第1章 2018年の国際情勢と日本外交の展開 2 日本外交の展開 世界の安定と繁栄を支えてきた基本的な価値に基づく国際秩序が様々な挑戦を受ける中で、日本は、各国との連携を図りながら、従来以上に大きな責任と役割を果たさなければならない。このような認識の下、日本は引き続き国益の増進に全力を尽くすとともに、国際社会の平和と繁栄に貢献し、これまでの平和国家としての歩みを更に進めていく。 (1)地球儀を俯瞰(ふかん)する外交と「積極的平和主義」 日本にとって望ましい、安定しかつ予見可能性が高い国際環境を創出していくためには、外交努力をもって世界各国及び国際社会との信頼・協力関係を築き、国際社会の安定と繁栄の基盤を強化し、脅威の出現を未然に防ぐことが重要である。この観点から、安倍政権発足以降、日本政府は国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地球儀を俯瞰する外交を展開してきた。 安倍総理大臣はこれまで78か国・地域(延べ160か国・地域)を訪問し、河野外務大臣は、2017年8月の就任以来、63か国・地域(延べ96か国・地域)を訪問した(2019年2月18日時点)。この結果、国際社会における日本の存在感は着実に高まり、安倍総理大臣と各国首脳、河野外務大臣と各国外相や国際機関の長との個人的な信頼関係も深まっている。また、議会間交流も外交に大きな役割を果たしている。 安倍総理大臣の外国訪問実績等 河野外務大臣の外国訪問実績等 日本は国際社会の安定勢力として、引き続き各国のリーダーと信頼関係を築き、日本の国益を増進するとともに、世界の平和と繁栄のため国際社会を主導していく。 (2)日本外交の六つの重点分野 日本の国益を守り増進するため、①日米同盟の強化及び同盟国・友好国のネットワーク化の推進、②近隣諸国との関係強化、③経済外交の推進、④地球規模課題への対応、⑤中東の平和と安定への貢献及び⑥「自由で開かれたインド太平洋」の推進を六つの重点分野として外交に取り組んでいく。 【1 日米同盟の強化及び同盟国・友好国のネットワーク化の推進】 日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、地域と国際社会の平和と繁栄にも大きな役割を果たしている。地域の安全保障環境が引き続き大変厳しい状況にある中で、日米同盟の重要性はこれまで以上に高まっている。 こうした中、首脳や外相間の個人的信頼関係及び政治、経済、安保等様々な分野における、双方の同盟強化のための不断の努力により、日米同盟はかつてなく強固なものとなっており、両国は北朝鮮問題を始めとする地域及び国際社会の諸課題の解決や「自由で開かれたインド太平洋」の維持・強化に向け、緊密に連携して対応している。 また、日本は、平和安全法制及び日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の下、米国との様々な協議やメカニズムを通じて、平時から緊急事態まで「切れ目のない」対応を実施してきている。2018年は、ハイレベルの人的交流が活発に行われたほか、3月及び10月には日米拡大抑止協議を開催し、日米同盟の抑止力を確保する方途について率直な意見交換を行った。このような多層的な取組を通じ、安全保障・防衛協力を引き続き推進し、同盟の抑止力・対処力を一層強化していく。 沖縄を始めとする地元の負担軽減は政府の最重要課題の一つである。3月には、牧港補給地区の国道58号線沿いの土地(約3ヘクタール)の返還が実現した。また同月、厚木飛行場から岩国飛行場への全ての航空機部隊の移駐が完了した。普天間(ふてんま)飛行場の一日も早い辺野古(へのこ)への移設を始め、在日米軍の安定的な駐留のために、沖縄を始めとする地元の負担軽減に引き続き全力で取り組んでいく。 日米の経済分野での協力は、安全保障、人的交流と並んで日米同盟を支える三要素の一つであり、4月に開催された日米首脳会談では、茂木内閣府特命担当大臣(経済財政政策)とライトハイザー米国通商代表との間で「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)」を開始することに合意し、8月及び9月にFFRの第1回及び第2回会合を行った。また、9月の首脳会談では、日米物品貿易協定(TAG)について交渉を開始することに合意した。11月の首脳会談では、日米双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域の経済発展を実現していくことを再確認した。 また、日米同盟を基軸として、インド、オーストラリア、EUや英国、フランス、ドイツ等の欧州主要国等の戦略的利益を共有する各国との枠組みや、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含むインド太平洋の地域協力等、同盟国・友好国のネットワーク化を推進し、引き続き地域の平和と繁栄に主導的な役割を果たしていく。 