第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 1 日本経済の成長を後押しする取組 (1)経済連携の推進 EPAやFTAには、物品の関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃、貿易・投資のルール作りなどを通じて海外の成長市場の活力を取り込み、日本経済の基盤を強化する効果がある。日本は、これまでに20か国との間で16の経済連携協定を締結してきている。日本の貿易のFTA比率(貿易総額に占める発効済み・署名済みのFTA相手国の貿易額の割合)を2012年の19%から2018年までに70%に高めるとの「日本再興戦略」の目標実現に向け、アジア太平洋地域や、欧州等との経済連携を戦略的に推進している。 こうした中で、2015年10月にはTPP協定交渉が大筋合意に至り、2016年2月に署名された。TPP協定によって作られる新たな経済秩序は、今後、更に大きな構想であるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)において、ルール作りのたたき台となるものである。日本は、TPP協定の署名を弾みとして、今後も他の経済連携交渉を推進していく考えである。 ア 多国間協定(メガFTA)等 (ア)環太平洋パートナーシップ(TPP)協定 TPP協定は、成長著しいアジア太平洋地域において、新たな貿易・投資ルールを構築する取組である。日本、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ及びカナダの12か国が交渉に参加し、2015年10月のアトランタ閣僚会合にて大筋合意を実現し、2016年2月に署名に至った。この協定は、関税、サービス、投資、知的財産、国有企業など、幅広い分野で21世紀型のルールを構築し、日本企業が海外市場で一層活躍する契機となり、日本の経済成長に向けて大きな推進力となるものである。さらに、TPP協定により、基本的価値を共有する国々と共に経済面での法の支配を強化することは、日本の安全保障及びアジア太平洋地域の安定に寄与する戦略的意義を有する。 アジア太平洋地域の成長を日本に取り込むTPP協定は、アベノミクスの成長戦略における核である。日本は、各国と共に早期発効、参加国・地域の拡大に今後取り組んでいく。 日本の経済連携協定(EPA)の取組 2016年3月現在 (イ)欧州連合(EU) 基本的価値を共有し、日本の主要貿易・投資相手でもあるEUとは、2013年3月に交渉開始を決定した。同年4月に第1回交渉会合を開催した後、2016年2月までに計15回の交渉会合を開催し、物品貿易、サービス貿易、知的財産権、非関税措置、政府調達、投資等の広範な分野について議論を行った。11月には、G20アンタルヤ・サミット(於:トルコ)の際に行われた日・EU首脳会談において、2016年のできる限り早い時期の大筋合意を目指すことで一致した。 (ウ)日中韓FTA 日中韓FTAは、日本にとって主要な貿易相手国である中国(第1位、約20%)及び韓国(第3位、約6%)を相手とした交渉である。2013年3月に交渉を開始し、2016年1月までに9回の交渉会合を行った。これまでの交渉会合では、包括的かつ高いレベルのFTAを目指すとの3か国共通の目標の下、物品貿易を始め、投資、サービス貿易、競争、知的財産、電子商取引といった広範な分野について協議を行っている。 (エ)東アジア地域包括的経済連携(RCEP) RCEPは、人口約34億人(世界全体の約半分)、GDP約20兆米ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆米ドル(世界全体の約3割)に上る広域経済圏実現を目標とした交渉である。ASEAN諸国とFTAパートナー諸国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド及びインドの6か国)の首脳は、2013年5月の交渉開始後、物品貿易、サービス貿易、投資、競争、知的財産などを含む分野で包括的かつ高いレベルの協定を目指している。2015年12月までに、閣僚会合を3回、交渉会合を10回開催し、同年11月のASEAN関連首脳会議では、物品貿易、サービス貿易、投資の各分野における実質的交渉の促進を歓迎するとの共同声明文が発出された。 (オ)アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想 2010年の横浜APECで「FTAAPへの道筋」が策定され、FTAAPは、ASEAN+3、ASEAN+6(1)及びTPP協定といった現在進行している地域的な取組を基礎として更に発展させることにより、包括的で質の高い自由貿易協定として追求されるべきことが確認された。