第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 7 人権 (1)国連における取組 ア 国連人権理事会 国連人権理事会は、国連での人権の主流化の流れの中で、国連の人権問題への対処能力の強化を目的に、人権委員会を改組する形で2006年に設立された。1年を通じてジュネーブで会合が開催され(年3回の定期会合、合計10週間以上)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。日本は、これまで、2006年6月から2011年6月(1期目・2期目)まで及び2013年1月から2015年12月(3期目)まで理事国を務めた。直近では、2016年10月の選挙で当選し、2017年1月から2019年12月まで理事国を務めている(4期目)。 人権理事会議場(写真提供:UN Photo/Jean-Marc Ferré) 2017年2月及び3月に開催された第34会期ハイレベルセグメントでは、滝沢外務大臣政務官がステートメントを行った。その中で、滝沢外務大臣政務官は、日本は再び国連人権理事会のメンバーとなり、引き続き、自由、民主主義、基本的人権、法の支配等の基本的価値を重視する外交を進めつつ世界の人権・人道状況の改善に向けて取り組むと述べた。 同会期では、日本とEUが共同で提出した北朝鮮人権状況決議が無投票で採択された(採択は10年連続)。同決議は、北朝鮮の組織的広範かつ深刻な人権侵害を最も強い表現で非難し、北朝鮮に対し、拉致問題を含む全ての人権侵害を終わらせるための措置を早急に採ることを要求するとともに、国連安保理で北朝鮮の人権状況等が議論されたことを歓迎し、国連安保理の継続的かつ積極的な関与を期待するとしている。さらに、北朝鮮における人権侵害に係る説明責任の問題に重点的に取り組む専門家グループの勧告を実施するため、ソウルにある現地事務所を含む国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の能力を強化することとしている。 6月の第35会期では、日本がブラジル、エチオピア、フィジー及びモロッコと共同で提出したハンセン病差別撤廃決議が全会一致で採択された。同決議の共同提案国は50か国に達した。この決議は、全世界でハンセン病に関連する差別問題に苦しむ人々の人権を守るため、人権理事会としてハンセン病差別撤廃に関する特別報告者を3年間の任期で任命することを決定し、また、国連人権高等弁務官及び同特別報告者に対してハンセン病差別に関するセミナーを実施するよう奨励している。 9月の第36会期では、日本はカンボジア人権状況決議案を主提案国として提出し、全会一致で採択された。同決議は、自国の人権状況改善に向けたカンボジア政府の前向きな努力への支援を継続することを目的としており、カンボジアの最近の人権状況に対する国際社会の懸念を反映しつつ、2018年3月の国連人権理事会で、同国における人権状況を国連事務総長に対し、書面で報告することを求める内容となっている。また、同決議によってカンボジアの人権状況に関する特別報告者のマンデートは2年間延長された(特集「第36回国連人権理事会『カンボジア人権状況決議』の採択」176ページ参照)。 日本は、引き続き、国際社会における人権問題の解決のため、人権理事会における議論に積極的に参加していく。 人権理事会では、国連全加盟国の人権状況を定期的に審査する普遍的・定期的レビュー(UPR)が実施されており、日本は2017年に第3回目となる対日審査を受けた。8月、日本は審査に先立って、日本の人権状況に関する報告書を国連に提出した。11月には、人権理事会作業部会において第3回審査が実施され、日本は、前回審査(2012年)以降の進展として、国内の人権状況や、慰安婦問題に関する2015年12月の日韓合意を含む国内外での取組について説明を行うとともに、各国発言について日本の立場や政策を説明した38。 第36回国連人権理事会「カンボジア人権状況決議」の採択 2017年9月29日(現地時間)、スイスのジュネーブで開催された第36回国連人権理事会で、日本が主提案国として提出した「カンボジア人権状況決議」が、コンセンサス(無投票)で採択されました。 第36回国連人権理事会(9月29日、スイス・ジュネーブ) 日本は、1999年から、国連人権理事会にこの決議を提出していますが、この決議は、カンボジア政府による人権状況改善に向けた更なる取組を支援していくことを目的としており、これまで全てコンセンサス採択されてきています。 今回の決議は、2018年3月の国連人権理事会で、カンボジアにおける最近の人権状況に対する国際社会の懸念を反映しつつ、同国における人権状況を書面で報告することを、国連事務総長に対し求めるものです。また、この決議では、自国の人権状況改善に向けたカンボジア政府の前向きな努力への支援継続と、カンボジアの人権状況に関する特別報告者の任期延長を決定しました。 