライナの改革に関する国際会議」が開催され、欧米諸国から多数のハイレベルの出席者が参加し、ウクライナの改革状況を議論するとともに、各国から引き続き改革努力を後押ししていくとの考えが表明された。日本からは堀井学外務大臣政務官が出席し、これまでのウクライナの改革の成果を評価しつつ、継続的な改革の必要性を訴えるとともに、日本として同国の改革努力を引き続き後押ししていくとのスピーチを行った。 二国間関係では、新たに安全保障分野における協力として、10月に東京で日・ウクライナ安保協議を実施した。また、ウクライナの安定化と改革努力の後押しのための支援として、1月に約3億9,600万円(360万米ドル)の追加支援を決定した。 その他地域