第2章 地球儀を俯瞰する外交 3 東南アジア (1)インドネシア 2014年10月に発足したジョコ政権は、これまで3度にわたる内閣改造や社会保障制度改革、教育制度改革、インフラ開発、その他経済政策の実施により国民からの支持も高まり、政権は更に安定性を増している。一方、2017年4月に決選投票が行われたジャカルタ特別州知事選挙に見られるように、2019年に予定されている大統領選挙・総選挙に向け各政治勢力の動きが活発化し、インドネシアにおいては政治の季節が始まっている。 日本との関係では、2017年も首脳及び閣僚間の活発な交流が行われ、2018年の日本インドネシア国交樹立60周年を見据え、両国間の更なる協力関係強化に向けた意見交換が行われた。2017年1月には、安倍総理大臣がインドネシアを訪問し、ボゴール宮殿でジョコ大統領と首脳会談を行い、「戦略的パートナーシップの強化に関する日・インドネシア共同声明」を発出した。また8月のASEAN関連外相会議(フィリピン・マニラ)の際には河野外務大臣がルトノ外相との間で会談を実施し、両国間の関係強化、南シナ海問題及び北朝鮮問題を含む地域情勢について意見交換を行い、今後も緊密に連携していくことで一致した。また、同月にスシ海洋水産相が河野外務大臣を表敬し、スシ大臣から漁業資源管理や違法漁船対策について高い技術を有する日本と連携したいと述べた。11月のASEAN関連首脳会議(フィリピン・マニラ)の際に再度首脳会談が行われ、両首脳は、両国間で進めているインフラ協力を始め国交樹立60周年を迎える2018年に向けて二国間関係を一層強化することで一致した。12月にはルフット海洋担当調整相が訪日し、中根一幸外務副大臣との間で「第1回日本・インドネシア海洋フォーラム合同委員会」を開催し、海洋分野に関し、インドネシアとの関係が更に深まった。 安倍総理大臣がインドネシアを訪問した際に行われたジョコ大統領との首脳会談(1月15日、インドネシア・ボゴール宮殿 写真提供:内閣広報室) (2)カンボジア カンボジアは、メコン地域の連結性と東南アジア地域内の格差是正の鍵を握る国であり、南部経済回廊の要衝に位置している。2030年の高中所得国入りを目指し、ガバナンス(統治)の強化を中心とする開発政策を推進している。 日本は、1980年代後半のカンボジアの和平プロセスやその後の復興・開発に積極的に協力しており、2013年に両国関係は「戦略的パートナーシップ」に格上げされた。2017年には、8月に実務訪問賓客として訪日したフン・セン首相と安倍総理大臣との間で、首脳会談が行われた。安倍総理大臣が、2030年までの高中所得国入りを後押しするため、物流改善や産業人材育成、都市機能強化などの支援を拡充することを表明したのに対し、フン・セン首相は、日本の支援への謝意を述べた上で「積極的平和主義」や「自由で開かれたインド太平洋戦略」などの政策への支持が表明された。そのほか、日本から5月に岸信夫外務副大臣、10月に堀井巌外務大臣政務官がカンボジアを訪問した。 近年、在留邦人や進出日系企業の増加、地方自治体間の交流の活発化など、様々な分野で両国関係の拡大が見られる。外交関係樹立65周年となる2018年1月には、在シェムリアップ領事事務所が開設された。 内政面では、2013年の国民議会(下院)選挙で野党である救国党が躍進して以降、与野党間の政治的軋轢(あつれき)が高まり、2017年11月には政党法違反を理由に救国党が解党された。2018年7月の国政選挙をいかに国民の意思が反映される形で実施できるかが、今後の課題となっている。 日本が長年支援しているクメール・ルージュ裁判では、2016年11月に元国家元首を含む幹部2人への無期禁固刑の確定後、これら2人の別容疑に係る初級審審理等が進められた。 (3)シンガポール 長年にわたり、日本・シンガポール間の二国間関係は極めて良好であり、要人の往来も活発である。 シンガポールでは、リー・シェンロン首相率いる人民行動党(PAP)が議会での圧倒的多数を占めており、2015年の総選挙では与党の支持率低下傾向を反転させることに成功した。