2014年の中国APECで採択された「FTAAPの実現に向けたAPECの貢献のための北京ロードマップ」において、「FTAAPの実現に関連する課題にかかる共同の戦略的研究」の立ち上げに合意し、2015年から同研究が開始されており、2016年末までに最終報告を首脳・閣僚に提出することになっている。 アジア太平洋地域における国際的な経済枠組みの進捗 イ 二国間協定(交渉開始順) (ア)韓国 戦略的利益を共有する最も重要な隣国である韓国との間では、貿易・投資を含む経済の相互依存関係が強固である。同国とのEPAは、安定的な経済枠組みを提供し、将来にわたり両国に利益をもたらし得るとの考えに基づき、2003年に交渉を開始した。この交渉は2004年以降中断されているが、実務レベルの意見交換などを継続してきている。 (イ)湾岸協力理事会(GCC) GCC(2)諸国は、石油・天然ガスの資源国として、また、インフラ等輸出を展開する市場として重要な地域の1つである。GCC諸国との経済関係の強化に向け、FTA交渉を2006年に開始したが、2009年以降、交渉はGCC側の都合で延期されてきている。日本はGCCとの経済関係の一層の強化を図るべく、交渉の早期再開を求めている。 (ウ)カナダ 基本的価値を共有し、相互補完的な経済関係にあるカナダとは、2012年に交渉を開始した。日本へのエネルギー、鉱物や食料の安定供給に資するEPAとすべく、2015年12月までに7回の交渉会合を行った。 (エ)コロンビア 豊富な資源と高い経済成長を有するコロンビアは、各国とFTA締結を進めている。日本も、日本企業の投資環境整備などの観点から、2012年に交渉を開始し、2015年12月までに13回の交渉会合を行った。 (オ)トルコ 高い経済的潜在性を有し、開放経済を推進するトルコとは、2014年1月に訪日したエルドアン首相と安倍総理大臣の会談においてEPA交渉開始に合意し、同年12月に交渉を開始した。2016年1月までに4回の交渉会合を行った。 EPA・FTA交渉等の現状2016年2月現在 ウ 署名・発効済みの2国間協定 (ア)モンゴル 中長期的な高成長が見込まれるモンゴルとは、エネルギー・鉱物資源を含む投資環境の改善や更なる貿易・投資の拡大を目指し、2012年にEPA交渉を開始した。7回の交渉会合が行われ、2014年7月、大筋合意に至り、2015年2月、サイハンビレグ・モンゴル首相の訪日時に安倍総理大臣と同首相との間で署名を行った。 (イ)オーストラリア 日本とオーストラリアは、アジア太平洋地域や国際社会において緊密に連携する重要な戦略的パートナーであり、エネルギーや食料の主要な貿易国という経済面のみならず、政治・安全保障の面でも密接な関係にある。両国は、2006年の日・豪首脳電話会談でEPA交渉の開始を決定し、2012年までに16回の交渉会合を行った。その結果、2014年7月の安倍総理大臣のオーストラリア訪問時の両首脳による署名を経て、同協定は、2015年1月に発効した。 (ウ)発効済みEPA 発効済みのEPAには、協定の実施の在り方について協議する合同委員会に関する規定や、発効から一定期間を経た後に協定の見直しを行う規定がある。また、発効済みのEPAの円滑な実施のために様々な協議が続けられている。 エ 人の移動 EPAに基づき、これまでインドネシア、フィリピン及びベトナムから看護師・介護福祉士候補者の受入れを開始している。2015年はインドネシアから278人(看護:66人、介護:212人)、フィリピンから293人(看護:75人、介護:218人)、ベトナムから152人(看護:14人、介護:138人)が新たに入国した。また、2015年の国家試験(3)については、看護26人(インドネシア:11人、フィリピン:14人、ベトナム:1人)、介護78人(インドネシア:47人、フィリピン:31人)が合格した。なお、ベトナムからの看護師・介護福祉士候補者については、2014年6月に第一陣の受入れを行い、2015年5月第二陣との累計で290人の受入れを行った。 (2)日本企業の海外展開支援 ア 外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進 外国に拠点を構える日系企業の数は近年増加し、2014年10月現在68,573拠点を数えた(4)。また、製造業の海外生産比率は2013年度で22.9%と過去最高水準にある(5)。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開にこれまで以上に積極的に取り組んできたこともその背景にある。