日本は、この決議の提出に当たり、2017年8月にカンボジアの首都プノンペンにおいて、カンボジア政府との人権対話を実施し、ASEAN、欧米諸国及び市民社会とも精力的に意見交換を行い、様々な意見を踏まえたバランスの取れた決議とすべく、取り組んできました。 日本は、カンボジア国内の人権状況を注視しており、この決議の採択により、同国の人権状況の改善につながることを期待しています。 人権分野において、国際社会で活躍する日本人 強制失踪委員会委員として 東京大学教授 寺谷広司 2017年7月1日から4年間の任期で、強制失踪委員会(CED)の10人の委員のうちの一人となりました。この委員会は強制失踪条約(2006年採択、2010年発効)の任務を遂行するための機関で、同種の国連人権条約機関の中で現在最も若いものです。 年2回の会期のうち私が経験したのはまだ一度だけですが、非常に濃い作業でした。研究者出身の委員としては、研究者と実務家の振る舞いや発想の仕方の違いに少々戸惑い、自分が基本的に研究者側の人間だと改めて感じましたが、同時に、学術的な蓄積が具体的な実務的場面で生かせることにある種の興奮も覚えました。 人権の規範的強さやそれへの期待とは裏腹に、人権問題は学術的にも実務的にも複雑な利益考量や微妙な取り扱いを要し、迂闊(うかつ)に結論を出せないことが多いです。しかし、こと強制失踪についてはこれが最も重大な犯罪の一つであることは明瞭であり、私自身は「強制失踪者を一人でも少なくする」という単純明快な目的を常に念頭に置いて諸問題に接しています。様々な論点がありますが、例えば締約国数の増加というCEDの喫緊の課題に特に関心を持っています。 日本は強制失踪問題の解決を主導する国の一つですが、これは周知のように北朝鮮による拉致問題の解決が日本外交の最重要課題の一つであることの反映です。残念ながら北朝鮮は条約締約国ではないので、この委員会が直接に問題に対処することはありません。しかし、一般に、自国の利益だけを声高に叫ぶだけでは物事は解決しませんし、好ましくもありません。個別国家利益は普遍的利益の中に、普遍的利益は個別国家利益の中にあり、個と全体の調和は常に心にとどめ置くべきことだと考えています。そして、私自身もこうした大きい全体の一部であることに強い喜びを感じております。 人種差別撤廃委員会委員に選出されて 南山大学教授 洪恵子(こうけいこ) 国連はその目的の一つに「…人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」(国連憲章第1条第3項)を挙げ、人権を保護するための多くの条約の締結を支援してきました。中でも最も早く1965年に採択されたのが国連人種差別撤廃条約です。私はこの条約に基づく報告や申立てを審査・検討する人種差別撤廃委員会(CERD)委員の選挙(2017年6月)に日本からの初めての候補者として立候補し、132か国の支持を得て当選することができました。人種差別撤廃条約の締約国は179か国で、4か月に及んだ選挙活動を通じて、約160か国の代表の方々とお会いすることができました。若いころ国連に憧れていた私にとっては、世界中の人たちと出会うことができた選挙活動はかけがえのない経験で、あらためて人権の保障は普遍的な価値であることを確信しました。 CERDの任務は主として締約国報告書の審査です。締約国で人種差別が行われていないかを条約に照らして審査し、勧告を行います。委員として心がけたいことは理解と対話です。差別というものは人の「心」に深く根差すもので、どんな人であっても差別と無縁ではありません。また、いったん解消したかに見えても再び生じてしまう問題であることは、最近の国際情勢を見てもわかるとおりです。ですから、差別をなくしていくには継続的な努力、忍耐が必要で、CERDは常設的な機関としてこの継続的な努力を担っているのです。締約国に対してはしばしば厳しい勧告を行うことがありますが、およそ批判というのは単に声高に叫んでも、その声が相手に届かなければ意味がなく、つまり声が届いてこそ、国家の行動に変化が生まれると思います。長い歴史を持つ委員会の一員として、締約国に聞いてもらえる意見を示すこと、これが私の目標です。 イ 国連総会第3委員会 国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会では、例年10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議での採択を経て、国際社会の規範形成に寄与している。 日本は、2005年から毎年、EUと共同で北朝鮮人権状況決議案を国連総会に提出している。2017年も第72会期に同決議案を提出し、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された。