第2章 地球儀を俯瞰する外交 各論 1 欧州地域情勢 (1)欧州連合(EU) EUは、世界のGDPの約24%、総人口約5億人を擁する28加盟国から成る政治・経済統合体であり、日本と基本的価値・原則を共有しており、日本が地球規模の諸課題に取り組む上で重要なパートナーである。 ア 日・EU関係 2015年には2度の日・EU首脳会談が実施され、両首脳間の信頼関係が更に強化されるなど、日・EU関係の包括的な強化に向けた大きな進展が見られた。 5月、トゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長を始め、関係欧州委員出席の下、東京にて第23回日・EU定期首脳協議が開催された。この協議で両首脳は、日・EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)交渉及び日EU・EPA交渉を更に加速化することを確認したほか、テロ対策、人道支援、科学技術、海洋、宇宙、サイバーなど多岐にわたる分野での協力を深めることで一致した。11月、G20アンタルヤ・サミット開催時には、安倍総理大臣とユンカー欧州委員会委員長との間で首脳会談が実現した。同会談で両首脳は、SPA及びEPA交渉の重要性を確認し、EPAについては、引き続き最大限努力しつつ、2016年のできる限り早い時期の大筋合意実現を目指すことで一致した。こうした中、2015年には、6回のEPA交渉会合(3-3-1参照)、4回のSPA交渉会合がそれぞれ開催された。 第23回日・EU定期首脳協議(共同記者会見)(5月29日、東京 写真提供:内閣広報室) 1月、ベルギーを訪問した岸田外務大臣は、モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長らと会談し、日・EU関係の更なる促進に向け協働していくことで一致するとともに、新指導部との関係を構築した。また、4月のG7外相会談(於:リューベック(ドイツ))及び11月のASEM外相会合開催時にも、モゲリーニEU上級代表と会談し、イランの核開発問題やウクライナ問題で緊密に連携することで一致した。 イ EUの動き 欧州統合の拡大・深化の動きとしては、1月、リトアニアが19番目のユーロ導入国となった。一方で、中東・北アフリカから欧州に流入する難民が急増し、事態を重く受け止めたEUは、難民問題解決に向け結束を固める姿勢を表明した。11月には、マルタのバレッタで、移民・難民問題をめぐるEU・アフリカ首脳会合(バレッタ・サミット)を開催し、同問題の早期解決に向けた政治宣言及び行動計画を発出した。また、同月末にブリュッセルで実現したEU・トルコ首脳級会合において、移民・難民問題解決に向けたトルコへの人道支援継続を約束したほか、トルコのEU加盟交渉の再活性化に合意し、2016年から交渉準備作業を進めることを約束した。 外交面では、イランの核問題について、7月、モゲリーニEU上級代表は、ザリーフ・イラン外相と共に、イラン核開発問題に関するEU3(英仏独)+3(米中露)とイランの最終合意(包括的共同作業計画)を発表するなど、同問題解決に向けて重要な役割を果たした。ウクライナ問題をめぐっては、12月、前年に引き続きEU・ウクライナ連合評議会第2回会合が開催され、事態改善に向けた連携の重要性を確認すると同時に、状況に進展が見られたことを歓迎した。 安全保障分野では、6月、モゲリーニEU上級代表のイニシアティブにより、EUの包括的な安全保障戦略として、EUグローバル戦略を策定することが欧州理事会において決定された。 経済面では、ユーロ圏全体では、原油安、ユーロ安、金融緩和等に支えられ、緩やかな景気回復が続いた。欧州委員会による持続的な成長実現に向けた取組については、「欧州投資プラン」の関連法の制定や投資プロジェクト選定、資本市場同盟の設立に向けた行動計画の作成等、投資促進策を中心に進展があった。経済への下方リスクとしては、年初からギリシャ債務問題の欧州経済への影響が特に懸念されたものの、8月に、同国政府とEU側との間で支援プログラムに関する合意が成立したことにより落ち着きを取り戻した。 (2)英国 5月に行われた下院選挙において、キャメロン首相率いる保守党が勝利し、保守党単独の第2次キャメロン政権が発足した。キャメロン首相は、2016年6月23日にEU残留/離脱を問う国民投票を実施する方針であり、それまでにEU改革を実現した上で残留を目指すとの立場である。11月に同首相が提出した4つの柱(「経済ガバナンス(非ユーロ加盟国の権利保護等)」、「競争力(規制緩和等)」、「主権(EUの「より緊密な結合」に向けたプロセスからの英国解放、各国議会の権限強化等)」及び「入国管理(EU域内の人の移動の濫用禁止、英国への移民の福祉制限等)」)から成るEU改革案を基にEUと交渉が行われ、2月の欧州理事会で合意した。また、スコットランドへの権限委譲をどこまで進めるかも同政権の重要な課題となっている。 日英両国は、首脳・外相を始め様々なレベルでの政策協調や交流を通じ、二国間関係を強化してきている。安倍総理大臣とキャメロン首相は、6月のG7サミット及び11月のG20サミットの機会に会談を行った。