第4章 国民と共にある外交 2 外交実施体制の強化 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、外交課題も多様化しつつある中、日本の外交実施体制は主要国と比べて依然十分とは言えず、オリンピック・パラリンピック東京大会が行われる2020年を念頭に、欧米主要国並みの外交実施体制を整える必要がある。こうした認識の下、外務省は、大使館や総領事館などの在外公館や外務本省の組織改編、人的体制の整備を進めている。 大使館や総領事館などの在外公館は、海外において国を代表するとともに、外交の最前線での情報収集・対外発信・外交関係促進・国際貢献などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。 2017年1月には、サモア、アルバニア、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国及びモーリシャスの4か国に日本国大使館を、ベンガルール(インド)に総領事館を開設した。これら5公館の開設は、次の観点から日本にとり重要である。 サモアはポリネシア地域最大の人口を擁する同地域の中心国の1つであり、国際機関として太平洋地域環境計画事務局(SPREP)、並びに国連食糧農業機関(FAO)及び国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)の地域事務所も擁していることから、地域における情報収集・対外発信の拠点である。また、これまで国際場裏における日本の立場を支持するなど、日本にとって重要な国である。 アルバニアは、西バルカン地域南部に国境を越えて幅広く居住するアルバニア人(人口約600万人)の中心国であり、同地域の安定と発展の鍵となる存在である。また、欧米におけるアルバニア系移民(約350万人)の強い影響力や鉱物資源が豊富であることなどの重要性もある。 マケドニア旧ユーゴスラビア共和国は、独立後、欧州連合(EU)及び北大西洋条約機構(NATO)加盟を見据えた改革努力を継続しており、同国との関係強化は、日・EU、日・NATO関係の強化の文脈でも重要である。なお、同国においては、日本は最大のドナー国の1つである。 モーリシャスは安定した民主主義国であり、優れたビジネス環境を有している。今後、対アフリカ投資の中継拠点として諸外国からの情報や人の往来が集中すると想定され、日本の経済活動の潜在性が見込まれる。 ベンガルール(インド)は、急成長するインドの情報技術(IT)産業の中心地であり、在留邦人数及び進出企業数が急増しており、同地域の邦人・日系企業が恒常的に迅速かつきめ細やかな邦人援護・領事・企業支援サービスを受けられる体制を構築する必要が生じていた。 2016年度の日本の在外公館(実館(1))数は、220公館(大使館149、総領事館63、政府代表部8)であり、この数は、米国(280公館)、中国(270公館)などの他の主要国に比べると、依然として少ない。 日本と主要国との在外公館数の比較 2017年度は、外交実施体制を一層強化するため、キプロスに大使館を設置する予定である。 キプロスは、EU加盟国であるが中東に近接し、近年、中東情勢の不安定化や欧州への難民流入等により、地政学的重要性が高まっている。また、中東・北アフリカ有事の際の退避地となり得ることから、時宜を得た情報収集や現地対応を行う必要性がある。 また、総領事館については、経済的な重要性が高まるブラジル北東部のレシフェに新設する予定である。同総領事館管内には約18万人の日系人が居住し、日本が重視する日系社会との連携強化における重要地域でもある。さらに、アフリカ開発会議(TICAD)を通じたアフリカ開発支援や、国連安保理改革等の重要政策課題への取組を一層進めていくために、アフリカ連合(AU)の執行機関であるAU委員会(AUC)及びアフリカ各国との協力関係強化が極めて重要であること等を踏まえ、アフリカ連合日本政府代表部をアディスアベバ(エチオピア)に新設する予定である。 在外公館の増設と併せ、各公館及び外務本省において、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。定員については、政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、外務省は、安全対策の強化、地球儀を俯瞰(ふかん)する外交の展開、経済外交の推進を始めとする外交実施体制強化の重要性などに対応すべく、また、外務本省に設置された国際テロ情報収集ユニットの増強に伴い、定員数は5,966人となった。