また、「第4世代」と呼ばれる40代を中心とした若手議員を積極的に閣僚に起用するなど、世代交代を着々と進めている。 日本との関係では、2017年も引き続きハイレベルでの交流が実現した。7月、安倍総理大臣はG20サミットに出席するために訪問中のドイツでリー・シェンロン首相と会談し、2016年に外交関係樹立50周年を迎えた日本とシンガポールの間での様々な成果を基礎に、二国間関係を更に深化させることで一致した。また、12月のバラクリシュナン外相と薗浦健太郎内閣総理大臣補佐官との会談では、2018年にASEAN議長国となるシンガポールとの間で、法の支配や航行の自由の確保、連結性の強化、自由貿易の促進、地域経済統合等の重要性を確認した。 日・シンガポール首脳会談(7月8日、ドイツ 写真提供:内閣広報室) 経済面では、多くの日系企業がシンガポールに地域統括拠点を設置していることから、インフラなどの分野で引き続き両国企業の連携が進んでいる。2002年に署名・発効した日本・シンガポール経済連携協定(JSEPA)は、日本が初めて締結した二国間EPAである。 また、両国は「21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム(JSPP21)」を通じて、開発途上国に対して共同で技術協力を行っているほか、日本文化情報の発信拠点として「ジャパン・クリエイティブ・センター」を設置するなど、知的交流や文化交流も活発に行われている。 (4)タイ タイは、メコン地域の中心に位置し、日本とは「戦略的パートナーシップ」関係にある。長年の投資の結果、タイは多くの日本企業の生産拠点となり、今日では地球規模でのサプライチェーンの一角として、日本経済にとって欠くことのできない存在となっている。軍政によって設置された官選議会と暫定内閣の下、民政復帰に向けたプロセスが進められており、2017年4月には新憲法が公布・施行された。議会選挙を経た民政復帰は2019年2月頃が見込まれている。 2016年10月のプミポン国王陛下の崩御に伴い、2017年10月まで国を挙げて喪に服した。10月には、プミポン前国王陛下の御火葬式が執り行われた。 日・タイ両国間では、皇室・王室の緊密な関係を礎に、政治面、経済面を含む様々なレベルで交流が行われている。特に本年、日タイ外交関係樹立130周年を迎え、官民を問わず幅広い分野で交流・祝賀行事が行われ、緊密な友好関係とその更なる促進の重要性が再確認された。9月には、ドーン外相と堀井巌外務大臣政務官が相互に相手国を訪問し、祝賀行事に出席するとともに、首脳間・外相間の祝賀メッセージの交換が行われた。 2017年には日・タイ外相会談が3回実施された。そのほか、6月には訪日したソムキット副首相と菅義偉内閣官房長官の共同議長の下、関係閣僚が出席し、第3回日タイ・ハイレベル合同委員会が実施され、7つの協力覚書が署名されるなど、ハイレベルで活発な交流が続いた。 (5)東ティモール 今世紀最初の独立国家である東ティモールは、国際社会の支援を得つつ平和と安定を実現し、民主主義に基づく国造りを実践してきた。2017年3月に実施された東ティモール大統領選挙では、野党フレテリン党のル・オロ党首が3度目の大統領選挙に出馬、第1回投票で当選して5月に第4代大統領に就任した。これを受け、安倍総理大臣は祝意を表する書簡を発出して、日本として今後とも東ティモールの発展に向けた取組を全面的に支援する考えを伝えた。同日実施された大統領就任式に、日本からは中谷元内閣総理大臣特使が出席した。また、7月には国会議員を選出する国民議会選挙が行われ、日本から選挙監視団を派遣した。9月にはアルカティリ新首相が就任し、新たに第7次政権が発足した。 東ティモールでは、2011年7月に「戦略開発計画(SDP)」(2030年までの開発政策の長期的指針)が策定されており、現在、紛争後の復興から本格的な開発という新たな段階に移行中である。日本は、この新たな段階に移行した東ティモールの努力を引き続き全面的に後押しするとともに、国際場裏でも緊密な協力を続けている。