第2章 地球儀を俯瞰する外交 各論 1 朝鮮半島 (1)北朝鮮(拉致問題を含む。) 日本は、「対話と圧力」、「行動対行動」の方針の下、2002年9月の日朝平壌宣言に基づき、拉致問題、核・ミサイル問題といった北朝鮮との諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しながら、引き続き様々な努力を行っている。 ア 内政・経済 (ア)内政 北朝鮮では、金正恩(キムジョンウン)国防委員会第一委員長を中心とした体制になってから5年目となるが、引き続き主要幹部の人事に変動が見られる。 2015年7月には、人民武力部長が玄永哲(ヒョンヨンチョル)から朴映式(パクヨンシク)に交代していることが公式に明らかになった。また、2016年2月には、朝鮮人民軍総参謀長が李永吉(リヨギル)から李明秀(リミョンス)前人民保安部長に交代していることが判明した。 2015年12月下旬には、北朝鮮は対南関係の責任者である金養建(キムヤンゴン)統一戦線部長(党政治局員)が交通事故により死亡した旨発表し、12月31日に国葬が行われた。 2015年10月10日、朝鮮労働党創建70周年を記念し、閲兵式(軍事パレード)等が行われた。金正恩国防委員会第一委員長は閲兵式の冒頭で演説を行い、「並進路線」(1)を含む、これまでの党の業績を強調するとともに、人民や青年重視をアピールした。 また、2015年10月30日、北朝鮮は、2016年5月初めに1980年10月の第6回大会以来となる党大会を開催する旨発表した。 (イ)経済 厳しい経済難にあるといわれている北朝鮮にとって、経済の立て直しは極めて重大な課題とされている。2013年には経済開発区法を制定し、全国に14の経済開発区を設けること等を決定した。2014年には新たに「対外経済省」が発足し、外貨誘致に乗り出している。 2016年1月1日、金正恩国防委員会第一委員長は、「新年の辞」で、経済建設と人民生活向上に努力することを強調し、農業、畜産、水産部門の重要性を指摘した。 また、金正恩国防委員会第一委員長は、人民軍を動員し、大規模な建設プロジェクトを推進しており、2015年の党創建70周年(10月10日)に合わせ、数千世帯分の住宅を含む「未来科学者通り」や「白頭山英雄青年発電所」を完工した。 2014年の経済成長率は1.0%(韓国銀行推計値)であり、資金やエネルギーの不足、生産設備の老朽化、技術水準の遅れなどの構造的な問題が依然として産業全体に存在しているものと見られる。また、穀物生産量は増加傾向にあったが、北朝鮮の食糧事情は引き続き困難な状況にある。 北朝鮮の対外貿易は、引き続き中国が最大の貿易額を占める。2014年の北朝鮮の対中貿易額は68億6,000万米ドルに上り(大韓貿易投資振興公社推計値)、南北間の「交易」を除く北朝鮮の対外貿易全体に占める割合は約90%となっている。また、北朝鮮は、中国を含む外国からの観光客誘致に積極的に取り組んでおり、様々な観光ツアーを実施している。 イ 安全保障上の問題 (ア)近年の経緯 日本を含む国際社会が強く自制を求めたにもかかわらず、北朝鮮は依然として核・ミサイル開発を継続している(詳細は(イ)参照)。 また、北朝鮮は韓国との間でも挑発的な言動を繰り返しており、2015年8月4日、南北非武装地帯(DMZ)の韓国側において地雷が爆発し、韓国軍兵士2名が負傷する事件が発生した。これに対し韓国側は、11年ぶりに北朝鮮に対する宣伝放送を再開した。これを受け、北朝鮮は、8月20日に2度にわたり韓国側を砲撃し、韓国側も対応射撃を実施した。北朝鮮は48時間以内の放送中止等を求め、さもなければ強力な軍事行動をとることを通告する等、緊張が高まった。しかし、その後、南北の高官が板門店において協議を行い、8月25日に南北共同発表文を発表した(エ参照)。 (イ)核・ミサイル開発の現状 北朝鮮は、定例の米韓合同軍事演習が始まった2015年3月2日に北朝鮮の南浦(ナンポ)付近から弾道ミサイルを発射した。5月9日には、「戦略潜水艦弾道弾」(SLBM)の水中発射実験を成功させたと発表した。また、2016年1月には、4回目となる核実験を実施し(2)、2月には、「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射を強行した。 同年2月、日本は、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するため、独自の対北朝鮮措置の実施を決定(3)した。また、3月、国連安保理は、制裁を大幅に強化する決議第2270号を全会一致で採択した。日本は強い措置を含む決議とすることを一貫して目指し、非常任理事国として米国、韓国を始めとする関係国と強固な連携を保ちつつ、安保理理事国との間で精力的な協議や働き掛けを行った。結果として、日本の主張も相当程度盛り込まれた強い国連安保理決議が採択された。日本としては引き続き、同決議が厳格に履行されるよう、関係国とも緊密に連携し適切に対処していくとともに、日本独自の措置を着実に実施していく。 北朝鮮の核・ミサイル開発の継続は、地域のみならず国際社会全体にとっての重大な脅威である。