第2章 地球儀を俯瞰する外交 5 大洋州 (1)オーストラリア ア 概要・総論 オーストラリアでは、2015年9月にターンブル首相が就任したが、2016年5月に連邦議会上下両院が解散され、7月に連邦議会総選挙が行われた結果、ターンブル首相が率いる保守連合(自由党・国民党)が僅差で勝利し、同首相が再任された。 日本とオーストラリアは、基本的価値と戦略的利益を共有する「特別な戦略的パートナーシップ」の下、法に基づく自由で開かれた国際秩序を支えるとともに、国際社会の安定と繁栄に共に貢献している。首相の相互訪問や外相間の緊密な連携を基盤として、政治・安全保障面での協力関係が着実に深まっている。経済面では、日本にとってオーストラリアは第6の貿易相手国、オーストラリアにとって日本は第2の貿易相手国である。両国は日豪EPAに基づき、相互補完的な経済関係を更に発展させるとともに、TPP協定、RCEP等を始めとする自由貿易の推進に関しても緊密に連携している。また、日米豪や日豪印といった3か国間での連携及びパートナーシップも着実に強化されている。 9月のASEAN関連首脳会議(於:ラオス)の際、日・オーストラリア首脳会談が行われ、両首脳は二国間関係の一層の促進や地域・国際情勢における緊密な協力につき一致した。また、2017年1月には安倍総理大臣がオーストラリアを訪問し、安全保障・防衛協力、経済分野や人的交流など幅広い分野での「特別な戦略的パートナーシップ」の深化を確認するとともに、首脳間の個人的な関係の強化が図られた。同訪問は、両国のメディアで大きく、かつ、好意的に報道された。岸田外務大臣とビショップ外相の間では、2月のビショップ外相訪日、9月の国連総会などの機会に会談が行われた。これらの会談などを通じ、両国は、厳しさを増す地域情勢に対する認識を共有するとともに、地域の平和と安定のために引き続き連携していくことを確認した。 日・オーストラリア共同記者発表(2017年1月14日、オーストラリア・シドニー 写真提供:内閣広報室) イ 安全保障分野での協力 両国が安全保障・防衛分野で緊密に連携することはアジア太平洋地域の平和と安定に貢献するとの観点から、両国は協力を着実に強化・拡大させている。両国間では、外務・防衛閣僚協議(「2+2」)が定例化されており、日・豪物品役務相互提供協定(日豪ACSA)、情報保護協定、防衛装備品・技術移転協定が締結されている。そして、平和安全法制を踏まえ、自衛隊とオーストラリア軍の緊密な協力を更に促進すべく、両国はACSAの見直しを進め、2017年1月に新たな日豪ACSAの署名が行われた。また、両国は、共同運用及び訓練を円滑化するための協定の作成に向け、交渉を行っている。さらに両国は、サイバー、宇宙、テロ対策及び暴力的過激主義といった分野での連携も強化し、協力の裾野を広げている。 また、厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境を背景に、共に米国の同盟国である両国は、日米豪の連携の更なる強化に取り組んでいる。7月には約3年ぶりに日米豪閣僚級戦略対話(TSD)を開催し、南シナ海、東シナ海、北朝鮮、テロ対策などに関し、3か国で緊密に連携・協力していくことで一致した。また、自衛隊、米軍及びオーストラリア軍による共同訓練などの実施に加えて、10月には日米豪防衛当局間の情報共有取決めが署名されるなど協力が着実に進展している。 2017年1月の日・オーストラリア首脳会談では、安全保障・防衛協力に係る取組が両国の長きにわたる戦略的結び付きを強化することを再確認した。 ウ 経済関係 日本からオーストラリアに対しては主に自動車などの工業品が輸出され、日本は主に石炭や天然ガスなどのエネルギー資源や牛肉などの農産物を輸入するという相互補完的な経済関係は、長年にわたり着実に発展してきている。また、近年は日本からオーストラリアへの投資も多様化しながら拡大しており、日本はオーストラリアへの第2の投資国となっている。さらに、日豪交流促進会議の下、イノベーション主導の産業構造転換と地方主導の関係緊密化を二本柱として、日・オーストラリア間の経済関係を更に発展させるための取組が行われている。両国はTPP協定及びRCEPを含む地域の自由貿易体制の推進についても緊密に連携している。 2017年1月の日・オーストラリア首脳会談では、発効後2周年を迎えた日豪EPAの成功を確認するとともに、重要な経済的・戦略的利益をもたらすTPP協定の実施が引き続き必要不可欠な事項であることを強調し、RCEPがより緊密な地域の経済統合に向けた機会をもたらすことを再確認した。 