第2章 地球儀を俯瞰する外交 5 中東和平 (1)中東和平をめぐる動き 米国の仲介により、2013年7月から2014年4月にかけて行われたイスラエル・パレスチナ間の直接交渉は、双方の主張の隔たりなどから頓挫し、以後再開の見通しは立っていない。 2015年半ば頃から、イスラエル国内及びヨルダン川西岸地区において、パレスチナ人とイスラエル人との間で衝突が頻発するなど、治安情勢が悪化した。2016年に入ってから事態は沈静化の様相を見せたものの、双方の不信感は根強く、和平を進める雰囲気にはない。また、イスラエルによる入植政策も継続されており、ガザ地区の人道状況も劣悪な状態が続いている。 この状況を改善しようと、国際社会は、イスラエル・パレスチナ双方に対して、早期交渉再開の呼びかけを続けた。中でもフランスは、現状を打破するための試みとして国際会議の開催を呼びかけ、6月、二国家解決を再確認し、交渉を再開させるためのあらゆる方途を話し合うため、イスラエル及びパレスチナの両当事者を除く主要国を招待した閣僚級会合を開催し、日本からは中東和平担当特使が出席した。 12月23日には、国連安保理において、イスラエルの入植活動に関し、即時かつ完全な停止を要求する国連安保理決議第2334号が、日本を含む賛成14か国、棄権1か国(米国)により採択された。 これに続き、28日、ケリー米国務長官は、今後の和平交渉の基盤に関する提案を含む演説を行った。また、フランスは、2017年1月15日、パリにて中東和平に関する閣僚級会合を開催し、日本からは薗浦外務副大臣が出席した。 (2)日本の取組 日本は、国際社会と連携しながら、「二国家解決」の実現に向けて政治・経済面から働きかけを行ってきている。総理大臣、外務大臣、中東和平担当特使など、あらゆるレベルで関係者との政治対話を行ってきているほか、イスラエル・パレスチナ双方の関係者や若者を日本に招へいする等の当事者間の信頼醸成の推進に取り組んでいる。 2015年1月、安倍総理大臣はイスラエル及びパレスチナを訪問し、イスラエルではネタニヤフ首相らと、パレスチナではアッバース大統領と会談し、中東和平問題の解決に向け直接働きかけた。2016年2月にはアッバース大統領が訪日し、日本側から、直接交渉再開に向け柔軟な対応を期待すると働きかけた。 日本の対パレスチナ支援は、1993年以降、約17億米ドルに達しており、人道支援、雇用創出、医療・保健・農業など様々な分野に及ぶ。特に独自の取組として、イスラエル・パレスチナ・ヨルダンと協力し、パレスチナの経済的自立に向けた「平和と繁栄の回廊」構想を進めている。同構想の旗艦事業として開発中のジェリコ農産加工団地では、パレスチナ民間企業が操業を開始しており、今後更に多くの企業が稼働し、新たな雇用を生み出すことが見込まれる。9月には、薗浦外務副大臣が議長を務め、同構想の四者(日本、イスラエル、パレスチナ及びヨルダン)による閣僚級会合を開催した。参加者は、今後も四者で協力して同構想を発展させていくことで一致した。 第5回「平和と繁栄の回廊」構想四者閣僚級協議に出席する薗浦外務副大臣(9月7日、パレスチナ・ジェリコ) また、アジア諸国からの支援を動員すべく日本が開始した「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」の枠組みの下で、アジア諸国との三角協力を通じた対パレスチナ支援が進んでいる。