第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 安心して住める魅力ある国づくり (1)エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保 ア エネルギー・鉱物資源をめぐる内外の動向 (ア)世界の情勢 2014年は、原油価格が大きく変動した。近年、原油価格は、新興国などにおけるエネルギー需要の増加と獲得競争の激化、資源ナショナリズムの台頭、中東情勢の流動化などによって高い水準で推移してきた。2014年6月にはイラク情勢を受けて、主要指標であるWTI原油価格が一時107米ドル/バレル台の高値をつけるに至った。しかしながら、秋以降、主要国の景気低迷による需要減速、米国のシェールオイルなどの非OPEC諸国の生産の堅調な伸びによる需給の緩和などの種々の要因から下落し、2015年1月には50米ドル/バレル台を割った。油価下落は、短期的には、エネルギー消費国に恩恵をもたらす一方、産油国の財政状況や新規開発にも影響を与える。エネルギー安全保障に与える中長期的影響を引き続き注視していくことが重要である。 原油価格動向 (イ)日本の状況 東日本大震災以降、日本の発電における化石燃料の占める割合は、震災前の6割強から約9割に達している。円安傾向も相俟って、燃料調達費が貿易収支を圧迫している中、エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保に向けた取組がますます重要となっている。こうした状況を背景に、4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、安定的な資源確保のための総合的な政策の推進のための施策として、積極的な資源外交の展開と供給源の多角化の推進などが挙げられている。 主要各国におけるエネルギー輸入依存度(2012年) イ エネルギー・鉱物資源の安定かつ安価な供給の確保に向けた外交的取組 エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保は、活力ある日本の経済、人々の暮らしの基盤を成すものである。外務省として、外交的取組を強化してきている。 (ア)資源国との包括的かつ互恵的な協力関係の強化 エネルギー・鉱物資源の安定供給確保のため、日本は、資源国との間で、首脳、閣僚レベルでの働きかけや資源分野における技術協力や人材育成などのODAを活用した協力など、包括的かつ互恵的な関係の強化に取り組んでいる。特に、安倍政権発足以来、安倍総理大臣、岸田外務大臣などが北米、中東・アフリカ、中南米、アジア太平洋などの主要な資源国を訪問し、積極的な資源エネルギー外交を展開してきた。2014年も、例えば、安倍総理大臣は、中東やロシアなどに加えて、アフリカ(モザンビーク)、大洋州(オーストラリア、パプアニューギニアなど)、中南米(チリ、ブラジル、メキシコなど)を訪問し、資源分野の協力に向けた働きかけなどを行った。 また、供給源の多角化に向けた取組の成果として、米国において日本企業が関与する全ての液化天然ガス(LNG)プロジェクトについて、9月までに米国政府によって輸出承認及びLNGターミナルの建設・操業などの承認がなされた。早ければ2016年度には米国産LNGの輸入が実現する見込みである。また、2014年6月には新たにパプアニューギニアからのLNGの輸入が開始された。 (イ)輸送経路の安全確保 原油総輸入量の約9割が通過する中東から日本までの海上輸送路やソマリア沖・アデン湾などの国際的に重要な海上輸送路において、海賊事案が発生している。これを受けて、日本は、沿岸各国に対し、海賊の取締り能力の向上、関係国間での情報共有などの協力、航行施設の整備支援を行っている。また、ソマリア沖・アデン湾に自衛隊を派遣して世界の商船の護衛活動を実施している(詳細については第3章第1節5.(1)「海洋」参照)。 (ウ)在外公館等における資源関連の情報収集・分析 エネルギー・鉱物資源の獲得や安定供給に重点的に取り組むため、在外公館の体制強化を目的とし、現在、合計50か国55公館に「エネルギー・鉱物資源専門官」が配置されている。また、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保の点で重要な国を所轄する一部在外公館の職員を招集して、「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」を開催してきた。同会議では、資源確保における現在の取組の状況や今後の方向性について活発な議論を行っている。 (エ)国際的なフォーラムやルールを活用した市場の安定化、緊急時対応など エネルギーの安定供給に向けた国際的な連携・協力のため、日本は、国際エネルギー機関(IEA)の諸活動に積極的に参加している。世界のエネルギー市場の動向、中長期的な需給見通し、資源産出国の動向などの迅速かつ正確な把握に加え、石油の供給途絶などの場合の緊急時対応能力の強化に努めている。LNG価格に関しては、日本は前年に続き、2014年11月にLNGの生産国・消費国双方の官民が集う国際会議「第3回LNG産消会議2014」(経済産業省及びアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)主催)を開催した。同会議においては、LNG市場の生産者、消費者双方の最新の動向について認識を共有した上で、市場の安定性、透明性の確保を前提とした市場の発展に向けた議論が行われた。また、日本は有限なエネルギー・鉱物資源の適切な開発・利用に関する「採取産業透明性イニシアティブ(EITI)」を支援している。さらに、エネルギーに関する原料・産品貿易の自由化や通過の促進、投資の促進・保護などを規定するエネルギー憲章条約(ECT)の実施において、国際的な協力を進めている。11月には「エネルギー憲章条約フォーラム」(外務省主催)を開催し、ECTにかかる理解促進と日本企業の海外展開の下支えとなる機会を提供した。 