アジアを中心とする海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。 このような状況に鑑み、外務省では、外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」の下、本省・在外公館が一体となり、日本企業の海外展開推進に積極的に取り組んでいる。5月には、両外務副大臣を本部長代行、全外務大臣政務官を本部長代理として本部の体制を強化し、全省を挙げて官民連携への取組を十分に進めるべく、省内に外務審議官(経済)をヘッドとする「官民連携タスクフォース」を立ち上げた。9月には、経済局内に従来設置されていた日本企業支援室、インフラ海外展開推進室及び投資室を統廃合し、日本企業の海外展開に向けた官民連携業務を総合的に担う「官民連携推進室」を設置した。 在外公館では、大使や総領事が先頭に立ち、日本企業支援担当官を始めとする館員一同が日本企業への各種の情報提供や外国政府への働き掛けを行っている。また、天皇誕生日祝賀レセプションなどの在外公館における行事の機会を活用し、官民連携による日本企業製品・技術の展示や日本企業製品紹介のためのセミナー、試食会、日本企業との共催による現地企業との交流会開催などを在外公館施設を積極的に活用しつつ実施している。 天皇誕生日祝賀レセプションにおいて日本酒及び焼酎の紹介(在フランス日本国大使館) 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定 2015年10月5日、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉が大筋合意に至り、2016年2月4日にニュージーランドにて署名されました。この特集では、21世紀の貿易・投資ルールの新たなスタンダードとなるTPP協定を御紹介します。 1 TPPとは TPPは、アジア太平洋の12か国で関税、サービス、投資、知的財産、国有企業など、幅広い分野で新しい貿易・投資ルールを構築するものです。TPP協定が発効すれば、世界の成長センターといえる地域で、ヒト・モノ・資本・情報が自由に行き交う巨大な「1つの経済圏」が誕生します。世界人口の約1割の8億人、世界のGDPの約4割の3,100兆円を占めるこのマーケットは、EUの1.5倍、ASEANの11倍、さらに日本の6倍の経済規模に当たります。いわば、新しい「アジア・太平洋の世紀」の幕開けです。 TPP参加国 2 日本経済にもたらすメリット TPPを通じて日本の消費者は、海外のより良い物を、便利に、より安く手に入れることができます。また、生産者には、輸出品にかけられていた関税のほとんど全てが最終的に撤廃されることで、日本の質の高い産品を海外のマーケットに売り込むチャンスがもたらされます。 さらに、金融や流通など、サービスや投資の分野では、参入規制が緩和されるとともに、環境や労働分野を含む公正な競争条件の確保、政府調達などによるインフラ市場への参入拡大等も、TPPによって推進されます。 これらの貿易・投資ルールが適切に整備されることにより、日本の生産者が作り出した付加価値が正しく評価されるようになり、中小・中堅企業を含む日本企業がダイナミックな市場に飛び出す契機が生まれることは、日本の経済成長に向けて大きな推進力となります。 3 戦略的意義 TPPは、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する米国を始めとした国々との間で経済的な相互依存関係を深めるものです。これにより日米同盟が一層強化され、日本の安全保障やアジア太平洋地域の安定に大きく寄与することとなります。TPPがもたらす21世紀型の貿易・投資ルールは、「法の支配」を強化し、地域及び世界の平和と繁栄を確かなものにするという大きな戦略的意義を有しています。 TPP首脳会合(11年18日、マニラ・フィリピン 写真提供:内閣広報室) 4 今後の経済連携政策の展開 今後は、TPPのメリットを日本経済へ確実に取り込むべく、協定の早期発効と参加国・地域の拡大に向けて各国と連携していきます。また、TPP協定の署名を弾みに、日EU・EPA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓FTA等、他の経済連携交渉を推進し、世界の新たな貿易・投資ルールの構築・拡大に向けて引き続き日本として主体的な役割を果たしていきます。 