第4章 国民と共にある外交 4 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施状況 ハーグ条約は、子の利益を最優先するという考えの下、国境を越えた子どもの不法な連れ去りや留置をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして、子どもを元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力等について定めた条約である。 この条約は、日本については2014年4月1日に発効し、現在、日本を含め98か国がこの条約に加盟している。 条約は、各締約国の「中央当局」として指定された機関が相互に協力することにより実施されている。日本では外務省が中央当局として、様々な分野の専門家を結集し、外国中央当局との連絡・協力、子の所在特定、問題の友好的解決に向けた協議のあっせんなどの当事者に対する支援を行っている。 ハーグ条約発効から2017年12月末までの3年9か月間に、外務大臣は、子の返還を求める申請を152件、子との面会交流を求める申請を120件、計272件の申請を受け付けた。このうち、日本から外国への子の返還が求められた事案のうち47件について、子の返還が実現又は返還しないとの結論に至っており、外国から日本への子の返還が求められた事案については、35件について結論に至っている。 条約発効から3年を迎えるに当たり、2017年1月及び3月には、外務省領事局長主催の研究会を実施し、これまでのハーグ条約の実施状況及び課題について、ハーグ条約の実施に精通した外部有識者を交え議論を行った。成果物である「議論のとりまとめ」では、日本が条約をおおむね円滑に実施しているとの評価と共に、今後あり得べき改善点や検討の方向性等が示された。2017年2月には「在京外交団のためのハーグ条約セミナー」を開催し、3月には紛争下の子どもの福祉について専門的知見を有している心理専門家を豪州から招へいし、日本のハーグ条約の実施に携わる関係者に知見を共有する機会を設けた。また、10月にはオランダ・ハーグで、62か国・地域の代表団ほか約290人が参加した「ハーグ条約の運用に関する特別委員会(5年に1度開催されるもの)」に出席し、各国と議論した。さらに12月には、ハーグ国際私法会議(HCCH)との共催で「アジア太平洋のためのハーグ条約に関する東京セミナー」を開催し、条約加入に必要な国内体制や条約実施の在り方などについて、アジア太平洋の14か国・地域からの参加者の間で率直かつ活発な議論が行われた(コラム「ハーグ条約の周知:広報活動」277ページ参照)。 ハーグ条約の国内実施法に基づく外務省に対する援助申請の受付件数(2017年12月末現在)   返還援助申請 面会交流援助申請 日本に所在する子に関する申請 83件 92件 外国に所在する子に関する申請 69件 28件 ハーグ条約の周知:広報活動 2014年4月1日に日本において「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下「ハーグ条約」といいます。)が発効しました。外務省領事局ハーグ条約室はハーグ条約における日本国中央当局の役割を担っており、ハーグ条約についての認識不足を理由とした安易な子の連れ去り等を予防することが重要であるとの観点から、ハーグ条約の周知を目的とした様々な広報活動を行っています。 1 セミナーの実施 ハーグ条約室では、条約が発効してから全国の地方自治体、弁護士会、警察、入国管理局、裁判所、DV被害者支援団体等でセミナーを行っています。2016年度には34か所、約1,200人に対して、ハーグ条約、日本中央当局が提供している各種支援等について説明を行いました。また、2016年6月には、ハーグ国際私法会議(HCCH)及び早稲田大学と共催で、アジア太平洋地域を中心に21の国と地域から64人の専門家を迎えて、「ハーグ条約にかかるアジア太平洋シンポジウム」を開催しました。条約実施に関わる関係者の知見を深め、実施体制の強化を図るとともに、ハーグ条約非締約国に締約国の知見を共有することが目的でした。2017年2月には、「在京外交団のためのハーグ条約セミナー」を開催し、非締約国17か国を含む59の国から77人の参加を得ました。さらに、12月には、アジアの非締約国の条約加入及び新規締約国の実施環境整備の促進を目的として、「アジア太平洋のためのハーグ条約に関する東京セミナー」を開催しました。 2 リーフレット等の配布 ハーグ条約室では、マンガを用いながらハーグ条約について分かりやすく説明したA4版パンフレット、ハーグ条約の概要をまとめた手の平サイズのリーフレット等を作成し、国内関連機関、在京大使館、在外公館等を通じて配布しています。リーフレットは、日本語、英語、イタリア語、韓国語、広東語、スペイン語、タイ語、タガログ語、ドイツ語、フランス語、北京語、ポルトガル語、ロシア語と合計13の言語で作成しています。また2017年には、子を連れ去られた親等を対象にしたリーフレットと安易な子の連れ去りの予防を目的としたポスターを新たに作成しました。これらのほかにも、インターネット広告、政府広報テレビ番組の作成及び放送(2017年3月)といった取組を行っています。 外務省リーフレット 「子どもと海外へ行く方へ、日本へ戻る方へ」 外務省リーフレット 「海外にいるお子さんを連れ戻したい/会いたい方へ」 このように、ハーグ条約室は、より多くの人々にハーグ条約について正しく理解していただくために様々な活動を行っています。今後も、一方の親による不法な子の連れ去りを防止すべく、より一層広報活動に努めていきます。