日本は、引き続き、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、いかなる挑発行動も行わず、六者会合共同声明や累次の国連安保理決議に従って非核化などに向けた具体的行動をとるよう強く求め続けていく。 ウ 日朝関係 (ア)拉致問題に関する取り組み 現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。日本としては、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要の外交課題の1つと位置付け、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。 (イ)日朝協議 2015年8月6日には、マレーシアにおけるASEAN関連外相会議の機会に、岸田外務大臣と李洙ヨン(土へんに庸)(リスヨン)外相の会談を実施した。岸田外務大臣から、2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)の履行を求めつつ、日本国内の懸念を伝え、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を強く求めた。これに対し、先方からは、同合意に基づき特別調査委員会は調査を誠実に履行しているとの説明があった。 しかし、2016年2月、北朝鮮の特別調査委員会は、同年1月の核実験及び2月の弾道ミサイル発射を受けた日本独自の対北朝鮮措置の発表の後に、拉致被害者を含む全ての日本人に関する調査を全面中止し、同委員会を解体すると表明した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議し、ストックホルム合意を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。 (ウ)国際社会との連携 日本は、首脳・外相会談、国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を含む北朝鮮問題を提起し、諸外国からの理解と協力を得ている。 米国との間では、2015年4月の日米首脳会談において、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応について日米韓の連携を改めて確認し、拉致問題に関してオバマ米国大統領から改めて理解と支持が表明された。その後も、11月のAPEC首脳会合の機会に行われた日米首脳会談を含む様々な機会を捉えて、引き続き日米、日米韓で連携していくことを確認してきている。 日米韓3か国は、9月の国連総会の機会を捉え、ニューヨークで外相会合を実施し、北朝鮮問題に関して3か国が一層緊密に協力していくことの重要性を再確認した。また、岸田外務大臣から、日朝関係の現状について説明し、拉致問題を始めとする人道上の問題の解決に向けて、引き続き日米韓の3か国で緊密に協力していくことを確認した。日米韓3か国は、2015年4月から日米韓次官協議を実施してきており、北朝鮮による核実験直後に東京で開催された2016年1月の第2回協議においても3か国の緊密な連携を確認した。また、北朝鮮による2016年1月の核実験や、2月の弾道ミサイル発射といった一連の挑発行動を受け、米国や韓国を始めとする関係諸国と電話会談を行い、緊密な連携を確認した。 2015年6月のG7サミット(於:ドイツ)では、北朝鮮による核・ミサイル開発、並びに甚だしい人権侵害及び他国の国民の拉致を強く非難する首脳宣言が発出された。また、同年11月に開催されたEAS(於:マレーシア)及び日・ASEAN首脳会議(於:マレーシア)の議長声明においても拉致問題を含む人道上の懸念に対処する重要性が強調された。そのほかにも、12月の日・オーストラリア首脳会談の機会に発出された共同声明などにおいて、北朝鮮に対して拉致問題を含む人道上の懸念への速やかな対応を求めることを確認している。 国連では、2015年3月の人権理事会において、日本とEUが共同提出した北朝鮮人権状況決議が採択された(同決議の採択は8年連続8回目)。続く12月には、国連総会本会議において、3月の人権理事会決議の内容も踏まえた強い内容の北朝鮮人権状況決議が賛成多数で採択された(同決議の採択は11年連続11回目)(4)。また、12月10日(ニューヨーク時間)には、前年に続き「北朝鮮の状況」に関する国連安保理会合が開催され、人権状況を含む北朝鮮の状況が包括的に議論された。 さらに、米国議会においても拉致に関する決議案が提出されるなどの動きが見られた。このように拉致問題に対する国際社会の認識の高まりも踏まえ、日本は、関係国と緊密に連携・協力しつつ、拉致問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく。 エ 国際社会の協力と取組 米国と北朝鮮との関係については、北朝鮮は、定例の米韓合同軍事演習に反発し、2015年3月2日、朝鮮人民軍総参謀部スポークスマン声明を発出し、「米帝とその追従勢力が通常武力による侵略戦争を仕掛けてくるならば、われわれ式の通常戦争で、核武力による侵略戦争を挑発するならば、われわれ式の強力な核打撃戦で(中略)米帝とその追従勢力の最終滅亡を早めようというのが我が方の選択した断固たる決意」と主張した。 