第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 地球規模課題への取組 (1)持続可能な開発のための2030アジェンダ 「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までの国際開発目標である。 2030アジェンダは、先進国を含む国際社会全体の開発目標として相互に密接に関連した17の目標と169のターゲットから成る「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げている。 日本は、国際社会の議論が本格化する前から、2030アジェンダの議論や交渉に一貫して積極的に貢献してきた。まず、SDGs実施に向けた基盤整備として、日本は内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とするSDGs推進本部を設置し、SDGsの実施に向けた日本の指針となるSDGs実施指針を策定し、日本が特に注力する8つの優先課題を掲げた。また、SDGs実施に向けた官民パートナーシップを重視するため、NGO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まるSDGs推進円卓会議をこれまで4回開催し、SDGs推進に向けた地方やビジネス界の取組等につき、意見交換を行っている。国際協力の面では、例えば7月の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)では、次世代に着目し、教育、保健、防災、ジェンダー分野等を中心に2018年までに10億米ドル規模の支援を行うと表明した。 12月の第4回SDGs推進本部会合では、外務省のみならず関係府省庁のSDGsに向けた主要な取組を「SDGsアクションプラン2018」として発表した。同アクションプランでは、日本の「SDGsモデル」を発信すべく官民を挙げたSDGsと連動する「Society5.0」の推進、SDGsを原動力とした地方創生及びSDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントをモデルの基本的方向性として掲げた。同時に、SDGsに向けて優れた取組を行っている企業・団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」第1回表彰式を実施した。2018年は、日本政府が一体となって、SDGsの取組を一層具体化・拡充するとともに、官民の好事例を共有することで、国内での更なるSDGs実施推進につなげていく。 SDGs全17ゴールのロゴ(出典:国連広報センター) 第4回SDGs推進本部会合の様子(12月26日、東京 写真提供:内閣広報室) 持続可能な開発目標(SDGs) ~多様なステークホルダーとの連携~ 持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年の国連サミットにて全会一致で採択された、先進国を含む国際社会全体の開発目標です。日本は、SDGsの実施を通じた「誰一人取り残さない」多様性と包摂性のある社会の実現のため、広範なステークホルダーの叡智(えいち)を結集させながら、国内外の取組を積極的に推進しています。今回の特集では、2017年のSDGsに関する具体的な取組事例を御紹介します。 SDGs推進本部長賞受賞の様子(12月26日、東京・総理大臣官邸 写真提供:内閣広報室) SDGsを推進する上で、国民の認知度向上を図ることは非常に重要です。政府は2017年6月のSDGs推進本部会合で、SDGsの幅広い訴求を目的として、SDGs達成に資する優れた取組を行っている日本の企業・団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」の創設を決定しました。受賞者は、NGO・NPO、有識者、民間セクター、国際機関等の広範な関係者が集まるSDGs推進円卓会議構成員から成る選考委員会の意見を踏まえて決定されました。12月に行われた第1回目の表彰式では、多数の応募の中から北海道下川町がSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞しました。 また、著名なエンターテイナーであるピコ太郎氏との連携によるSDGsの普及啓発も推進しています。2017年7月に開催された、SDGsの国際的なフォローアップの場である国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)(於:ニューヨーク)で岸田外務大臣は、日本のSDGsに関するアプローチとして「官民パートナーシップ(Public Private Action for Partnership:PPAP)」を提唱しました。同じく「PPAP」のキーワードを掲げるパフォーマンスで世界的に有名なピコ太郎氏が、HLPFの日本政府主催レセプションにてパフォーマンスを披露し、幅広い国内外のメディアに報道されるなど、大きな反響を呼びました。 