しかしながら、依然として、他の主要国と比較しても人員は十分とは言えず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2017年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、在外邦人の安全対策強化・テロ関連情報収集機能強化、「積極的平和主義」の更なる展開、経済外交の推進と邦人の海外活動支援、戦略的対外発信の強化などの重要課題に取り組むため、99人増員予定である。 主要国外務省との職員数比較 外務省職員数の推移 以上のような外交実施体制を支えるとともに、G7議長国・国連安保理非常任理事国として、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、「地球儀を俯瞰する外交」を更に力強く推進していくため、外務省は2016年度予算において7,140億円(対前年度比4.2%増)を計上した。外務省所管の2016年度補正予算の総額は1,935億円であり、経済対策として在外邦人等の安全対策の強化や英国のEU離脱問題のリスクへの万全の対応、インフラなどの海外展開支援のため、総額250億円を計上している。また、追加財政需要として難民問題を含む人道・テロ対策・社会安定化支援や、広域感染症や気候変動等の地球規模課題への対応支援など総額1,685億円を計上している。2017年度当初予算政府案では、@テロその他の脅威から在外邦人や国内を守る安全対策、A不透明性を増す国際情勢への対応、B地方を含む日本経済を後押しするための外交努力及びC戦略的対外発信を重点項目とし、上記諸課題を実現するため主要国並みを目指した外交実施体制の強化/国益に資するODAの更なる拡充を図るべく6,926億円を計上している。 2016年度当初予算と2015年度当初予算の比較 日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化が不可欠である。今後も、引き続き、更なる合理化への努力を行いつつ体制の整備を戦略的に進め、先進主要国並みの外交実施体制の水準を確保できるよう努めていく。 G7伊勢志摩サミットにおける外国メディアを通じた対外発信 世界の注目が集まったG7伊勢志摩サミットでは、安倍総理大臣自身による発信に加え、議長国ブリーフィング、記者招へい、プレスツアーといった様々な取組を通じて、世界に発信しました。 安倍総理大臣はサミット開催に先立ち米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿したほか、サミットを締めくくる議長国記者会見を行い、NHKのほか、CNN(米国)、BBC(英国)などの主要メディアで放映されました。 安倍総理大臣による議長国記者会見(5月27日、三重県) サミット期間中は、インターナショナル・メディア・センター(IMC)において、外務報道官から各国プレスに対し各セッションの内容に関する議長国ブリーフィングを計6回実施するなど、各国のメディアに対して積極的かつ丁寧に情報発信を行いました。 議長国ブリーフィング 国際メディアセンター また、サミットの議論に加え、日本の自然や社会、伝統文化等の魅力を広く世界に発信するために、外国メディアを対象とする広島県や三重県への事前プレスツアーや、外国記者やテレビチームの招へいも行いました。このような取組もあり、例えば英国やイタリアのメディアは、伊勢志摩の美しい自然や海女漁業文化を伝えています。インド、フィリピン、マレーシア、バングラデシュ、パプアニューギニアといった11か国からの11人の招へい記者及びテレビ局番組制作チーム2チームは、サミットの主要議題でもある質の高いインフラ、保健や女性の活躍等をテーマとした取材を行い、それぞれ母国で伝えました。 招へい記者による海女漁取材 こうした様々な取組を通じ、G7各国の主要メディアだけではなく、アジア、アフリカ、中東などの世界各国のメディアにおいて、サミットでの議論に加え、日本の文化、取組などが紹介され、日本の魅力を幅広く世界に伝えることができました。 G7広島外相会合の際には、「核兵器のない世界」に向けた取組を含む国際社会の課題に対して、G7として対応を主導することを世界に発信すべく、岸田外務大臣がフランスのル・フィガロ紙など4か国のメディアに寄稿しました。また、G7各国外相が広島の平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑に献花する様子が世界各国のメディアで取り上げられました。 G7広島外相会合 議長国ブリーフィング 1 庁舎が存在し、そこに専任の職員が配属されている公館