第2章 地球儀を俯瞰する外交 7 地域協力・地域間協力 アジア太平洋地域は世界の成長センターの一つであり、平和で繁栄した同地域の実現は日本外交の最重要課題の一つである。こうした観点から、日本は、日米同盟を基軸としながら、日・ASEAN、日・メコン協力、ASEAN+3(日中韓)、東アジア首脳会議(EAS)、日中韓協力、アジア太平洋経済協力(APEC)などの多様な地域協力枠組みを通じ、国際法にのっとったルールを基盤とする「自由で開かれたインド太平洋」を近隣の国々と共に実現していくことを重視している。 (1)東南アジア諸国連合(ASEAN)情勢全般 2015年11月のASEAN関連首脳会議(マレーシア・クアラルンプール)では、「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」の三つの共同体によって構成されるASEAN共同体が同年内に設立されることが宣言され(ASEAN共同体設立に関するクアラルンプール宣言)、加えてASEAN共同体の2016年から2025年までの10年間の方向性を示す「ASEAN2025:Forging Ahead Together(共に前進する)」が採択された。また、ASEANが地域協力の中心として重要な役割を担っている東アジア地域では、ASEAN+3(日中韓)、EAS、ASEAN地域フォーラム(ARF)などASEANを中心に多層的な地域協力枠組みが機能しており、政治・安全保障・経済を含む広範な協力関係が構築されている。特に経済面では、ASEANは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を締結するとともに、日本、中国、韓国、インド等とEPAやFTAを締結するなど、ASEANを中心とした自由貿易圏の広がりを見せている。2013年に交渉が開始されたRCEPについては、物品貿易、サービス貿易、投資、知的財産、電子商取引等の分野について、質の高い協定の妥結を目指して交渉を進めている。 地政学的要衝に位置しており、日本にとって重要なシーレーンに面しているASEANの安定と繁栄は、東アジア地域のみならず国際社会の安定と繁栄にも大きく関わることから、ASEANが法の支配などの価値に沿った統合を進めることは日本を含む国際社会全体にとって重要である。 (2)南シナ海問題 南シナ海をめぐる問題は、地域の平和と安定に直結し、国際社会の正当な関心事項であるとともに、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存し、航行及び上空飛行の自由並びにシーレーンの安全確保を重視する日本にとっても、重要な関心事項である。開かれ安定した海洋の維持・発展に向け、国際社会が連携していくことが求められている。 フィリピン政府が開始した南シナ海をめぐる同国と中国との間の紛争に関する国連海洋法条約に基づく仲裁手続については、2016年7月12日に、仲裁裁判所から最終的な仲裁判断が示された。日本は、同日外務大臣談話を発出し、「国連海洋法条約の規定に基づき、仲裁判断は最終的であり紛争当事国を法的に拘束するので、当事国は今回の仲裁判断に従う必要があり、これによって、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待する」との立場を表明してきている。 2018年に入っても、中国による大規模かつ急速な拠点構築及びその軍事目的での利用等、現状を変更し緊張を高める一方的な行動、さらにはその既成事実化の試みが一段と進められており、日本を含む国際社会は深刻な懸念を表明している。日本は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、国連海洋法条約(UNCLOS)を始めとした国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を強調してきていることに加え、中国による南シナ海に対する「歴史的権利」に関する主張について、その国際法上の根拠が明らかでないことや、中国による南シナ海における基線に関する主張がUNCLOSと整合的でないこと等を指摘してきている。2018年には、中国とASEANの間で南シナ海行動規範(COC)の交渉が開始されたが、日本としては、そのような取組が現場の非軍事化、そして平和で開かれた南シナ海の実現につながることが重要であると主張してきている。 (3)日・ASEAN関係 ASEANは、様々な地域協力の中心かつ、原動力である。ASEANがより安定し繁栄することは、地域全体の安定と繁栄にとって極めて重要である。