第2章 地球儀を俯瞰する外交 4 東南アジア (1)インドネシア 国内政治では、2019年4月の大統領選挙における候補者として、2018年9月に、現職のジョコ大統領とプラボウォ・グリンドラ党党首が立候補し、選挙キャンペーンが開始するなど、大統領選挙・総選挙を見据えた本格的な「政治の季節」に突入した。ジョコ政権は社会保障や教育の制度改革、インフラ開発等の実施により国民から高い支持を得ている。 日本との関係では、2018年に国交樹立60周年を迎え、両国において、官民一体となり様々な交流・協力事業が活発に実施された。主なものとして、1月には二階総理特使の出席の下、ジャカルタで60周年オープニング・イベント及び開会式が開催された。4月には河野外務大臣の出席の下、東京で60周年記念シンポジウムが開催された。また、年間を通じて進められた「プロジェクト2045」17において、両国有識者が将来の両国の協力についての政策提言を取りまとめた。 また、政府ハイレベルの交流として、6月の河野外務大臣によるインドネシア訪問の機会を含め、ルトノ外相との間で3度にわたり外相会談を行ったほか、11月のASEAN関連首脳会議(シンガポール)に際して、安倍総理大臣がジョコ大統領との間で首脳会談を行った。これらの会談を通じて、国交樹立60周年を迎えた両国は、政治・安全保障、経済・インフラ整備、海洋、防災、人的交流、イスラム教育支援等の分野での協力関係や、南シナ海や北朝鮮等の地域的課題における連携を更に強化していくことを確認した。 日・インドネシア首脳会談 (11月15日、シンガポール 写真提供:内閣広報室) (2)カンボジア カンボジアは、メコン地域の連結性と東南アジア地域内の格差是正の鍵を握る国であり、南部経済回廊の要衝に位置している。2030年の高中所得国入りを目指し、ガバナンス(統治)の強化を中心とする開発政策を推進している。 日本は1980年代後半のカンボジアの和平プロセスやその後の復興・開発に積極的に協力し、2013年に両国関係は「戦略的パートナーシップ」に格上げされた。両国外交関係樹立65周年の2018年には、4月に河野外務大臣がカンボジアを訪問、9月にプラック・ソコン外相が訪日、10月にフン・セン首相が日・メコン首脳会議出席のため訪日するなど、要人往来が活発に行われた。近年では、在留邦人、進出日系企業や在日カンボジア人が増加し、様々な分野で両国関係の拡大が見られる。 内政面では、2017年11月に政党法違反を理由に最大野党・救国党が解党される中、2018年7月に同党勢力の参加なく国民議会選挙が行われ、与党・人民党が全125議席を独占した。日本としては、選挙直後の8月に行われた日・カンボジア外相会談において、同選挙で無効票が多く出る等様々な点について残念であると表明した上で、カンボジアが民主的発展の道を歩み続けるよう様々な働きかけを行った。また、10月の首脳会談でも、安倍総理大臣より、カンボジアの民主化を求めつつ、若手政治関係者の招へいなどガバナンス支援を拡充する考えを伝えた。 日・カンボジア首脳会談 (10月8日、東京 写真提供:内閣広報室) 日本が長年支援しているクメール・ルージュ裁判では、11月に初級審が元国家元首を含む幹部2人に対して新たな判決を下し、無期禁固刑を宣告した。 (3)シンガポール 国内では、リー・シェンロン首相率いる人民行動党(PAP)が議会での圧倒的多数を占めているが、2018年5月の内閣改造では「第4世代」と呼ばれる40代の閣僚が占める割合が初めて過半数を超えるなど、世代交代を着々と進めている。 日本との関係では、2018年も引き続きハイレベルでの交流が実現した。10月、安倍総理大臣はアジア欧州会合(ASEM)に出席するために訪問したベルギーでリー・シェンロン首相と会談し、自由貿易の重要性を再確認し、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の早期発効及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期妥結を目指し緊密に連携することを確認するとともに、南シナ海や北朝鮮情勢についても引き続き連携していくことを確認した。また、11月には安倍総理大臣はASEAN関連首脳会議に出席するためにシンガポールを訪問し、首脳会談を実施した。加えて、河野外務大臣とバラクリシュナン外相との間では、1月、2月、8月及び12月の計4回外相会談を実施し、二国間関係の強化、自由貿易の促進、地域情勢等について議論した。 