第2章 地球儀を俯瞰する外交 2 カナダ (1)カナダ情勢 2015年11月に発足したトルドー政権は、安定的な支持率を背景に、着実に政権運営を行っている。 外交面では、カナダは伝統的に緊密な米加関係を背景に国連、北大西洋条約機構(NATO)、G7、G20、米州機構(OAS)など多国間の場を活用した外交を展開し、90年代半ばには、平和構築構想(紛争予防、復興支援)を打ち出すとともに、国連平和維持活動(PKO)、対人地雷問題、人間の安全保障の推進等に積極的に取り組んできた。トルドー政権は、多国間主義を外交政策の基本とし、シリア難民の受入れを始めとする人道・国際協力分野への積極的取組、気候変動対策に関するパリ協定の批准等を通じ、マルチ外交への回帰を実践しつつ、首脳の外国訪問や対話を通じて各国との関係強化に乗り出すなど、二国間外交面でも積極的な姿勢が見られる。 経済面では、トルドー政権は、インフラ投資拡大等を通じた経済成長、中間層強化を基本政策としつつ、新たな児童手当の創設、中間層の減税措置等に取り組んでいる。対外的には貿易増大、外国投資誘致の目的のために、中国、インドを含む高成長国市場との貿易・投資拡大及び日本や欧米諸国等の伝統的パートナーとの貿易関係の深化に注力する方針である。具体的には、2月にTPP協定、10月にカナダ・EU包括的経済貿易協定(CETA)に署名したほか、8月にASEANとの間で貿易自由化推進・貿易障壁削減を協議する年次通商政策対話を立ち上げ、9月のカナダ・中国首脳会談でカナダ・中国FTAに向けた予備的議論の開始に合意するなど積極的な取組を進めている。 (2)日・カナダ関係 安倍総理大臣は、3月及び5月にトルドー首相との間で首脳会談を行った。両首脳は、二国間及び国際場裏での協力関係を更に発展させ、「日加協力新時代」を切り拓(ひら)いていくことで一致したほか、東アジアを含む地域情勢や国際場裏における協力等についても認識を共有した。 日・カナダ首脳会談でトルドー首相と握手する安倍総理大臣(5月24日、東京 写真提供:内閣広報室) 経済面では、5月の首脳会談において、安倍総理大臣からTPP協定の早期発効は日・カナダ経済関係を強化する上でも重要であると述べ、両首脳は、それぞれ国内で議論を進めていくことを確認した。また、両首脳は、インフラ、エネルギー、科学技術、ビジネス環境・投資及び観光・学生交流の5分野に焦点を当て、今日のニーズに合致するよう日本・カナダ次官級経済協議(JEC)を進化させることで一致するとともに、安倍総理大臣から、カナダからの液化天然ガス(LNG)輸出の早期実現及びビジネス環境改善に関する働きかけを行った。また、両首脳は、気候変動を含むグローバルな課題への対応について引き続き協力していくことで一致した。 岸田外務大臣は、4月、ディオン外相と会談を行い、地域と世界の平和と安定に共に貢献することに加え、安全保障分野での協力を含め、二国間関係を更に強化していくことで一致したほか、通算4度目となる11月の会談では、両首相が合意した「日加協力新時代」の具体化を更に進めることに加え、日・カナダ物品役務相互提供協定(日加ACSA)は両国の安全保障協力の深化にとって重要な案件であるとして、締結に向けた議論を更に進めることにつき一致した。 州別の日系企業進出数及び州首相訪日歴 このほか、4月に第3回日・カナダ次官級「2+2」対話を行い、安全保障分野での協力強化を再確認し、東アジア情勢、中東情勢及び北極を含む地域的・国際的な安全保障環境等について認識を共有した。また、12月には日・カナダ政務・防衛当局間、防衛当局間(PM/MM)協議に加え、日・カナダ両国政府が参加する形での有識者間の対話である第14回日・カナダ安全保障シンポジウムが東京で開催され、活発な意見交換が行われた。