このような認識の下、日本は、2013年に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議で採択された「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」及び「共同声明」を着実に実行しつつ、ASEAN共同体設立以降も「ASEAN共同体ビジョン2025」に基づきASEANの更なる統合努力を全面的に支援していくことを表明している。 2018年には、ASEAN議長国であるシンガポールで開催された8月の日・ASEAN外相会議、そして11月の日・ASEAN友好協力45周年を記念する首脳会議となった第21回日・ASEAN首脳会議などを通じて、ASEANの統合強化、持続的経済成長、国民生活の向上及び地域・国際社会の平和と安全の確保など、広範な分野での協力関係を一層強化していくことが確認された。11月の首脳会議で、安倍総理大臣は、日・ASEAN友好協力45周年を祝うとともに、2018年10月に東京で開催された日・ASEAN音楽祭や2019年に予定されている「ASEAN-JAPAN Day」といったイベントに言及し、これらが日・ASEAN間の相互理解を一層深める契機となることに期待を示した。また、同首脳会議では通常の議長声明に加えて、全ての参加国の賛同を得て、日・ASEAN友好協力45周年記念・第21回日・ASEAN首脳会議共同声明を発出し、過去45年にわたる日・ASEAN友好協力のすばらしい進展に満足をもって留意し、2013年の「日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメント」に記載されている四つのパートナーシップ、すなわち、「平和と安定のためのパートナー」、「繁栄のためのパートナー」、「より良い暮らしのためのパートナー」及び「心と心のパートナー」における日・ASEAN協力を強化することにコミットすることを表明した。 安全保障分野では、安倍総理大臣から、防衛協力等について「ビエンチャン・ビジョン(日・ASEAN防衛協力イニシアティブ)」の下での実践的な協力やサイバー分野での協力を強化していくと述べ、また、地域・国際情勢について、「自由で開かれたインド太平洋」の維持・強化のために引き続きASEAN各国と連携していくと発言した。さらに、北朝鮮問題について、安倍総理大臣から、国連安保理決議に規定されている、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を実現すべく、国連安保理決議の完全な履行が必要であると発言した。南シナ海問題に関しては、南シナ海は交易を通じて平和と繁栄を享受してきたASEAN・日本双方の生命線であり、ここでの航行の自由は双方にとって重要であるとした上で、ASEANがこの確保のために掲げてきた諸原則の完全な支持、行動計画(COC)交渉を始めとする取組への敬意、このような諸原則が反映されることへの期待を表明するとともに、南シナ海における一方的な現状変更の試みに深刻な懸念を共有しつつ、ASEANによる取組が現場の「非軍事化」、そして平和で開かれた南シナ海の維持につながるよう後押ししていくと発言した。 経済分野では、日本はODAや日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じ、ASEAN連結性強化を通じた域内格差の是正支援など、様々な分野でASEANの更なる統合の深化を支援してきている。11月の日・ASEAN首脳会議では、安倍総理大臣から、2013年に約束した「5年で2兆円の対ASEAN支援」を上回る支援を実施したことに言及しつつ、今後もASEANの一体性と中心性を尊重しながら、民間投資を後押しし、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラを推進すると発言した。また、安倍総理大臣から、①産業人材育成協力イニシアティブ2.0、②日・ASEAN第4次産業革命イニシアティブ、③WTO改革等を通じた自由貿易の推進、④ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)と連携したスマートシティネットワークに関する協力、⑤JAIFを活用し、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じた「日・ASEAN防災協力パッケージ」等を含む防災協力、⑥「日・ASEAN環境協力イニシアティブ」や海洋プラスチックゴミ対策等の環境協力、⑦アジア健康構想、⑧「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」等の教育・文化等の分野における協力、⑨日本アセアンセンターの改革のような取組を協力して推進していくと発言した。 