HLPFでの日本政府主催レセプションでパフォーマンスをするピコ太郎氏(7月17日、米国・ニューヨーク) こうした取組を踏まえて、SDGsの更なる関心喚起のため、本年9月に行われた「グローバルフェスタ・ジャパン 2017」では、ピコ太郎氏をSDGs推進大使に任命しました。このような幅広いステークホルダーを巻き込んだ取組により、SDGsへの認識は着実に高まっています。また同月、日本証券業協会がSDGsに関する懇談会を立ち上げました。さらに、11月上旬には、経団連が、企業が守るべき行動指針を記した「企業行動憲章」を7年ぶりに改定し、Society5.0の実現を通じたSDGsの達成を柱に掲げました。民間企業が、CSR(企業の社会的責任)を超えて本業として取り組む動きが加速しているなか、政府としても、企業への具体的な支援策等を通じて、こうした動きを後押ししていきます。 SDGsは、政府だけでは達成することはできません。全てのアクターがSDGsを「自分ごと」として捉える必要があります。政府としても日本を、世界を元気にすべく、今後も率先して取り組んでいきます。 ア 「人間の安全保障」 「人間の安全保障」とは、一人ひとりを保護するとともに、自ら課題を解決できるよう能力強化を図り、個人が持つ豊かな可能性を実現できる社会造りを進める考え方である。日本は、「人間の安全保障」を外交の柱の一つと位置付け、国連などでの議論や、日本のイニシアティブにより国連に設置された「人間の安全保障基金」の活用、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」などの支援を通じ、この概念の普及と実践に努めてきた。2030アジェンダも、「人間中心」や「誰一人取り残さない」といった理念に基づくものとなっており、「人間の安全保障」の考え方を中核に据えている。 イ 防災分野の取組 防災分野については、毎年世界で2億人が被災(犠牲者の9割が開発途上国の市民)し、自然災害による経済的損失は年平均2,500から3,000億米ドルに及ぶ。防災の取組は、貧困撲滅と持続可能な開発の実現にとって不可欠である。 日本は、幾多の災害の経験により蓄積された防災・減災に関する知見をいかし、防災の様々な分野で国際協力を推進している。2015年3月に第3回国連防災世界会議を仙台で開催し、同年から15年間の国際社会の防災分野の取組を規定する「仙台防災枠組」の採択を主導した。また、日本独自の貢献として「仙台防災協力イニシアティブ」を発表し、2015年から2018年までの4年間で計40億米ドルの協力の実施や計4万人の人材育成を行うことを表明するなど、防災分野での協力を積極的に進めている。 さらに、日本が提案し2015年12月に第70回国連総会で全会一致で制定された「世界津波の日(11月5日)」に合わせ、2016年、日本は、世界各地で津波に関する啓発のための各種会議や避難訓練等を主導し、同年11月には高知県黒潮町で「世界津波の日高校生サミット in 黒潮」を開催した。このサミットでは、防災の経験と教訓を未来世代である若者に引き継いでいくことを目的として、津波の影響を受けやすい国々の高校生を日本に招へいし、日本の高校生と共に日本の津波の歴史や各国における防災・減災の取組などを学習した。2017年は11月7日及び8日に第2回目となる「『世界津波の日』2017 高校生島サミットin沖縄」を沖縄県宜野湾市で開催した。今後も災害で得た経験と教訓を世界と共有し、各国の政策に防災の観点を導入する「防災の主流化」を引き続き推進する考えである。 ウ 教育分野の取組 教育分野では、2015年9月の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択のタイミングに合わせて、日本の教育協力分野の新たな戦略となる「平和と成長のための学びの戦略」を発表した。新戦略では、基本原則として、「包摂的かつ公正な質の高い学びに向けての教育協力」、「産業・科学技術人材育成と持続可能な社会開発のための教育協力」及び「国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大」を掲げており、同戦略の下、世界各地で様々な教育支援を行っている。また、教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)などの教育支援関連会合にも積極的に参加している。 エ 農業分野の取組 日本はこれまでG7やG20などの関係各国や国際機関とも連携しながら、開発途上国の農業・農村開発を支援している。2016年4月にはG7新潟農業大臣会合を開催し、世界の食料安全保障の強化に向けた「新潟宣言」を採択・発出した。 オ 水分野の取組 日本は、1990年代から継続して水分野でのトップドナーであり、日本の経験・知見・技術をいかした質の高い支援を実施している。国際社会での議論にも積極的に参加しており、日本のこれまでの貢献を基に、水分野のグローバルな課題に取り組んでいる。 (2)国際保健 人々の生命を脅かし、あらゆる社会・文化・経済的活動を阻害する保健課題の克服は、「人間の安全保障」に直結する国際社会の共通の課題である。日本は「人間の安全保障」を提唱し、それを「積極的平和主義」の基礎とするとともに各種の取組を推進してきており、保健をその中心的な要素と考えている。日本は、世界で最も優れた健康長寿社会を達成しており、保健分野における日本の積極的な貢献に一層期待が高まっている。日本は、保健分野への支援を通じて、人々の健康の向上、健康の権利が保障された国際社会の構築を目指している。 このような理念の下、日本はこれまで多くの国や、世界保健機関(WHO)、世界銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)、Gaviワクチンアライアンス(Gavi)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)といった様々な援助機関と協力しながら、感染症や母子保健、栄養改善などの保健課題の克服に大きな成果を上げてきた。 2015年に策定された開発協力大綱の課題別政策である「平和と健康のための基本方針」に基づき、日本は全ての人への生涯を通じた基礎的保健サービスの提供を確保するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成を念頭に、指導力を発揮し、議論を主導した。 9月の国連総会では、UHC推進のためのイベントを主催した。同イベントで安倍総理大臣は、持続可能な開発目標(SDGs)で国際的な目標と位置付けられたUHCの達成は、保健課題への対応のみならず、人々の生活の基盤形成や格差の是正につながり、SDGsの多くの目標を達成する上で非常に重要な役割を担うと述べ、国際保健分野を牽引(けんいん)するリーダーたちとUHCの重要性を再確認した。12月に東京で開催されたUHCフォーラム2017には、グテーレス国連事務総長のほか、各国元首、保健大臣、国際機関の長等多数の関係者が参加した。同フォーラムで安倍総理大臣は、UHC推進を加速するために、UHC推進のモメンタム強化、政府・ドナー間の連携促進、継続的なモニタリング、国内外の資金動員、イノベーション促進が重要であると強調した上で、各国、各機関のUHCの取組を後押しするため、今後29億米ドル規模の支援を行うことを表明した。また、人々の健康の基盤となる栄養分野の取組促進のため、2020年に栄養サミットを開催することを発表した(特集「UHCフォーラム2017」198ページ参照)。 UHCフォーラム2017 「すべての人に健康を(Health for All)」、その理念を実現するのは容易ではありません。最新のデータによれば、世界の人口の少なくとも半数がいまだに必要不可欠な保健サービスへアクセスすることができておらず、その状況を改善するために、国際社会はより積極的な活動を行う必要があります。 日本は、国民皆保険制度を始めとする知見をいかし、国際保健分野で主導的役割を果たしてきました。安倍総理大臣は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をジャパンブランドとして推進し続けており、G7やTICAD、国連総会の機会でも積極的に取り上げています。 ※ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (Universal Health Coverage:UHC) 「全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること。」 ※2017年の国連総会で12月12日を国際UHCデーと制定しました。 その中で、UHCを更に促進すべく、2017年12月13日及び14日、「UHCフォーラム2017」が東京で開催されました。このフォーラムは、外務省、財務省、厚生労働省、世界銀行、世界保健機関(WHO)、国連児童基金(UNICEF)、UHC2030及び国際協力機構(JICA)が共催し、61か国から約600人が参加しました。 このフォーラムでは、安倍総理大臣を始め、各国の元首・保健大臣を始めとする政府高官、グテーレス国連事務総長、キム世界銀行総裁、テドロスWHO事務局長、レークUNICEF事務局長を始めとする国際機関等の代表、国際保健の専門家が一堂に会し、国際的なUHC推進に向けて活発な議論が交わされ、2030年までにUHCを達成すべく取組を加速させるためのコミットメントとして、会議共催者による「UHC東京宣言」を採択しました。 安倍総理大臣は、「誰一人取り残さない」社会の実現というSDGsの理念を実現する上で、UHC推進の「プラットフォーム」を構築、強化することを提言し、UHCの基盤となる水・衛生、栄養などの分野横断的な取組の重要性を強調した上で、各国、各機関のUHCの取組を後押しするため、日本が今後29億米ドル規模の支援を行うことを表明しました。 