第2章 地球儀を俯瞰する外交 2 サブサハラ・アフリカ地域情勢と日本の取組 (1)アフリカ連合(AU) 第24回AU総会が1月にアディスアベバ(エチオピア)で開催された。同総会では、「女性のエンパワーメント」をテーマとした議論が行われるとともに、ジンバブエが2015年の総会議長国に選出された。また、今後の50年を見据えたアフリカの統合と開発の大綱である「AUアジェンダ2063」の枠組みが採択された。日本からは宇都外務大臣政務官が出席し、多くのアフリカ要人と会談を行ったほか、AU総会の機会を捉えて開催されたエボラ出血熱に関する関係者会合に参加し、日本の取組を説明してアフリカ側から高い評価を得た。 (2)東部アフリカ地域 ア ウガンダ ウガンダは、東アフリカ地域の主要国の1つであり、ムセベニ政権が安定して政治運営を行っているほか、石油開発が予想されるなど、貿易・投資面からも高い潜在性を有している。 9月、ムセベニ大統領夫妻が公式実務訪問賓客として訪日した。天皇皇后両陛下がムセベニ大統領夫妻と御会見になり、宮中午餐を催されたほか、安倍総理大臣とムセベニ大統領の間で首脳会談が実施され、両首脳は共同声明に署名した。ムセベニ大統領夫妻はそのほかにも企業関係者を含む日本の各界の関係者と交流するなど、日・ウガンダ間の友好協力関係を一層深化させる重要な機会となった。 日・ウガンダ首脳会談において、ムセベニ・ウガンダ大統領と握手する安倍総理大臣(9月10日、東京 写真提供:内閣広報室) イ エチオピア エチオピアでは、5月に総選挙が実施されて与党が完勝し、10月、ハイレマリアム首相が再任された。堅調な経済成長を背景に次期国家開発計画(GTP2)を策定し、工業化への経済構造転換を進めている。 日本との関係では、4月にエチオピア航空の定期便が成田空港に就航し、9月にはアディスアベバでアフリカ-日本ビジネス投資フォーラムが開催された。さらに、9月の国連総会の際に、安倍総理大臣からハイレマリアム首相に伝達したとおり、アディスアベバへの日本貿易振興機構(JETRO)事務所の開設が決定するなど、経済関係が進展した。また、12月にテドロス外相が国際会議「新たな開発目標におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:強靭(きょうじん)で持続可能な保健システムの構築を目指して」等に出席するため訪日した際には、岸田外務大臣との間で外相会談が行われ、経済関係の強化やTICAD VIに向けた協力について一致した。 ウ ケニア ケニアでは、ケニヤッタ大統領とルト副大統領のジュビリー連立政権が安定した政権運営を行いつつ、社会開発目標であるビジョン2030の達成に向けた国内改革を推進している。東アフリカ経済のけん引役として経済も堅調だが、ソマリアを拠点に活動するアル・カーイダ系イスラム過激派組織「アル・シャバーブ(AS)」によるガリッサ大学襲撃事件(4月)のようなテロや一般犯罪への対策が急務である。ソマリアの国家再建、平和と安定に向けて、日本を含め国際社会は支援を継続している。 日本との関係では、第3回国連防災世界会議(3月)や国連総会(9月)の際にケニヤッタ大統領と安倍総理大臣との間で首脳会談が行われたのを始め、要人往来が相次いだ。2016年8月にはTICAD VIがナイロビで開催される予定であり、両国の更なる関係強化が期待される。 エ ジブチ ジブチは、ヨーロッパから地中海、スエズ運河、紅海を経由し、インド洋、アジアを結ぶ重要な海上交通路の要衝に位置している。また、不安定要素の多い「アフリカの角」地域にあって、重要な安定勢力である。 日本は、2009年から、ソマリア沖・アデン湾において海賊対処行動を実施しており、2011年には、活動部隊の効率的運営のために自衛隊活動拠点の運用を開始した。自衛隊を含む各国部隊の活動は、同海域における海賊等事案の発生件数減少に大きく貢献している。