一方で、北朝鮮は、10月の李洙ヨン(土へんに庸)(リスヨン)外相の国連総会演説を始め、外務省声明(10月14日付け)等を通じ、朝鮮半島における対決と緊張激化の悪循環を断ち切るためには、休戦協定を平和協定に替える問題を全ての問題に先行させなければならないとし、米国に向けてアピールを続けている。 韓国との間では、2015年8月のDMZにおける砲撃事件を受けて発表された南北共同発表文(5)に基づき、同年10月には金剛山にて朴槿恵(パククネ)政権にて2度目となる離散家族再会事業が実施され、12月には開城(ケソン)工業団地で次官級の南北当局者会談が開催されたが、特段の合意事項の発表なく終了した。2016年2月、韓国政府は1月の核実験及び2月の弾道ミサイル発射への対応として開城工業団地を全面的に中断する措置を発表するとともに韓国政府の努力は北朝鮮の核兵器と長距離ミサイルの高度化に悪用された結果となったと説明した。これを受け、北朝鮮は同工業団地にいる韓国国民を追放し、同工業団地を軍事統制区域とする旨宣言した。 中国と北朝鮮の関係は、金正日(キムジョンイル)時代に比べ、政府や党レベルの交流は少なかったが、2015年10月10日の朝鮮労働党創建70周年記念の式典に劉雲山(りゅううんざん)中国共産党政治局常務委員が参加し、金正恩国防委員会第一委員長と面会し習近平国家主席の親書を伝達するとともに、中朝関係を発展させていくことにつき意見交換を行った。 ロシアとの間では、金正恩国防委員会第一委員長が2015年5月の「大祖国戦争」勝利70周年記念式典に参加せず、代わりに金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長が出席した。2015年は「露朝親善の年」でもあり、政府ハイレベルの往来が多く見られた。 北朝鮮から逃れた脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。 (2)韓国 ア 韓国情勢 (ア)内政 2015年、就任3年目を迎えた朴槿恵大統領は、就任後4回目の対国民談話(6)「4大改革の必要性と国民への協力要請」を発表し、韓国経済の再飛躍に向け、改革への国民の理解と協力を要請した。 朴槿恵政権の支持率は、2月には国民の生活に直結する年末調整に対する国民の不満から就任後最低レベルにまで下落した。5月には韓国で初めての感染者が確認されたMERS(中東呼吸器症候群)への初動対応の不備が批判され再び下落した。 その後、南北非武装地帯における地雷爆破と砲撃により南北間で高まった軍事的緊張が、南北ハイレベルの接触による合意の実現により緩和したことや、朴槿恵大統領の訪中により、9月には支持率が再び回復した。 (イ)外交 朴槿恵大統領は、「信頼と原則」の外交をうたい、「北東アジア平和協力構想」(7)や「朝鮮半島信頼醸成プロセス」(8)に対する支持を取り付けることを重視している。2015年には「朝鮮半島と周辺情勢の変化主導」、「平和、統一、信頼のインフラ構築」及び「グローバル統一ネットワークの強化」の3大目標を設定した。 対米関係では、10月に朴槿恵大統領が訪米し、4回目の米韓首脳会談を実施し、北朝鮮に対する共同声明を発表するなど、強固な米韓同盟をアピールした。 また、対中関係においては、2015年9月に朴槿恵大統領が抗日戦勝70周年式典に出席し、習近平主席との韓中首脳会談を行った。12月には中国との自由貿易協定(FTA)を発効し、経済面においても関係を強化している。 (ウ)経済 2015年、韓国のGDP成長率は2.6%と、前年の3.3%よりも減少した。総輸出額は、前年比7.9%減の約5,272億米ドルであり、総輸入額は、前年比16.9%減の約4,368億米ドルとなったため、貿易黒字は約904億米ドルとなった(韓国産業通商資源部統計)。 国内的な経済政策としては、2014年2月に発表した「経済革新3か年計画」に次ぎ、「四大改革」を掲げ、公共、労働、教育及び金融分野の構造改革を進めた。通商分野では、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)等のメガFTAへの積極的な対応、締結済FTAの改善、新興国市場を狙った新規FTAを推進するとする「新FTA推進戦略」を発表した。 イ 日韓関係 (ア)二国間関係一般 2015年は日韓国交正常化から50周年の節目の年であった。日本にとって韓国は、戦略的利益を共有する最も重要な隣国であり、良好な日韓関係は、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。また、日本と韓国は北朝鮮問題を始め、核軍縮や不拡散、平和構築、貧困などの地域や地球規模の様々な課題についても連携・協力してきた。今後は、政治、経済、文化などあらゆる分野において、日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていく。 