第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 第2節 日本の国際協力(ODAと地球規模の課題への取組) 総論 〈ODAの戦略的活用と開発協力大綱〉 2014年は、日本が戦後間もない1954年にコロンボ・プランに加盟し、政府開発援助(ODA)を開始してから60年に当たる節目の年であった。日本のODAは、この間、国際社会の平和と安定や繁栄、ひいては日本自身の安全と繁栄に多大な貢献を行ってきた。この60年にわたる日本のODAの歩みを引き続き堅持しつつ、日本及び国際社会の様々な変化を踏まえ、2015年2月、政府は日本のODA政策の基本文書であるODA大綱を見直し、新たに「開発協力大綱」を策定した。 60年にわたる日本のODAは、国際社会の責任ある国家として、国際社会の抱える課題の解決に非軍事的協力を通じて真摯に取り組む、日本の国としての在り方を体現するものである。また、相互依存をますます深めつつある現在の国際社会において、平和で安定し繁栄する国際社会を構築し、そうした取組により日本と国際社会の様々な主体との間で強固かつ互恵的な関係を構築していくことは、日本自身の平和と安定や繁栄を確かなものとする上でも不可欠である。 ODAにより開発途上国の開発に貢献することは、開発途上国の活力を取り込むことを通じた日本経済の活性化にもつながる。「インフラシステム輸出戦略」(2014年6月改定)でも、日本企業の海外展開を支援する上でODAを戦略的に活用していくこととされている。外務省では、「経協インフラ戦略会議」(2013年3月設置)などの場も活用して、関係省庁などとも連携した取組を展開している。さらに、2014年は、西アフリカにおいて発生したエボラ出血熱の流行や中東におけるISIL(イラクとレバントのイスラム国)などによる国内避難民や難民などの発生を始めとする人道危機等、深刻な事態に直面し、真に支援を必要としている一人ひとりを支える上でODAの重要性を改めて認識させる年でもあった。日本のODAの特色の1つである人間の安全保障の考え方は、人々が恐怖や欠乏から免れ、尊厳を持って生きていくことができるように協力するというものである。この考えは、人間の持つ崇高な理念に関わる日本の開発協力の指導理念として、新たな「開発協力大綱」においても一層明確に位置付けられている。 〈地球規模の課題への取組〉 グローバル化により、経済・社会が地球規模で劇的に発展する一方、多様な脅威が国境を越えて人間の安全保障を脅かしている。紛争・テロ、災害、気候変動などの地球環境問題、感染症を含む国際保健課題、人身取引・難民問題・労働問題、経済危機といった課題は、一国のみで対処できる問題ではない。人間の安全保障を念頭に、国際社会が協力しなければならない。特に、2015年は、こうした地球規模の諸課題にとって新しい枠組みの策定が予定される節目の年であり、国際社会がそのような枠組み作りに成功できるかが試されている。 2014年は、各分野で、2015年の枠組み策定に向けた議論が進展した年であった。 災害多発国として日本が経験や知見を有する防災については、2015年3月に仙台市で第3回国連防災世界会議が開催される。同会議に向けて、新しい国際防災指針であるポスト兵庫行動枠組みの交渉が開始され、会議ホスト国、防災先進国として、日本が議論をリードした。 また、2015年はミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限であり、2015年より先の国際開発目標(ポスト2015年開発アジェンダ)の策定に向けた議論が進展している。目標に加えて、それをどう実施するかの手段も課題である。また、持続可能な開発への関心が高まる中、2014年11月に開催された持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議のホスト国を務めるなど、日本の経験や知見を生かしながら議論に貢献している。保健分野の議論では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の主流化について、着実に成果が出ている。 気候変動分野では、2015年末に、全ての国に適用される新たな国際枠組みについての合意期限を迎える。2014年9月にニューヨーク(米国)で国連気候サミットが開催された際、安倍総理大臣が開発途上国の適応能力の構築への包括的な支援を発表した。このほか、同年11月には、開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への適応を支援する緑の気候基金(GCF)に対する最大15億米ドルの拠出を発表した。 国際的議論へのこうした積極的な参画は、日本の考えが反映された国際枠組みを構築するためにも重要である。日本は、各国、国際機関、市民社会などと協力しながら、人間の安全保障を推進し、地球規模課題の解決に積極的に取り組んでいる。 地球温暖化による北極圏の環境変化を受け、北極海航路の利活用や資源開発といった新たな可能性と同時に、温暖化の加速化や脆弱(ぜいじゃく)な自然環境に与える影響などが指摘され、北極についての国際的な議論が高まりつつある。日本は、2013年5月に、北極評議会(AC)のオブザーバー資格を取得し、これまでに蓄積した科学的知見などを活用して一層積極的にACの活動に貢献している。また、AC以外の二国間や多国間の場においても、北極についての日本の考え方や取組を積極的に発信している。 〈科学技術外交〉 科学技術は、経済・社会の発展を支え、また、安全保障面でも重要な役割を果たす、平和と繁栄の基盤的要素であり、日本の優れた科学技術に対する国際社会の関心と期待は高い。「科学技術外交」を通じて各国との関係を増進し、協調しながら、日本は、国際社会の平和と安定、様々な地球規模の課題の解決、さらに日本と世界の科学技術の発展に貢献している。また、科学技術立国としての発信を通じ、日本のソフトパワー増進にも取り組んでいる。