同首脳会議でASEAN側からは、日・ASEAN友好協力45周年共同声明を発出できることに歓迎の意を表明し、多くの国が、防災や連結性強化を始めとする様々な分野における日本の協力への評価を表明した。また、多くの国が、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日本の取組への期待を表明したほか、北朝鮮問題及び南シナ海問題を取り上げた。 日・ASEAN友好協力45周年 ~未来に向けて:「心と心の触れ合う」関係へ~ 1.日・ASEAN友好協力45周年 2018年11月14日、シンガポールにて開催された日・ASEAN首脳会議において、日・ASEAN友好協力45周年を記念した未来志向の共同声明が発出されました。この共同声明は、日・ASEAN関係の重要性を再確認し、「心と心の触れあう」相互信頼及び「対等なパートナーシップ」に基づく日・ASEAN友好協力関係の進展等を謳(うた)っています。その上で、共同声明には、2013年の日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメントの4つのパートナーシップ※における日・ASEAN協力及び日・ASEAN戦略的パートナーシップの強化に取り組むことが盛り込まれました。さらに、日・ASEANの首脳は、共同声明の中で、ルールに基づき自由で開かれたインド太平洋地域を促進していくとの見解を共有しました。 2018年には、文化交流の面でも、日・ASEAN友好協力45周年にふさわしい様々な行事が行われました。特に、10月には、日本とASEAN各国のアーティストが一堂に集まり、第2回日・ASEAN音楽祭が東京にて盛大に開催され、若者を中心として、日・ASEANの交流を一層深める機会となりました。 (写真提供:内閣広報室) (写真提供:内閣広報室) 2.日・ASEAN友好協力45年の歩み 日本とASEANの関係は、1973年の合成ゴムフォーラムにまで遡ります。1977年には、福田赳夫総理大臣(当時)が、その後の対ASEAN外交の原則となる「福田ドクトリン」を提唱し、戦後の懸案処理型の外交を離れ、明確な理念を掲げました。同年に初めて開催された日・ASEAN首脳会議は、その後定例化され、日・ASEAN友好関係を推進してきました。 日・ASEAN友好協力40周年に当たる2013年には、安倍総理大臣が「対ASEAN外交5原則」を発表しました。同年12月に、東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議では、日本とASEANの首脳が「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」及びその実施計画を採択しました。2013年に日本が表明した様々な分野における支援は、この5年間でODA、防災協力、人材育成、テロ対策、人物交流等を中心に着実に達成されました。現在でも4つのパートナーシップの下で様々な協力が進められています。 3.ASEANの重要性と今後の日・ASEAN関係 ASEAN設立当初は1億8,000万人だったASEAN人口は、今日、6億5,000万人に増加しました。また、日本はこれまでASEANに対して累計で約17兆9,300億円のODAを供与し、ASEAN諸国の経済・社会発展に貢献してきました。ASEANは経済面でも日本の重要なパートナーとして、その存在感を高めています。2017年10月時点で、ASEAN地域に進出した日系企業(事業所数)は1万2,000に上ります。貿易関係においても、日本の貿易総額153.7兆円のうち対ASEAN貿易総額は約23.4兆円となっており、中国に次ぐ第2位の主要貿易相手となっています。 2018年に45周年を迎えた、日本とASEANの関係が、上述の共同声明を礎として、幅広い分野において一層発展していくことが期待されます。 ※ 日本とASEANは、以下の4つのパートナーシップの分野において協力を強化することを確認。①平和と安定のためのパートナー(政治・安全保障)、②繁栄のためのパートナー(経済・経済協力)、③より良い暮らしのためのパートナー(新たな経済・社会問題)、④心と心のパートナー(人と人との交流)。なお、ビジョン・ステートメントの実施計画は2017年8月に改訂されている。 (4)日・メコン首脳会議(参加国:カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム及び日本) メコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ及びベトナム)は、陸上・海上輸送の要衝に位置し、力強い経済成長を遂げつつある将来性豊かな成長のパートナーである。メコン地域の平和と繁栄は、ASEAN域内の格差是正や地域統合にも資するものであり、日本を含むアジア全体にとって極めて重要である。