【2 近隣諸国との関係強化】 日本を取り巻く環境を安定的なものにする上で、近隣諸国との関係強化は重要な基礎となる。 大局的観点から、中国との安定的な関係構築は極めて重要である。東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している。2018年は、日中平和友好条約締結40周年という節目の機会を捉えて首脳・外相を含むハイレベルでの対話が活発に行われ、日中関係が正常な軌道に戻り、新たな発展を目指す段階へと入る一年となった。5月には、李克強(りこくきょう)国務院総理が、国務院総理として2010年以来8年ぶりに日本を公式訪問し、10月には、安倍総理大臣が、日本の総理大臣として約7年ぶりに中国を訪問した。また、日中の外相相互往来も9年ぶりに実現した他、議会間・政党間交流も活発に行われ、各分野における日中間の実務的な対話と信頼醸成が着実に進められた(特集「対中ODA40年の回顧」43ページ参照)。 同時に、東シナ海における中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは断じて認められず、引き続き、関係国との連携を強化しつつ冷静かつ毅然(きぜん)と対応するとともに、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすべく、意思疎通を強化していく。 日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者問題に関する韓国大法院判決、韓国政府による「和解・癒やし財団」の解散方針発表、韓国主催の国際観艦式において自衛艦旗の掲揚をめぐり日本の艦艇が不参加を余儀なくされた事案、韓国海軍艦艇から自衛隊機に対する火器管制レーダー照射事案等、韓国側による否定的な動きが相次ぎ、非常に厳しい状況に直面している。また、日本固有の領土である竹島について、韓国国会議員による上陸や、竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査も相次いだが、その都度強く抗議を行った。政府としては、これらの困難な問題については、日本の一貫した立場に基づき、韓国側に対し適切な対応を引き続き強く求めていく考えである。 一方、日韓両国の国民間の交流は堅調であり、日韓間の往来者数は2018年に初めて1,000万人を上回った。 ロシアとは、それぞれ4回の首脳会談及び外相会談を始め、政治対話が活発に行われた。11月の日露首脳会談において、安倍総理大臣は、「1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことでプーチン大統領と合意した。さらに12月のG20ブエノスアイレス・サミット(アルゼンチン)の際の日露首脳会談では、「河野外務大臣及びラヴロフ外務大臣を交渉責任者とし、その下で森外務審議官及びモルグロフ外務次官を交渉担当者とする」ことで一致した。日露両首脳の強いリーダーシップの下、領土問題を解決して平和条約を締結すべく、引き続きロシアとの交渉に粘り強く取り組んでいく。 北朝鮮問題については、2018年6月、シンガポールにおいて歴史的な米朝首脳会談が行われ、トランプ米国大統領と金正恩(キムジョンウン)国務委員長は朝鮮半島の完全な非核化に合意した。また、2019年2月にはハノイ(ベトナム)において、第2回米朝首脳会談が開催された。同首脳会談の結果を踏まえつつ、朝鮮半島の非核化に向けて、引き続き、国際社会が一体となって米朝プロセスを後押ししていくことが重要である。日本としては、拉致(らち)、核・ミサイルといった諸懸案の包括的解決に向けて、引き続き、米国や韓国と協力し、中国やロシアを始めとする国際社会と緊密に連携していく。また、北朝鮮による拉致問題は、日本の主権と国民の生命・安全に関わる重大な問題であると同時に基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的な問題である。日本としては、その解決を最重要課題と位置付け、米国を始めとする関係国と緊密に連携しつつ、全力を尽くしていく。 インドとは、2018年10月、モディ首相が首相就任後3回目となる訪日で安倍総理大臣との間で通算12回目となる首脳会談を行い、閣僚級の外務・防衛協議(「2+2」)の新規立ち上げ、連結性向上に係る具体的協力案件特定、日印物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉開始、高速鉄道事業の進展等、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた幅広い分野における協力を表明した。 オーストラリアとは、2018年10月の第8回日豪「2+2」開催や11月の安倍総理大臣のダーウィン(オーストラリア)訪問に見られるように、基本的価値と戦略的利益を共有する特別な戦略的パートナーとして、安全保障、経済、地域情勢等の幅広い分野で協力及び連携を着実に強化している。 