イ インフラシステムの海外展開の推進 新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業によるインフラ輸出を促進するため、2013年、内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が内閣官房に設置された。それ以来、総理の外交日程に合わせて、「インドネシア」、「メコン地域」、「中央アジア」、「インド」などの、国や地域をテーマにした会合や「官民連携」、「鉄道」、「質の高いインフラパートナーシップ」などの分野をテーマにした会合が計22回行われた(2015年12月時点)。 また、安倍総理大臣、岸田外務大臣を始めとするトップセールスの推進、国際協力機構(JICA)海外投融資の本格再開、円借款をより戦略的に活用するための制度改善、各国大使館・総領事館を通じた企業支援など、インフラシステムの海外展開推進の体制整備・強化が進められている。外務省は、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を重点国の在外公館に指名している(2015年12月末現在、51か国63公館129人)。 このような取組の具体的な成果として、石炭火力発電所(マレーシア)、貨物専用鉄道(インド)、橋梁建設及び既存橋改修事業(バングラデシュ)、アンモニア・尿素製造プラント(ウズベキスタン)、メトロ(カタール)、ガス火力発電・造水プラント(カタール)などを日本企業や日本企業を含むグループが受注した。 ウ 投資協定/租税条約/社会保障協定 (ア)投資協定 投資協定は、投資家やその投資財産の保護、規制の透明性向上、機会の拡大等について規定することにより、投資を促進するための重要な法的基盤である。海外における投資環境の整備を促進し、日本市場に海外投資を呼び込むため、日本は投資協定の締結に積極的に取り組んできている。2014年には、パプアニューギニア、クウェート、中国・韓国(日中韓3か国の投資協定)、イラク、ミャンマー及びモザンビークとの間で投資協定がそれぞれ発効した。さらに、2015年には、コロンビア、カザフスタン及びウクライナとの間で投資協定がそれぞれ発効した。また、ウルグアイ、オマーン及びイランとの間で投資協定に署名し、これまでに署名又は締結済となった投資協定は計28件となった(2016年2月時点)。このほか、イスラエルとの間で投資協定の実質合意に達している。現在アンゴラ、アルジェリア、カタール、UAE、ケニア、ガーナ、モロッコ及びタンザニアとの間で、それぞれ投資協定交渉を進めている。また、投資に関する規定を含むEPAの締結にも取り組んでいる。2015年1月に発効した日豪EPAを含め、これまでに日本が締結した14件のEPAのうち11件は投資に関する独立の章を含むものである。さらに、2月に署名された日・モンゴルEPA及び2016年2月に署名されたTPP協定においても投資に関する章が含まれている。なお、現在行われている日中韓FTA、RCEP、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)の交渉、EU、カナダ及びトルコとの間のEPAの交渉においても、投資に関する議論が行われている。 このほか、OECDやAPECなどの国際的な枠組みにおいても、日本は投資の自由化や円滑化を促進するための多数国間ルールの形成に積極的に取り組んできている。 投資関連協定の現状(2016年2月) (イ)租税条約 租税条約は、国境を越える経済活動に対する国際的な二重課税を回避するとともに、投資所得(配当、利子、使用料)に対する源泉地国課税の減免などを通じて投資交流を促進するための重要な法的基盤である。また、租税に関する情報交換などといった税務当局間の国際協力推進のための規定もあり、脱税、租税回避行為などを防止する観点からも重要である。日本は、租税条約ネットワークの拡充に積極的に取り組んでいる。具体的には、カタールとの条約(12月)が発効し、インドとの改正議定書(12月)に署名するとともにドイツとの新租税協定(7月)、チリとの条約(10月)が実質合意に至った。この結果、日本は2015年末時点で65の租税関連条約(96か国・地域に適用)を締結したことになる。 租税関連条約ネットワーク(2015年12月) (ウ)社会保障協定 社会保障協定は、社会保険料の二重負担や掛け捨てなどの問題を解消することを目的としている。海外に進出する日本企業や国民の負担が軽減されることを通じて、相手国との人的交流の円滑化や、経済交流を含む二国間関係の更なる緊密化に資することが期待される。日本は、11月にフィリピンとの協定に署名し、2015年末時点で社会保障協定を締結又は署名している国は19か国となった。