メコン地域では、近年ハード面のインフラ整備が進み、進出日系企業数や日本からの直接投資も順調に推移するなど、今後の更なる経済活動の活発化が期待される。 2018年10月に、東京で開催された第10回日・メコン首脳会議では、今後の日・メコン協力の指針として「東京戦略2018」が採択された。首脳は、過去3年間で7,500億円以上のODA支援を実施するという日本のコミットメントを達成したこと及び質の高いインフラを通じた連結性強化の促進を賞賛し、メコン諸国からは、日・メコン協力における日本の長年にわたる支援に深い謝意が表明された。今後も日本は、メコン地域諸国にとっての信頼のおけるパートナーとして、同地域の繁栄及び発展に貢献していく。 また、2019年は、2009年に日本とメコン地域諸国で実施した「日メコン交流年」から10周年を迎える年であり、「日メコン交流年2019」を実施する。「日メコン交流年2019」では、日本やメコン地域諸国において、政治、経済、文化等幅広い分野での交流事業を実施予定である。 (5)ASEAN+3(日中韓) ASEAN+3は、1997年のアジア通貨危機を契機として、ASEANに日中韓の3か国が加わる形で発足し、金融や食料安全保障などの分野を中心に発展してきた。現在では、金融、農業・食料、教育、文化、観光、保健、エネルギー、環境など24の協力分野が存在し、2017年8月に採択された「ASEAN+3協力作業計画(2018-2022)」の下、各分野で更なる協力が進展している。 2018年8月に開催された第18回ASEAN+3外相会議(シンガポール)では、河野外務大臣から、過去21年間のASEAN+3の実務的協力の進展を評価しつつ、日本の取組を中心にASEAN+3協力のレビューと将来の方向性について説明した。また、北朝鮮問題など地域・国際情勢についても説明した。 11月に開催された第20回ASEAN+3首脳会議(シンガポール)では、安倍総理大臣から、10月の中国の公式訪問の際に、日中両国が国際社会の平和と安定に建設的な役割と果たすことで一致したことに触れつつ、時宜を得たASEAN+3首脳会議の開催を歓迎した。また、金融協力から始まったASEAN+3の協力分野が食料安全保障、貧困撲滅、文化、観光、青少年交流等に拡大していることに言及し、日本は今後、特に環境、防災、ヘルスケア分野に注力すると述べた。 ASEAN+3首脳会議 (11月15日、シンガポール 写真提供:内閣広報室) 北朝鮮について、安倍総理大臣は、朝鮮半島の非核化に向け、安保理決議の完全な履行が必要であり、安保理決議が禁止する「瀬取り」への対策において協力したいと述べた。 創立10周年を迎えた「東アジア版OECD」 ~東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)~ 東アジア・アセアン経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia:ERIA(エリア))は、日本政府のリーダーシップの下、2008年にインドネシアのジャカルタに設立され、2018年に10周年を迎えた国際機関です。 ERIA10周年記念ディナーレセプション (10月18日、東京 写真提供:ERIA) ERIAは、今でこそ東アジアの国際機関として認知されるようになりましたが、2006年の日・ASEAN経済大臣会合において、二階経済産業大臣(当時)が“東アジア版OECD(経済協力開発機構)”の設立を提唱し、2007年の第3回東アジア首脳会議(East Asia Summit:EAS)でERIA設立が合意されるまでには、ホスト国の調整、拠出金の確保など、紆余(うよ)曲折がありました。当初、ASEAN事務局(インドネシア・ジャカルタ)の一室を事務所とする職員3人の小さな組織としてスタートしたERIAは、最大の拠出国である日本政府を筆頭に、東アジア各国の支援、そして故スリン・ピツワンASEAN事務総長の惜しみないサポートを受け、今や17人の内部エコノミストを含む83人のスタッフを抱え、研究プロジェクトに参加する研究者は年間150人を超える組織に成長しました。 ERIAの役割は、①「経済統合の深化」「格差是正」「持続的成長」を柱とする経済分野に関する研究、②16の加盟国(ASEAN10か国、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)の要請を踏まえた政策研究・提言、そして、③研究成果の普及活用を目的としたキャパシティ・ビルディング(能力構築)を行うことです。日頃からASEAN各国を始めとした加盟国政府やASEAN事務局と連携し、ERIAが自ら主導する研究についても、各国の政策ニーズを踏まえたプロジェクトとなるよう配慮しています。