日・シンガポール首脳会談 (11月15日、シンガポール 写真提供:内閣広報室) また、両国は1997年に署名した「21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム(JSPP21)」を通じて、開発途上国に対して共同で技術協力を行っており、署名から20年経過した2018年、事業の目的として連結性の強化や法の支配を追記した改訂討議議事録(MOD)への署名を行った。また、両国の有識者間の知的交流やシンガポールにおける日本文化情報の発信拠点「ジャパン・クリエイティブ・センター(JCC)」を中心に実施している日本文化の紹介事業なども活発に行われている。 (4)タイ タイは、メコン地域の中心に位置し地政学的に重要であるだけでなく、長年の投資の結果多くの日本企業の生産拠点となり、今日では地球規模でのサプライチェーンの一角として日本経済に欠くことのできない存在となっている。軍政によって設置された官選議会と暫定内閣の下、民政復帰に向けたプロセスが進められており、タイ政府は、民政復帰のための下院総選挙を2019年3月24日に予定すると発表した。 日・タイ両国間では、皇室・王室の緊密な関係と「戦略的パートナーシップ」関係を礎に、政治面、経済面を含む様々なレベルで交流が行われている。2018年も両国間では様々なレベルで活発な交流が継続した。6月には、河野外務大臣がタイを訪問し、プラユット首相への表敬及び日・タイ外相会談が行われ、7月には、訪日したソムキット副首相と菅内閣官房長官の共同議長の下、両国の経済関係閣僚が出席し、第4回日・タイ・ハイレベル合同委員会が実施された。また、10月に、第10回日・メコン首脳会議出席のため、プラユット首相が、タイの首相として3年ぶりに日本を訪問した。 プラユット・タイ首相の訪日 (10月8日、東京 写真提供:内閣広報室) (5)東ティモール 21世紀最初の独立国家となった東ティモールは、国際社会の支援を得つつ平和と安定を実現し、民主主義に基づく国造りを実践してきた。国内では、2017年9月に発足したアルカティリ首相率いる第7次政権が議会において少数派与党であったため、国政運営の停滞が生じていた。こうした状況を打開すべく、2018年1月26日にル・オロ大統領が国民議会の解散を決定し、5月12日に国民議会議員選挙が実施された。その結果、旧国民議会における3野党から構成される「発展のための革新連合(AMP)」が全65議席中の過半数に当たる34議席を獲得し、6月20日、AMPの中心人物であるルアク前大統領を新首相とする第8次政権が発足した。 日本との関係では、8月のシンガポールでのASEAN関連外相会議の際に、河野外務大臣とバボ外務・協力相との間で、5年ぶりとなる日・東ティモール外相会談が実施された。10月には、日本の外務大臣としては、2000年の河野洋平外務大臣以来18年ぶり、2002年の東ティモールの独立回復以降では初めて、河野外務大臣が東ティモールを訪問した。この訪問の機会に、河野外務大臣は、ル・オロ大統領、ルアク首相、ペレイラ上級国務相兼閣議議長(外務・協力相代行)と会談を行い、政治・安全保障、経済・インフラ、人的交流・人材育成、海洋などの分野における二国間協力、インドネシアとの三か国協力や、地域における連携を推進・強化していくことを確認した。 日・東ティモール外相会談(10月12日、東ティモール・ディリ) (6)フィリピン フィリピンでは、2016年6月に就任したドゥテルテ大統領が、国民の高い支持と好調な経済に支えられ、引き続き強い指導力を発揮した。2017年5月のマラウィ危機後にミンダナオ地域に発出された戒厳令は継続されているが、日本を含む国際社会の支援も受けつつ、マラウィ復興に向けた努力が進められている。2018年7月には、新しい自治政府設立のためのバンサモロ基本法が成立し、住民投票を経て2019年2月にはバンサモロ暫定自治政府が発足するなど、ミンダナオ和平プロセスは重要な進捗を見せた。経済面でも包括的税制改革法が施行されるなど、税制改革が着実に実行されている。 「戦略的パートナー」である日・フィリピン関係を象徴するように、要人往来も活発に行われ、日本から野田総務大臣(1月)、石井国土交通大臣(4月)、麻生副総理大臣(5月)等がフィリピンを訪問した。フィリピンからは6月にカエタノ外相が訪日し、日・フィリピン外相会談が行われた。また、11月にはシンガポールにて安倍総理大臣とドゥテルテ大統領の間で6回目となる日・フィリピン首脳会談が行われた。 日・フィリピン首脳会談 (11月15日、シンガポール 写真提供:内閣広報室) 2017年1月に安倍総理大臣が表明した、5年間で1兆円規模の支援を着実に実施するために立ち上げられた日・フィリピン経協インフラ合同委員会を、2018年には3回(2月に第4回、6月に第5回、11月に第6回会合)開催したこと等を通じ、日本はフィリピン政府の積極的なインフラ整備を強力に後押ししている。