エ 文化・人的交流 オーストラリアには約36万人に上る日本語学習者(人口比では世界第1位)や100件を超える姉妹都市交流など長年培われた親日的な土壌が存在する。短期招へい事業JENESYS2015及びJENESYS2016並びに新コロンボ計画による対日理解の促進やオーストラリア人元戦争捕虜(POW)の招へいを通じた和解の促進、若手政治家交流など両国関係の基盤強化のための取組が行われた。 オ 国際社会における協力 両国は、国際社会の平和と安定に積極的な役割を担うため、様々なレベルでの協力を強化してきている。国連平和維持活動や平和構築では、長年協力関係を築いてきており、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)において両国は緊密に連携して活動している。2月には、太平洋地域の平和と繁栄に貢献するため、「太平洋における協力のための日豪戦略」を日・オーストラリアの両外相で発表し、10月には、第1回太平洋政策対話を行い、日豪間での協力に関して意見交換を行った。また両国は、海洋安全保障、北朝鮮の核・ミサイル開発や拉致問題、軍縮・不拡散、気候変動対策、国連安保理改革などについても、その重要性を共有し、国際場裏で協働している。 (2)ニュージーランド ア 概要・総論 ニュージーランドでは、12月、キー首相が辞任し、イングリッシュ副首相兼財務相が新首相に就任した。日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有し、長年良好な関係を維持している。近年は、「戦略的協力パートナーシップ」の下、経済、安全保障・防衛協力、人物交流を含む二国間協力の強化に加え、地域や国際社会の課題についても協力関係を強化している。 イ 要人往来 日本からは、2月に黄川田仁志外務大臣政務官がクライストチャーチ地震5周年追悼式典へ出席するためニュージーランドを訪問したほか、7月にM地外務大臣政務官、8月に石原伸晃内閣府特命担当大臣がニュージーランドを訪問し、政府要人と会談を行った。 ニュージーランドからは、5月にゴールドスミス商務・消費者問題相が「日経アジアの未来」セミナー(於:東京)に出席するため訪日した。また、6月にフラヴェル・マオリ開発担当相が訪日し、杉田和博内閣官房副長官との会談、農業・林業企業関係者と意見交換を行ったほか、8月にジョイス経済開発担当相が訪日し、ビジネス関係者と意見交換を行った。 ウ 経済関係 両国は、相互補完的な経済関係を有しており、11月のペルーAPEC首脳会議の場で両国の首相が立ち話を行った際にも、自由貿易推進の重要性について確認した。両国が参加する環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の発効及び質の高いRCEPの早期妥結に向けて、二国間の連携を更に強めている。 また、食料・農業分野においては、2014年に開始した日本の酪農の収益性を向上させる方法の特定を目的とする「ニュージーランド・北海道酪農協力プロジェクト」が2年間のパイロット・プロジェクトを経て6月に2年間の延長が決定された。 エ 人的交流 2016年には、青少年交流事業「JENESYS2016」の一環として、ニュージーランドから31人の大学生が訪日した。2007年から続く青少年関連事業を通じ、累計で1,100人を超えるニュージーランドの高校生・大学生が日本を訪れている。 また、青少年間の相互理解促進を目的とした姉妹都市間のネットワーク化が進んでいる。さらに、ワールドカップを連覇したラグビーを通じて日本の学生の英語教育を支援するニュージーランド政府主催事業「Game on English」が行われており、2016年にはこの事業により日本から24人の学生がニュージーランドを訪問したほか、ニュージーランドのラグビーコーチ2人の訪日も実現した。 オ 災害時の協力 11月13日(日本時間)に発生したニュージーランド南島(カンタベリー地域北部)を震源地とするマグニチュード7.8の地震に際し、ニュージーランド政府からの要請に基づき、日本は海上自衛隊のP-1哨戒(しょうかい)機を国際緊急援助隊・自衛隊部隊として派遣し、上空から被害状況の調査を実施した。 カ 国際社会における協力 両国は、共に国連安保理の非常任理事国として、国際社会の平和と安定のために緊密に協力した。