岸田外務大臣とハモンド外務・英連邦相も、4月のG7外相会合の機会に会談したほか、8月には第4回外相戦略対話、2016年1月には第5回同対話をそれぞれ東京で行った。また、2015年2月にはケンブリッジ公爵殿下(ウィリアム王子)が訪日し、安倍総理大臣と共に東日本大震災の被災地を訪問し、天皇皇后両陛下が御昼餐(ちゅうさん)にお招きになったほか、多くの人々と交流した。8月にはバーコウ英国下院議長が訪日し、安倍総理大臣への表敬や衆参両院議長との意見交換を行った。 被災地で地元の方たちとふれあうウィリアム王子(2月28日、福島 写真提供:内閣広報室) 近年、日英間で安全保障・防衛協力が大きく進展している。英国政府は、11月に新たな「国家安全保障戦略(NSS)」及び「戦略国防・安全保障見直し(SDSR)」を公表し、日本を「同盟国」、「アジアにおける最も緊密な安全保障のパートナー」として位置付けた。1月にロンドンで初めて外務・防衛閣僚会合が開催されたのに続き、2016年1月に東京で第2回会合が開催され、物品役務相互提供協定(ACSA)の早期締結に向けた交渉の推進等で一致した。 (3)フランス 失業率が10%を超える中、オランド政権は、財政健全化を目指しつつ、景気回復と雇用創出に取り組んでおり、経済活動の自由化などを推進している。また、1月のパリの新聞社などを襲撃したテロ事件や、11月のパリで130人が犠牲となった同時多発テロ事件を受け、テロ対策を強化している。欧州における中東・北アフリカからの難民問題に関し、与党社会党は、2年間で2万4,000人の難民を受け入れるなどの支援を行うことを発表したが、3月の県議会選挙や12月の州議会選挙において、同党は敗北し、移民流入の抑制を主張する国民戦線が躍進した。 外交面では、テロ事件への「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」の関与を受けて、シリアにおけるISILへの空爆を強化した。また、11月のテロ事件後に国連気候変動枠組第21回締約国会議(COP21)を主催し、パリ協定の採択に指導力を発揮し、気候変動対策において重要な役割を果たした。 日本との関係では、1月に岸田外務大臣が訪仏し、ファビウス外務・国際開発相と会談した。3月には東京において第2回日仏外務・防衛閣僚会合が実施され、防衛装備品・技術移転協定の署名が行われるなど、安全保障・防衛分野での一層の協力が確認された。10月にはヴァルス首相が訪日し、安倍総理大臣との間で、イノベーション、アフリカ、原子力といった分野での協力を強化することで一致した。また、この機会に「日仏イノベーション年」が開幕した。11月にはCOP21出席のため安倍総理大臣が訪仏し、オランド大統領及びヴァルス首相との間で会談を実施し、テロ対策や気候変動などでの連帯を確認した。また安倍総理大臣は、パリ同時多発テロ事件現場のバタクラン劇場で献花し、フランスへの連帯を表明した。 (4)ドイツ ドイツは2015年のG7議長国として、6月にエルマウ・サミットを開催し、ウクライナ情勢をめぐるG7の対応や中東情勢などに関する議論を主導したほか、ノルマンディー・フォーマット(ウクライナ、ドイツ、フランス及びロシア)の一員としてウクライナ情勢の安定に向け積極的に取り組んできた。また、2015年に急増した難民数はメルケル首相が受入上限を設けなかったことなどにより増加を続け、同年中のドイツへの難民流入数は約110万人となった。 また、ドイツは国際社会の平和と安定に積極的に貢献する姿勢を打ち出しており、11月にパリで発生した同時多発テロ事件を受け、12月、連邦議会は対ISIL軍事行動支援のための独連邦軍派遣を決定した。 経済面では、欧州債務危機以降も安定した経済で欧州経済を牽(けん)引しているほか、製造分野において、工場及び企業の内外を共通のソフトウェアでつなぎ生産を最適化・効率化することを目指す「インダストリー4.0」戦略を打ち出すなど、国際社会においても経済的影響力を更に増している。 日本との関係では、3月にメルケル首相が訪日し、安倍総理大臣との会談においてウクライナ情勢を始めとする地域情勢、安保理改革、軍縮・不拡散等の国際場裏における協力を強化することで一致した。また、G7サミットの現・次期議長国として様々な国際社会の課題への対処のため緊密な協力を保っていく必要があることから、エルマウ・サミット後もG20等の国際会議等の機会に首脳・外相会談を実施し、更なる信頼関係の醸成と協力の緊密化が図られた。 (5)イタリア及びスペイン イタリアでは、2014年2月に発足したレンツィ政権が、選挙法改正、上院改革等を可能にする憲法改正に加え、労働市場改革などの構造改革に引き続き取り組んでいる。2015年2月にはマッタレッラ大統領が就任した。 5月から10月まで、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマにミラノ国際博覧会が開催され、2,150万人が来場した。日本も「共存する多様性」をテーマとして参加し、日本館は228万人が来館するほど好評を博し、展示デザイン部門で「金賞」を受賞した(P79コラム参照)。 