また、2015年には、トルコ、中国及びスロバキアとの間で政府間交渉を行った。 エ 知的財産 知的財産保護の強化は、技術革新の促進、ひいては経済の発展にとって極めて重要である。日本は、APEC、WTO(TRIPS理事会(6))、世界知的所有権機関(WIPO)などにおける多国間の議論に積極的に参画している。2月、日本は「意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定」の加入書をWIPOに寄託し、5月から国内でも同協定に基づく意匠の国際登録制度の利用が可能となった。EPAにおいても、可能な限り知的財産権に関する規定を設けることとしている(7)。また、偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)の発効に向けた働き掛けを引き続き行っている。さらに、知的財産保護の強化や模倣品・海賊版対策における開発途上国の政府職員などの能力向上のため、JICAを通じて専門家派遣などを行っている。 また、外務省は、海外における知的財産の保護強化、模倣品・海賊版対策などに関する施策を実施している。例えば、海外において模倣品・海賊版被害を受けている日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、ほぼ全ての在外公館で知的財産担当官を任命し、日本企業への助言や相手国政府への照会、働き掛けなどを行っている。 応援します! 日本企業の海外展開 官民連携推進室の設置 外国に拠点を構える日系企業の数は近年増加し、2015年現在、6万8,573拠点を数えました。日本国大使館や総領事館へのビジネス関連の相談件数は2014年時点で4万1,000件に上っています。このようなトレンドを踏まえ、外務省では2015年9月に企業の国際ビジネスをより一層サポートするべく経済局に「官民連携推進室」を設置しました。 在フランス日本国大使館での和食レセプション(写真提供:内閣広報室) 現在、276の在外公館等に「日本企業支援担当官」を設置し、現地のビジネス慣習に応じたビジネスの進め方をアドバイスしています。51か国の在外公館にはインフラの海外展開を担当する「インフラプロジェクト専門官」を、58か国・地域の在外公館等には、農林水産物・食品・食産業の海外展開に関する相談を受ける「日本企業支援担当官(食産業担当)」を設置し、細やかに対応しています。「海外のビジネスでトラブルに遭ってしまった」、「在外公館の施設やネットワークを活用し、自社製品を売り込みたい」など、ビジネスの海外展開については、外務省官民連携推進室までご相談ください。 ●連絡先 外務省 経済局 官民連携推進室 電話:03-3580-3311(代) ファックス:03-5501-8325 メールアドレス:business-support@mofa.go.jp ホームページ:http://mofa.go.jp/mofaj/annai/zaigai/kigyo/ichiran_i.html (3)日本の農林水産物・食品の輸出促進 日本政府は、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」において、2020年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円とする目標を掲げた。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体等と連携しつつ、世界各国の在外公館を活用し、天皇誕生日祝賀レセプションを始めとする大使・総領事公邸での行事等において日本産品の魅力を積極的に発信してきた。 さらに、10月のTPP協定大筋合意を受け、11月に決定された「総合的なTPP関連政策大綱」では、「農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成」、「高品質な我が国農林水産物の一層の輸出拡大」等が明記されたことも踏まえ、日本の農林水産物・食品の輸出促進や食産業の海外展開支援を更に積極的に推進するため、日本企業支援担当官(食産業担当)を54か国・地域、計58の在外公館等に設置した。今後も外務省は、農林水産省を始めとする関係省庁・機関と一層緊密に連携しながら、農林水産物・食品の輸出促進等に向けた取組を更に強化していく。 また、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から5年が経過したが、依然として37の国・地域(2016年2月現在)において、日本の農産物や水産物、食品等に対する輸入規制が維持されている。