東南アジア諸国連合(ASEAN)の安定と繁栄は地域全体の安定と繁栄にとって極めて重要である。日本はASEANの中心性及び一体性を支持し、ASEANの更なる統合努力を支援しており、ASEAN及びASEAN各国との関係を強化している。 欧州とは、EUや北大西洋条約機構(NATO)といった機関も活用しつつ、関係を重層的に強化している。英国及びフランスとの間で安全保障・防衛分野における協力も推進している。また、太平洋島嶼(とうしょ)国との関係でも、太平洋・島サミットプロセスを通じて関係をより一層強化してきている。中央アジア・コーカサス諸国、中南米諸国等との関係も強化している。 【3 経済外交の推進】 2018年、日本政府は、引き続き、①自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルールメイキング、②官民連携の推進による日本企業の海外展開支援及び③資源外交とインバウンドの促進という三つの側面から経済外交を進めた。 自由貿易の下で経済成長を遂げてきた日本にとって、開放的でルールに基づく安定した国際経済秩序を維持・発展させることは極めて重要である。日本は、G7シャルルボワ・サミット(カナダ)及びG20ブエノスアイレス・サミット(アルゼンチン)において、世界経済、貿易などに関する議論を主導した。また、G20ブエノスアイレス・サミットの閉会セッションにおいて、安倍総理大臣がマクリ・アルゼンチン大統領から議長国を引き継ぎ、2019年6月28日から29日に開催されるG20大阪サミットへの意気込みを述べた(特集「G20大阪サミット」223ページ参照)。また、保護主義の圧力が高まる中、世界貿易機関(WTO)、アジア太平洋経済協力(APEC)、経済協力開発機構(OECD)等を通じて自由貿易や包摂的な成長に関する議論をリードした。 自由貿易を推進する取組として、2016年2月に署名された環太平洋パートナーシップ協定(TPP12)について、2017年1月に米国のトランプ政権が離脱を表明したが、日本の主導により、2017年11月にダナン(ベトナム)において米国を除く11か国間で環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)について大筋合意を達成し、2018年3月にサンティアゴ(チリ)で同協定が署名され、12月30日に発効に至った。また、日EU経済連携協定(EPA)については、2018年7月の日・EU定期首脳協議の際、安倍総理大臣、トゥスク欧州理事会議長及びユンカー欧州委員会委員長の間で署名が行われ、2019年2月1日に発効した。今後も、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)等の交渉にも同時並行で精力的に取り組み、自由で公正な21世紀型の貿易・投資ルールを世界に広げていく。 新興国を始めとする海外の経済成長の勢いを取り込み、日本経済の着実な成長を後押しするため、世界各国に設置している在外公館において、日本企業からの相談対応、官民連携による日本のインフラや技術の海外への売り込み、日本産品のプロモーションイベント等を積極的に実施し、日本企業の海外展開支援を行った。東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた輸入規制については、各国政府及び広く一般市民等に対して、正確な情報を迅速に発信するとともに、科学的根拠に基づき規制を撤廃するよう働きかけてきている。また、政府開発援助(ODA)を日本経済の成長につなげる観点から、ODA案件の日本企業による受注の積極的な推進や、ODAを活用した中小企業の海外展開事業等を実施しており、日本企業の海外展開と相手国の経済社会開発の双方に資するウィン・ウィンの協力を実現している。 資源分野では、日本及び世界のエネルギー・資源・食料の安全保障の強化に取り組んだ。2018年2月には、日本の資源の安定供給確保とエネルギー・資源外交を推進していく上での日本の具体的な取組に関して、「平成29年度エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議報告書」がまとめられた。また、7月には、外務省として、世界のエネルギー情勢及びエネルギー転換に呼応するエネルギー外交を進めていくことを表明した。また、日本は責任ある世界有数の漁業国及び消費国として、鯨類を含む海洋生物資源の適切な保存管理及び持続可能な利用に関し、積極的な役割を果たしてきている。捕鯨政策については、2018年9月国際捕鯨委員会(IWC)総会にて、異なる立場が共存することは極めて困難であり、反捕鯨国はいかなる形態であれ商業捕鯨を認める意図がないことが改めて示される結果となったことを踏まえ、日本は同年12月にIWCからの脱退通告を行った。