ウ 海洋(大陸棚・深海底) 陸域のエネルギー・鉱物資源に乏しい日本にとって、海洋の生物資源や周辺海域の大陸棚・深海底に埋蔵されている海底資源は、安定供給源の確保及び経済の健全な発展の観点から重要である。日本は、海洋における権益を確保するため、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき必要な取組を進めている。 200海里を超える大陸棚の限界の設定については、日本は、大陸棚の延長を申請した7海域のうち4海域について大陸棚限界委員会(CLCS)から一定の延長を認める勧告を2012年に受け、2014年7月に総合海洋政策本部が決定した「大陸棚の延長に向けた今後の取組方針」に従い、10月に、四国海盆海域及び沖大東海嶺南方海域における延長大陸棚を設定した。また、同取組方針において、その他の2海域については関係国との調整に着手することや勧告が行われず先送りとなった1海域について早期に勧告が行われるよう努力を継続することが決定された。 深海底については、2014年1月、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、国際海底機構(ISA)との間で、南鳥島沖の深海底を探査鉱区とするコバルトリッチクラスト(6)の探査契約を締結し、15年間にわたり当該鉱区を探査する排他的な権利を取得した。 日本の大陸棚 エ グリーン成長及び低炭素社会構築への取組 日本は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力、海洋利用など)の利用や省エネなどの推進を通じて、開発途上国を始め国際社会におけるグリーン成長の実現や低炭素社会の促進に向けた貢献(人材育成、国際的枠組みを通じた手法・経験の提供など)を行っている。 再生可能エネルギーの普及や持続可能な利用の促進に向け、日本は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)に積極的に関与しており、2015年1月には総会議長を務めた。また、支援の一環として、2014年2月に、IRENAと共催で、アフリカ及び太平洋島嶼(とうしょ)国の行政官を対象に、再生可能エネルギーにかかる人材育成事業を実施するとともに、国際セミナーを開催した。 (2)食料安全保障の確保 最近の国連の報告によると、世界の人口は2050年までに約96億人に達すると見込まれ、これに対応するためには、食料生産を現在の水準から約70%増大させる必要があるとされている。食料の多くを輸入する日本にとって、世界の食料安全保障の確保は日本の食料安全保障の確保に資するものである。国内の生産増大とともに、世界の食料生産を促進し、安定的な農産物市場や貿易システムを形成する必要がある。 日本の食料安全保障のための外交的取組 国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)及び国連世界食糧計画(WFP)により発行された「世界の食料不安と現状2014年報告(SOFI2014)」によれば、世界で約8.1億人が栄養不足に苦しんでいる。しかし、これは過去10年間で1億人以上、1990年から1992年以降では2億人以上減少しており、「適切かつ即時に対応が図られるならば」、1990年との比較において飢餓人口の割合を2015年までに半減させる、というミレニアム開発目標(MDGs)の目標は、開発途上地域において達成可能な範囲であるとしている。国際穀物価格は依然高い水準で推移しており、天候などの要因によって大きく変動しやすい状況にある。食料不安に苦しむ開発途上国の人々の窮状を緩和し、MDGsの達成に貢献することは、引き続き日本を始めとする国際社会の責務である。 ア 食料安全保障に関する国際的枠組みにおける協力 2012年のG8キャンプ・デービッド・サミット(於:米国)で策定された「食料安全保障及び栄養のためのニュー・アライアンス(ニュー・アライアンス)」に基づき、日本は、米国と共にモザンビークの共同リード国(7)として積極的に関与している。 2013年に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)では、日本は、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の継続実施、小規模園芸農民組織強化計画プロジェクト(SHEP)アプローチの対象国拡大、フード・バリューチェーン構築支援や責任ある農業投資の推進などを表明した。2014年5月にカメルーンで開催されたTICAD V閣僚会合では、これら支援を着実に実施していることを報告した。 また、日本は11月のG20ブリスベン・サミット(於:オーストラリア)において、フードシステムにおける責任ある投資、収入及び質の高い雇用の増加、食料供給拡大のための持続的な生産性の向上を優先目標とする「G20食料安全保障・栄養フレームワーク」の採択に積極的に貢献した。2011年のG20カンヌ・サミット(於:フランス)において創設された農業市場情報システム(AMIS)に対しても、日本はプロジェクト支援を実施している。 9月には、第3回APEC食料安全保障担当大臣会合が中国において開催された。「地域協力の強化、食料安全保障の促進」を主題として議論が行われ、日本が重要性を主張したフード・バリューチェーンの構築の重要性などが盛り込まれた「食料安全保障に関する北京宣言」が採択された。6月には、OECDと協力し、「APEC食料安全保障に関するワークショップ」(日本のOECD加盟50周年事業)を東京で開催した。これらを通じて、アジア太平洋地域のフード・バリューチェーン構築に向けた国際的な取組について議論を深めた。 このほか、11月のASEAN+3(日本、中国、韓国)首脳会議では、安倍総理大臣は、2012年に発効したASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)協定に基づき、日本が行ったラオスやフィリピンに対する米支援について説明した。