5月には、医療機材等を供与することにより、保健医療サービスの向上を図る目的で、両国間において供与限度額2億円の無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡の交換が行われた。また、日本は、東ティモールが目指している円滑なASEAN加盟の方針を支持し、その実現に向けて人材育成等を支援している。 (6)フィリピン フィリピンでは、2017年に発足2年目を迎えたドゥテルテ政権が、国民の高い支持を背景に安定的な政権運営を行った。一方、5月にミンダナオ島マラウィ市においてイスラム過激派グループとの間で武力衝突が発生し、ドゥテルテ大統領はミンダナオ全域に戒厳令を宣言した。10月に戦闘は終結したが、治安・テロ対策とマラウィ市の復興が今後の課題である。経済面では、引き続き堅調な経済成長を維持するとともに、インフラ整備や税制改革など、社会経済開発アジェンダに沿った政策を積極的に推進した。また、2017年のASEAN議長国として、首脳会議や外相会議など一連の会合を主催した。 2017年は、「戦略的パートナー」である両国間で頻繁な交流が行われた。1月に安倍総理大臣が外国首脳として初めてドゥテルテ大統領の地元ダバオ市を訪問するとともに、5年間で1兆円規模の支援を表明した。6月にカエタノ外相が訪日し、日・フィリピン外相会談を行った。また、10月にドゥテルテ大統領が大統領として2度目の訪日を行った際には、今後5年間の二国間協力に関する共同声明を発表し、マニラ首都圏の地下鉄事業を含むインフラ整備、ミンダナオ支援、違法薬物対策など幅広い分野での協力を一層強化していくことで一致した。この機会に、日・フィリピン外相会談も実施した。このほか、8月のASEAN関連外相会議に河野外務大臣が、11月のASEAN関連首脳会議に安倍総理大臣が出席するため、フィリピンを訪問した。 ドゥテルテ・フィリピン大統領訪日時に総理主催晩餐会で挨拶する安倍総理大臣(10月30日、東京 写真提供:内閣広報室) 日・フィリピン外相会談(8月6日、フィリピン・マニラ) (7)ブルネイ ブルネイは、豊富な天然資源を背景に高い経済水準を実現してきたが、この数年は原油・天然ガスの価格下落により経済成長率が落ち込んでおり、ブルネイ政府はエネルギー資源への過度の依存から脱却すべく経済の多角化を目指している。 日本とブルネイは長きにわたり良好な関係を維持している。現在、ブルネイの液化天然ガス(LNG)輸出総量の約6割が日本向けであり、ブルネイ産LNGは日本のLNG総輸入量の約5%を占めるなど、ブルネイは日本へのエネルギー資源の安定供給の面からも重要な国である。日本とブルネイの間では、 2013年から始まった「JENESYS2.0」を通して、将来の日・ブルネイ関係を担う青少年間の交流が頻繁に行われている。バドミントンに代表されるスポーツ交流は両国関係促進にとって極めて重要であり、ブルネイでは柔道や空手も着実に普及しつつある。 また、2017年には、リム・ジョク・セン首相府相兼第二外務貿易相、ヤスミン首相府エネルギー・産業相等の閣僚が累次訪日した。8月にフィリピン・マニラで開催されたASEAN関連外相会議の際には、河野外務大臣がリム・ジョク・セン大臣と懇談を行い、11月には、ベトナム・ダナンで日・ブルネイ外相会談が実現した。また、11月にASEAN関連首脳会議が開催されたフィリピン・マニラでは日・ブルネイ首脳会談が実施され、安倍総理大臣は2017年のボルキア国王即位50周年に祝意を表するとともに、ブルネイの経済多角化に向けた努力への協力等二国間関係の一層の強化について意見交換した。2018年1月から次期ASEAN事務総長に就任するリム・ジョク・ホイ外務貿易省次官が12月に来日し、河野外務大臣と会談を行い、2015年から3年間、ASEANの対日調整国を務めるブルネイと、ASEAN統合への協力推進を表明した。 日・ブルネイ首脳会談(11月13日、フィリピン・マニラ(代表撮影) 写真提供:内閣広報室) (8)ベトナム ベトナムは、南シナ海のシーレーンに面し、中国と長い国境線を有する地政学的に重要な国である。