また、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、太平洋・島サミット(PALM)などの地域協力枠組みにおける協力や太平洋島嶼(とうしょ)国において経済開発面での協力を行うなど、地域の安定と発展のために積極的な役割を果たしている。 (3)太平洋島嶼国 ア 概要・総論 太平洋島嶼(とうしょ)国は、日本とは太平洋によって結ばれ、歴史的なつながりも深く、国際社会での協力や天然資源の供給において重要なパートナーである。日本は、1997年から3年に1度、太平洋・島サミット(PALM)を開催するとともに、2010年からは、PALM中間閣僚会合も開催している。また、日本は、太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話に継続して参加しているほか、2014年以降、9月に行われる国連総会の機会に日本・太平洋島嶼国首脳会合を毎年開催している。日本は、こうした国際会議の機会も活用した各レベルでの要人往来、機動的なODAや活発な人的交流などを通じて、太平洋島嶼国との関係を一層強化してきている。太平洋島嶼国では、2016年は選挙が相次いでおり、1月にキリバス、2月にバヌアツ、3月にサモア、7月にナウル、11月にパラオにおいて、それぞれ国政選挙が行われた。その結果、キリバスとバヌアツにおいて首脳が交代し、サモア、ナウル、パラオにおいて現職の首脳が再選した。また、マーシャルにおいては、1月に不信任決議によるものを含めて2回の大統領選挙が行われ、2度大統領が交代した。 イ 太平洋・島サミット 9月、米国ニューヨークを訪問中の安倍総理大臣は、国連総会の機会に第3回日本・太平洋島嶼(とうしょ)国首脳会合を開催し、第7回太平洋・島サミット(PALM7)において表明した各種コミットメントや協力のフォローアップ状況、北朝鮮、海における法の支配、国連安保理改革を始めとする国連改革などについて議論した。 また、2017年1月には、東京で太平洋・島サミット第3回中間閣僚会合を開催した。同会合では岸田外務大臣とロバート・ミクロネシア連邦外相が共同議長を務め、PALM7のフォローアップ、国際場裏における協力、自立的かつ持続的な発展、海洋に関する諸課題及びPALM8の方向性に焦点を当てた意見交換が行われた。太平洋島嶼国からは、日本がPALM7で表明したコミットメントを着実に実施していることに対する深い謝意が表明され、各国は2018年のPALM8の成功に向けて緊密に協力していくことで一致した。 ウ 要人往来 1月、田中和コ衆議院議員は、総理特使としてマーシャル諸島共和国を訪問し、ネムラ大統領の就任式に出席したほか、同大統領などとの会談を行った。5月、オニール・パプアニューギニア独立国首相は、太平洋諸島フォーラム(PIF)代表としてG7伊勢志摩サミット・アウトリーチ会合に出席したほか、安倍総理大臣と会談を行い、LNGを始めとする経済分野の協力などを確認した。7月、M地外務大臣政務官は、PALM7で重要性が確認された日本と太平洋島嶼国との貿易・投資を促進することの重要性が確認されたことを踏まえ、具体的な取組として開催された「日・サモア貿易投資セミナー」に出席するため、官民合同経済ミッションの団長としてサモアを訪問した。2017年1月、小田原外務大臣政務官が総理特使としてパラオ共和国大統領就任式に出席し、レメンゲサウ大統領などと会談を行った。 エ 太平洋諸島フォーラム(PIF)などとの関係 9月、ミクロネシア連邦のポンペイにおいてPIF域外国対話が開催され、小田原外務大臣政務官が総理特使として出席し、PIFとの協力の重要性に言及しつつ、気候変動分野や人材育成などの様々な分野における太平洋島嶼国との協力を進めていくことを表明した。 オ 人的交流 人的交流事業JENESYS2015及びJENESYS2016により、224人の大学生などが訪日し、日本の政治、歴史、文化、社会などへの理解を深めた。また、2016年度から太平洋島嶼国の若手行政官を対象とした太平洋島嶼国リーダー教育支援プログラム(Pacific-LEADS)を開始し、2016年度は41人を受け入れた。 カ サモア大使館の設立 サモアはポリネシア地域の中心国の1つであり、これまで国際場裏における日本の立場を支持するなど日本にとって重要な国であることから、日本は2017年1月にサモアの兼勤駐在官事務所を大使館に格上げした。