また、専門家会合も行われ、世界のUHC及び公衆衛生危機対応への進捗状況や、UHCに関する国際的な各種イニシアティブが紹介されました。テーマ別分科会では、UHCの重要な課題である保健システム・保健人材の強化、UHCのファイナンス、医薬品アクセス、高齢化社会の保健ニーズなどについて、活発な意見交換が行われました。 2019年には国連UHCハイレベル会合が開催される予定であり、今後も日本は各国・各機関などと協力し、UHCを促進していきます。 ハイレベルオープニングセッション (12月14日、東京 写真提供:内閣広報室) (3)労働 雇用を通じた所得の向上は、貧困層の人々の生活水準を高めるために重要である。また、世界的にサプライチェーンが拡大する中で、労働環境の整備等を図り、国際的に「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現に取り組んでいく必要がある。このディーセント・ワークの実現は、2019年に創設100周年を迎える国際労働機関(ILO)でも、その活動の主目標に位置付けられている。 こうした中で、日本も労働分野での開発協力に取り組んでいる。2017年には、ILOへの任意拠出金や国際的な労使団体のネットワークへの支援を通じ、アジア・太平洋地域の開発途上国に対し、社会保障、能力開発、労働安全衛生等の労働法令の整備や実施体制の改善のための技術協力等を行った。 また、5月には、ライダーILO事務局長が4年ぶりに訪日し、安倍総理大臣及び岸田外務大臣を表敬するとともに、同事務局長と塩崎恭久厚生労働大臣が協力覚書に署名し日本とILOの協力強化を確認した。 (4)環境問題・気候変動 ア 地球環境問題 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において環境分野の目標が記載されるなど、地球環境問題への取組の重要性が国際的により一層認識されている。日本は、多数国間環境条約や環境問題に関する国際機関等における交渉及び働きかけを通じ、自然環境の保全及び持続可能な開発の実現に向けて積極的に取り組んでいる。12月にナイロビ(ケニア)で開催された第3回国連環境総会(UNEA3)においても、環境分野における国際協力の一層の進展を図るための議論が行われた。 (ア)生物多様性の保全 「生物多様性条約」の下にある「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」及び「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書」について、日本は、それぞれ5月及び12月に締結した。これらの議定書を着実に実施することも含め、生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた国際的な協力を一層推進していく。 近年、ゾウやサイを始めとする野生動植物の違法取引が深刻化し、国際テロ組織の資金源の一つとなっているとして、国際社会で注目されている。そのような中、9月、国連総会において今回で3年連続となる野生動植物違法取引対策に関する決議が採択され、これまでと同様に日本は共同提案国として参加した。 11月、リマ(ペルー)での国際熱帯木材機関(ITTO)第53回理事会において、持続可能な森林経営の促進に向けた議論が行われた。 (イ)化学物質・有害廃棄物の国際管理 8月、水銀が人の健康及び環境に及ぼすリスクを低減するための包括的な規制を定める「水銀に関する水俣条約」が発効し、9月、締約国のうち日本を含む68か国の出席の下、第1回締約国会議がスイス・ジュネーブで開催された。日本は、水銀による被害を防ぐための技術やノウハウを世界に積極的に伝え、グローバルな水銀対策を推進すべく、引き続きリーダーシップを発揮していくと表明した。 11月、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」第11回締約国会議及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」第29回締約国会合の合同会合がモントリオール(カナダ)で開催された。これらの会合では、昨年、規制対象物質にハイドロフルオロカーボン(HFC)を追加する議定書が採択されたことも踏まえ、オゾン層を破壊する物質等の生産・消費規制の実施に関する議論が行われた。 (ウ)海洋環境の保全 6月、ニューヨークの国連本部で「SDG14実施支援国連会議」が開催され、海洋・海洋資源の保全及び持続可能な利用に焦点を当てた取組の推進について議論が行われた。日本は、海洋ごみや海洋酸性化に係る対策、太平洋・島サミット(PALM)や小島嶼(とうしょ)開発途上国(SIDS)国際会議などに対する協力を発信し、SDG14の達成に向け引き続き貢献していく姿勢を表明した。 7月、G20ハンブルク・サミット(ドイツ)では、「G20資源効率性対話」及び「G20海洋ゴミ行動計画」の二つのイニシアティブの立ち上げが宣言された。 