また、東南アジア第3位の人口を有し、中間所得層が急増していることから、有望な市場になりつつある。2016年1月の共産党新指導部発足以降も、インフレ抑制等のマクロ経済安定化、インフラ整備や投資環境改善を通じた外資誘致を通じ、安定的な経済成長の実現に取り組んでいる。また、腐敗対策や行政改革にも積極的に取り組んでいる。 2017年、ベトナムはAPEC議長を務め、11月にダナンで開催されたAPECでは、TPP11の大筋合意を含め、大きな外交的成果を達成した。また、同会議後、トランプ米国大統領、習近平(しゅうきんぺい)中国国家主席の国賓としての訪問を立て続けに受け入れ、バランスの取れた外交政策を展開した。 1月の安倍総理大臣の訪問、5月の大島衆議院議長による訪問、ミン副首相兼外相の訪日、6月の公式実務訪問賓客としてのフック首相夫妻訪日、11月のダナンでのベトナム首脳・閣僚会議への安倍総理大臣及び河野外務大臣の出席など、活発な要人往来が行われた。2018年は日・ベトナム外交関係樹立45周年の節目であり、「広範な戦略的パートナーシップ」が更に深化するよう、両国において様々な文化交流事業などが行われる予定である。 天皇皇后両陛下のベトナム御訪問及びタイお立ち寄り 天皇皇后両陛下は、かねてより御訪問の招請があったベトナムを2017年2月28日から6日間の御日程で御訪問になりました。また、両陛下は同国御訪問の帰途、2016年10月13日に崩御されたプミポン・タイ前国王陛下に敬意を表し、御弔問のために、タイにお立ち寄りになりました。 ベトナムは、インドシナ半島の東に位置する人口約9,370万人の国で、王室こそないものの、日本との関わりの深い親日的な国です。 両陛下にとっては初めてのベトナム御訪問でしたが、既にベトナムを訪問された皇太子殿下や秋篠宮殿下のお話を聞かれ、御訪問を非常に楽しみにしておられました。 両陛下は、国家主席府で開催された歓迎式典や晩餐会にて、クアン国家主席夫妻の盛大な歓迎を受けられました。両陛下は、チョン共産党中央執行委員会書記長夫妻、フック首相夫妻、ガン国会議長を御引見になったほか、現地で活動する青年海外協力隊員等の在留邦人、元日本留学生と御懇談になり、元残留日本兵の御家族ともお会いになりました。また、1976年に陛下が同国に寄贈されたハゼの標本が展示されている博物館を視察されました。 国家主席府にて歓迎式典に臨まれる天皇皇后両陛下(3月1日、ベトナム・ハノイ 写真提供:ベトナム通信社) 古都フエでは日本の雅楽と起源を同じくするベトナムのニャーニャックを鑑賞されたほか、20世紀初頭にベトナム青年の日本留学を目的とする「東遊(ドンズー)運動」を主導した民族運動指導者ファン・ボイ・チャウの記念館を訪問され、両国の交流の軌跡に触れられました。 御訪問中は、両国の国旗を手にした多くの方が沿道に集まるなど、両陛下はベトナム国民から温かい歓迎を受けられました。 ベトナムからの帰途、両陛下は、プミポン前国王陛下の御弔問のため、タイにもお立ち寄りになりました。両陛下と前国王陛下及びシリキット王妃陛下とは、半世紀を超える親しい交流を重ねており、タイ王族が東京を訪れた際には、しばしば皇居に招かれるなど、皇室とタイ王室の関係には深いものがあります。前国王陛下が70年間にわたり、タイ国民の敬愛の対象であり続け、また、日本とタイの友好親善の増進のために非常に大きな役割を果たされたことに敬意を表し、王宮の祭壇の前で深々と御拝礼になった両陛下の御姿は、その悲しみの深さを物語っていました。 王宮にて故プミポン前国王陛下を御弔問になる天皇皇后両陛下(3月5日、 タイ・バンコク 写真提供:タイ王国王宮府) 両陛下はアンポンサターン宮殿において、ワチラロンコン新国王陛下ともお会いになりました。今回の両陛下と新国王陛下との御会見が新たな1ページとなり、両国の友好関係が更に深まることが望まれます。 (9)マレーシア ナジブ政権は、2015年に「第11次マレーシア計画」(2016年から2020年までの5か年計画)を発表し、2020年までの先進国入りを目指し、国際競争力強化のため規制緩和・自由化を進め、国内では投資と国内消費に支えられた安定した成長を維持している。 