これに対し、その制度の重要性への支援と更なる発展への期待が表明された。安倍総理大臣からは、日本産品に対する輸入規制の緩和・撤廃についても要請した。 イ 「責任ある農業投資」の促進に向けた日本の取組 世界の食料生産増大のため、国際的な農業投資が促進される一方で、開発途上国における大規模な「農地争奪」が問題視されていることを踏まえ、日本は2009年のG8ラクイラ・サミットにて、投資受入国、小農を含めた現地の人々、投資家の三者が裨益(ひえき)する形で投資が促進されるべきとの「責任ある農業投資」のコンセプトを提唱した。2010年4月には、4国際関係機関(FAO、IFAD、国連貿易開発会議(UNCTAD)、世界銀行(WB))により「責任ある農業投資原則」(PRAI)が策定された。本PRAIも考慮した責任ある農業投資のための原則は、2014年10月の世界食料安全保障委員会(CFS)総会において「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」として採択された。日本は、現場の実践事例を議論に反映させるとともに、今後の原則運用にも活かすため、4国際関係機関が2013年から実施している「責任ある農業投資に関する未来志向の調査研究」に財政支援を行うなど、この取組に引き続き積極的に貢献している。 ウ 漁業(マグロ・捕鯨問題など) 日本は世界有数の漁業国、水産物の消費国であり、水産資源の適切な保存管理に積極的な役割を果たしてきている。2014年7月には、南インド洋漁業協定(SIOFA)の締約国となった。 マグロ類に関しては、日本はその最大消費国として、マグロ類の地域漁業管理機関全てに加盟し、資源の保存管理措置の強化に向けた議論を主導している。資源の減少が懸念される太平洋クロマグロについては、日本のイニシアティブにより、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は30キログラム以下のクロマグロ小型魚の漁獲量を2002−2004年平均から半減することを決定した。また、全米熱帯まぐろ類保存委員会(IATTC)でもクロマグロ全体の漁獲量を40%削減することを決定した。大西洋クロマグロについては、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)によるこれまでの保存管理措置の成果として資源の回復が確認され、漁獲量の段階的増加が決定された。 ニホンウナギは資源枯渇が懸念され、6月には国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定した。日本は、ニホンウナギを生産、輸出する中国、韓国、台湾などと協議を重ね、9月にはウナギ資源管理の枠組み設立及び養鰻生産量の制限などに関する共同声明を発出した。 捕鯨に関しては、日本は、前述の国際司法裁判所(ICJ)の判決に従って、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を中止した(詳細については第3章第1節7.「国際社会における「法の支配」」参照)。日本は、この判決の基準を考慮して策定した南極海での新たな鯨類調査計画案を11月に国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会に提出し、2015年度から同計画を実施することを目指している。9月には隔年開催となって初めてのIWC総会がスロベニアで開催され、日本は、鯨類を含む水産資源の持続可能な利用の立場に立ち、日本の立場への理解と支持を求めた。 (3)日本市場・人材の国際化(対内直接投資) 2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」の国際展開戦略において、KPI(主要な成果目標)として「2020年までに外国企業の対内直接投資残高を35兆円に倍増する(2012年末時点:17.8兆円)」との目標が掲げられた。同目標を達成するためには、外国企業のニーズを踏まえた日本の投資環境の改善に必要な体制構築を含む政府の推進体制の整備が不可欠である。「対日直接投資推進会議」を司令塔として、投資案件の発掘・誘致活動、必要な制度改革の実現に政府横断的に取り組むこととしている。 対日直接投資推進会議では、対日直接投資案件の発掘・誘致活動を推進している。また、経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議、国家戦略特区諮問会議などと連携し、投資環境の改善に資する規制制度改革や投資拡大に効果的な支援措置など追加的な施策の継続的な実現を図っていくこととしている。あわせて、対内直接投資促進のための情報基盤整備として、日本の法令の外国語訳を促進している。 外務省としては、日本貿易振興機構(JETRO)とも連携し、国際会議の場や大使館、総領事館などの在外公館の場を活用して、外国企業経営者への働きかけや広報・情報発信(在外公館のホームページでの積極的なPR活動など)を行い、海外における誘致案件創出活動を強化している。また、個別案件の推進では、関係府省庁と連携したJETROのワンストップ支援機能の強化や日本の中堅・中小企業と外国企業との投資提携機会の創出などに取り組んでいる。さらに、JETROと連携しつつ、外国企業の誘致に積極的な地方公共団体の取組を全面的に支援している。安倍総理大臣の訪英(5月)や訪米(9月)時の「対日投資セミナー」(JETRO)開催など、総理大臣・閣僚によるトップセールスを先進的な地方公共団体とも連携しつつ、戦略的に実施している。 6 水深1,000m〜2,000mの海山の頂部や斜面を、厚さ数cm〜数10cmでアスファルト状に覆っている、コバルト、ニッケル、白金などのレアメタルを含む鉄・マンガン酸化物 7 ニュー・アライアンスの国別協力枠組みを加速化するために、対象国と共に協力枠組みの策定及び実施を主導する国。