6月21日には尹炳世(ユンビョンセ)外交部長官が就任後初めて訪日し、岸田外務大臣と日韓外相会談を実施、日韓関係の前進に向け前向きな意見交換を行った。22日には日韓双方で日韓国交正常化50周年祝賀行事が開催され、安倍総理大臣及び朴槿恵大統領がそれぞれ自国の行事に出席し、祝辞を述べた。 また、11月の日中韓サミット(於:ソウル)に際して、1日に外相会談を、2日には安倍総理大臣と朴槿恵大統領の間で、安倍政権として初めての日韓首脳会談を実施した。両国間の諸懸案について有意義な意見交換を行うとともに、安全保障、人的交流、経済を始めとする様々な分野における日韓間の協力を強化していくことで一致したほか、北朝鮮問題等についても突っ込んだ議論を行った。 日韓首脳会談にて、朴槿恵大統領と握手をする安倍総理大臣(11月2日、韓国・ソウル 写真提供:内閣広報室) さらに12月28日には、日韓外相会談(於:ソウル)及び日韓首脳電話会談を通じて、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることが確認された。また、日韓両首脳は、今回の合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に、この合意の精神に基づき対応することを確認した(P24「日韓両外相共同記者発表」参照)。 (イ)交流 日韓両国民の相互理解と交流の流れは着実に深化し、拡大してきている。2015年は日韓国交正常化50周年であり、日韓両政府は50周年を日韓間の幅広い交流の年にしていくため、地方公共団体、民間団体等で実施が予定されている文化・交流事業を50周年記念事業に認定した。双方政府が認定した事業は12月末時点で440件を超え、多岐にわたって活発な交流が行われた。 国交正常化当時には年間約1万人であった両国間の人の往来は、2015年には約584万人に達した(9)。 日韓両国で毎年開催されている文化交流事業「日韓交流おまつり」は、9月19日、20日にソウルで、9月26日、27日に東京でそれぞれ開催され、合わせて15万8,000人が参加した。 また、2015年からアジア大洋州諸国及び地域との青少年交流事業である「JENESYS2.0」に加え、対象者を社会人まで拡充した「対日理解促進交流プログラム」(JENESYS2015)を実施し、相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係の構築に努めた。 (ウ)竹島問題 日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土であるという日本の立場は一貫している。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに(10)、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や建造物の構築などについては、韓国に対して累次にわたり抗議を行ってきている。日本は、竹島問題に関し、これまでに3回(1954年9月、1962年3月及び2012年8月)、国際司法裁判所に付託することを韓国側に提案するなど、国際法にのっとり、平和的に紛争を解決するための努力を行ってきているが、今後とも粘り強い外交努力を行っていく方針である。 (エ)慰安婦問題 日韓間で長年懸案となっていた慰安婦問題は、2015年12月28日に行われた日韓外相会談における合意(P24「日韓両外相共同記者発表」参照)によって最終的かつ不可逆的に解決されることが確認され、その後の日韓首脳電話会談ではその合意を改めて確認し、評価した。また、日韓両首脳は、今回の合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に、この合意の精神に基づき対応することを確認した。この合意を受け、日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていく。 (オ)その他の問題 朝鮮半島出身の「旧民間人徴用工」をめぐる裁判(11)については、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるとの日本の一貫した立場に基づき、今後とも適切に対応していく。 また、名誉毀損で在宅起訴されていた産経新聞前ソウル支局長をめぐる問題については、ソウル中央地方裁判所が無罪判決を下し、数日後に無罪が確定した。 そのほか、朝鮮半島出身者の遺骨問題(12)、在サハリン「韓国人」支援(13)、在韓被爆者問題への対応(14)、在韓ハンセン病療養所入所者への対応(15)など、多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援を進めてきている。 また、排他的経済水域(EEZ)境界画定交渉については、日韓間で協議を重ねている。 ウ 日韓経済関係 日韓の経済関係は、緊密に推移している。