第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 8 人権 ア 国連における取組 (ア)国連人権理事会 国連人権理事会は、国連における人権の主流化の流れの中で、国連の人権問題への対処能力の強化を目的に設立された(ジュネーブ(スイス))。1年を通じて会合(年3回の定期会合、合計10週間以上)が開催され、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。3月の第25回人権理事会ハイレベルセグメントにおいては、石原外務大臣政務官がステートメントを行った。その中で、同政務官は、世界各国の様々な人権状況の変化や日本政府の立場について言及するとともに、女性の人権に関する日本の取組や人権理事会との協力について紹介した。同会会合においては、日本とEUが共同で提出した北朝鮮人権状況決議が賛成多数で採択された(7年連続7回目)。同決議は、2013年の決議で設置が決定された「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の報告書の内容を反映させ、これまで以上に強い内容となっている。具体的には、北朝鮮の広範で深刻な人権侵害を最大限の表現で非難し、北朝鮮に対して、拉致問題を含む、全ての人権侵害を終わらせる手段を早急に取ることを促している。また、国連安保理が、人権侵害に責任を負う者に説明責任を果たさせるために、適切な国際刑事司法メカニズムへの付託を含め、検討を行い適切な行動をとるよう、COI報告書を安保理に送付することや、同報告書のフォローアップを行うための体制の構築などを要請している。日本は、人権理事会理事国として、引き続き国際社会における人権問題の解決のための議論に積極的に参加していく。 石原外務大臣政務官の人権理事会でのステートメントの様子(3月3日、スイス・ジュネーブ) (イ)国連総会第3委員会 国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会では、10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議に提出され、国際社会の規範形成に寄与している。 日本は、2005年から毎年、EUと共同で北朝鮮人権状況決議案を国連総会に提出している。2014年も第69回国連総会第3委員会に同決議案を提出し、11月の第3委員会や12月の総会本会議において、過去最多の共同提案国を得て、賛成多数にて採択された。同決議は、これまで国連総会において採択された過去の決議よりも強い内容であり、COI報告書や3月の人権理事会決議の内容を踏まえている。具体的には、北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難するとともに、「人道に対する罪」に言及し、さらに、安保理に対し、北朝鮮の人権状況の国際刑事裁判所(ICC)への付託の検討を含む適切な行動をとるよう促している。日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や、各種人権問題(社会開発、女性の地位向上など)についての議論にも積極的に参加した。また、これまで同様、女性NGO代表を第69回国連総会第3委員会の政府代表顧問として派遣した。 イ 国際人権法・国際人道法に関する取組 (ア)国際人権法 「障害者の権利に関する条約」は、障害者の人権・基本的自由の享有の確保、障害者の固有の尊厳の尊重の促進を目的とし、締約国がとるべき措置などを規定している。日本は2007年の署名後、締結に先立ち集中的に障害者制度の改革を進め、障害者基本法の改正(2011年8月)、障害者総合支援法の成立(2012年6月)、障害者差別解消法の成立、障害者雇用促進法の改正(2013年6月)などの様々な法制度整備を行った。これらを受け、2013年12月に同条約の締結が国会で承認され、2014年1月20日、日本は同条約の批准書を国連事務総長に寄託し、141番目の締約国・機関となった。同条約の締結により、日本における障害者の権利の実現に向けた取組が一層強化され、人権尊重についての国際協力が促進されることが期待される。 批准書の寄託 また、締結している人権諸条約については、各条約の規定に従い、国内における条約の実施状況に関する政府報告の審査を定期的に受けている。7月には、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」(日本は1979年に批准)の第6回政府報告審査に、また、8月には、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」(日本は1995年に加入)の第7〜9回政府報告審査に臨み、各条約の委員会との間で建設的な対話を行った。 (イ)国際人道法 外務省は、2月に、スイス政府、赤十字国際委員会、京都大学の共催で「現場活動に垣間みる国際人道法―人々の救済に挑んで150年―」をテーマとして開催された国際人道法シンポジウムに参加者を派遣し、有意義な意見交換に貢献した。また、国際人道法の啓発の一環として、赤十字国際委員会主催の国際人道法模擬裁判大会に講師を派遣した。 ウ 二国間の対話を通じた取組 国連など多国間の枠組みにおける取組に加え、人権の保護・促進のため、日本は二国間対話の実施を重視している。5月には第2回日・ミャンマー人権対話(於:ネーピードー(ミャンマー))、10月には第20回日・EU人権対話(テレビ会議形式)、12月には第10回日・イラン人権対話(於:東京)を開催した。それぞれ人権分野における両者の取組について紹介するとともに、国連などの多国間の場における協力について意見交換を行った。 エ 難民問題への貢献 日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から(当初3年間の予定を2012年に2年間延長)、パイロットケースとして、第三国定住(難民が、庇護(ひご)を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)によるミャンマー難民の受入れを開始している。これまでに、18家族86人が来日している。 また、2015年度以降の受入れについては、2014年1月に閣議了解がなされ、パイロットケースではなく事業を継続していくこと、マレーシアのミャンマー難民を対象として受け入れ、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族の呼寄せを認めることが決定された。第三国定住による難民受入れはこれまで欧米諸国を中心として行われており、日本がアジアで初めての受入れ国であることから、難民問題への日本の積極的な取組として、国際社会からも高い評価と期待を集めている。また、日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、真に支援を必要としている人々へのきめ細かな支援に引き続き取り組んでいる。 成田国際空港に到着した第三国定住難民(9月26日、写真提供:難民事業本部)