第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 6 国際連合(国連)に対する取組 (1)国際連合(国連) ア 日本と国連との関係 2015年は国連創設70周年という節目の年である。 国連は、国際社会の平和と安全のために、紛争解決や平和構築、軍縮・不拡散、開発、人権、環境・気候変動・防災など、様々な分野で重要な役割を担っており、地球規模の課題が山積する現在、国連との連携はこれまで以上に重要である。 国連本部 UN Photo/Milton Grant 日本は、国連と連携することで、国際社会における課題設定(アジェンダ・セッティング)や規範形成(ルール・メイキング)において日本の意向を反映させるとともに、得意分野で指導力を発揮することにより、国際社会の場で指導力を発揮し、日本の外交政策を実現する努力を行っている。 2014年9月に開会した第69回国連総会には、安倍総理大臣及び岸田外務大臣が出席した。安倍総理大臣は国連総会一般討論演説を行ったほか、国連気候サミット、エボラ出血熱に関するハイレベル会合、PKOに関するハイレベル会合においてもスピーチを行った。また、日・アフリカ地域経済共同体議長国首脳会合、日本・太平洋島嶼(とうしょ)国首脳会合を開催し、8か国との首脳会談、クテサ第69回国連総会議長や潘基文(パンギムン)国連事務総長との会談などを行った。安倍総理大臣は、和食レセプションのほか、クリントン財団による女性関連イベント、米国において活躍する女性との昼食会、外交問題評議会における懇談、対日投資セミナーなどにも参加し、日本の魅力や政策を積極的に発信した。 安倍総理大臣と潘基文国連事務総長との会談(9月24日、米国・ニューヨーク(代表撮影)) 一般討論演説において、安倍総理大臣は、日本の戦後の平和国家としての歩み、これまでの国連や国際社会における貢献を示し、2015年に国連創設70年を迎えるに当たり、今後も不戦の誓いを受け継ぎつつ、「積極的平和主義」、「人間の安全保障」の考えに立ち、更なる国際貢献を行っていくことを強調した。また、喫緊の課題であるエボラ出血熱対策として4,000万米ドルの追加支援、中東安定化支援として5,000万米ドル、ウクライナ東部復興の新規支援を表明した。さらに、人間を中心に据えた社会、特に「女性が輝く社会」の実現に向けた取組を続け、21世紀を女性の人権侵害のない世界にしていくこと、開発、軍縮・不拡散、北朝鮮、PKO、平和構築などの分野で国際社会の平和と更なる繁栄のために貢献を続けていくことを約束した。また、国連を21世紀の現実に合った姿に改革し、日本が安保理常任理事国となり、相応しい役割を担っていきたいと表明した。このように、世界中の国の要人が集まる国連総会の「場」を最大限活用し、地球規模の課題解決に向けた日本の多国間外交を展開するとともに、各国要人との二国間会談を精力的にこなして二国間関係の強化を図り、国際社会に向けて日本の政策や立場を積極的に発信した。 安倍総理大臣の一般討論演説(9月25日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) 岸田外務大臣は、安保理改革に関するG4閣僚級会合やG7外相会合、エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム、包括的核実験禁止条約(CTBT)フレンズ外相会合(議長として)、北朝鮮人権問題ハイレベル会合、シリア政治プロセス閣僚会合、グローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)閣僚級会合など13の多国間会合に出席した。また、7か国と外相会談などを行ったほか、日仏首脳会談にも同席するなど、国連総会出席の機会を通じて、約25か国の外務大臣と会い、相互の信頼関係を強化した。 また、国連からは、4月にアッシュ第68回国連総会議長が来日し、安倍総理大臣や岸田外務大臣と地球規模の諸課題について意見交換を行うとともに、ポスト2015年開発アジェンダについての講演も行った。また、7月にはクテサ第69回国連総会議長が来日し、岸田外務大臣との間で、安保理改革の進展、ポスト2015年開発アジェンダの策定、気候変動問題、女性をめぐる諸課題などへの対応の重要性を共有し、これらの課題解決に向けた日本と国連との更なる連携を確認した。 イ 国連安全保障理事会(国連安保理)、国連安保理改革 (ア)国連安全保障理事会(国連安保理) 国連安保理は、国連の中で、国際社会の平和と安全の維持につき主要な責任を有している。国連安保理決議に基づくPKOなどの活動は多様さを増しており、大量破壊兵器の拡散、テロなどの新たな脅威への対処など、年々、その役割は拡大している。 日本は、過去10回安保理非常任理事国を務め、引き続き安保理の意思決定に主体的に参画する観点から、2015年(任期2016−17年)の非常任理事国選挙に立候補している。 (イ)国連安保理改革 国連安保理の構成は、国連発足後70年が経つ現在も、基本的には変化しておらず、国際社会では、安保理改革を早期に実現し、その代表性や実行性を向上させるべきとの認識が共有されている。 日本は、常任・非常任議席双方の拡大を通じた安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを目指し、各国への働きかけを行っている。 (ウ)国連安保理改革をめぐる最近の動き 国連では、2009年から総会の下で政府間交渉が行われている。2013年12月から2014年5月初めにかけて、文書に基づく交渉などを目指しテーマ毎に合計7回の政府間交渉会合が開催された。 国連創設70年である2015年に具体的成果を得るべく、日本は2014年にG4(日本、インド、ドイツ、ブラジル)の一員として一層取組を強化した。