脱退後も、引き続き、国際法に従い、科学的知見に基づく鯨類の資源管理に貢献していく。 外国人観光客については、戦略的なビザ緩和や日本の魅力の発信などを通じて訪日促進に努めており、2018年の訪日外国人は3,119万人に達した。 【4 地球規模課題への対応】 軍縮・不拡散、平和構築、持続可能な開発、防災、環境・気候変動、人権、女性、法の支配の確立といった課題は、日本を含む国際社会の平和と安定及び繁栄に関わる問題である。これらの課題は、一国のみで対処できるものではなく、国際社会が一致して対応する必要があり、これらの課題への取組は「積極的平和主義」の取組の重要な一部分となっている。 日本は、国際社会においても人権や自由・民主主義を基本的価値として尊重し、脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれた人々を大切にし、個々の人間が潜在力を最大限いかせる社会を実現すべく、「人間の安全保障」の考えの下、国際貢献を進めている。 〈国際平和協力の推進〉 日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から国連平和維持活動(PKO)を始めとする平和維持・平和構築分野での協力を重視しており、1992年以来、計27の国連PKOミッションなどに延べ約1万2,500人の要員を派遣してきた。最近では国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年から司令部要員を、2012年からは施設部隊を派遣してきた。2017年5月をもって施設部隊の活動は終了したが、UNMISS司令部においては引き続き4人の司令部要員(陸上自衛官)が活躍している。 〈テロ及び暴力的過激主義対策〉 拡大するテロ・暴力的過激主義の脅威に対し、2016年に日本がG7伊勢志摩サミットにおいて取りまとめた「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」等に基づき、①テロ対処能力向上、②テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び③穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化に取り組んでおり、2018年のG7シャルルボワ・サミット(カナダ)でも、テロに対抗するために引き続きG7が協働することが確認された。また、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)を通じた情報収集の更なる強化に努め、関係各国とテロ対策に関する協力を強化している。これらと並行して、日本企業や日本人旅行者・留学生、国際協力事業関係者を含め、在外邦人の安全対策強化に取り組んでいる。 〈軍縮・不拡散への積極的取組〉 日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を目指し、国際社会の核軍縮・不拡散に関する取組を主導していく使命を有している。日本は、核兵器国と非核兵器国の双方が参加し、国際的な軍縮不拡散体制の礎石となっている核兵器不拡散条約(NPT)を重視している。現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的かつ実践的な核軍縮措置に取り組んでいる。 河野外務大臣は、4月から5月にジュネーブで開催された2020年NPT運用検討会議第2回準備委員会に出席し、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」による透明性、検証や対話型討論等に関する提言を紹介するとともに、核兵器国、非核兵器国双方の協力の下で、現実的かつ実践的な取組を積み上げていくことが日本が信じる核廃絶に向けた道筋であると表明した。11月には長崎で「賢人会議」第3回会合が開催され、同提言を踏まえて、核兵器の廃絶に向けた道筋において解決すべき、軍縮と安全保障の関係に関する困難な問題等について中長期的な観点から議論が行われた。国連総会ハイレベルウィークにおいては、包括的核実験禁止条約(CTBT)フレンズ外相会合(2年ごとに開催される発効促進会議が開催されない年に隔年で開催)の第9回会合が開催され、河野外務大臣はペイン・オーストラリア外相と共に共同議長を務め、北朝鮮に対するCTBTへの署名・批准の呼びかけを含め、発効促進、普遍化及び検証体制の強化を訴える外相声明を発出した。また、日本は、国際的に厳しい現下の安全保障環境においても、核兵器のない世界に向け、国際社会が一致して取り組むことができる共通の基盤を形成していくことを目指し国連総会に核兵器廃絶決議案を提出した。同決議案は162か国の幅広い支持を得て採択された。 〈国連等との連携強化と国連安保理改革〉 日本は、2016年1月から2017年12月末まで国連加盟国中最多となる11回目の安保理非常任理事国を務めた。 