同決議は、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書の内容を反映した2016年の国連総会決議を基に、北朝鮮に対し、北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難し、その終結を強く要求するとともに、北朝鮮による、北朝鮮内外での外国人に対する拷問、法的手続を経ない死刑、恣意的な拘留、拉致及びその他の人権侵害の報告に深刻な懸念を強調している。また、北朝鮮が、人々の福祉に代えて、核兵器及び弾道ミサイルを追求していることを非難し、北朝鮮にいる人々の福祉及び固有の尊厳を尊重し、確保することの必要性を強調するとともに、2016年同様、国連安保理が、北朝鮮の事態の国際刑事裁判所(ICC)への付託の検討や人権侵害に対する制裁の更なる検討等を通じて、適切な行動をとることを促している。 さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)についての議論にも積極的に参加した。これまでと同様、女性NGO代表を第72回国連総会第3委員会の政府代表顧問として派遣するなど、市民社会とも連携しつつ、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。 (2)国際人権法・国際人道法に関する取組 ア 国際人権法 2017年6月、国連本部で開催された第4回強制失踪条約締約国会合で、強制失踪委員会委員選挙が行われ、日本が擁立した候補者の寺谷広司(てらやこうじ)氏(東京大学大学院教授)が初めて当選を果たした。同じく6月、国連本部で開催された第27回人種差別撤廃条約締約国会合において、人種差別撤廃委員会委員選挙が行われ、日本が擁立した候補者の洪恵子(こうけいこ)氏(南山大学教授)が初めて当選を果たした。 また、日本は、日本が締結している人権諸条約について、各条約の規定に従い、国内における条約の実施状況に関する定期的な政府報告審査に真摯に対応してきている。6月には、児童の権利に関する条約第4回及び第5回政府報告を児童の権利委員会に提出し、7月には、人種差別撤廃条約に関する第10回及び第11回政府報告を人種差別撤廃委員会に提出した。 イ 国際人道法 ジュネーブでの国際人道法に関する政府間プロセスで、日本は国際人道法の履行強化や自由を剥奪された者を保護する国際人道法の強化に関する議論に積極的に参加した。また、国際人道法の啓発の一環として、2016年に続き、赤十字国際委員会主催の国際人道法模擬裁判大会に講師を派遣した。 (3)二国間の対話を通じた取組 国連など多国間の枠組みにおける取組に加え、日本は、人権の保護・促進のため二国間対話の実施を重視している。2017年2月には第4回日・ミャンマー人権対話(ネーピードー)及び第12回日・イラン人権対話(東京)を、8月には第8回日・カンボジア人権対話(プノンペン)を開催した。それぞれ人権分野における両者の取組について情報を交換するとともに、国連などの多国間の場での協力について意見交換を行った。 (4)難民問題への貢献 日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から2014年度まで第三国定住(難民が、庇護(ひご)を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)により、タイに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れた。 2015年度以降は、マレーシアに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れるとともに、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族を呼び寄せられるものとし、2010年度から2017年度までに合計39家族152人が来日している。 第三国定住による難民受入れは、欧米諸国が中心となってきたが、日本がアジアで初めての受入国であることから、難民問題への日本の積極的な取組として、国際社会からも高い評価と期待を集めている。日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、日本は真に支援を必要としている人々へのきめ細かな支援に引き続き取り組んでいるほか、来日後の定住先に関しても、これまでは主に首都圏の自治体を中心に運用してきたが、難民問題への全国的な理解促進等の観点から、首都圏以外の自治体での定住を積極的に進めている。 定住支援プログラムを受講する第三国定住難民(写真提供:難民事業本部) 38 詳細はhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_002899.html参照