第2章 地球儀を俯瞰する外交 各論 1 中南米諸国との関係強化と協力 (1)経済関係の強化 中南米地域は、世界有数の経済規模を有するブラジル(国内総生産(GDP)世界第7位、G20加盟国)やメキシコ(GDP世界第14位、G20加盟国)、コロンビア、ペルー、チリ、パナマなどの成長著しい太平洋沿岸国やアルゼンチン(G20加盟国)、ベネズエラ、ボリビアなどの食料・鉱物資源の豊富な国々を擁し、その経済的潜在力には世界的な関心が集まっている。 経済指標比較 中南米地域経済の成長は、2011年以降、一次産品価格の下落や域外主要国の経済失速などにより減速しているものの、堅調な成長を続ける国も多く、日本企業の関心も引き続き高い。 日本は、中南米各国を共に成長する経済パートナーとして重視し、官民一体となって、日・中南米間の貿易・投資の促進や円滑化に取り組んでいる。具体的には、5月に、グアテマラで第2回日・中米ビジネスフォーラム、11月には、岸田外務大臣のキューバ訪問のフォローアップとして第1回日・キューバ官民合同会議を開催した。このほか、日本政府は、貿易促進や進出企業のビジネス環境整備に資するEPA、投資協定などの法的枠組みの構築促進やこのような枠組みに基づく協議などを通じ、日本企業の進出の促進を始め、経済関係の強化を図っている。具体的には、2015年には日・ウルグアイ投資協定の署名が行われるとともに日・コロンビア投資協定が発効し、2016年1月には日・チリ租税条約が署名された。さらに、コロンビアとのEPA締結に向け交渉を続けているほか、日・メキシコEPA発効10周年を機に、10周年セミナーを開催し、第8回日・メキシコEPAビジネス環境整備委員会を開催するなど、両国の更なる経済関係の強化に向け協議した。このような取組の結果、中南米における日系進出企業数は2014年10月時点で2,087社となっている。 2016年1月には、日本企業の進出が飛躍的に増加しているメキシコのレオンに総領事館が新設され、同地で事業を展開する日系企業の支援体制が強化された。 (2)人的交流の強化 2015年は日・ブラジル外交関係樹立120周年に当たり、秋篠宮同妃両殿下が10月から11月にかけて同国を御訪問になり、ルセーフ大統領を始めとする要人と御接見されたほか、各地で日系人の方々と親しく交流された(P71特集参照)。また、同年は、中米5か国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア及びコスタリカ)との外交関係樹立80周年であり、この5か国とベリーズ、パナマ及びドミニカ共和国を含めた諸国との「日・中米交流年」の機会を捉え、眞子内親王殿下が初の海外公式訪問として、12月にエルサルバドルとホンジュラスを御訪問になった(P72コラム参照)。 現地で児童から歓迎を受けられる秋篠宮同妃両殿下(10月28日、ブラジル 写真提供:AFP=時事) エルナンデス大統領夫妻から民芸品の説明をお受けになる眞子内親王殿下(12月8日、ホンジュラス 写真提供:ホンジュラス大統領府) 中南米には、約213万人の日系人が在住するなど、日本との人的・歴史的な絆が深い。こうした背景もあり、日本政府は中南米地域との人的交流を強化している。前述の安倍総理大臣のジャマイカ訪問や岸田外務大臣のキューバ訪問に加え、中南米地域からは3月と11月にカブリサス・キューバ閣僚評議会副議長、4月にガルシア・リネラ・ボリビア副大統領、7月にエルナンデス・ホンジュラス大統領夫妻、ヴィエイラ・ブラジル外相、さらに10月にバロン・ドミニカ国外相が訪日したほか、11月にはバスケス・ウルグアイ大統領が訪日(ニン・ノボア同外相ら同行)した。特に中南米の日系人との関係では、現地日系社会の若手リーダーや日本の魅力発信に意欲を有するジャーナリスト等を招へいし、幅広い観点から連携を進めている。そのほかにも、中南米地域からの若手行政官、報道関係者などの招へいや2015年が節目の年であったブラジル、中米諸国との間の各種交流事業などを通じ、あらゆるレベルでの交流を強化し、特にブラジルとは年間を通じて両国で500件にも上る記念事業を実施した。 (3)中南米諸国の安定的な発展のための貢献 中南米諸国の安定的な発展のためには、持続的成長と政治的安定が課題であるとの認識から、日本は、中南米各国が民主主義を堅持しながら貧困や社会格差是正に向けた適切な努力を行い、安定的に経済成長を遂げることを重視している。このような観点から、教育や保健・医療など生活水準の向上や中南米各国の持続的な経済成長に資する再生可能エネルギー開発や産業インフラ整備などの分野において、政府開発援助(ODA)などを通じて積極的な支援を行っている。さらに、日本からの支援もあり、第三国への支援の実施が可能な段階になっているアルゼンチン、チリ、ブラジル及びメキシコといった国との間では、他の開発途上国を支援するいわゆる三角協力を進めている。 また、ハリケーンや地震などの自然災害に対し脆弱(ぜいじゃく)な中南米各国とは、防災面でも多くの協力を行ってきている。これら諸国は生物多様性にも富み、気候変動対策にも関心が高いことから、環境分野においても積極的に協力している。3月には集中豪雨による大規模な洪水が発生したチリに対し緊急支援物資を供与し、8月にはトロピカル・ストーム「エリカ」による洪水で甚大な被害を受けたドミニカ国に対して緊急支援物資を供与した。また、9月に安倍総理大臣がジャマイカを訪問した際に、前年の日・CARICOM首脳会合で表明した「日本の対CARICOM政策」の三本柱の第一の柱である「小島嶼開発途上国特有の脆弱(ぜいじゃく)性克服を含む、持続的発展に向けた協力」として、CARICOM諸国から最優先協力分野の1つとして要請のあった省エネルギー・再生可能エネルギー分野において、ジャマイカ、セントクリストファー・ネーヴィス、トリニダード・トバゴ及びバルバドスに対する新たな技術協力プロジェクトの実施の決定を表明した。 (4)地域機構を通じた中南米諸国との協力 中南米地域では、様々な地域統合の試みが漸進的に進んでいる。日本は、地域や国際社会の諸課題に対する連携を強化すべく、太平洋同盟、アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)、中米統合機構(SICA)、CARICOM、南米諸国連合(UNASUR)、南米南部共同市場(MERCOSUR)等の地域機構との連携を強化している。特に日・中米交流年に当たる2015年は、SICAとの間で2月にグアテマラにおいて第17回日・中米「対話と協力」フォーラムを開催し、政治対話を深化させるとともに、前述のとおり、5月には同国において第2回日・中米ビジネスフォーラムを開催し、日本からは宇都隆史外務大臣政務官を始め52社・団体から110人が出席するなど、SICAとの経済関係が更に強化された。また、太平洋同盟との関係では、7月に第1回目となる高級事務レベル会合が開催されたほか、FEALACにおいても、日本はブラジルと共に科学技術・イノベーション・教育作業部会の共同議長を務めた。また、8月にコスタリカで開催された第7回FEALAC外相会合には中山外務副大臣が出席し、日本の提案により2015年に初めて実現した中南米とアジア両地域が参加するロボットコンテストの実施について報告した。この取組は各国からも歓迎された。さらに、CARICOMとの間では、日・カリブ交流年であった2014年に実施された首脳会合及び外相会合のフォローアップとして、1月に宇都外務大臣政務官が、CARICOM加盟国であるトリニダード・トバゴ、セントルシア及びCARICOM事務局を有するガイアナを訪問、また、6月にバハマ及びアンティグア・バーグーダを訪問し、CARICOMとの更なる連携強化に向けて協力していくことを確認した。5月には中山外務副大臣が、CARICOM外交・共同体関係理事会会議(COFCOR)に出席するためセントルシアを訪問し、全体会合においてスピーチを行ったほか、多くのCARICOM加盟国との間で二国間会談を行うなど、関係を更に強化した。2016年1月には、バルバドスに大使館が新設され、CARICOMとの連携を今後一層強化する体制が整った。 第7回FEALAC外相会合(8月21日、コスタリカ) 中南米における地域機構