今日の課題に国連安保理がより効果的に対処していくためには、21世紀の国際社会の現実を踏まえた形での国連安保理の改革が引き続き急務であり、日本の常任理事国入りを含む国連安保理改革に力を入れている。また、日本が常任理事国入りするまでの間、安保理非常任理事国として国際社会の平和と安全の維持に貢献し続けるために、2022年の安保理非常任理事国選挙に立候補した。 さらに、日本は国連を始め国際機関が取り組む様々な課題に対して、財政的・政策的貢献に加え、日本人職員の活躍を通じた人的貢献を行ってきており、日本人職員の増員・昇進にも努めている。 〈法の支配の強化の積極的取組〉 「海における法の支配の三原則」に基づき、「自由で開かれ安定した海洋」の維持・発展に取り組んでいる。また、航行・上空飛行の自由の普及・定着に向けた取組、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策及びアジア海賊対策協定(ReCAAP)情報共有センターへの支援等を通じたシーレーンの安全確保のための取組、サイバー空間及び宇宙空間における法の支配の強化のための国際的なルール作りや北極をめぐる法の支配の強化を含む国際社会の努力に積極的に参加し、各国との協力を強化している。 〈人権〉 人権や自由、民主主義は基本的価値であり、その保護・促進は国際社会の平和と安定の礎である。日本はこの分野において、世界の人権状況の改善に向けた取組、二国間での対話や国連など多数国間のフォーラムへの積極的な参加、国連人権メカニズムとの建設的な対話等の取組を行っている。 〈女性が輝く社会〉 G7シャルルボワ・サミット(カナダ)では、分野横断的なテーマとしてジェンダーが取り上げられた。首脳宣言等でジェンダー平等に向けた取組の継続が確認された。日本はこの機会に、途上国の女児・思春期の少女・女性に対する質の高い教育、人材育成支援のために2億ドルの支援を発表した。また、G20ブエノスアイレス・サミット(アルゼンチン)では、2017年7月のG20ハンブルグ・サミット(ドイツ)の際に立ち上げが発表され、日本が5,000万米ドルの拠出を行った女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)について、継続的な実施を歓迎することが首脳宣言の中に盛り込まれた。5回目となる国際女性会議WAW!は2019年3月にG20のエンゲージメント・グループ(国際社会におけるステークホルダーにより形成された政府とは独立した団体)の一つであるW20と同時に開催された。 〈開発協力大綱とODAの活用〉 2015年2月に閣議決定された開発協力大綱の下、国際社会の平和、安定及び繁栄並びにそれを通じた日本の国益確保に取り組むべく、日本企業の海外展開と相手国の経済社会開発の双方に資する形で、引き続き積極的かつ戦略的なODAの活用に努めている。 〈TICAD〉 日本は、1993年以来、アフリカ開発会議(TICAD)を通じてアフリカの開発支援に取り組んできた。2018年10月には東京で河野外務大臣(共同議長)の出席の下、TICAD閣僚会合が開催され、TICADV及びVIで表明した取組の進捗(しんちょく)状況を確認した。 〈質の高いインフラ〉 インフラ整備が開発途上国の「質の高い成長」に資するものとなるべきとの考えの下、2016年のG7伊勢志摩サミットで採択された「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を踏まえ、ライフサイクルコストから見た経済性及び安全性、現地雇用及び技術移転、社会・環境面への配慮、対象国の財政健全性を始めとする経済・開発戦略との整合性、効果的な資金動員に加え、インフラの開放性や透明性が確保された「質の高いインフラ」の整備を推進している。この「質の高いインフラ」の概念を広く国際社会に普及させるべく、2018年4月にはOECD開発センターと共催で「質の高いインフラの推進に関するセミナー」を、9月にはEU及び国連と共催で「質の高いインフラ投資の推進に関する国連総会サイドイベント」をそれぞれ実施し、質の高いインフラの普及に努めている。 〈持続可能な開発目標(SDGs)〉 SDGsは、2015年の国連サミットにて全会一致で採択された17の国際目標である。日本はSDGsの達成に向けた国際社会の取組を主導すべく、国内外で具体的な取組を加速化させてきた。2018年12月に総理官邸で行われたSDGs推進本部の第6回会合では、①官民を挙げたSDGsと連動する「Society5.0」の推進、②SDGsを原動力とした地方創生、③SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントを3本柱とした政府の主要な取組を取りまとめた「SDGsアクションプラン2019」を決定した。今後、同アクションプランに沿って、「豊かで活力ある社会」を実現するため、人間の安全保障の理念に基づき、世界の「国づくり」とそのための「人づくり」に貢献していく。 