第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 官民連携の推進における日本企業の海外展開支援 (1)外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進 外国に拠点を構える日系企業の数は近年増加し、2015年10月現在7万1,129拠点を数えた(15)。また、製造業の海外生産比率は近年増加し、2014年度で24.3%と過去最高水準にある(16)。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開にこれまで以上に積極的に取り組んできたこともその背景にある。アジアを中心とする海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。 このような状況にかんがみ、外務省では、外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」(17)の下、本省・在外公館が一体となり、日本企業の海外展開推進に積極的に取り組んでいる。2015年9月に経済局内に設置された「官民連携推進室」は、企業支援のための情報収集や指針策定、企業等からの照会への対応、広報業務など、日本企業の海外展開に向けた官民連携業務を総括し、全省を挙げた取組を推進している。 在外公館では、大使や総領事が先頭に立ち、日本企業支援担当官を始めとする館員一同が「世界一開かれた、相談しやすい公館」をモットーに、各地の事情に応じたきめ細やかな具体的支援を目指し、日本企業への各種情報提供や外国政府への働きかけを行っている。また、在外公館が開催する天皇誕生日レセプション、各種イベント・展示会などで、日本企業の製品・技術・サービスや農林水産物などの「ジャパンブランド」をPRすることも、日本企業支援の重要な取組の1つである。外務省は、日本企業の商品展示会や地方自治体の物産展、試食会等のPRの場として、さらに、ビジネス展開のためのセミナーや現地企業・関係機関との交流会の会場として、大使館や大使公邸等を積極的に提供している。 日本食・日本酒・食文化の魅力発信レセプション(在イタリア日本国大使館) (2)インフラシステムの海外展開の推進 新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラ輸出を促進するため、2013年、内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置された。それ以来、特定の国・地域、鉄道や情報通信等の個別の分野を取り上げているほか、リスクマネーの供給拡大、円借款の迅速化や海外投融資の対象拡大、戦略的広報の実施といった質的・量的な支援策の拡充に向けた「インフラシステム輸出戦略」の策定及びフォローアップ等について議論し、2016年末までに計28回の会合を開催した。 また、安倍総理大臣や岸田外務大臣を始めとするトップセールスの推進、円借款や海外投融資をより戦略的に活用するための制度改善、各国大使館・総領事館を通じた企業支援など、インフラシステムの海外展開推進の体制整備・強化が進められている。外務省は、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を重点国の在外公館に指名している(2016年12月末現在、69か国88在外公館173人)。 このような取組の具体的な成果として、火星探査機の打ち上げ(アラブ首長国連邦)、火力発電所(インドネシア、ウズベキスタン等)、都市鉄道(タイ)などを日本企業や日本企業を含むグループが受注した。 質の高いインフラ投資 インフラ投資の世界的な需給ギャップと持続可能な成長の実現は、世界が直面している大きな開発課題となっています。これに対処するためには、インフラの質・量双方を追求していく必要があり「質の高いインフラ投資」の推進が必要であるとの問題意識が世界中で広まっています。「質の高いインフラ投資」とは、相手国の発展段階やその他事情を十分勘案の上、インフラ単体のコストのみならず、維持管理等のライフサイクルコストや安全性・強靱(きょうじん)性、環境・社会面への配慮、現地の雇用創出や人材育成、官民連携(PPP)等を通じた効果的な官民の資金の活用等を考慮した投資です。2016年5月、日本が議長国を務めたG7伊勢志摩サミットにおいて、質の高いインフラ投資の基本的要素を盛り込んだ、『質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則』にG7として合意しました。 日本は、質の高いインフラ投資を推進すべく、2015年5月に、安倍総理大臣から「質の高いインフラパートナーシップ」を発表し、アジア開発銀行(ADB)と連携し、今後5年間で、約1,100億米ドルの質の高いインフラ投資をアジア地域に提供するとともに、有償資金協力の制度改善を通じて、アジア地域のインフラ需要に対して一層魅力あるファイナンスを提供すべく取り組んでいくこととしました。2016年5月23日には、安倍総理大臣から、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表し、アジアのみではなく世界全体のインフラ需要に対し、官民合わせて約2,000億米ドルの資金等を供給することとしました。さらに、制度改善を一層進めるとともに、支援を実施する国際協力機構(JICA)等政府機関の体制強化を進めることも併せて発表しました。 こうした資金供給に向けた取組や各種制度改善を実施するとともに、日本は、質の高いインフラに関する具体的なプロジェクトも進めています。例えば、インドでは、ムンバイ・アーメダバード間の約500キロを結ぶ高速鉄道プロジェクトを、日印協力の下で進めています。このプロジェクトでは、日本の新幹線システムの導入が決定されており、高速鉄道の運用や保守、運営に係る人材育成や技術移転を行うことで、日本の高い技術力を生かした高速鉄道の整備を目指しています。また、今後事業に対する時宜に応じた資金の供給を行うことで、資金面でもプロジェクトの実現を後押ししていく考えです。