第4章 国民と共にある外交 3 地方自治体などとの連携 地方創生は内閣の最重要課題の1つであり、外務大臣も、まち・ひと・しごと創生本部のメンバーとして、地方創生支援に省を挙げて取り組んでいる。また、オールジャパンでの総合的な外交力強化の観点から、地方と連携して各種事業を行ってきている。 国内では、2015年から新たに岸田外務大臣のイニシアティブで外務省の施設である飯倉公館を活用した地方創生支援プロジェクトを始めた。これは、外務大臣と地方自治体の首長の共催で日本に駐在する各国大使等を飯倉公館に招いてセミナーやレセプションを開催し、在京大使館や内外報道機関等を通じて、地方の多様な魅力を内外に発信するものである。第1回を京都市(2月)、第2回を福島県(3月)、第3回を広島県・広島市(7月)、第4回を三重県(10月)、第5回を青森県(11月)と共催し、各自治体の首長が観光地、地場産品などを直接紹介するセミナーや郷土芸能の披露などを行い、国内外で報道された。参加自治体からは外務大臣と共催することで一度に多くの在京大使等に地方の魅力を発信できる広報効果の高い事業との評価を得ている。これに加え、市・特別区レベルでの国際的取組を支援するため、6月に「全国市長会議に際する外務大臣主催レセプション」を開催した。 鏡開き(7月23日、広島県知事・広島市長との共催レセプション) 地方視察ツアー(松戸市):梨園にて ブースの様子(10月27日、三重県知事との共催レセプション) 地方視察ツアー(神奈川県):湘南ロボケアセンターにて 上記のほか、在京外交団等を対象とした「地域の魅力発信セミナー」及び「地方視察ツアー」を実施した。7月には、外務省で千葉県・松戸市、神奈川県・相模原市、さいたま市、愛知県豊田市・岐阜県御嵩町がそれぞれの魅力を発信する第18回「地域の魅力発信セミナー」を実施し、在京外交団等75人が参加した。同セミナーでは、参加自治体から在京外交団等に地方の最新情報や地場産品を紹介し、産品の試飲・試食を交えた意見交換や相互交流を行った。また、20-50人程度の在京外交団が参加する「地方視察ツアー」(9月松戸市、10月神奈川県、11月さいたま市及び豊田市・御嵩町)を実施した。外交団は各自治体内の施設を視察したほか、自治体首長との意見交換、地元の各種団体や学生との交流を行った。 さらに、外務省では自治体に対し、最新の外交政策等に関する説明や意見交換の場を積極的に提供している。その一環として「地方連携フォーラム」を1月に開催した。第1部の外交政策説明会では「戦略的対外発信」について説明し、第2部の分科会では「外国メディアを活用した、地方自治体の海外向け情報発信」、「インバウンドによる地域の活性化と魅力発信」/「ASEANからの訪日客とムスリムの受け入れ」、「文化交流の推進」及び「官民連携による日本企業・地方自治体の海外展開支援」について意見交換を行った。本フォーラムには、自治体の実務者を中心に約130人が出席した。 海外では、2015年新たに「風評被害対策海外発信支援事業」を立ち上げた。これは、東日本大震災後の国際的風評被害(P187コラム参照)を払拭し、輸入規制を課している国・地域で風評被害を受けている複数の自治体と連携し、その参加を得て、安全性などの正確な情報に加え、地方の魅力を包括的に発信し、被災地の復興と地方創生を支援する総合的なPR事業である。まず、8月に香港で、香港フードエキスポ2015にジャパン・ブース「東日本美味しい魅力展」を出展し、岩手県・宮城県・福島県・茨城県・栃木県・群馬県・千葉県・新潟県から参加を得て、自治体ブースでの試飲・試食やステージ・パフォーマンス等により、東日本の食と観光PRを行った。香港フードエキスポには約47万人が来場し、林芳正農林水産大臣がジャパン・ブースに参加したほか、応援大使のAKB48チーム8のメンバー及びふなっしーがオープニング・イベントに登場して会場を盛り上げ、高い広報効果を上げた。続いて、11月には上海で、「行ってみよう! 魅力満載! 東日本」を実施し、青森県・宮城県・福島県・山形県・茨城県・栃木県・群馬県・新潟県の参加を得て、各県の食や観光の魅力をブースやステージ・パフォーマンス等を通じて発信した。現地イベントに先立ち、9月中旬から10月中旬にかけて、青森県、岩手県、宮城県、福島県、秋田県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、新潟県に上海等のブロガー、飲食関係者、旅行関係者等を観光・食の魅力、安全性等をテーマとした5ルートにグループで招へいし、被招へい者には自らのブログ等での東日本の魅力を発信してもらい、また現地PRイベントのトークショー等で自身の体験を直接語ってもらった。オープニング・セレモニーには来賓として上海市人民対外友好協会副会長のほか、上海のアイドルグループSNH48のメンバーが出席し、3日間で延べ約1万5,000人が来場し、上海周辺の人々に東日本の魅力を肌で感じてもらうことができた。 