9月、廃棄物の海洋投棄等を規制する「ロンドン議定書」第12回締約国会議が開催され、戦略計画の実施・運用計画案が採択された。 12月、富山で、日本海及び黄海の海洋環境保全について日本・中国・韓国・ロシアが協力する北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の第22回政府間会合が開催され、2018年から2023年までのNOWPAPの「中期戦略」、「海洋ごみ地域行動計画」等について合意された。 イ 気候変動 (ア)パリ協定と国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23) 気候変動の原因である温室効果ガスの排出削減には、世界全体での取組が不可欠であるが、1997年のCOP3で採択された京都議定書は、先進国にのみ削減義務を課す枠組みであった。2011年の「ダーバン合意」4を始めとする数年にわたる精力的な交渉の結果、2015年12月、パリで開催されたCOP21で、先進国・途上国の区別なく、温室効果ガス削減に向けて自国の決定する目標を提出し、目標達成に向けた取組を実施すること等を規定した公平かつ実効的な枠組みである「パリ協定」が採択された。同協定は2016年11月に発効し、日本を含む170か国以上の国が締結している(2017年12月時点)。2017年6月、米国はパリ協定から脱退する意向を表明したが、引き続きCOP等の気候変動交渉には参加している。 2017年11月にフィジーが議長国を務め、ボン(ドイツ)で開催されたCOP23では、前年のCOP22で決定された2018年のCOP24での策定期限に向け、パリ協定の実施指針に関する議論を進展させることに焦点が当たる形で議論が行われた。日本はCOP23において、①パリ協定の実施指針に関する議論の推進、②2018年に実施が予定されている、温室効果ガスの削減に関する世界全体の努力の進捗状況を検討するための促進的対話(「タラノア対話」)のデザインの完成及び③グローバルな気候行動の推進の三つの成果を目指して交渉に参加し、それらの目標をおおむね達成することができた。議論の中では、一部開発途上国から、先進国と途上国の取組に差を設けるべきとするパリ協定採択以前の主張がなされるなどパリ協定における合意事項を逸脱する動きや、全ての議題を均等に扱おうとする動きがあった。日本はほかの先進国と共に、全ての国の取組を促進する指針を策定する必要があり、先進国と途上国とを二分化した指針とすべきではないこと等を主張したが、依然として一部開発途上国とその他の国で明確な主張の違いがある。そのため、2018年のCOP24における指針の採択に向けて、パリ協定における合意事項に沿ってどのように建設的に実施指針をまとめていくかが課題となる。日本は議長国のフィジーに対して、COP準備段階からアジア太平洋地域におけるCOP23準備ワークショップの開催等様々な支援を行うなど、交渉及びグローバルな気候行動の推進の両面からサポートを行い、COP23の成功に貢献した。日本は来るCOP24での議論、パリ協定の実施指針の策定も含め、今後ともパリ協定を更に実効的なものにするために、関係国と緊密に連携しながら、関連交渉に積極的に取り組んでいく。 (イ)開発途上国支援に関する取組 多くの開発途上国は、自国の資金と実施能力だけでは十分な気候変動対策を実施できないことから、日本を含む先進国は開発途上国に対して積極的な支援を行ってきている。こうした観点から、開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への適応を支援する多国間基金である緑の気候基金(GCF)も重要な役割を果たしている。日本は、2015年に成立した「緑の気候基金への拠出及びこれに伴う措置に関する法律」に基づき資金を拠出しているほか、GCF理事国として支援案件の選定を含む基金の運営に積極的に参画している。2017年12月までに54件の支援案件がGCF理事会で承認された。 (ウ)二国間オフセット・クレジット制度(JCM) JCMは、開発途上国への優れた低炭素技術等の普及や対策の実施を通じ、地球規模での温暖化対策に貢献するとともに、温室効果ガス排出削減・吸収に対する日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用する仕組みである。日本は、2017年12月時点で17か国とJCMを構築しており、120件以上の温室効果ガス排出削減・吸収プロジェクトを実施している。2017年も、モンゴル及びベトナムのJCMプロジェクトからクレジットが発行されるなど、成果を着実に上げている。 (エ)日本による気候変動と脆弱性(ぜいじゃくせい)リスクに関する取組 気候変動が各国の経済・社会の安定に影響を及ぼし得るとの見方は近年強まっており、紛争や平和構築といった安全保障上への影響についての関心も高まりを見せている。このような背景の下、G7外相会合や作業部会において議論が続けられてきた、気候変動の脆弱性(ぜいじゃくせい)リスクに関する取組として、2017年1月にG7各国関係者や内外の専門家等を招いた円卓セミナーを開催した。