第2章 地球儀を俯瞰する外交 2 中南米地域情勢 (1)メキシコ 経済改革と自由貿易協定、グローバル・バリューチェーンへの参画を通じ、自由で開かれた国際経済システムを推進するメキシコは、民主主義や自由主義といった価値を掲げ、国際社会においても指導的役割を果たしている。また、北朝鮮問題に関し、在メキシコ北朝鮮「大使」に国外退去を通告する等、北朝鮮への圧力強化に向けた措置を実施した。2017年は北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉やTPP11の早期発効に向けた取組等で日本と連携した。 日・メキシコ関係は、2018年に外交関係樹立130周年を迎える伝統的な友好関係に支えられ、進出企業数が1,100社を超える日本にとって域内最大の経済拠点となっている。2017年は、7月の外相会談と11月の首脳会談を通じ、共通の課題解決に向けた連携強化を確認したほか、9月の地震発生に際しては、日本から国際緊急援助隊・救助チームを派遣し、その活動ぶりは報道やSNSで広く伝えられ、メキシコ国民に大きな感銘を与えた。 日・メキシコ首脳会談(11月10日、ベトナム・ダナン 写真提供:内閣広報室) ビデガライ外相と握手を交わす河野外務大臣(9月20日、米国・ニューヨーク) (2)中米(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ドミニカ共和国、ニカラグア、パナマ、ベリーズ、ホンジュラス) 中米は、二つの大洋と南北米大陸の間に位置する地政学的重要性に加え、人口5,800万人を有することから、その経済的潜在力からも注目されている。中米諸国は、中米統合機構(SICA(シカ))を通じ域内経済統合や域外通商関係の強化を推進している。近年は民主主義が定着し、堅実な経済成長を実現する一方、麻薬密売組織や青少年凶悪犯罪組織(マラス)の犯罪による治安悪化が深刻化しているという問題も残っている。 日本はSICAを通じた域内統合支援と域内各国の開発協力を軸に関係を強化しており、9月のパナマ及びコスタリカとの外相訪日を始めとした要人往来を通じて政策対話を継続的に実施している。 日・パナマ外相会談(9月1日、東京) (3)キューバ キューバでは、カストロ国家評議会議長が安定的に政権を運営する一方、対米関係の改善、外資誘致と国内産業の育成が課題となっている。日本はキューバと良好な関係を築いており、近年はハイレベルの交流も活発である。3月には薗浦外務副大臣がキューバを訪問したほか、9月には東京で日・キューバ政策対話を実施した。 (4)ブラジル ブラジルは、中南米一の大国であるとともに、約190万人の世界最大の日系社会の存在により、世界有数の親日国としても知られる。日本とは、基本的価値を共有し、国際場裏でも様々な協力を行う「戦略的グローバルパートナー」として、良好な二国間関係を確立している。 国内の政治混乱や、資源価格の低迷などにより、2015年から2016年にかけては2年連続のマイナス成長を記録したが、8月に開催された日本ブラジル経済合同委員会には日本から約130名が参加し、同月には日本ブラジルインフラ協力会合が開催されるなど、日本企業はブラジル市場に引き続き高い期待を寄せている。 4月には、日本の新たな発信拠点であるジャパン・ハウス サンパウロが麻生副総理兼財務大臣とテメル大統領、ヌネス外相などの両国要人の出席の下開館した。また、9月にはニューヨークで日ブラジル外相会談を実施した。2018年1月には、レシフェに総領事館が新設された。 日・ブラジル外相会談(9月20日、米国・ニューヨーク 写真提供:ブラジル外務省) (5)アルゼンチン 自由で開放的な政策を推進するマクリ政権は、2017年10月の議会中間選挙の結果、与党が第一党に躍進、政権の基盤強化につながる結果となった。日本との関係では、5月にマクリ大統領が訪日し、両国は基本的価値を共有する「戦略的パートナー」として様々な分野における協力を強化していくことを確認するとともに、2018年の外交関係樹立120周年を機に交流を拡大していくことで一致した。 日・アルゼンチン首脳会談(5月19日、東京 写真提供:内閣広報室) (6)ペルー 2016年7月に発足したクチンスキー政権は、自由主義的な経済政策を実施している。2017年12月にはクチンスキー大統領に対する弾劾決議案が議会に提出されたが否決された。二国間関係では、ビスカラ第一副大統領の訪日を始めとする要人の往来が活発に行われた。また、11月のベトナムアジア太平洋経済協力(APEC)会合の機会に首脳会談及び外相会談が行われ、「戦略的パートナーシップ」の着実な進展が確認されたほか、2019年の「日ペルー交流年」に向けて幅広い分野での交流を強化していくことが確認された。また、北朝鮮問題に関し、在ペルー北朝鮮「大使」に国外退去を通告する等、北朝鮮への圧力強化に向けた措置を実施した。 クチンスキー大統領と握手を交わす安倍総理大臣(11月10日、ベトナム・ダナン 写真提供:内閣広報室) (7)チリ 2017年は日チリ外交関係樹立120周年を迎えた記念の年であり、両国間で活発な要人往来や、様々な記念行事を実施した。2018年2月には、バチェレ大統領が訪日し、両国は基本的価値を共有する「戦略的パートナー」として、二国間及び国際場裏の様々な分野における協力を強化していくことで一致した。また、内政面では、12月に大統領選挙の決選投票が実施され、ピニェラ候補(前大統領)が勝利、2018年3月に新政権が誕生する。 日・チリ首脳会談(2018年2月23日、東京 写真提供:内閣広報室) 日チリ外交関係樹立120周年 ~秋篠宮同妃両殿下のチリ御訪問~ 1 日本とチリの120年の歩み チリは、日本から見ると地球の反対側に位置する南米大陸にある国です。