このプロジェクトの実施により、インドにおけるヒト・モノの行き来が活発化し、インド経済の活性化につなげるとともに、日本の高い安全性と技術をインドに移転することができ、正に質の高いインフラ投資の好例といえます。日本は、今後、アジアを含む世界の国々や国際機関と連携し、こうした質の高いインフラ投資を各国において推進していく考えです。 モディ・インド首相と新幹線や新幹線の工場を視察する安倍総理大臣(11月12日、東京駅及び兵庫県神戸市の鉄道車両製造専門工場 写真提供:内閣広報室) (3)日本の農林水産物・食品の輸出促進 日本政府は、「2019年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円にする」という目標(「未来への投資を実現する経済対策」)を掲げている。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体等と連携しつつ、世界各国の在外公館を活用し、天皇誕生日祝賀レセプションを始めとする大使・総領事公邸での行事等において日本産品の魅力を積極的に発信するとともに、農林水産物・食品の輸出に取り組む事業者からの相談に対応してきた。特に、54か国・地域の58か所の在外公館等には、日本企業支援担当官(食産業担当)を設置し、農林水産物・食品の輸出促進等に向けた取組を強化している。 また、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から6年が経過したが、依然として多くの国・地域において、日本の農水産物や食品等に対する輸入規制が維持されている。外務省は、関係省庁と連携しながら、被災地の主要産品である農産物や水産物の風評被害を払拭するため、各国政府等に対し正確な情報を迅速に提供するとともに、WTOの枠組みも活用しつつ、科学的根拠に基づき輸入規制を可及的速やかに緩和・撤廃するよう働きかけを行っている。 こうした取組の結果、2016年にはインド(2月)、クウェート(5月)、ネパール(8月)、イラン(12月)、モーリシャス(12月)が輸入規制を撤廃するなど、これまで計21か国(カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン及びモーリシャス)が規制を撤廃した。また、2016年には、米国、EU加盟28か国、スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、エジプト、ブルネイ、フランス領ポリネシア、イスラエル、カタール、ニューカレドニア及びアラブ首長国連邦(UAE)が規制を緩和するなど、規制の対象地域・品目は縮小されつつある(2016年12月末時点)。 外務省は、引き続き、首脳・閣僚レベルによる申入れを始めとして、関係省庁と連携しながら、輸入規制を維持している国・地域に対し、可及的速やかな緩和・撤廃に向けた働きかけを二国間及びWTOを始めとするあらゆるルートを通じて粘り強く行っていく。 (4)英国のEU離脱 〜日本からの「メッセージ」〜 6月23日の欧州連合(EU)からの離脱を支持する英国民投票の結果を受け、7月、英国のEU離脱に伴う日本企業の活動及び実体経済への影響に対応するため、日本は萩生田内閣官房副長官を議長とする「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース(18)」を立ち上げた。 英国及びEUに進出する日本企業は、規模・業種及びその進出経緯も多岐にわたり、欧州全体で6,000以上の拠点を擁すると言われている。EUには、自由な経済活動が確保されていることを前提に多くの日本企業が進出し、特に英国は、幅広い業種で活動の拠点となっているため、「単一市場(19)」や「単一パスポート(20)」といったEUの制度への英国の参加の維持を求める声は大きい。 こうした企業の声が英・EU間の離脱交渉で適切に反映されるよう、9月、英国のEU離脱に関する政府タスクフォースの第3回会合において「英国及びEUへの日本からのメッセージ(21)」を採択し、G20杭州(こうしゅう)サミット(於:中国)の際の日英首脳立ち話(9月5日)及び国連総会の際の日英首脳会談(9月20日)も含め、英国及びEUに対し速やかに伝達した。また、在英国日本国大使館において、同メッセージも踏まえつつ英国政府との対話を継続するとともに、英国政府高官の参加も得ながら日系企業向け説明会を累次開催する等、関係在外公館においてEU離脱に関する最新状況に関する情報収集や日系企業に対する情報提供を行ってきている。 15 外務省「海外在留邦人数調査統計」 16 経済産業省「第45回海外事業活動基本調査」 17 2013年12月設置。2015年5月、両外務副大臣を本部長代行、全外務大臣政務官を本部長代理として体制を強化 18 2016年7月、萩生田内閣官房副長官を議長とする「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース」を設置。英国のEU離脱に関し、関係省庁(内閣府、金融庁、外務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び個人情報保護委員会事務局)を通じて、欧州駐在日系企業を中心に経済界の懸念や要望を集約。これまで計4回の会合(2016年7月27日に第1回会合、8月18日に第2回会合、9月2日に第3回会合。2017年1月19日に第4会合)を開催 19 EU加盟国間において、人、モノ、サービス及び資本がそれぞれの国内と同様に、国境や障壁に妨げられることなく、自由に移動できる制度 20 1つのEU加盟国で免許を取得すれば、他の加盟国で新たに免許を取得しなくても自由に支店を設立・開業し、金融サービスを提供できる制度 21 英国及びEUへの日本からのメッセージの骨子は以下のとおり。@英・EUと国際の平和、安定、繁栄のため引き続き緊密な協力・連携を期待。A開かれた欧州、自由貿易体制の維持、日EU・EPAの年内大筋合意実現を期待。B円滑・透明なプロセスを通じた離脱交渉による予見可能性の確保を希望。C日本企業の要望に最大限耳を傾け、きめ細やかな対応を要望。D離脱プロセスが世界経済の大きな混乱を与えないよう英国及びEUと協力したい。