地方視察ツアー(さいたま市):大宮盆栽美術館にて 風評被害対策海外発信支援事業(香港) 地方視察ツアー(愛知県豊田市・岐阜県御嵩町):みたけ華ずし料理体験 風評被害対策海外発信支援事業(上海) また、在外公館施設を活用し、自治体が地方の魅力を発信し、地場産業や地域経済の発展を図るための支援策である「地方の魅力発信プロジェクト」が、アジア、北米、欧州地域で15件行われた。このうち、例えば、北海道網走市が、7月に在バンクーバー日本国総領事館と共催で長芋等の特産品の販路拡大のため、総領事公邸で展示・試食会、輸入業者等へのPRを行い、事業実施後、網走長芋に高い関心を寄せた事業者との商談が進んだ。 このほか、外務省では様々な取組を通じて日本と海外の間の姉妹都市交流を支援している。具体的には、在外公館長や館員が海外の姉妹都市提携先を訪問して、国際交流・経済交流関係担当幹部などと意見交換を行ったり、在外公館長が赴任前や一時帰国した際に日本国内の地方の都市を訪問し、姉妹都市交流に関する意見交換や講演を行ったりすることで、地方の国際的取組への支援を行っている。加えて、日本の自治体と姉妹都市提携を希望している海外の都市等がある場合は、都道府県及び政令指定都市宛に情報提供するとともに、外務省ホームページの「グローカル外交ネット」で広報するなどの側面支援を行っている(1)。地方の多様な魅力を海外に発信する一環として、日本の各地で製造された国産酒類(日本酒や日本産ワイン等)を在外公館で積極的にアピールする取組を行っている。具体的には、各在外公館による任国の要人や他国外交団との会食で国産酒類を提供したり、天皇誕生日祝賀レセプションなどの大規模な行事の際に日本酒で乾杯をしたりするなど国産酒類を紹介する機会を設けている。この結果、世界各地において、これらの会食やレセプションの参加者から、国産酒類に対する好意的な感想・評価が得られ、国産酒類に対する理解の増進や関心の喚起が図られている。 また、地方の企業支援として、開発途上国の急速な経済開発に伴いニーズが急増している水処理・廃棄物処理・都市交通・公害対策等に対応する優れた知見を蓄積している地方の中小企業に対して、日本の地方自治体と連携してODAを活用した海外展開支援を行い、開発協力を進めている。これは、地元企業の国際展開やグローバル人材育成、日本方式のインフラ輸出にも寄与し、ひいては地域経済・日本経済全体の活性化にもつながっている。 地方連携を担う人たち外務省大臣官房総務課地方連携推進室 室長●徳永 博基 外務省では安倍内閣の最重要課題の1つである地方創生の実現に向けて、省を挙げた取組を行っています。ここでは、外務省内で地方連携を担っている「ひと」に焦点を当てて、その取組についてご紹介します。 2006年8月、外務省内に地方連携推進室が設置されました。現在は、地方自治体から外交実務研修員として派遣された人々若干名を含む14人ほどが、地方連携の窓口として、地方自治体等からの照会・相談を受けるほか、地方自治体と連携して各種の地方創生支援事業を行っています。 また、地方創生に積極的に取り組む市町村に対し、国家公務員等を市町村長の補佐役として派遣する「地方創生人材支援制度(平成27年度)」の下、現在外務省から、笹原直記氏が長崎県壱岐市に派遣され、副市長を務めています。笹原氏は2015年8月末に前任地キューバから帰国、直後に家族5人で壱岐市に赴任しました。海外での、そして外務省での勤務経験を生かし、壱岐市の地方創生のため、正に最前線で活躍中です。 さらに、外務省では、自治体との職員交流として、地方自治体職員を外交実務研修員として受け入れています。2年間の本省での勤務、続く2年間の在外公館勤務の経験により、地方自治体のグローバル人材育成の一助となることが期待されています。在外勤務後には、各々出身の各自治体に戻り、国際関係部署等で活躍しています。12月の時点で、57人の外交実務研修員が本省及び在外公館で研修中で、これまでに約400人の受入れ実績があります。また、外務省から地方自治体へも幹部クラスを中心に人材を派遣しています。現在、東京都や横浜市などに計5人が派遣されています。 上記のほか、外務省の国内拠点として、関西(大阪)に大阪分室があります。ここには関西担当大使が常駐しており、地域での窓口として地方との連携に取り組んでいます。 また、海外においては、全在外公館に地方連携担当官を配置しており、外国の方々からの照会等に際する直接の窓口業務を担うほか、任国における、日本の地方に対する関心・ニーズに関する情報収集などを行っています。 長崎デスティネーション・キャンペーンに参加する笹原壱岐副市長。応援に来ていた壱岐市のゆるきゃら人面石くんと(11月、ホテルニュー長崎) 風評被害対策海外発信支援事業(上海)のエンディング・セレモニーで挨拶する筆者 1 2016年2月29日現在、日本との姉妹提携数(都道府県、市区町村含む。)が多い国は、多い順に、米国(446件)、中国(362件)、韓国(160件)、オーストラリア(108件)、カナダ(70件)等(一般財団法人自治体国際化協会による集計、同協会HPhttp://www.clair.or.jp/j/exchange/参照)