〈国際保健〉 「人間の安全保障」の考えを具現化する上で保健分野は重要な位置を占める。2015年9月に決定された「平和と健康のための基本方針」の下、日本は、公衆衛生危機への対応能力強化や危機対応に資するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること)の推進を始めとする保健システム強化等に取り組んでいる。加藤厚生労働大臣は、2018年9月に開催された国連総会結核ハイレベル会合に参加し、日本が、長年にわたり結核に対する国際的な技術協力を行い、また国際機関に対して資金支援してきた実績を紹介しつつ、今後も同分野において貢献していく意思を表明した。 〈気候変動〉 パリ協定は先進国・途上国の区別なく温室効果ガス排出削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成のための取組を実施することを規定した公平かつ実効的な枠組みであり、採択後、本格運用に向け実施指針に関する交渉が開始された。2018年12月、カトヴィツェ(ポーランド)で開催された国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)において、緩和・適応・透明性枠組み・市場メカニズム・資金等の各議題についての議論を基に、パリ協定の実施方針が採択された。日本は、各議題で積極的に交渉に参加し、パリ協定の精神に即した、全ての国に共通するルールの策定に貢献した。 〈科学技術の外交への活用〉 科学技術は、平和と繁栄の基盤的要素であり、外務省は、二国間及び多国間の枠組みを活用しながら、科学技術の力を外交に活用する取組を進めている。岸外務大臣科学技術顧問は、自らが座長を務める科学技術外交推進会議を通じ国内の知見を集めつつ、外務大臣及び関係部局への助言や海外での発信・ネットワーク拡充を進めている。同顧問は2018年6月の第3回国連科学技術イノベーション(STI)フォーラムにパネリストとして登壇し、STIロードマップに関する提言や、2017年に作成したSDGs実施に向けた「未来への提言」に基づき日本の取組を発信し、STIロードマップを各国が作成することを提唱した。 【5 中東の平和と安定への貢献】 中東・北アフリカ地域は、地政学上の要衝に位置するとともに、原油、天然ガスなどのエネルギー資源を世界に供給する重要な地域でもある。一方、この地域はISILなどの暴力的過激主義、難民問題等、同地域を不安定化させる様々な課題を抱えている。同地域の平和と安定を実現することは、日本を含む世界全体にとって極めて重要であり、国際社会はそれら課題の解決に向けて取り組んでいる。 日本は、国際社会と連携し、人道支援、安定化支援や中長期的な観点からの開発協力等を実施するとともに、各国に対して同地域の安定の実現に向けた建設的役割を働きかけている(特集「日本の対パレスチナ支援(JAIP・CEAPAD)」124ページ参照)。2018年4月には、ISIL退潮後(ポストISIL)のイラク安定化に向けた取組として、「イラクの治安改善のための経済開発に係る東京会議」を開催した。また、10月には、2年連続の出席となったマナーマ対話において、河野外務大臣は、日本の経験をいかし、人材育成等を通じて中東諸国が取り組む改革を後押ししていくと強調した。 【6 「自由で開かれたインド太平洋」の推進】 法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序は、国際社会の安定と繁栄の礎である。特に、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域は、世界人口の半数以上を擁する世界の活力の中核である。インド太平洋地域の自由で開かれた海洋秩序を「国際公共財」として維持・強化することは、この地域のいずれの国にも分け隔てなく安定と繁栄をもたらすものである。 この戦略を具体的に推進するため、①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、②国際スタンダードにのっとった「質の高いインフラ」整備等を通じた連結性の強化などによる経済的繁栄の追求及び③海上法執行能力の向上支援、海賊対策、防災、不拡散などを含む平和と安定のために取り組んでいる。日本は、米国、オーストラリア、インド、ニュージーランド、ASEAN諸国、太平洋島嶼国、欧州主要国等の関係国と緊密に連携しながら、具体的な取組を進めていく(特集「『自由で開かれたインド太平洋』の実現のために」24ページ参照)。 (3)対外発信と外交実施体制の強化 【対外発信】 外交政策を展開していく上では、国内及び国際社会における日本の政策・取組についての理解と支持が必要不可欠である。また、文化や食といった日本の様々な魅力の積極的発信は、国際社会での対日理解の増進に資するとともに、観光や輸出等の経済面でも重要である。