2015年の日韓間の貿易総額は、約8兆5,700億円であり、韓国にとって日本は第3位、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比約8.4%増の約2兆900億円となった(財務省貿易統計)。また、日韓間の投資額は、日本からの対韓直接投資額が約16億7,000万米ドル(前年比33.1%減)(韓国産業通商資源部統計)で、日本は韓国への第3位の投資国であり、韓国からの対日直接投資は約5億8,000万米ドル(前年比38.6%増)(韓国輸出入銀行統計)であった。 このように、日韓両国は相互に重要な貿易・投資相手国であり、製造業におけるサプライチェーンの一体化の進展とともに、日韓企業の第三国への共同進出など、両国間では新たな協力関係が進んできている。 こうした緊密な日韓経済関係を一層強固にし、また日韓両国が共にアジア地域の経済統合に主導的な役割を果たすためにも、日韓両国の経済連携が重要であると考え、日中韓FTA及びRCEP交渉などに取り組み、進展に向け努力を続けている。 また、日韓経済関係の更なる強化を図る観点から、2016年1月に行われた第14回日韓ハイレベル経済協議では、日韓の経済情勢や日韓経済関係に加え、世界経済情勢、マルチ・地域レベルの枠組みにおける協力など、広範なテーマについて意見交換を行った。 また、環境分野については、5月に第17回日韓環境保護協力合同委員会を開催し、気候変動、生物多様性、海洋環境問題等の課題について意見交換を行い、これらの分野で日韓両国が緊密に連携していくことを確認した。 韓国政府による日本産水産物等の輸入規制の問題に関しては、2015年9月、日本の要請により世界貿易機関(WTO)に紛争解決小委員会が設置された。この関連で、日本は、様々な機会を捉えて、韓国側がWTOの規則に従い規制の強化措置を早期に撤廃するよう求めている。 日韓両外相共同記者発表 1.岸田外務大臣 日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。 @慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。 A日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。 B日本政府は上記を表明するとともに、上記Aの措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。 2.尹(ユン)外交部長官 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。 @韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記1.Aで表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。 A韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。 B韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。 日韓国交正常化50周年 1965年6月22日、日韓両国は「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」を調印、同年12月18日に批准書を交換し、国交が正常化しました。2015年が「日韓国交正常化50周年」に当たることを踏まえ、日韓両国は、「共に開こう 新たな未来を」をキャッチフレーズに、50周年が意義深い年となるよう様々な分野において交流の促進を図りました。 6月22日に東京及びソウルで開催された50周年祝賀行事には、それぞれ安倍総理大臣及び朴槿恵(パククネ)大統領が出席し、盛大なセレモニーとなりました。両首脳は、それぞれ50年前の批准書交換式の際に使用された屏風の前で祝賀スピーチを行い、日韓の新たな門出を祝福しました。また、同祝賀行事に合わせて尹炳世(ユンビョンセ)外交部長官が訪日し、岸田外務大臣との間で日韓外相会談を行いました。 日韓国交正常化50周年記念式で挨拶を行う安倍総理大臣(6月22日、東京 写真提供:内閣広報室) 国交正常化40周年を機にソウルで始まった「日韓交流おまつり」は、国交正常化50周年である2015年、例年より大規模に実施されました(9月19日〜20日(於:ソウル)、9月26日〜27日(於:東京))。ソウルでは朝鮮通信使行列やよさこいアリラン(日本の「よさこいソーラン」と韓国民謡「アリラン」を合わせた新しい踊り)等のパレードのほか、阿波踊りや津軽手踊り、下関平家踊り等の各地伝統踊り等を行い、約9万人が集まりました。また、東京でも朝鮮通信使行列のほか、サムルノリ(韓国伝統楽器を用いた音楽)や韓国伝統綱渡り、K-POPコンサートなどを行い、約6万8,000人が集まるなど大盛況となりました。「日韓交流おまつり」には毎年両国の多数の若者がボランティアとして参加しており、今や日韓の若者を中心とした交流の象徴として定着しています。 阿波踊り(日韓交流おまつりin Seoul) 朝鮮通信使のパレード(日韓交流おまつりin Seoul) このほか、日韓両政府は、日韓双方の学者による「共同研究シンポジウム」(6月19日、於:済州(チェジュ))の開催に積極的に協力し、両国民間の交流の促進を図りました。