第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 各論 1 戦略的な対外発信 (1)全般 政府からの発信としては、以前から、総理大臣や外務大臣を始め政府幹部が、日々の記者会見やインタビュー、寄稿、外国訪問先及び国際会議におけるスピーチなどで日本の立場や考え方について積極的な発信に努めてきている。また、在外公館においては、歴史認識や領土保全を始め幅広い分野で、日本の基本的立場や考え方について事実誤認に基づく報道がなされた場合に、大使や総領事を中心に客観的な事実に基づく反論投稿などを実施している。加えて、政策広報動画等の広報資料を作成しているほか、ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。 日本の基本的立場や考え方を理解してもらう上で、有識者やシンクタンクなどとの連携を強化していくことも重要である。こうした認識の下、外務省は海外から発信力のある有識者やメディア関係者を日本に招へいし、政府関係者などとの意見交換や各地の視察等を実施している。さらに、日本人有識者の海外への派遣を実施しているほか、日本関連のセミナー開催の支援を強化している。 また、これまで日本への関心が高くなかった人々を含め、幅広く日本への関心を持ってもらうためには、@政府、民間企業、地方自治体などが連携してオールジャパンで様々な日本の魅力を発信していくこと、A国内外の専門家の知見も取り入れつつ、現地のニーズを踏まえた発信を行うこと及びB日本に関する情報が一度に入手できるワンストップ・サービスを提供することが重要である。この認識の下、これらを実現する発信拠点をロンドン(英国)、サンパウロ(ブラジル)及びロサンゼルス(米国)に創設する予定である。 (2)諸外国における日本についての論調と海外メディアへの発信 戦後70年を迎えた2015年は、日本の安全保障、政策・外交、経済・社会、国際貢献などについて、海外メディアから高い関心が寄せられた。また、「地球儀を俯瞰する外交」として、安倍総理大臣や岸田外務大臣による積極的な外国訪問により、訪問国やその他のメディアからの注目が一層高まった。 このように日本への関心が高まる中、外務省としては、日本の立場や取組について国際社会からの理解と支持を得るため、海外メディアに対して迅速かつ積極的に情報提供や取材協力を行っている。その際、テーマや内容に応じて、適切なメディアに適切なタイミングで発信し、戦略的かつ効果的な対外発信となるよう努めている。 海外メディアを通じた対外発信としては、岸田外務大臣などによる定例の記者会見や、プレスリリース等による在京特派員への情報提供を行っている。また、安倍総理大臣や岸田外務大臣の外国訪問やG7・G20サミット、国連総会などの国際会議への参加などの機会を捉え、海外メディアによるインタビューや、海外メディアに対する寄稿や記者会見を実施している。2015年は、総理寄稿・インタビューを26件、外務大臣寄稿・インタビューを10件、総理大臣の内外記者会見を4件実施した。 例えば、4月の安倍総理大臣訪米に先立ち、ワシントン・ポスト紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙などによる安倍総理大臣インタビューの実施、インターネットメディアであるブルームバーグ・ビューへの寄稿など、米国、そして世界に対して安倍総理大臣のメッセージを直接発信した。8月には、原爆投下70年の機会を捉え、岸田外務大臣がCNNオンラインに寄稿し、「核兵器のない世界」の実現に向けた日本の取組を紹介した。また、世界のリーダーがニューヨーク(米国)に集う9月の国連総会に際しては、安倍総理大臣がCNNオンラインに寄稿し、戦後70年、日本はひたすらに平和の道を歩み、国際協力を実践してきたことを発信した。 これらに加えて、日本に拠点がないメディアを含め世界各国の記者124人を日本に招へいし、日本の重要政策や立場への理解を促進している。例えば、5月に開催された第7回太平洋・島サミットの際には、太平洋の国々から9人の記者を招へいし、太平洋島嶼国に対する日本の支援の成果や東日本大震災からの復興の姿につき好意的な報道を得た。そのほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国からの招へい記者に対し、2016年のG7伊勢志摩サミットの開催地である三重県及び外相会合の開催地である広島県での取材機会を提供するなど地方を含む日本の魅力の発信にも取り組んでいる。 また、海外メディアによる日本関連報道の中には事実誤認に基づいた記事も見られたため、速やかに申入れや反論投稿を行うことにより、正しい事実関係と理解に基づく報道がなされるよう努めた。