また、ERIA事務総長は、EAS経済大臣会合や同エネルギー大臣会合に毎年出席し、研究成果や政策提言を発表しています。2017年には、ASEAN設立50周年を記念し、議長国だったフィリピン政府と合同で、ASEANの歴史と発展に関する5巻本を出版し、首脳級が参加するハイレベルフォーラムを開催しました。こうしたERIAの成果については、毎年、EASを含むASEAN関連首脳会議及び関連の各種閣僚会合の声明で言及されています。 ASEAN@50ハイレベルフォーラム(2017年10月19日、フィリピン・マニラ 写真提供:ERIA) ERIAは、東アジア・ASEANをめぐる自由貿易協定、ASEANの連結性、東アジアのインフラ開発、エネルギーセキュリティ、中小企業などの分野において、様々な成果を上げてきました。今後は、ASEANが直面する高齢化、情報化、環境及び高度人材育成などの新たな課題について、設立を主導した日本の知識、経験をいかしながら、この地域の発展に資する国際機関としての存在価値を一層高めることが期待されています。 ※ERIAの出版物は全てウェブサイト〈http://www.eria.org/〉で公開しています。 (6)東アジア首脳会議(EAS)(参加国:ASEAN 10か国+日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国及びロシア) EASは、地域及び国際社会の重要な問題について首脳間で率直に対話を行うとともに、首脳主導で政治・安全保障・経済上の具体的協力を進展させることを目的として、2005年に発足した地域のプレミア(主要な)・フォーラムである。また、EASには多くの民主主義国が参加しており、域内における民主主義や法の支配などの基本的価値の共有や貿易・投資などに関する国際的な規範の強化に貢献することが期待されている。 東アジア首脳会議(EAS)(11月15日、シンガポール 写真提供:内閣広報室) ア 第8回EAS参加国外相会議 8月に開催された第8回EAS参加国外相会議(シンガポール)では、河野外務大臣から、EASは、2017年以来、北朝鮮、海洋協力の促進、自由貿易の推進等の課題に取り組むに当たって効果的なメカニズムであることを証明していると述べた。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日本の取組について説明し、北朝鮮や南シナ海の問題についての日本の立場を述べた。 具体的には、北朝鮮問題について、河野外務大臣から、北朝鮮の「完全な非核化」に向けた米国及び韓国の努力を賞賛した上で、国連安保理決議に従って、北朝鮮による、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を実現するとの目標に向けて緊密に連携すべきと呼びかけた。また、「瀬取り」対策を含む制裁の「抜け穴」を塞(ふさ)ぐ取組の維持・強化を訴えた。さらに、拉致問題についてEAS参加国の協力を求めた。 南シナ海問題については、現場において急進的かつ大規模な拠点構築が継続していることについて深刻な懸念を共有するとした上で、一方的に現状を変更する行為は航行の自由を損ないかねないものであり強く反対すると強調した。さらに、紛争の平和的解決に取り組むべきと訴え、また、南シナ海行動規範(COC)の交渉のような取組が、現場の非軍事化と平和で開かれた南シナ海につながるべきとの期待を表明した。 イ 第13回EAS 11月に開催された第13回EAS(シンガポール)では、EAS内の協力に対するレビューと将来の方向性及び地域・国際情勢について議論が行われた。安倍総理大臣は、2018年10月の中国への公式訪問の際に日中両国が国際社会の平和と繁栄に建設的な役割を果たしていくことで一致できたことに言及しつつ、EASにおいても同様の精神で議論したいとした上で、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である「自由で開かれたインド太平洋」を実現していくとの決意を表明し、その中にはASEANの中心性や開放性といった、EAS参加国が共有する原則が内包されていると述べた。日本による具体的協力として、「質の高いインフラ」を推進してきた事例を紹介しつつ、開放性、透明性、経済性、被援助国の財政健全性の確保といった国際スタンダードの必要性を強調した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に貢献する取組は、いかなる国も排除されず、地域の全ての国が裨益するものであり、こうした考えを共有する全ての国と協力していく考えを示した。 北朝鮮問題について、安倍総理大臣は、歴史的な米朝首脳会談と3度の南北首脳会談を、拉致、核、ミサイルの諸懸案の包括的な解決に向けた一歩として歓迎した上で、安保理決議に規定されている、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を実現すべく、安保理決議の完全な履行が必要であると訴えた。