さらに両国は、日韓国交正常化50周年を日韓間の幅広い交流の年としていくため、地方自治体、企業、民間団体等が実施する文化・交流事業を「50周年認定事業」として認定し、芸術、学術、青少年交流、スポーツ等の分野で、440件を超える認定事業が実施されました。 12月28日には、岸田外務大臣と尹炳世外交部長官との間で行われた日韓外相会談(於:ソウル)において、慰安婦問題に関する合意がなされ、未来志向の新時代を切り開く端緒として、国交正常化50周年にふさわしい締めくくりとなりました。 日韓外相会談(12月28日、韓国・ソウル) 1 2013年の朝鮮労働党中央委員会全体会議(総会)で、経済建設と核武力建設を並進させていく「並進路線」が決定された。 2 2016年1月6日、朝鮮中央放送は「特別重大報道」の中で、初の水爆実験に成功したことを公表するとともに、核実験は国の自主権と生存権を守るための自衛的措置であると主張 3 独自の対北朝鮮措置の内容は次のとおり。@在日外国人の核・ミサイル技術者の北朝鮮を渡航先とした再入国禁止を含め、従来より対象者を拡大して人的往来の規制措置を実施する。A支払手段等の携帯輸出届出の下限金額を引き下げるとともに、北朝鮮向けの送金を原則として禁止する。B人道目的の船舶を含む全ての北朝鮮籍船舶の入港を禁止するとともに、北朝鮮に寄港した第三国籍船舶の入港を禁止する。C資産凍結の対象となる関連団体・個人を拡大する。 4 北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難し、そのような侵害の終結を強く要求した上で、北朝鮮が国連北朝鮮人権調査委員会(COI)の勧告を遅滞なく実施するよう要求している。また、安保理がCOIの勧告の検討を継続し、北朝鮮の事態の国際刑事裁判所(ICC)への付託の検討や、COIが人道に対する犯罪を構成し得ると述べた行為に対し、最も責任を有すると思われる者に対する、効果的で対象を絞った制裁の範囲についての検討等を通じて、適切な行動をとることを奨励している。 5 南北共同発表文のポイント:@南北関係を改善するための当局者会談をソウル又は平壌で早い時期のうちに開催、A北側は、地雷爆発により南側軍人が負傷を負ったことに対し遺憾を表明、B南側は、非正常な事態が発生しない限り軍事境界線一帯の全ての拡声器放送を8月25日12時付けで中断、C北側は、準戦時状態を解除、D南北は、秋夕(チュソク)(旧盆:9月27日)を機に離散家族再会を進め、今後継続。赤十字実務接触を9月初めに開催、E南北は、多様な分野での民間交流を活性化 6 過去の対国民談話は政府組織改編案に関する国民談話(2013年3月4日)、経済革新3か年計画(2014年2月25日)、セウォル号事故に関する国民談話(2014年5月19日) 7 北東アジアにおいて多者間対話の枠組みをつくり、可能な分野から対話と協力を始め、信頼を築いていき、安全保障などの他の分野へと協力の範囲を広げていくという構想 8 堅固な安保を基に南北間の信頼を築くことで、南北関係を発展させ、朝鮮半島に平和を定着させるとともに、統一基盤の構築を目指すという構想 9 2015年の渡航者数 訪日韓国人数:400万2,100人(日本政府観光局(JNTO))、訪韓邦人数:183万7,782人(韓国観光公社(KTO)) 10 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。 11 第二次世界大戦中、日本統治下の朝鮮半島において、新日鉄住金株式会社及び三菱重工業株式会社の前身企業に「強制徴用」されたとされる韓国人が、それぞれの企業に損害賠償と未払賃金の支払を請求した件に関し、2013年7月10日に韓国ソウル高等裁判所が新日鉄住金に対して、同月30日には韓国釜山高等裁判所が三菱重工業に対して、それぞれ原告側の訴えを認め、損害賠償などの支払を命じた。 12 第二次世界大戦終戦後、日本に残された朝鮮半島出身者の遺骨返還問題。韓国政府から返還要請があった遺骨について、可能なものから順次返還を進めている。 13 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で旧南樺太(サハリン)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留を余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、永住帰国支援、サハリン再訪問支援などを行ってきている。 14 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。 15 第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所入所者が、「ハンセン病療養所などに対する補償金の支給などに関する法律」に基づく補償金の支払を求めていたが、2006年2月に法律が改正され、新たに国外療養所の元入所者も補償金の支給対象となった。