また、スービックに寄港した海上自衛隊の護衛艦「かが」へのドゥテルテ大統領の乗艦や、海上自衛隊練習機TC-90のフィリピン海軍への移転など、安全保障面での日・フィリピン協力も進展した。 (7)ブルネイ ブルネイは、豊富な天然資源を背景に高い経済水準を実現してきた。しかし2014年以降は、世界的な原油価格の大幅下落などにより、経済成長率が落ち込んでいた。石油・ガス価格の緩やかな回復などにより、2017年第2四半期から経済成長率はプラスに回復しているものの、ブルネイ政府はエネルギー資源への過度の依存から脱却すべく経済の多角化を目指している。 日本とブルネイは長きにわたり良好な関係を維持している。現在、ブルネイの液化天然ガス(LNG)輸出総量の約6割が日本向けであり、ブルネイ産LNGは日本のLNG総輸入量の約5%を占めるなど、ブルネイは日本へのエネルギー資源の安定供給の面からも重要な国である。日本とブルネイの間では、「JENESYS2.0」や内閣府「東南アジア青年の船」などの交流事業等を通して、将来の日・ブルネイ関係を担う青少年間の交流が頻繁に行われている。バドミントンに代表されるスポーツ交流は両国関係促進にとって極めて重要である。2018年4月にブルネイ柔道連盟が発足し、日本からの協力も得つつ、柔道が着実に普及しつつある。 また、2018年には、2月に河野外務大臣が、内閣改造直後のブルネイを訪問し、エルワン第二外務貿易相と外相会談を行った。またその機会に、ムアラ港に寄港中であった海上自衛隊外洋練習航海部隊を訪問した。ブルネイからは、7月にエルワン第二外務貿易相が訪日し、河野外務大臣との外相会談が実施され、良好な二国間関係を更に活発化させ、ブルネイの経済多角化などの分野において引き続き二国間で協力していくことや、地域の課題に対する連携を強化することを確認した。ブルネイからは、ほかにも、イシャム保健相、マット・スニー・エネルギー・産業相等の閣僚が訪日するなど、活発な要人往来が行われた。8月にシンガポールで開催されたASEAN関連外相会議の際にも、河野外務大臣がエルワン第二外務貿易相との間で、河野外務大臣にとって就任以来5回目となる日・ブルネイ外相会談を行い、2015年から3年間にわたりASEANの対日調整国を務めたブルネイの貢献及び協力に謝意を表明した。 日・ブルネイ外相会談 (2月11日、ブルネイ・バンダルスリブガワン) (8)ベトナム ベトナムは、南シナ海のシーレーンに面し、中国と長い国境線を有する地政学的に重要な国である。また、東南アジア第3位の人口を有し、中間所得層が急増していることから、有望な市場でもある。現在、インフレ抑制等のマクロ経済安定化、インフラ整備や投資環境改善を通じた外資誘致を通じ、安定的な経済成長の実現に取り組んでいる。また、11月にはTPP11協定を締結し、7番目の締約国となった。さらに、行政改革や汚職対策にも積極的に取り組んでいる。 両国は、「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の下で、様々な分野で協力を進展させている。要人往来も活発に行われ、5から6月には故クアン国家主席夫妻が国賓として訪日した。9月には河野外務大臣がASEANに関する世界経済フォーラムに出席するためにベトナムを訪問し、10月には日・メコン首脳会議に出席するためにフック首相が訪日した。10月の安倍総理大臣とフック首相との首脳会談では、8月にベトナムがASEAN対日調整国となったことも踏まえて、意見交換を行った。2018年は日・ベトナム外交関係樹立45周年の節目であり、文化交流事業を含め200件以上の周年事業が実施され、両国の様々な分野での交流が発展していることを示す好機となった。 日・ベトナム首脳会談(10月8日、東京 写真提供:内閣広報室) また、元来親日的なこともあり、ベトナム国民の訪日者数も2011年の約4万人が2017年には30万人を超え、日本に暮らすベトナムの人々は2011年の約4万人から約29万人に増えており、国別在留外国人数で3番目に多い数字となっている。 日本ベトナム外交関係樹立45周年 ~拡大、深化し続ける二国間関係~ 1973年9月21日に日本とベトナムが外交関係を樹立してから2018年で45周年を迎えました。その間、日本とベトナムの関係は大いに発展し、現在、両国関係は「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の下、政治、経済、安全保障、文化、人的交流など幅広い分野で協力と交流が進展しています。 