外務省は、関係省庁と連携しながら、被災地の主要産品である農産物や水産物の風評被害を払拭するため、各国政府等に対し正確な情報を迅速に提供するとともに、WTOの枠組みも活用しつつ科学的根拠に基づき輸入規制を可及的速やかに緩和・撤廃するよう働き掛けを行っている(2-1-1(2)ウ参照)。 こうした取組の結果、2015年にタイ(5月)とボリビア(11月)、2016年にインド(2月)が輸入規制を撤廃するなど、これまで計17か国(カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア及びインド)が規制を撤廃した。また、2015年にはブルネイ(2月)、米国(3月、4月、5月及び8月)及びロシア(7月)、2016年にはEU(1月)、米国(1月、2月)が規制を緩和するなど、規制の対象地域・品目は縮小されつつある(2016年2月時点)。 外務省は、引き続き、首脳・閣僚レベルによる申入れを始めとして、関係省庁と連携しながら、輸入規制を維持している国・地域に対し、可及的速やかな緩和・撤廃に向けた働き掛けを二国間及びWTOを始めとするあらゆるルートを通じて粘り強く行っていく(P187コラム参照)。 東日本大震災から5年〜世界に感謝し、復興の現状を正しく伝える〜 復興庁 広報・国際担当参事官●藤田 伸也 2011年3月11日に東日本大震災が発生したというニュースは、瞬く間に世界を駆け抜けました。当時在外公館で勤務していた筆者も、車のラジオで速報を聞きました。それ以来、東北を復興させ、日本を震災前よりも強靭な国にするということは、日本に課せられた大きな課題です。 震災後の日本は、約160の国・地域、約40の国際機関から支援を頂きました。開発途上国からも、「これまでの日本からの支援に対する恩返し」だとして、支援を頂きました。 米軍による大規模なトモダチ作戦は、日米同盟の絆の強さを再認識させてくれました。2015年10月に、トモダチ作戦に従事した空母ロナルド・レーガンが横須賀に入港した際に開催されたレセプションで、竹下亘復興大臣は、米国に対して改めて感謝の意を表するスピーチをしました。 未曽有の大災害ではありましたが、震災から5年が経過し、復興は着実に進捗しています。そうした状況がきちんと外国にも伝わるよう、外務省が招へいする外国人記者や、JICA(国際協力機構)研修で訪日する外国の行政官等に対して、震災復興の現状について説明しています。 これから特に重要なことは、いわゆる風評被害を取り除くことです。福島第一原発の事故の後、50程度の国・地域が日本からの食料品輸入に規制をかけました。その後、市場に出回っている食品は、世界で最も厳しいレベルの放射性物質検査を通ったものだけであることを粘り強く説明してきた結果、一部の規制は緩和・解除されました。10月には、ニュージーランドの駐日大使が、福島県知事とともに、同県の食の魅力を発信するイベントを開催し、木毅復興大臣も参加しました。空間放射線量も減ってきています。残る規制の解除のため、更なる働き掛けに努めます。 被災地と諸外国の間の草の根の交流も進んでいます。宮城県東松島市の女性は、デンマークのステッチ(刺繍)を復興に役立てており、これを通じて、同国との交流も深まっています。 2016年は、日本がG7 伊勢志摩サミットを主催するなど世界の目が日本に集まる年です。2019年にはラグビーW杯、2020年には東京オリンピック・パラリンピックを開催します。これらの機会も見据えながら、より多くの外国人の方が、東北を訪れ、東北の食を味わうことを願っています。 クウェートの記者に対するブリーフィング 米国の大学院生に対するブリーフィング 1 現在のRCEP 2 GCC:湾岸協力理事会(Gulf Cooperation Council)。バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア及びアラブ首長国連邦(UAE)の6か国から構成 3 ベトナムの国家試験合格者数については2015年3月に発表 4 外務省 海外在留邦人数調査統計 5 経済産業省 第44回 海外事業活動基本調査 6 TRIPS理事会とは、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)の実施、特に加盟国による義務の遵守を監視し、同協定に関する事項の協議を行う場 7 オーストラリア、ASEAN、ブルネイ、チリ、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコ、ペルー、フィリピン、シンガポール、スイス、ベトナム及びタイとの間で知的財産権に関する規定を含む協定を締結し、既に効力が発生している。