「瀬取り」への対策に関して、米国、オーストラリア、英国、カナダ、ニュージーランドを始めとする各国との協力を高く評価し、引き続き協力したいと述べた。また、拉致問題の早期解決に向け各国の理解と協力を期待した。 南シナ海問題について、安倍総理大臣は、紛争は、力ではなく国際法に基づき平和的に解決されるべきであると述べ、その観点から、実効的なCOCの策定に強い期待を示した。また、南シナ海の状況については引き続き深刻に懸念を表明するとともに、平和で開かれた南シナ海を実現するため、ASEANが謳ってきた「法的・外交的プロセスの完全な尊重」、「航行の自由」、「非軍事化と自制の重要性」といった基本原則を強く支持し、これらを国際社会に対し力強く発信すべきと訴えた。 ミャンマー・ラカイン州情勢に関して、安倍総理大臣は、ミャンマー・バングラデシュ両国の対話を評価した上で、国連との協力の下、「安全、自発的で尊厳のある」帰還の実現を期待し、国際社会に両国の取組への後押しを求めた。 第10回日・メコン首脳会議 2018年10月9日、第10回日・メコン首脳会議が東京において開催されました。この会議には、議長を務めた安倍総理大臣のほか、メコン地域の5か国(カンボジア・ラオス・ミャンマー・タイ・ベトナム)から各国首脳が出席しました。この会議は、日本とメコン地域諸国との関係強化及びメコン地域の域内格差是正と持続的発展を目的として、2009年以降、毎年開催されており、2018年は3年に一度の日本開催の年に当たりました。 首脳写真撮影(写真提供:内閣広報室) 記念すべき10回目の今回の首脳会議では、日本とメコン諸国の協力に関する新たな指針として「東京戦略2018」が採択され、日本とメコン地域を「戦略的パートナー」と位置付けることが決定されました。同戦略は、「生きた連結性」、「人を中心とした社会」、「グリーン・メコンの実現」の三本柱に沿って、SDGsの実現、自由で開かれたインド太平洋の実現、ACMECS(注:タイが主導して立ち上げたメコン5か国自身による協力枠組み)との連携という三つの目標を掲げて、日・メコン協力を推進することを定めています。 共同記者発表(写真提供:内閣広報室) 首脳会議では、安倍総理大臣から、上述の「東京戦略2018」に基づいて日・メコン協力を力強く推進していく決意を表明したほか、メコン地域の発展に日本企業が重要な役割を果たしていることを強調しつつ、こうした実績を踏まえ、ODAを始めとした公的資金を活用し、これまで以上の民間投資の実現を後押ししていくとの方針を示しました。その上で、各国首脳に対し、日本企業の声に耳を傾け、投資環境の整備を着実に進めるよう要請しました。これに対して、各国首脳からは、これまでの日本の貢献への感謝と、今後の協力への期待が表明されました。 東京での首脳会議のほか、この機会にフン・セン・カンボジア首相は神奈川県を、アウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家最高顧問は福島県をそれぞれ訪問し、さらに各国首脳と経済界との交流も行われました。 2019年は「日メコン交流年2019」とされており、この第10回日メコン首脳会議の成功を土台として、文化面も含め更なる関係の深化が期待されています。 会議の様子(写真提供:内閣広報室) (7)日中韓協力 日中韓協力は、地理的な近接性と歴史的な深いつながりを有している日中韓3か国間の交流や相互理解を促進するという観点から引き続き重要である。また、世界経済で大きな役割を果たし、東アジア地域の繁栄を牽引する原動力である日中韓3か国が、協力して国際社会の様々な課題に取り組む観点からも、大きな潜在性を秘めた協力分野の一つである。 2018年5月には、日本の議長の下、東京で第7回日中韓サミットが開催された。日中韓の3首脳は、約2年半ぶりの日中韓サミットで日中韓協力の現状・将来について議論し、日中韓協力の新たなスタートを切り、サミットを定期開催していくことを再確認した。日中韓協力について、3首脳は、幅広い分野における3か国協力の着実な進展を歓迎し、そのための日中韓協力事務局(TCS)による取組を評価した。また、個別の協力案件の現状や将来の方向性について議論を行い、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした人的交流を始め、金融、エネルギー、環境、防災、情報通信等における協力を推進することについて一致した。また、日中韓協力をより「開かれ包摂的な」形に進化させていくことについても確認した。安倍総理大臣からは、この10年の取組について、「未来志向で包括的な協力を探求することを決意した」と述べた。