特に地方の魅力の発信については、「地方から世界へ」地方の魅力を発信し、また「世界から地方へ」多くの外国人観光客、対内投資などを誘致するよう、外務省としても取り組んできている。 2018年も、これら国内外への発信を外務省ホームページやソーシャルメディアを含め様々な方法を活用しつつ実施したほか、日仏友好160周年の機会をとらえ、芸術文化、食、地方の魅力等日本文化をフランスで大規模に紹介する「ジャポニスム2018:響きあう魂」を実施した。また、日本の魅力をオールジャパンで発信していく「ジャパン・ハウス」は、2017年4月のサンパウロ開館、同年12月のロサンゼルス部分開館に続き、2018年は、6月にロンドンが開館、8月にはロサンゼルスが全館開館し、3拠点が全て開館した。 【外交実施体制の強化】 外交課題がますます難しく多様化する中、外交の実施を支える足腰を強固にすることは不可欠である。更なる合理化のための努力を行いつつ、体制の整備を戦略的に進め、外交実施体制を一層拡充していく(コラム「外務省の業務合理化・業務改善」290ページ参照)。 「自由で開かれたインド太平洋」の実現のために 安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから2年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。インド太平洋地域の厳しい安全保障環境、海賊、テロ、大量破壊兵器の拡散、自然災害、違法操業といった様々な脅威は一層顕在化しており、地域諸国が「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力する必要性はますます高まっています。こうした様々な脅威を取り除くとともに、国際スタンダードにのっとった「質の高いインフラ」整備等により域内の連結性を高めることなどを通じて、インド太平洋地域における法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持・強化することにより、この地域をいずれの国にも分け隔てなく安定と繁栄をもたらす「国際公共財」とすべく、日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進しています。 具体的には、以下の三本柱にて取組を進めていきます。 「自由で開かれたインド太平洋」の実現のための日本の取組の三本柱 ①法の支配、航行の自由、自由貿易などの普及・定着 ②国際スタンダードにのっとった「質の高いインフラ」整備等を通じた連結性の強化などによる経済的繁栄の追求 ③海上法執行能力の向上支援、防災、不拡散などを含む平和と安定のための取組 日本が目指している「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを共有する国々と共に、その実現に向けた具体的な協力が進展しています。例えば、2018年9月の安倍総理大臣の米国訪問に際しては、トランプ大統領との間で、「自由で開かれたインド太平洋」の維持・促進に向けた共通のビジョンを推進するために、第三国で実施している具体的な協力を賞賛し、インド太平洋地域における様々な分野での協力を一層強化するとの強い決意を再確認しました。11月のペンス米国副大統領訪日の機会には、「インド太平洋におけるエネルギー・インフラ・デジタル連結性協力を通じた自由で開かれたインド太平洋の促進に関する日米共同声明」を発出しました。また、10月には、訪日したモディ・インド首相との間で、日印の共通のビジョンに基づき、「自由で開かれたインド太平洋」に向けて協働していくという揺るぎない決意を改めて述べ、米国及びそのほかのパートナーと具体的な協力を拡大していく意思を共有しました。10月の日・メコン首脳会議の際にも、「日メコン協力のための東京戦略2018」において具体的な協力案件を特定しました。さらに、11月の安倍総理大臣のオーストラリア訪問に際しては、モリソン首相との間で、両国が「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを共有していることを確認し、地域の安定と繁栄のために連携していくことで一致しました。 日米首脳会談(9月26日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) 加えて、ASEANやAPEC、TICAD、PIF(太平洋諸島フォーラム)等の多国間の会議の機会を捉えて、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日本の考えや取組を各国に丁寧に説明しています。今後とも、関係国と緊密に連携しながら重層的な協力関係を築き、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を一層具体化していく考えです。