日本との関係では、レンツィ首相が8月に訪日し、天皇皇后両陛下が御引見するとともに、安倍総理大臣との間で首脳会談を行った。また、岸田外務大臣は、4月のG7外相会合出席の際にジェンティローニ外務・国際協力相と会談した。2016年は日・イタリア国交150周年であり、両国はこの機会も活用して協力を強化していく。 スペインでは、ラホイ政権が財政・構造改革に取り組み、経済は緩やかに回復しつつある。しかし、若年者の高失業率や不正資金運用疑惑などにより、与党民衆党及び最大野党の社会労働者党の2大政党への支持が低下している。12月に任期満了に伴う上下両院の総選挙が実施されたが、与党民衆党は過半数を獲得できなかった。カタルーニャ州では、9月の州議会選挙の結果を受けて、独立派のプッチダモン知事が新たに選出された。引き続き同州の独立に向けた動向が注目される。 日本との関係では、2013年から2014年までの日本・スペイン交流400周年で高まった交流の機運が継続しており、2015年の両国間の渡航者数は、9月末時点で対前年同期比25%以上の増となっている。 ミラノ万博で日本館が金賞受賞teamLab代表●猪子 寿之 チームラボは、ミラノ万博の日本館で、「HARMONY」と「DIVERSITY」という二つの空間を担当させて頂きました。「HARMONY」は、棚田の四季を新しい没入体感型の映像空間で表現しました。「DIVERSITY」は、滝に流れてくる多様な日本の食に関する画像にタッチすると、画像と詳細の情報が自分のスマートフォンへと取り込まれ持ち帰ることができる空間を創りました。同じ空間にいる人々が体感を共有できるシンボリックなアートとしての滝と、個人が持つスマートフォンを繋げることによって、感動の共有と情報に対する利便性を共存させるチャレンジを行いました。 日本館 「HARMONY」 「DIVERSITY」 今回の万博で、日本館は、展示デザイン部門で歴史上初めてとなる金賞を受賞しました。受賞理由も、自然と技術の調和があげられており、また、米・EXHIBITOR Magazine社によるパビリオンアワードで、「HARMONY」が「Best Presentation」を受賞し、日本館の金賞受賞に大きく貢献できたのではないかと思っております。 「HARMONY」についてもう少しお話すると、日本の食の原風景である「水田」は、棚田に代表されるように、河川の中上流域など高低差がある場所で発達しました。そしてそれは、人と自然が共生することで生まれてきました。水田が“高低差”のある場所で発達してきたことや“人と自然が共生”することを表現するため、腰やひざ下など、さまざまな高さでつくった稲穂に見立てたスクリーンで空間を満たし、腰から膝ほどの高さに映像が無限に広がるインタラクティブな映像空間をつくりました。映像は人の位置やふるまいに合わせて変化していきます。人々は、まるで稲穂を分け入るかのように、映像空間の中を分け入りながら、四季を表現した日本の自然を体感するのです。 そして、この裏側には、チームラボが提唱しているアートのコンセプト、「Spatial Objects」という考えがあります。これは、デジタルによる新しい表現によって、人は、立体物として認識したまま、その立体物の中に入っていくことができるという考えです。このような新しい考えのもと、物理的な作品の中に入っていくという、これまでにない没入体感を世界の人々に体験してもらいたかったのです。 (6)ウクライナ 2月、ウクライナ、ドイツ、フランス及びロシアの4か国首脳によって、即時停戦や重火器の撤収等を規定した「ミンスク合意履行に関する包括措置」が合意された。3月以降、一時的な戦闘の激化(6月、8月)や散発的な衝突は確認されたが、全体として停戦違反は減少し、9月から10月にかけては停戦状態がおおむね維持された。しかし、11月から12月にかけて再び停戦違反が増加した。 長引く戦闘等により、ウクライナ経済が悪化したため、2月、IMFは4年間で約175億米ドルをウクライナに拠出する支援プログラムを承認し、日本を含むドナー国及び機関も経済・財政支援を継続した。ウクライナは国際社会からの支援を受けながら、汚職対策や経済改革を始めとする各種国内改革に取り組んでいる。 外交面では、2016年1月1日にEUとの間で「深化した包括的自由貿易協定(DCFTA)」の適用を開始し、欧州統合路線を歩む一方で、ロシアとの間では天然ガス問題が依然として解消せず、欧州からのガスの逆送等を通じ、エネルギー供給源の多角化に取り組んでいる。 日本との関係では、3月のクリムキン外相の訪日、6月の安倍総理大臣のウクライナ訪問(日本の総理大臣として初)、9月の日・ウクライナ首脳会談等、ハイレベルでの交流が加速したほか、11月には日・ウクライナ投資協定発効や第3回日・ウクライナ原発事故後協力合同委員会の開催等、二国間関係も着実に発展した。対ウクライナ支援では、日本は、1月に3億米ドルの追加支援を表明し、8月にはキエフで活動するOSCEの特別監視団(SMM)に専門家を派遣(P82コラム参照)するなど、財政支援及び人的貢献の両面でウクライナを支援してきている。 その他の欧州地域(図中のリンク:NB8+日本、第4回「将来の課題のための日・オーストリア委員会」)