2月には、ニューデリー(インド)においてG4局長級会合が開催され、今後の取組の方向性について協議を実施し、併せて一般公開のセミナーを開催した。7月には、日本主催で安保理改革の議論を主導する各国を招いたアウトリーチ会合や一般公開セミナーを開催し、併せてG4局長級会合を開催した。さらに、9月の第69回国連総会の機会に、ニューヨーク(米国)においてG4閣僚級会合を開催した(日本は岸田外務大臣が出席)。安保理改革を具体的に推進するため、文書に基づく交渉の開始やアフリカを始めとする国連加盟国への働きかけの重要性を確認するとともに、各国からの支持拡大に向けた取組について検討した。 国連安保理改革に関するG4(日本、インド、ドイツ、ブラジル)閣僚級会合における岸田外務大臣(9月25日、米国・ニューヨーク) 日本は、国連安保理改革実現のため、アフリカやカリブ共同体(カリコム)などの他国や他地域への働きかけを積極的に行っている。アフリカに対しては、1月の安倍総理大臣のコートジボワール、モザンビーク、エチオピア訪問、三ツ矢外務副大臣のアフリカ連合(AU)総会出席、5月の岸田外務大臣のアフリカ開発会議(TICAD)閣僚会合出席に加え、12月にはアフリカ諸国の国連常駐代表を日本に招へいし、働きかけを実施した。カリコムに対しては、7月の安倍総理大臣のトリニダード・トバゴ訪問時における日・カリコム首脳会合や11月の東京における日・カリコム外相会合において、働きかけを実施した。同外相会合では、国連安保理改革実現に向けて双方の立場を収斂(しゅうれん)させるべく連携を強化していくことで一致した。 安保理議場 UN Photo/Loey Felipe ウ 国連行財政 (ア)国連予算 国連の予算は大きく分けて通常予算(1月から翌年12月までの2か年予算)とPKO予算(7月から翌年6月までの1か年予算)で構成されている。 このうち、通常予算については、2013年に2014−2015年度の予算審議が行われ、同年12月に約55.3億米ドルの予算が承認された(2012−2013年度最終予算(約55.7億米ドル)比で約0.6%減)。また、PKO予算については、2014年7月に、2014−2015年度のPKO予算が承認され、予算総額は約70.6億米ドル(前年度最終予算比約11.2%減)となった。 (イ)日本の貢献 国連の活動を支える予算は、各加盟国に支払いが義務付けられている分担金と各加盟国が政策的な必要に応じて拠出する任意拠出金から構成されている。このうち、分担金については、2014年に、日本は通常予算分担金として約2.7億米ドル、PKO予算分担金として約13.0億米ドルを支払った。この額は、予算総額に加盟国間で合意した分担率をかけたものであり、加盟国中米国に次いで2番目である。日本は主要財政貢献国の立場から、国連が予算をより一層効率的かつ効果的に活用するよう働きかけを行ってきている。 国連2か年通常予算の推移(2002−2013年) PKO予算及びミッション数の推移(2002−2014年) また、潘基文(パンギムン)国連事務総長は国連行財政改革を優先課題として推進しており、日本もこれを支持している。同改革により、国連の財政・予算・人的資源管理の効率化が期待される。しかし、これまでに導入された措置についても具体的な成果が出るには未だ時間を要すると見込まれている。日本は、引き続き加盟国間の意見の相違を調整しつつ、国連における具体的な行財政改革が進むよう、各加盟国や国連側との協議に積極的に取り組んでいる。 安保理改革 「もはや『戦後』ではない」−日本が先の大戦後の復興を成し遂げ、その後の経済成長へと大きく舵を切ろうとしていた1956年の「経済白書」は、当時の時代の息吹をそう表現しました。その年の12月には国連加盟も実現し、日本は名実ともに国際社会に復帰しています。そのうえ、早くも翌年の選挙で1958年からの安全保障理事会の非常任理事国に選ばれるなど、世界が新生日本に寄せた期待の大きさがわかります。 しかし、国連創設から70周年を迎え、世界がすでに著しく変化しているにもかかわらず、安全保障理事会は今も「戦後」を引きずったままになっています。「国際の平和と安全の維持」に主要な責任を持つ安保理では、戦勝5か国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)のみが拒否権を持つ常任理事国の地位に留まり、国連の加盟国数が当初の51から4倍近くに増えているにもかかわらず、常任理事国は増えていません。また、2年任期で直後の再選不可の非常任理事国の議席については、かれこれ50年ほど前に一度だけ、6か国から10か国に増えたのみです。21世紀の安保理は、改革を通じ、日本やドイツのようなかつての敗戦国、インドやブラジルなど旧植民地から新興国となって躍進する国々、さらには豊かな成長のポテンシャルを持つアフリカの国々が常任議席を持ち、より恒常的、安定的に審議に参画できるようでなければ、真に正統性をもった機関にはなり得ません。 また、新しい安保理では、引き続き「国際(すなわち、国家間)の平和と安全」の維持に向けた重要な役割が期待されますが、加えて、世界各地の内戦やテロや暴力的な過激主義の犠牲となり、あるいは被害を受ける人々を救い、多様な背景を持つ人々が行き交うグローバルな社会において未来志向の共生と寛容を促す努力−いわば「人間の平和と安全の増進」−も期待されます。 理事国の多様性を尊重しつつ、迅速で実効性の高い意思決定を行うことは容易ではありません。そこに安保理改革の遅れの理由が見て取れますが、改革はいまの世界に不可欠であり、抽象論の段階を脱し、具体案を書き出して文言協議に入ることができれば、必ず進みます。 ゼミ生とともに(前列左から4人目が筆者) 1945年の国連憲章体制を発展的に刷新し、大戦争を経ることなく、新たな「2015年体制」をスタートさせられるのか。今、各国が強い政治的意思を発揮し、安保理の「戦後」を終わらせるべき時期に来ています。 大阪大学副学長 星野 俊也