2017年は、日・マレーシア外交関係樹立60周年であり、両国で様々な記念行事が行われ、両国国民の間の友好関係が深まった。両国首脳の意思疎通も緊密であり、10月の衆議院選挙後に首脳電話会談を実施したほか、11月には、フィリピン・マニラで開催されたASEAN関連首脳会議の期間中に首脳会談を行い、両国の「戦略的パートナーシップ」を更に深化させていくことを確認した。 日・マレーシア外交関係樹立60周年ロゴマーク 日・マレーシア首脳会談(11月12日、フィリピン・マニラ 写真提供:内閣広報室) 日・マレーシア間の友好関係の基盤である東方政策は2012年で30周年を迎え、これまでに約1万6,000人のマレーシア人が日本で留学及び研修した。現在、東方政策は、「東方政策2.0」と称して、分野の拡大や質の向上を図っている。また、東方政策の集大成として2011年9月に開校したマレーシア日本国際工科院(MJIIT)をASEANにおける日本型工学教育の拠点とするための協力が進められている。 経済面では、日本はマレーシアに対する最大の投資国であるほか、マレーシアへの進出日系企業数は1,400社に上るなど、引き続き緊密な協力関係にある。また、マレーシア・シンガポール間の高速鉄道事業での協力についても検討を進めている。 皇太子殿下の初めてのマレーシア御訪問 2017年は、1957年のマラヤ連邦独立と同時に日本とマレーシアの外交関係が樹立してから60周年という節目の年でした。このような年に日本から皇太子殿下の御訪問を実現できたことは、内外に日本とマレーシアの友好関係をアピールする絶好の機会となりました。 皇太子殿下は、ムハマド5世国王陛下を始め、マレーシアの王室、政府の関係者そしてマレーシアの人々から心温まる歓迎をお受けになりました。また、ナズリン・シャー副国王殿下との御懇談やナジブ首相夫妻との昼食会は、日本の皇室とマレーシア王室との関係が継承・発展されていること、そして、日本とマレーシアの重層的な友好関係が増進されていることを強く印象付けるものとなりました。 さらに、皇太子殿下は、マレーシア政府が1982年に開始した東方政策(マレーシアの経済社会の発展と産業基盤確立のため、日本や韓国から労働倫理や学習・勤労意欲を学ぶ人材育成プログラム)の拠点であるマラヤ大学を訪問されました。皇太子殿下は、お言葉の中で、これまで約1万6,000人ものマレーシアの若者が東方政策を通じて、留学又は研修のために日本に派遣されてきましたが、民族や文化、宗教が共生するマレーシアの多様性を尊重する社会のあり方から、近年増加しつつある日本人の同国留学生が学べる点も大きい旨述べられました。 最終日には、皇太子殿下の御研究分野である「水」問題に関連し、御自身が2016年の国連の会議「国連水と災害に関する特別会合」における基調講演で紹介された、クアラルンプールにあるSMARTトンネル(交通渋滞緩和と洪水対策の2つの目的を兼ねるトンネル)を視察されました。その際、同トンネルの設立の背景、市街地の交通渋滞を緩和させるために交通機能と排水機能を兼ね備えた同施設の仕組みや防災対策などについての説明を熱心にお聞きになりました。 SMARTトンネルコントロールセンターを御視察になり、トンネルの仕組みなどの説明をお聞きになる皇太子殿下(4月15日、マレーシア・クアラルンプール 写真提供:マレーシア通信マルチメディア省) 皇太子殿下のマレーシア御訪問では、日・マレーシア関係が真の友好関係であることを実感するものとなりました。また、この訪問を通じて、日本人とマレーシア人双方が、両国の先人たちの多大なる努力と苦労により現在の日本とマレーシアの良好な関係を築いていること、そして、この友好関係を維持強化するためには「人と人」の交流、特に若者の交流が重要であることを再認識することができました。60年の友好関係を礎として、更なる60年の日・マレーシア関係構築を若い世代に託すという意味で両国にとって意義深い御訪問になりました。 