要人往来は活発であり、宇都外務大臣政務官の訪問(5月)、モハメド国民議会議長の訪日(5月)、黄川田仁志外務大臣政務官の訪問(12月)などが行われた。 ジブチにて自衛隊拠点を視察する宇都外務大臣政務官(5月3日、ジブチ) オ セーシェル セーシェルは115の島からなる島嶼国であり、アフリカ大陸とインドをつなぐ要衝である。12月には大統領選挙が行われ、現職のミッシェル大統領が3選を果たした。 日本との関係では、8月に城内外務副大臣が訪問し、大統領を始めとする政府要人との意見交換や日本の政府開発援助(ODA)により実施されたプロジェクトサイトを視察した。この訪問は二国間関係を更に深化させる歴史的な機会となった。 カ タンザニア タンザニアは、安定した政治と経済成長、東部アフリカの玄関口の1つとしての地理的重要性などから、有力な貿易・投資先として注目を集めている。10月には大統領選挙が実施され、マグフリ大統領が就任した。 日本との関係では、3月にピンダ首相が第3回国連防災世界会議出席のため訪日し、安倍総理大臣と会談したほか、12月には木原外務副大臣が訪問し、マグフリ大統領及びマヒガ外相と会談した。また、8月には日・タンザニア投資協定交渉第2回会合が東京で開催されるなど、政治・経済の両面で関係が進展した。 日本が支援した魚市場で説明を受ける木原外務副大臣(12月、タンザニア・ダルエスサラーム) キ 南スーダン 南スーダンでは、政府間開発機構(IGAD)等による調停協議の結果、8月、「南スーダンにおける衝突の解決に関する合意文書」が関係当事者によって署名され、南スーダンの安定化に向けた取組が進展した。 日本は、積極的平和主義の立場から、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に自衛隊を派遣し、インフラの整備や人道支援の実施の環境づくりを支援している。また、中長期的な開発や強靱(きょうじん)性の向上にも資するよう、ODAによるインフラ整備、農業の推進、人材育成なども支援している。5月、宇都外務大臣政務官が石川博崇防衛大臣政務官と共にイッガ副大統領と会談し、南スーダンの情勢に関する懸念を伝え、政治プロセスの推進を働き掛けた。 (3)南部アフリカ地域 ア アンゴラ アンゴラは、石油、ダイヤモンドなどのエネルギー・鉱物資源に恵まれ、近年高度成長を遂げている。一方、近年の油価の下落に伴い、アンゴラ政府は経済の多角化を国家の喫緊の課題に掲げている。 また、アンゴラは2015年から2年間、安保理非常任理事国を務めており、うち2016年は日本と共に理事国を務める。 3月には、ルアンダで日・アンゴラ・ビジネスフォーラムが開催され、日本から計37社、約120人が参加した。また、7月には同国に対する初の円借款である総額2億米ドル規模の財政支援の供与に関する文書への署名が行われた。マヌエル財務相(8月)、クスムア社会福祉・社会復帰相(11月)、ゴルジェル経済相(12月)が訪日するなど、両国間には官民共に緊密な関係が構築されている。 イ ジンバブエ ジンバブエは2000年以降、政治・経済情勢の混乱及び欧米による経済制裁で、特に経済が低迷していたが、2009年以降、政治・経済情勢は一定の落ち着きを見せ、米国及びEUも制裁対象を縮小するなど、情勢改善の兆しが見られる。日本も2010年に二国間の無償資金協力及び技術協力の再開を決定し、2011年に青年海外協力隊(JOCV)が派遣された。 第3回国連防災世界会議(3月)の際、ムガベ大統領と安倍総理大臣との首脳会談が行われ、また、9月には中根外務大臣政務官がジンバブエを訪問し、ムガベ大統領への表敬及びムンベンゲグィ外相との会談が実施され、二国間関係が一層強化された。11月には15年ぶりとなる対ジンバブエ一般プロジェクト無償資金協力が供与された。 