第2章 地球儀を俯瞰する外交 第3節 中南米 総論 大きな経済的潜在力を有する中南米地域は、日本と基本的価値を共有する国際場裏の一大勢力であり、世界最大の日系社会を有する、日本にとって重要なパートナーである。人口約6億人、国内総生産(GDP)約5兆1,000億米ドルの巨大市場(東南アジア諸国連合(ASEAN)の約2倍)である同地域は、希少金属(レアメタル)やシェールガスを豊富に埋蔵し、鉱物資源・エネルギーや食料の生産地を擁しているため、近年日本企業の進出が顕著である。また、法の支配や民主主義が根付いており、国際社会において高い発言力を有している。さらに、約213万人に上る日系人の在住など日本との人的・歴史的な絆(きずな)も伝統的に深く、日本は中南米地域と長い間安定的な友好関係を維持してきた。 日本は、2014年に安倍総理大臣が中南米5か国を訪問した際に提唱した、対中南米政策の3つの指導理念(@共に発展(経済関係強化)、A共に主導(国際社会のパートナー)及びB共に啓発(人的交流、文化・スポーツ交流などの促進))に基づき、同地域と関係を強化している。 2016年は、日本の対中南米外交が特に顕著であった。安倍総理大臣は、8月にオリンピック閉会式に出席するためリオデジャネイロ(ブラジル)を訪問し、9月には現職の総理大臣として初めてキューバを訪問した。また、11月にはペルーAPEC首脳会議へ出席するとともにペルーを公式訪問し、さらに、現職の総理大臣として57年ぶりにアルゼンチンを訪問した。中南米諸国からは、4月にバレーラ・パナマ大統領、10月にテメル・ブラジル大統領が訪日した。 日・キューバ首脳会談(9月22日、キューバ 写真提供:内閣広報室) 岸田外務大臣は、11月にAPEC出席のためペルーを訪問し、ルナ外相と会談したほか、3月にロイサガ・パラグアイ外相、5月にマルティネス・エルサルバドル外相、7月にマルコーラ・アルゼンチン外相、12月にジョンソン=スミス・ジャマイカ外務・貿易相とそれぞれ外相会談を行い、9月には国連総会の機会に日・カリコム(CARICOM:カリブ共同体)外相会合を行った。このように2016年には首脳及び外相レベル双方で日本と中南米諸国との要人往来が非常に活発化し、地理的な制約を克服する取組が行われた。 ルナ・ペルー外相と岸田外務大臣の会談(11月17日、ペルー) 経済面では、日本企業支援のため、中南米におけるビジネス環境の改善に向けて様々な取組を行っている。1月、自動車産業を中心として日本企業の進出及び在留邦人の増加が著しいメキシコのグアナファト州に、在レオン総領事館を開館した。11月には、東京で第2回日・キューバ官民合同会議を開催し、アルゼンチンでは、安倍総理大臣の同国訪問の機会を捉え、500人が参加した経済フォーラムが開催された。さらに11月の日・ペルー首脳会談では、日・ペルー租税条約の協議開始が決定されたほか、12月には、日・チリ租税条約が発効した。 マクリ・アルゼンチン大統領と握手を交わす安倍総理大臣(11月21日、アルゼンチン 写真提供:内閣広報室) また、2016年はパラグアイ日本人移住80周年であり、様々な記念式典が催されたほか、日・ハイチ外交関係樹立60周年及び日・ドミニカ共和国日本人移住60周年に当たる年でもあった。