第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 日米安全保障(安保)体制 (1)日米安保総論 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力を向上させていくことは、日本の平和と安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、2017年2月及び11月の日米首脳会談等を通じて確認された強固な日米関係の上に立ち、ガイドライン及び平和安全法制の下で、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化している。こうした取組の中で日米両国は、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。さらに、普天間飛行場の移設や在沖縄海兵隊約9,000人のグアム等への国外移転を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。 (2)各分野における日米安保・防衛協力の状況 ア 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の下での取組 2015年4月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)において公表したガイドラインは、日米両国の防衛協力について、一般的な大枠及び政策的な方向性を見直し、更新したものである。同ガイドラインの下で設置された同盟調整メカニズム(ACM)を通じて、日米両国は緊密な情報共有及び共通情勢認識の構築を行い、平時から緊急事態まで「切れ目のない」対応を実施してきている。2017年8月に開催された「2+2」において、河野外務大臣、小野寺防衛大臣、ティラソン米国国務長官及びマティス米国国防長官は、両国の各々の役割、任務及び能力の見直しを通じたものを含め、同盟の更なる強化のための方策の特定を進めていくことで一致するとともに、米国の核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じた日本の安全に対する同盟のコミットメントを再確認した。また、2月にマティス米国国防長官、5月及び11月にハリス米国太平洋軍司令官、8月にダンフォード米国統合参謀本部議長及びハイテン米国戦略軍司令官、9月にミリー米国陸軍参謀総長、11月にブルックス国連軍・米韓連合軍・在韓米軍司令官、12月にリチャードソン米国海軍作戦部長が訪日するなど、ハイレベルの人的交流が活発に行われている。加えて、6月には日米拡大抑止協議を開催し、日米同盟の抑止力を確保する方途についての率直な意見交換を行った。このような多層的な取組を通じ、米国との間で安全保障・防衛協力を引き続き推進し、同盟の抑止力・対処力を一層強化していく。 イ 弾道ミサイル防衛(BMD) 日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックII A)の日米共同開発及び共同生産の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の導入を決定するなど、BMDシステムの着実な整備に努めて、いかなる事態においても北朝鮮による弾道ミサイルの脅威から国民の生命・財産を守るべく、万全の態勢を採っている。 ウ サイバー 日米両国は、7月に第5回日米サイバー対話を東京で開催した。日米両国の政府全体の取組の必要性を踏まえ、2016年7月に開催された第4回対話のフォローアップを行うとともに、日米双方の関係者が、情勢認識、両国における取組、国際場裏における協力、能力構築支援等サイバーに関する幅広い日米協力について議論を行い、対話の後、共同プレスリリースを発出した。 エ 宇宙 日米両国は、安全保障分野における日米宇宙協議や安全保障分野における日米豪宇宙協議などで、宇宙に関する幅広い協力の在り方について議論を行っている。日米両国は、宇宙状況監視(SSA)情報などの相互提供、宇宙アセットの抗たん性(不測の事態でも宇宙システムが必要な機能を維持できること)の確保のための取組等、宇宙の安全保障分野での協力を引き続き進めていく。 オ 3か国間協力 日米両国は、アジア太平洋地域での同盟国やパートナーとの安全保障・防衛協力を重視している。特に、日米両国は、オーストラリア、韓国又はインドとの3か国間協力を着実に推進してきている。7月及び11月の日米首脳会談等でも、これらの3か国間の協力は、日米が共有する安全保障上の利益を増進し、アジア太平洋地域の安全保障環境の改善に資するものであることが確認された。また、9月の北朝鮮による核実験、度重なる弾道ミサイル発射を受けた対応の中で、日米韓及び日米豪首脳会談等で、それぞれ3か国間協力の重要性が再確認された。 カ 情報保全 情報保全は、同盟関係の協力を進める上で決定的に重要な役割を果たすものである。日米両国は、政府横断的なセキュリティ・クリアランス制度を実施しているほか、カウンター・インテリジェンス(諜報による情報の漏えい防止)に関する措置の向上を含む情報保全制度の一層の改善に向け、引き続き協議を行っている。 キ 海洋安全保障 日米両国は、ASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジア首脳会議(EAS)などの場で、海洋をめぐる問題を国際法にのっとって解決することの重要性を訴えている。