ウ ナミビア ナミビアは、2015年に独立25周年を迎えた。豊富な海洋・鉱物資源や南部アフリカ地域の大西洋側の物流玄関口となり得る立地を背景に、貿易・投資の拡大(特に資源開発やエネルギー分野)が見込まれている。 1月には、在ナミビア日本国大使館を開設した。3月には中根外務大臣政務官が総理特使として独立25周年記念式典及び新大統領就任式に出席するためナミビアを訪問し、イヤンボ副大統領と会談した。 エ ボツワナ ボツワナは1996年の独立以来、政情が安定し、グッドガバナンスが維持されている。ダイヤモンド産出額(世界第1位)と湿地帯の野生動植物でも有名で、アフリカで唯一、地上デジタルテレビに日本方式を採用している。 12月に黄川田外務大臣政務官が訪問し、マシシ副大統領やモイトイ外務国際協力相を始めとする要人と面会し、両国関係の一層の強化を図ることで一致した。 ボツワナの空手道場を視察する黄川田外務大臣政務官(12月11日、ボツワナ) オ 南アフリカ 南アフリカは、近年、経済成長が鈍化傾向にあるものの、サブサハラ・アフリカにおける経済大国として、また同地域へのビジネス展開の拠点として、多くの外国企業から引き続き注目されている。 8月にラマポーザ副大統領が訪日し、安倍総理大臣を表敬したほか、麻生副総理兼財務大臣主催昼食会に出席し、また、ABEイニシアティブ(1)研修生との懇談等を実施した。同副大統領からは、雇用創出や人材育成、国家開発計画の推進等における、日本及び日本企業のこれまでの貢献への評価が示されるとともに、更なる取組への期待が表明された。 ラマポーザ南アフリカ副大統領の表敬を受ける安倍総理大臣(8月24日、東京 写真提供:内閣広報室) カ モザンビーク モザンビークは、天然ガスや石炭の資源等の発見により、近年高い経済成長を遂げており、新たな投資先として世界的な注目を集めている。 1月に実施されたニュシ大統領の大統領就任式には、逢沢一郎衆議院議員(日本・AU友好議員連盟会長)が総理特使として参加し、同大統領との会談の中で両国関係の一層の強化に向けた意見交換が行われた。 (4)中部アフリカ地域 ア 中央アフリカ 中央アフリカにおいては、治安が引き続き安定しない中、国際社会の支援を受けつつ、「暫定政権」による民政復帰プロセスが進められた。5月には国民和解のためのバンギ・フォーラムが成功裏に開催され、多くの武装勢力が児童兵解放等に合意した。6月には選挙日程が発表され、民政復帰への機運が高まったが、9月に首都バンギで大規模な騒乱が発生し、10月に予定されていた一連の選挙は12月に延期された。12月の憲法草案国民投票及び第1回大統領選挙は、おおむね平和裏に実施された。 日本は、中央アフリカの人道状況を改善し、民政復帰プロセスの円滑な実施を確保するため、国際機関経由で様々な支援を実施している。 イ ブルンジ 4月以降、ブルンジのンクルンジザ大統領の選挙出馬をめぐり、ブジュンブラ市内を中心にデモ隊と警官隊の衝突が発生し、ブルンジ国内は混乱に陥った。5月、同大統領の3選問題に関して憲法裁判所が合憲と判断し、同大統領が選挙への出馬を表明すると、出馬に反対する勢力による騒擾(そうじょう)が発生した。7月、野党が選挙をボイコットする中、国際的な非難を受けながらも大統領選挙が実施され、同大統領が当選した。その後も、首都ブジュンブラ市内において、治安部隊襲撃や市民殺害などの混乱が続いている。 (5)西部アフリカ地域 ア コートジボワール コートジボワールは、約10年に及ぶ混乱の時代を経て、ウワタラ大統領の下、国民和解と経済復興が進展してきている。10月に大統領選挙が民主的かつ平和裏に実施され、同大統領が再選を果たしたことは、同国の危機の時代からの脱却を印象付けた。日本は、投票箱等の資機材を支援し、選挙の円滑な実施に貢献した。 また、日本・コートジボワール友好交差点改善計画や、アビジャンに本部を置くアフリカ開発銀行と協調したアフリカ民間セクター支援など、アフリカの成長を後押しする取組が進んだ。 