第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 各論 1 安全保障に関する取組 (1)国際協調主義に基づく「積極的平和主義」 日本を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増している。北朝鮮は、日本を含む国際社会が繰り返し強く自制を求めてきたにもかかわらず、2016年に入ってから2回の核実験を強行するとともに、20発を超える弾道ミサイルを発射するなど、その脅威は新たな段階に入っている。また、中国は、国防費を過去28年間で約44倍に増加させる一方でその細部内訳を明らかにしないなど、透明性を欠いたまま軍事力を強化するとともに、東シナ海、南シナ海の海空域において、既存の国際秩序とは相いれない独自の主張に基づく力を背景とした一方的な現状変更の試みを継続している。さらに、大量破壊兵器等の拡散や国際テロの深刻化、サイバー空間や宇宙空間などの新たな領域における課題の顕在化等グローバルな安全保障上の課題は広範かつ多様化している。このような安全保障環境の下、脅威が世界のどの地域で出現しても、日本の安全保障に直接的な影響を及ぼし得るとともに、どの国も、一国のみで自らの安全を守ることはできない状況となっている。 2017年2月12日に北朝鮮が発射した弾道ミサイル 日本は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩み、国際社会や国際連合を始めとする国際機関と連携し、国際社会の平和と繁栄に積極的に寄与してきた。このような日本の姿勢は、国際社会において高い評価と信頼を勝ち得てきており、国際社会は、日本がその国力にふさわしい形で国際社会の平和と安全のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。 日本は、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から力強い外交を推進し、国際社会からの要請に応えるべく、国際社会の平和と安定に一層積極的に貢献していく。 日中中間線付近において設置が確認された中国の海洋プラットフォーム(写真提供:防衛省) 詳細は、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html参照 南シナ海において埋め立てが進むファイアリークロス礁 上:2014年8月14日 下:2017年3月9日 出典:http://amti.csis.org/ (2)「平和安全法制」の施行及び法制に基づく取組 日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守るためには、力強い外交を推進し、安定し、かつ、見通しがつきやすい国際環境を創出していくことが重要である。その上で、あらゆる事態に対し切れ目のない対応を可能とするとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することが重要であり、そのための「平和安全法制」が、2016年3月に施行された。 この法制は、専守防衛を始めとする日本の平和国家としての歩みをより確固たるものにしていくためのものである。これにより、日米同盟を強化し、日本の抑止力を向上させ、紛争を未然に防ぐとともに、国際社会へのより一層の貢献が可能となった。具体的な取組としては、11月に国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に派遣されている自衛隊の部隊にいわゆる駆け付け警護の任務を付与する実施計画の変更を閣議決定した。また、「平和安全法制」により、自衛隊により実施可能な物品・役務の提供が拡大されたことも踏まえ、米国(9月)及びオーストラリア(2017年1月)との間で新たな物品役務相互提供協定(ACSA)に署名するとともに、英国(2017年1月)との間でもACSAに署名した。 「平和安全法制」については、様々な機会を捉えて、諸外国に対し、その内容を丁寧に説明してきている。これに対し、米国はもとより、オーストラリア、ASEAN諸国、ヨーロッパ諸国、中南米諸国、国際連合を始め多くの国・機関から、理解と支持が表明されている(3)。これは、「平和安全法制」が、世界の平和と安全に貢献する法律であることの何よりの証(あかし)である。 (3)領土保全 領土保全は、国家にとって基本的な責務である。日本の領土・領空・領海は断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅然(きぜん)かつ冷静に対応する考えであり、政府関係機関が緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するための取組を推進している。同時に、在外公館の人脈や知見を生かしつつ、領土保全に関する日本の主張を積極的に国際社会に発信している。 3 2015年末までに、米国、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド、フランス、ドイツ、英国、バングラデシュ、パプアニューギニア、スリランカ、カナダ、ドミニカ国、ジャマイカ、パラグアイ、チェコ、フィンランド、ジョージア、オランダ、スロバキア、イスラエル、ヨルダン、カタール、ケニアなどの国やASEAN、EUといった地域機関も支持や歓迎等を表明。2016年には、シンガポール、アルゼンチン、ペルー、パナマ、ガーナなどの国々や国際連合も新たに支持や歓迎等を表明した。