その後、国内外の様々な専門家から得られた示唆等を基に、同テーマに係る報告書、「気候変動に伴うアジア・太平洋地域における自然災害の分析と脆弱性への影響を踏まえた外交政策の分析・立案」をまとめ、9月に公表した。同報告書の内容と行われた成果については、10月にイタリアで行われたG7気候変動と脆弱性作業部会で日本の貢献として提出しているほか、9月のフィジーにおけるCOP準備ワークショップで参加した大洋州諸国に対して紹介するとともに、COP23の日本パビリオンにおけるサイドイベントでも発表し、いずれの出席者からも好意的な評価が得られている。 (5)北極・南極 ア 北極 (ア)急速に変化する北極環境と日本の対応 地球温暖化による北極環境の急速な変化(海氷、永久凍土、氷床・氷河の融解等)は、この地域で生活する先住民を始めとする北極圏の人々の生活や生態系に深刻で不可逆的な影響を与えるおそれがある。一方、海氷の減少に伴い利用可能な海域が拡大し、北極海航路の利活用、鉱物・生物資源の開発といった新たな可能性と経済活動に対する関心が高まっている。 このような環境において、北極の環境を保全しつつ持続的な発展が可能となる適切な経済活動の在り方についての議論が行われている。また、北極における領有権問題や海洋境界画定問題における法の支配に基づく対応を確保すべく、北極評議会(AC)や国際海事機関(IMO)を始めとする国際場裏で、国際的なルール作りに関する議論も行われている。 北極に対する国際社会の関心の高まりを踏まえ、また、より具体的な取組の方針を明確にするために、2015年10月、日本は包括的な北極政策として初めて「我が国の北極政策」を策定し、日本の目指す姿を明らかにした。 (イ)北極問題に対する日本の国際的取組 これに基づき、日本は、特に強みである科学技術をいかして、北極をめぐる課題への対応で国際社会に貢献している。 a 研究開発 グローバルな政策判断・課題解決に資する北極域研究を推進するため、2015年度に北極域研究推進プロジェクト(ArCS)を立ち上げ、北極域での国際共同研究やステークホルダーとの連携体制を継続して強化している。また、米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、グリーンランド(デンマーク)の北極域の研究・観測拠点で研究や人材育成のための国際連携を推進している。 b 国際協力 井出敬二北極担当大使は、2013年に日本がオブザーバー資格を取得したACの高級北極実務者(SAO)会合を始め、ロシア、アイスランド、フィンランド及びデンマークで開催された北極に関連する国際会議に出席し、北極問題に対する日本の取組や考えを積極的に発信したほか、北極圏を含む関係国と北極に関する意見交換を行った。また、日本の研究者は、特定のテーマについて専門的に議論するACの作業部会で、日本の北極域研究の成果を発信するとともに、北極を取り巻く諸課題の解決に向けて、各国の研究者と協働している。 6月、日本は、2015年の第6回日中韓サミットで立ち上げられた北極に関する日中韓ハイレベル対話の第2回会合を東京で開催した。3か国の北極担当大使及び北極担当特別代表の出席の下、ルールを基礎とした海洋秩序に基づき協力を維持することの重要性、北極に関する科学研究の分野における3か国の協力案件に言及した共同声明を採択した。 第2回北極に関する日中韓ハイレベル対話(6月8日、東京) c 持続的な利用 北極海航路の将来の可能性を見据えて国際社会の関心が高まる中、日本も同航路の安定的な利用とそのための環境整備、船舶による海洋環境への影響や航行安全の確保に関し、ACを始めとする国際的な議論に参加し、国際連携の重要性を発信している。 イ 南極 (ア)南極条約 1959年に採択された南極条約は、基本原則として、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力及び③領土主権・請求権の凍結を定めている。 (イ)南極条約協議国会議と南極の環境保護 5月22日から6月1日にかけて北京(中国)で開催された第40回南極条約協議国会議(ATCM40)では、南極における観光及び非政府機関の活動等について活発な議論が行われ、緊急事態対処等に関するガイドラインの改訂、新規に協議国の資格を申請する際の手続及びガイドラインが作成された。また、本年で任期を終了するラインケ事務局長(ドイツ出身)の後任として、ルベラス氏(ウルグアイ出身)が次期事務局長に選出された(ルベラス氏は9月に着任)。 (ウ)日本の南極観測 南極地域観測第9期6か年計画(2016年から2021年まで)に基づき、現在、地球システムや地球環境変動の解明及び将来予測を目指し、長期にわたり継続的に実施する観測に加え、大型大気レーダーによる観測を始めとした各種研究観測を実施している。 4 ①2015年までに全ての国が参加する新たな法的枠組みに合意し、②枠組みを2020年から発効させる等がその内容。COP17において決定された。