その上で、第1回日中韓サミットの共同声明の精神を強調し、日中韓協力の新たなスタートを切りたいとを表明した。また、南北首脳会談直後、米朝首脳会談を控える重要なタイミングで開催されたことを踏まえ、地域の平和と繁栄に大きな責任を共有する3か国首脳が集まる機会に、北朝鮮情勢を始め、自由貿易の推進など地域・国際情勢についても議論した。 第7回日中韓サミット ~2年半ぶりの開催:新たなスタート~ 1.第7回日中韓サミット 2018年5月に東京で開催された第7回日中韓サミットは、2年半ぶりの開催となりました。また、李克強中国国務院総理及び文在寅韓国大統領の訪日は、多数国間会議への出席を除き、中国国務院総理として8年ぶり、また韓国大統領として7年ぶりのものでした。日中関係、日韓関係に様々な問題がある中、それらを乗り越えて、日中韓サミットを開催し、今後サミットを定期開催することで一致するなど、日中韓3か国の新たなスタートを切ることができたことは、大きな成果となりました。 (写真提供:内閣広報室) (写真提供:内閣広報室) 2.日中韓協力の歩み 日中韓協力は、1999年11月、アジア通貨・金融危機に直面する中、ASEAN+3(日中韓)首脳会議(フィリピン・マニラ)の際、小渕総理大臣の提案により、朝食会という形で、日中韓3か国の首脳の対話が初めて実現したことに端を発しています。これにより3か国の協力プロセスが始まり、以来、毎年ASEAN+3首脳会議の際に日中韓首脳会議が開催されるようになりました。 その後、2008年12月には、福岡で日中韓首脳会議の初の単独開催が実現しました。麻生総理大臣(当時)は、首脳会談終了後の共同記者会見の場で、この会合を「第1回日中韓サミット」と呼び、日中韓3か国の首脳が定期的に集まり、協力強化を図っていくことは「歴史の必然」であると述べました。また、日中韓の三首脳は、「未来志向で包括的な協力を探求することを決意した」との宣言を発出しました。そして、2011年には、日中韓の協力関係の更なる促進に寄与することを目的とした国際機関である「日中韓協力事務局」が設置されました。 2018年は、第1回日中韓サミットの開催から、ちょうど10年の節目の年です。この10年を振り返れば、3か国間の協力が着実に進展してきています。合計で世界の20%を占めるGDPを誇る3か国の間では、投資協定の発効に加え、日中韓FTA交渉が進行中であり、互恵的な経済圏の形成が進んでいます。また、人的交流は倍増し、今や3か国間の往来数を年間3,000万人に引き上げるとの目標を掲げるまでに至りました。さらに協力の分野も拡大され、第6回サミットから第7回サミットまで、サミットが開催されない間も、21の閣僚級会合が開催され、100以上の協力プログラムが実施されました。加えて、地域及び国際社会が直面する北朝鮮の核・ミサイル問題を解決し、朝鮮半島の非核化を実現するためには、日中韓3か国の協力は不可欠です。 日本は、今回のサミットの議論の上に立って、地域の平和と繁栄に責任を有する3か国による協力を進展させていく考えです。 (8)アジア太平洋経済協力(APEC) APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)は、アジア大洋州地域にある21の国・地域(エコノミー)で構成されており、各エコノミーの自発的な意思によって、地域経済統合と域内協力の推進を図っている。「世界の成長センター」と位置付けられるアジア太平洋地域の経済面における協力と信頼関係を強化していくことは、日本の一層の発展を目指す上で極めて重要である。 2018年パプアニューギニアAPEC首脳会議には、日本からは安倍総理大臣が出席し、2019年に日本がG20の議長を務めることも見据え、自由貿易の旗手として「世界の成長センター」であるアジア太平洋地域の繁栄、安定に積極的に貢献していくこと、「自由で開かれたインド太平洋」の提唱者、太平洋・島サミット(PALM)の主催者として、アジア太平洋地域における日本のプレゼンスを確保、強化することを表明した。 (9)南アジア地域協力連合(SAARC) SAARCは、南アジア諸国民の福祉の増進、経済社会開発及び文化面での協力、協調などを目的として、1985年に正式発足した。2018年現在、加盟国はインド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブ、アフガニスタン)8か国、オブザーバーは日本を含む9か国・機関で、首脳会議や閣僚理事会(外相会合)などを通じて、経済、社会、文化などの分野を中心に、比較的穏やかな地域協力の枠組みとして協力を行ってきた。日本は、日・SAARC間の青少年交流の一環として、これまで約3,100人を招へいしている(うち2018年度は192人)。