日本とチリは、1897年に修好通商航海条約に署名し、外交関係を樹立しました。日本は、チリがアジア地域で最初に外交関係を樹立した国です。基本的価値を共有する両国は、その後、長年にわたり様々な分野で友好を深めてきました。 日本にとって、チリは鉱物や食料等の重要な資源供給国です。例えば、チリは、世界の銅生産量の約3割を占める世界最大の銅産出国であり、日本にとって最大の供給国です。また、近年は、サーモンやワイン、生鮮果物など、スーパーでもチリ産品を見かけることが多くなりました。チリにおけるサーモン養殖業は、実は1970年代に開始された国際協力機構(JICA)の技術協力がその発展に大きく貢献しています。 また、チリのイースター島はモアイ像で有名ですが、宮城県南三陸町にはイースター島の石でつくられたモアイ像が寄贈されています。この縁は、元々1960年にチリで起こった大地震による津波が同町に到達したことに端を発しています。両国は、太平洋を挟んだ「隣国」であり、共に地震と津波という自然災害の脅威に立ち向かうという課題を共有しています。 2 日チリ外交関係樹立120周年 このようなチリと日本は、2017年に外交関係樹立120周年を迎えました。 チリでは、日系企業及び日系社会関係者の協力の下、東京藝術大学フィルハーモニアによるサンティアゴ国立劇場でのコンサートを始め、数多くの記念事業が実施されました。このような文化事業の実施に際しては、両国の民間企業で構成される日智(チリ)経済委員会の日本国内委員会から多大な支援を頂きました。 120周年のハイライトとなったのが、秋篠宮同妃両殿下によるチリ御訪問です。両殿下は、チリ政府の招待を受け、9月26日から10月2日にかけてチリに滞在され、バチェレ大統領を表敬されたほか、外交関係樹立120周年記念式典に御臨席になりました。バチェレ大統領は、チリ政府関係者や日本とゆかりの深いチリ人等を招いて午餐会(ごさんかい)を催し、両殿下の御訪問を歓迎しました。両殿下は、また、バルパライソ州、ロス・ラゴス州を訪問され、御訪問先において心温まる歓迎を受けられました。 秋篠宮同妃両殿下のチリ御訪問は、両国間の交流に新たな1ページを書き加え、友好関係の更なる発展に向けた重要な機会となりました。今後とも、これまで培ってきた両国政府及び両国民間の信頼と友情を礎とし、新たな120年に向けて二国間関係が一層発展していくことが期待されます。 外交関係樹立120周年記念式典でバチェレ大統領と懇談される秋篠宮同妃両殿下(10月27日、チリ・サンティアゴ 写真提供:朝日新聞社) (8)ウルグアイ バスケス政権は社会・教育・保健衛生政策を積極的に推進している。日本とは、経済面で2017年4月に投資協定が発効し、また、国際場裏でも共に国連安保理非常任理事国(2016年及び2017年)を務めるなど緊密に連携している。 (9)パラグアイ 2013年のカルテス大統領就任以降、政権の優先課題として貧困の撲滅を掲げるとともに、積極的な外国企業誘致を推進している。日本とは、経済協力と約1万人の日系人の存在を基盤とした友好協力関係がある。 草の根無償資金協力「ジャグアロン市道路整備計画」落成式に出席する岡本三成外務大臣政務官(9月1日、パラグアイ・ジャグアロン) (10)コロンビア コロンビアでは、2016年の和平合意を受けてコロンビア革命軍の武装放棄が行われたほか、国民解放軍とも和平交渉を開始し、和平プロセスが進展している。6月、日本は、地雷除去関連機材等を供与するため10億円を供与額とする無償資金協力に関する書簡を交換した。外交関係樹立110周年を迎える2018年には、日本文化・経済・学術センターの開設が予定されている。 (11)ベネズエラ 3月、最高裁による立法権の代理行使判決を契機に街頭デモが広がり、情勢が不安定化した。7月の制憲議会選挙を受け、米国等から現政権への批判や制裁が強まった。日本は同国の民主主義の回復を求めつつ、人間の安全保障に基づく民生支援を継続している。 (12)ボリビア モラレス大統領による11年にわたる長期政権が継続しており、その間、豊富な資源により、年平均5%の経済成長を達成してきた。二国間関係では、10月にモンターニョ・スポーツ相が訪日し、スポーツ分野における協力に係る二国間覚書を締結した。 (13)エクアドル 5月、モレノ新政権が発足した。12月にはカンパナ貿易相が訪日し、新政権の経済政策やエクアドルにおける新たな投資機会について説明した。2018年、両国は外交関係樹立100周年を迎える。 (14)日系社会との連携 中南米には約210万人の世界最大の日系社会が存在する。日系人が一貫して示してきた勤勉かつ誠実な姿勢は、現地社会から尊敬・信頼を獲得し、今日の中南米諸国の対日信頼感の基礎となっている。 移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進む中、日本との繋(つな)がりが希薄な若い世代が増える一方、非日系の現地人による日系社会活動への参加が増加したり、国を越える新世代の日系人ネットワークも出現している。 こうした背景の下、「中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会」が設置され、5月に報告書が提出された。 報告書では、安倍総理大臣が2014年に中南米を訪問した際に明らかにした基本的な考え方(①日系社会は中南米の日本に対する信頼の基礎、②若い日系リーダーとの連携の強化及び③日系人が誇りを持てる日本を創る)を踏まえ、日系社会との連携を強化するためにオールジャパンでの取組を進めることなどが、具体的施策と共に提言された。