ベトナムが経済・社会の開発と国際社会での活躍を進める過程において、日本は良きパートナーであり続けてきました。特に、ベトナムへのODAを本格的に再開した1992年以来、日本は常に最大の援助国として、インフラ整備を始め、人材育成、貧困削減、保健医療等、様々な分野でベトナムの発展を支援してきました。これに伴い、両国間の投資や貿易も拡大してきました。現地の日系企業数は、2005年には約400社でしたが昨年1,800社を超え、世界第6位となっています。両国が加盟国として締結したTPP11協定の発効を受け、地域で高いレベルの貿易・投資ルールを共有する国として、更に経済関係が発展していくことでしょう。 ベトナムは親日国です。日本人や日本製品に対する信頼は高く、文化的にも似ている面があります。日本との関係が緊密になり、ベトナム自身も発展するにつれ、日本を訪れるベトナムの人々も急速に拡大しています。訪日観光客は2011年の約4万人から2017年には30万人を超えるまでに、日本に暮らすベトナムの人々は2011年の約4万人から約29万人に増えています。 2017年春の天皇皇后両陛下による初のベトナム御訪問は、このような両国間の友好関係の高まりを象徴するものとなりました。両陛下の御訪問先や沿道で多くのベトナムの人々が両国の国旗を振って温かく歓迎しました。 外交関係樹立45周年の2018年、更なる交流の強化に向けて、両国で200以上の記念行事が開催されました。両国の友好の輪が広がる中、クアン国家主席御夫妻が5月29日から6月2日まで国賓として訪日されました。滞在中、クアン国家主席は群馬県の小金井精機製作所前橋工場を視察されました。小金井精機製作所は航空機、自動車等精密部品メーカーでF1の部品も生産しており、34人のベトナム人労働者が、正式な社員として勤務しています。クアン国家主席は、ベトナム人技術者が日本人と共に生き生きと働いている様子に強い印象を持たれ、「彼らにとって、大きな誇りとなっている」と発言されました。 日本滞在中、クアン国家主席御夫妻は、宮中での歓迎式典、晩餐会(ばんさんかい)に臨まれ、天皇皇后両陛下や皇室の方々と懇談されました。また、安倍総理大臣との首脳会談も行われ、二国間関係や国際情勢について有意義な意見交換が行われました。 クアン国家主席は2018年9月21日に現職のまま逝去されましたが、在任中、日本とベトナムの関係強化に大きく貢献されました。 握手を交わす両首脳(写真提供:内閣広報室) (9)マレーシア 5月に実施された第14回連邦下院総選挙において、マハティール元首相(第4代首相)率いる野党連合(希望連盟)が過半数を獲得し、1957年のマレーシア独立以来、初めて政権交代が行われた。第7代首相に就任したマハティール首相は、6月に首相就任後初めての外国訪問先として、また、11月には大綬章(だいじゅしょう)等勲章親授式(桐花(とうか)大綬章受章)のため日本を訪問し、首脳会談を実施して緊密な両国の協力関係を確認した。7月にサイフディン外相が就任したことを受け、同月、河野外務大臣はマレーシアを訪問し、マレーシア新政権との初の外相会談を実施した。このほか、マレーシアの新閣僚の訪日も相次いでおり、両国間の要人往来が活発に行われている。 両国間の具体的な協力については、4月に、「防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定」の署名が行われ、9月には、モハマド国防相が訪日した際に、小野寺防衛大臣との間で「日本国防衛省とマレーシア政府との間の防衛協力・交流に関する覚書」が署名されたほか、11月には、レズアン起業家育成相が訪日した際に、世耕経済産業大臣との間で「日マレーシア・ハラル協力に関する覚書」が署名されるなど、様々な分野で協力が進展した。 マハティール首相が1981年に提唱した日・マレーシア間の友好関係の基盤である東方政策により、これまでに約1万6,000人のマレーシア人が日本で留学及び研修した。2011年9月に開校したマレーシア日本国際工科院(MJIIT)をASEANにおける日本型工学教育の拠点とするための協力が進められている。6月及び11月に実施された首脳会談では、東方政策がマレーシアの発展のみならず、両国民の絆(きずな)に貢献したことを確認するとともに、これを更に強化することに合意した。 日・マレーシア首脳会談 (11月6日、東京 写真提供:内閣広報室) 経済面では、日本はマレーシアに対する最大の投資国であるほか、マレーシアへの進出日系企業数は約1,300社に上るなど、引き続き緊密な協力関係にある。 (10)ミャンマー ミャンマーでは、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問率いる現政権が、民主化の定着、国民和解、経済発展に取り組んでいる。日本は、伝統的な友好国であり、経済発展への大きな潜在力及び地政学的重要性を有するミャンマーの安定が地域全体の安定と繁栄に直結するとの認識に立ち、同国の民主的国造りを官民挙げて全面的に支援している。2016年11月のアウン・サン・スー・チー国家最高顧問訪日の際には、2016年度から2020年度の5年間で、官民合わせて8,000億円の貢献を行うことを安倍総理大臣から表明した。その後、都市開発、電力、運輸インフラを含む幅広い分野において協力を具体化している。2018年10月には、安倍総理大臣が、日・メコン首脳会議出席のために訪日したアウン・サン・スー・チー国家最高顧問と会談し、ヤンゴン都市圏の市民生活向上のための新たな支援案件の実施を伝達した。 日・ミャンマー首脳会談(10月9日、東京 写真提供:内閣広報室) 西部のラカイン州では、2012年に発生したコミュニティ間衝突以降、緊張状態が継続し、特に2017年8月の武装勢力による治安部隊拠点に対する襲撃、ミャンマー治安部隊による掃討作戦及びその後の情勢不安定化により、70万人以上の避難民がバングラデシュに流出した。日本は国際社会と共に、ミャンマー政府に対し、「安全、自発的かつ尊厳のある」避難民帰還の実現、国連の関与の下での帰還環境の整備を働きかけるとともに、バングラデシュ側の避難民、ホストコミュニティ及びラカイン州側の避難民・住民に対する人道支援を実施している。また、ラカイン州における人権侵害疑惑につき、ミャンマー政府に対し、国際社会の関与を得て透明性と信頼性のある調査を実施し、その結果を踏まえた適切な措置をとるよう促している。 ミャンマー独立以来国軍との戦闘を続けている少数民族武装勢力との和平実現も重要な課題である。2017年2月までに、カレン民族同盟(KNU)等の10の少数民族武装勢力が「全国規模停戦合意(NCA)」に署名した。日本からは、笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表が、和平の当事者間の対話を促進しているほか、停戦が実現した地域の住民の生活向上のため、カレン州を始めとするミャンマー南東部において、日本のNGOと連携し、住居、学校、医療施設等のインフラ整備、農業技術指導、ソーラーパネルによる住居電化を含む復興開発支援を実施している。 (11)ラオス ラオスは、中国、ミャンマー、タイ、カンボジア及びベトナムの5か国と国境を接するメコン連結性の鍵を握る内陸国である。2018年は内政面では、2016年の第10回人民革命党大会や第8期国民議会議員選挙を経て、人民革命党の一党支配体制の下、安定した政権運営が行われた一年だった。経済面では、最優先課題として財政安定化に取り組む一方、電力、鉱物資源に牽引される形で、経済成長率は前年度と同水準の約7%と、引き続き堅調な経済成長を維持している。日本との関係では、2度にわたるトンルン首相の訪日や両国外務大臣の往来の機会を含め計3回の外相会談が実施される等、「戦略的パートナーシップ」の下、近年の緊密かつハイレベルな交流のモメンタムが維持されている。ラオス政府首脳から強い要望があった財政安定化支援については、専門家派遣や各種セミナーの実施等、官民が協力して重層的な協力が引き続き行われた。7月にアタプー県で発生したダム決壊に伴う大規模な水害では、日本政府は、JICAを通じ緊急援助物資を供与した。8月には、両国間の象徴的なプロジェクトであるビエンチャン・ワッタイ国際空港ターミナル拡張事業(コラム「ワッタイ国際空港 国際線の運営」193ページ参照)が一段落し、両国要人出席の下、引渡式が大々的に行われ、日本政府が「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて進める地域の連結性強化を印象付けた。このように、経済協力分野では、2016年9月に両首脳から発表された「日ラオス開発協力共同計画」の着実な進展が見られた。文化交流では、2月にビエンチャンにおいて、過去最大級となった「ジャパン・フェスティバル」が開催され、両国国民間の相互理解が増進された。 日・ラオス首脳会談後の署名・文書交換式 (10月8日、東京 写真提供:内閣広報室) 17 日本とインドネシアの民間有識者が、インドネシア独立100周年に当たる2045年に向けて、両国が今後どのような協力を進めていくか自由な立場での議論を行い、未来に向けた指針となる政策提言を行うプロジェクト