イ セネガル セネガルは、西アフリカの安定勢力であり、2016年から2年間、日本と共に国連安保理非常任理事国を務める。 宇都外務大臣政務官(3月)やM地外務大臣政務官(11月)が同国を訪問し、サル大統領やンジャイ外相と意見交換を行った。また、M地外務大臣政務官は第2回「アフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラム」に出席し、全体会合において、サヘル地域等のアフリカの平和と安定に関する日本の貢献をアピールしつつ、2016年からの安保理非常任理事国かつ同年のG7議長国として、TICAD VIを見据え、国際社会の平和と安定に一層貢献していくとの方針を表明した。 サル・セネガル大統領を表敬するM池外務大臣政務官(11月9日、セネガル・ダカール) ウ ナイジェリア ナイジェリアは、アフリカ最大の人口と経済規模を有し、アフリカにおいて大きな発言力を有している。3月に大統領選挙が行われ、ブハリ大統領が当選し、初めて民主的手続に基づいた政権交代が行われた。一方で、同国北東部を中心にテロ行為を繰り返すイスラム過激派組織ボコハラム対策は周辺国を巻き込んだ課題となっている。 5月に行われた大統領就任式には、総理特使として逢沢衆議院議員が派遣された。資源価格の下落に伴う経済の悪化が懸念されるものの、引き続き日本企業のナイジェリアに対する関心は高く、11月には経済都市ラゴスで国際見本市が開催され、30社以上の日本企業が参加した。 エ ニジェール 2016年に総選挙を控えるニジェールでは、イスラム過激派武装勢力が跋扈(ばっこ)している北部に加えて、南東部においてもボコハラムによるナイジェリアからの越境攻撃が相次ぐなど、治安情勢が悪化した。 6月、イスフ大統領が、実務訪問賓客として、同国からの国家元首としては29年ぶりに訪日した。安倍総理大臣との首脳会談においては、不安定な情勢が続く北アフリカとサヘル地域の結節点に位置するニジェールとの間で、積極的平和主義に基づき、テロ・治安対策や社会・経済開発における協力を強化していくことが確認された。 イスフ・ニジェール大統領訪日の際の儀仗隊による儀礼(6月19日、東京・総理官邸 写真提供:内閣広報室) オ ベナン ベナンは、西アフリカにおける民主主義の模範国といわれている。 8月には、城内外務副大臣がベナンを訪問し、同国独立55周年記念式典に出席するとともに、ヤイ大統領及びアカディリ外相を表敬訪問した。 カ リベリア 約14年間続いた内戦が2003年に終結して以来、リベリアは国家経済・社会の再建に取り組んでいる。順調な経済成長が続いていたが、2014年に流行したエボラ出血熱により同国は再び甚大な被害を被った。現在は保健システムの強化を含む、経済・社会システムの復興計画が進められている。 8月にはサーリーフ大統領が訪日し、安倍総理大臣との首脳会談及び国際女性会議「WAW! 2015」(World Assembly for Women)での基調講演を行った。9月にはモンロビアで第1回日・リベリア政策対話が実施され、11月にはアディ通商産業相が訪日するなど、日・リベリア二国間の往来は活発化している。 日・リベリア首脳会談(8月27日、東京 写真提供:内閣広報室) 1 ABEイニシアティブTICAD Vの支援策として2013年6月、安倍総理大臣から表明。5年間で1,000名のアフリカの若者を日本に招へいし、日本の大学や大学院における教育と日本企業によるインターンシップの機会を提供するもの。このイニシアティブを通じて、アフリカの産業人材が育成されるとともに、日本企業のアフリカ人材との人脈・ネットワークが形成され、アフリカの若者がアフリカビジネス水先案内人として、日本企業のアフリカ進出に貢献することが期待されている。