第2章 地球儀を俯瞰する外交 第6節 中東と北アフリカ 総論 中東・北アフリカ地域は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。また、国際通商上の主要な海上ルートに位置し、石油、天然ガスなどのエネルギー資源を世界に供給する重要な地域でもある。一方で、この地域は、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」などの過激主義の伸張、大量の難民の発生、シリア危機、イラク情勢の悪化、イランの核問題、中東和平、アフガニスタン、イエメン及びリビアの国内情勢など同地域を不安定化させる様々な課題を抱えている。これら諸課題を抱えるこの地域の平和と安定を実現することは、日本を含む国際社会全体にとって極めて重要であり、国際社会もその解決に向けて取り組んでいる。 日本は原油輸入量の8割以上をこの地域に依存しており、以前から資源・エネルギーを中心に中東・北アフリカ地域諸国(以下「中東諸国」という。)との関係を築いてきたが、今後、経済面での幅広い分野における協力、さらには政治・安全保障、文化・人的交流といった多層的な関係を構築していくことを目指している。2012年12月の第2次安倍政権発足以降6度に及ぶこの地域への安倍総理大臣の訪問のほか、政府ハイレベルの要人往来や会談も活発に行われており、日本は、中東の「常に変わらぬ伴走者」として、両者の関係の強化に向けて取り組んでいる。 ISILを始めとする過激主義の伸張は、中東地域の秩序を大きく揺るがしているのみならず、国際社会全体にとって重大な課題となっている。日本は、1月の安倍総理大臣の中東政策に関するスピーチなど様々な機会において、難民・避難民に対する人道支援、インフラ整備、人材育成等の協力を通じて、「中庸が最善」の精神に裏打ちされた過激主義を生み出さない社会の構築を支援する姿勢を示してきている。同時に、ISILなどが引き起こす卑劣なテロを断固として非難するとともに、国際社会によるテロとの闘いへの支持を表明してきている。 ISILの伸張は、シリア・イラクから欧州地域への大量の難民の流入を引き起こしている。9月、安倍総理大臣は、国連総会一般討論演説において、シリア・イラク及びその周辺国の難民・国内避難民に対する約8億1,000万米ドルの支援を表明した(P96特集参照)。これに加え、2016年1月には、シリア・イラク及び周辺国に対し、職業訓練や食糧支援などを含む約3億5,000万米ドルの支援を決定した。 シリア情勢については、日本は、2014年以来累次の国際会議の場で表明してきているとおり、人道支援と政治対話への貢献を基本としている。2015年にも、日本は、シリア難民の流入により影響を受けているトルコやヨルダンに対する円借款などを含め、多くの支援を実施し、シリア危機が発生した2011年以降の日本のシリア・イラク及び周辺国への支援は総額12億米ドル以上に上る。 中東和平については、1月の安倍総理大臣のイスラエル・パレスチナ訪問時の各首脳会談の際や、11月にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)の場でのネタニヤフ首相との会談の際に和平交渉再開を働き掛けたほか、「平和と繁栄の回廊」構想や「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」といった日本独自のパレスチナ支援の取組を着実に進めている。 また、7月、イランとEU3(英仏独)+3(米中露)はイラン核問題についての最終合意を発表した。日本は、イランによる最終合意の着実な履行を後押しするための協力や投資協定の締結など、合意後の両国間の関係強化に向けて取り組んでいく。 中東諸国は近年、急速に増加する若年人口を活力として着実な経済発展を遂げ、市場や投資先としての存在感も高めている。そのため、日本は、中東諸国との間で、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)、投資協定、租税協定、社会保障協定など経済・ビジネス関係の強化の基盤となる法的枠組みの構築やインフラの海外展開などにも取り組んでいる。安倍総理大臣の中東諸国への訪問時においても、大企業から中小企業まで様々な業種・業態の企業を含む経済ミッションが同行し、日本の「強み」を各国首脳や経済界に積極的に売り込んでいる。