2015年4月に公表した新ガイドラインでも、日米両国は、航行の自由を含む国際法に基づく海洋秩序を維持するための措置に関し、相互に緊密に協力するとしているほか、2017年2月の日米首脳会談等の機会に海洋安全保障に関する両国の一致した認識と協力について確認してきている。 (3)在日米軍再編 2017年2月の日米共同声明で、日米両政府は、普天間(ふてんま)飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古(へのこ)崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることを首脳レベルの文書で初めて確認した。また、8月の「2+2」共同発表において、日米両国は、在日米軍の強固なプレゼンスを維持する観点から、地元への影響を軽減し、在日米軍のプレゼンス及び活動に対する地元の支持を高めると同時に、運用能力及び抑止力の維持を目的とした既存の取決めを実施することについてのコミットメントを再確認した。在沖縄海兵隊約9,000人のグアム等国外への移転(グアム移転は2020年代前半に開始)や、2013年4月の「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」に基づく嘉手納(かでな)以南の土地返還等についても、着実に計画を実施すべく、日米間で引き続き緊密に連携していく。 米軍再編の全体像 2016年12月の北部訓練場の過半(約3,987ヘクタール)の返還に続き、2017年7月31日には、2015年12月の「沖縄における在日米軍施設・区域の統合のための日米両国の計画の実施」に基づき、普天間飛行場の東側沿いの土地(約4ヘクタール)の返還が実現した。この返還に伴い、市道宜野湾(ぎのわん)11号線の全線開通が実現すれば、周辺地域の交通渋滞を緩和し、地元宜野湾市の生活環境の改善に資することになる。 また、同年8月に、2006年5月の「再編実施のための日米のロードマップ」に基づく厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐が開始された。この移駐は、人口密集地に所在している厚木飛行場周辺の住民が長い間負ってきた騒音等の負担軽減に資するものとして期待されている。政府としては、普天間飛行場の一日も早い辺野古(へのこ)への移設を始め、在日米軍の安定的な駐留のために、沖縄を始めとする地元の負担軽減に引き続き全力で取り組んでいく。 (4)在日米軍駐留経費負担(HNS) 日本は、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している中、在日米軍の円滑かつ効果的な運用を支えることが重要であるとの観点から、日米地位協定で定められた範囲内で、在日米軍施設・区域の土地の賃料、提供施設の整備(FIP)費等を負担している。このほか、特別協定を締結し、駐留軍等労働者の労務費、光熱水料等及び訓練移転費を負担している。 日本政府は、日米地位協定及び2016年4月1日に発効した特別協定に基づき、2016年度から2020年度まで、在日米軍駐留経費負担(HNS)を負担することとなっている。 (5)在日米軍の駐留に関する諸問題 日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動が周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍の施設・区域が集中する沖縄の負担軽減を進める重要性については、2017年11月のトランプ大統領の訪日の際を始め、累次の機会に日米間で確認してきている。 日本政府は、在日米軍再編に引き続き取り組む一方、米軍関係者による事件・事故の防止、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域での環境問題等の具体的な問題について、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。 また、2016年4月に沖縄で発生した在日米軍の軍属による殺人事件を受け、2017年1月の署名により発効した日米地位協定の軍属に関する補足協定の着実な実施を通じて、日米間の協力が一層促進され、在日米軍の軍属に対する管理が一層強化されることによって、軍属による事件・事故の再発防止が図られることが期待される。なお、この補足協定は、日米地位協定が規定する軍属の内容を国際約束の形で補足し、明確化するものであり、このような日米地位協定の補足協定の作成は、2015年に締結された環境補足協定に続き、2件目となる。 (6)朝鮮国連軍と在日米軍 1950年6月の朝鮮戦争の勃発に伴い、同月の国連安保理決議第83号及び同年7月の同決議第84号に基づき、同年7月に朝鮮国連軍が創設された。1953年7月の休戦協定成立を経た後、1957年7月に朝鮮国連軍司令部がソウルに移されたことに伴い、日本に朝鮮国連軍後方司令部が設立された。現在、同後方司令部は、横田飛行場に設置され、司令官ほか3人が常駐しているほか、8か国の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校として在京各国大使館に常駐している。 朝鮮国連軍は、日本との国連軍地位協定第5条に基づき、朝鮮国連軍に対して兵たん上の援助を与えるため必要な最小限度の在日米軍施設・区域を使用できる。現在、朝鮮国連軍には、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場及びホワイトビーチ地区の7か所の使用が認められている。