ムハマド5世国王陛下と晩餐会に臨まれる皇太子殿下(4月16日、 マレーシア・クアラルンプール 写真提供:マレーシア通信マルチメディア省) (10)ミャンマー ミャンマーでは、2016年3月、約半世紀ぶりに国民の大多数の支持を受ける民主政権が誕生し、長年民主化運動を率いてきたアウン・サン・スー・チー国家最高顧問の主導の下、民主化の定着、国民和解、経済発展に取り組んでいる。日本は伝統的な友好国であり、地政学的重要性及び経済発展への大きな潜在力を有するミャンマーの安定は地域全体の安定と繁栄に直結するとの認識に立ち、同政権による民主的国造りを官民挙げて全面的に支援している。2016年11月のアウン・サン・スー・チー国家最高顧問訪日の際には、官民合わせて5年間で8,000億円の貢献を行うことを安倍総理大臣から表明した。その後、日本政府は、都市開発、電力、運輸インフラを含む幅広い分野において協力を加速している。2017年11月のフィリピン・マニラでの安倍総理大臣とアウン・サン・スー・チー国家最高顧問との会談では、1,250億円の新たな支援策を表明した。また、12月には、ティン・チョウ大統領が訪日し、日・ミャンマー首脳会談が実施された。 ミャンマーにおいて、独立以来国軍との戦闘を続けている少数民族武装勢力との和平実現は重要な課題である。2015年10月には、カレン民族同盟(KNU)等の8つの少数民族武装勢力が「全国規模停戦合意(NCA)」に署名したが、新モン州党等残る勢力との合意実現が課題となっていた。2月、新モン州党とラフ民主連盟のNCAへの署名が行われた。日本政府からは、笹川陽平ミャンマー国民和解担当政府代表が和平協議の進展を支えてきており、NCAへの署名式典では同代表が証人として署名した。また、日本政府は、NCAに署名した地域の住民が和平後の生活の向上を実感できるよう支援を行っており、これまで、カレン州を中心に、日本の非政府組織(NGO)と連携して住居、学校、病院、橋などの建設を実施してきている。 西部ラカイン州では、8月の武装勢力による治安部隊拠点に対する襲撃及びその後の情勢不安定化により、60万人以上の避難民がバングラデシュに流出し、国際社会からミャンマー政府に対して深刻な懸念が示された。日本は、現地の治安、人道・人権状況に対する深刻な懸念を表明し、法に従った治安回復、人道支援アクセス回復、避難民帰還を働きかけつつ、人道支援、避難民帰還、平和と安定のためのミャンマー政府の取組を最大限後押しすることを表明している。 (11)ラオス ラオスは、中国、ミャンマー、タイ、カンボジア及びベトナムの5か国と国境を接するメコン連結性の鍵を握る内陸国である。内政面では、2016年の第10回人民革命党大会や第8期国民議会議員選挙が行われた翌年ということもあり、人民革命党の一党支配体制の下、大きな変化はなく、安定した政権運営が行われた一年だった。経済面では、最優先課題として財政安定化に取り組む一方、電力、鉱物資源に牽引(けんいん)される形で、経済成長率は前年度と同水準の約7%と、引き続き堅調な経済成長を維持している。日本とラオスは、2015年から「戦略的パートナーシップ」として、幅広い分野で協力関係を深化させている。ラオスは、近年、日系企業による投資先として注目を集める中、3月にはソーンサイ副首相、6月にはトンルン首相が相次いで来日し、それぞれ投資セミナーや経済フォーラムを実施した。経済協力分野では、2016年9月に両首脳から発表された「日ラオス開発協力共同計画」の着実な進展が見られた。特に、ラオス政府首脳から強い要望があった財政安定化支援については、専門家派遣や各種セミナーの実施等、官民が協力して重層的な協力が行われた。6月には東京で日・ラオス首脳会談及び外相会談が行われ、7月には小田原潔外務大臣政務官が、さらに9月には堀井巌外務大臣政務官がラオスを訪問するなど、近年の緊密かつハイレベルな交流のモメンタムが維持されていることを示した。そのほか、12月には法務省、外務省、厚生労働省とラオス労働・社会福祉省との間で、外国人技能実習制度に関する協力覚書が作成された。 草の根・人間の安全保障無償資金協力で建設されたナムサン中高一貫校の引渡し式に出席する小田原外務大臣政務官(7月13日、ラオス・ビエンチャン)