第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 4 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用 (1)概観 日本は、自国の安全を確保・維持し、また、日本国憲法が謳(うた)っている平和主義の理念を基礎として、平和で安全な世界を目指すため、国際社会の責任ある一員として軍縮・不拡散に取り組んでいる(1)。その対象は、大量破壊兵器(一般に核兵器・生物兵器・化学兵器を指す。)、通常兵器、ミサイルを含む運搬手段とそれらの関連物資・技術である。 核兵器については、日本は唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」を実現させるべく、様々な外交努力を行っている。現在の国際的な核軍縮・不拡散体制の基礎となっているのは、核兵器不拡散条約(NPT)である。日本は、このNPT体制を維持・強化するために、現実的かつ実践的な提案を打ち出していくとの方針の下、非核兵器国12か国(2)から成るグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」をオーストラリアと共に主導している。具体的には、2015年NPT運用検討会議準備委員会への作業文書の提出や共同ステートメントの発表などの具体的貢献を行っている。 核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器、また、通常兵器についても、関連する条約の運用の強化と普遍化に向けた努力を行っている。 このほか、ジュネーブ軍縮会議(CD)における兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)などの新たな条約交渉の開始や国際原子力機関(IAEA)(3)の保障措置(4)の強化・効率化に向けて取り組んでいる。 各種の国際輸出管理レジームや「拡散に対する安全保障構想」(PSI)(5)、核セキュリティ強化(6)に向けた取組についても積極的に参画している。 さらに、二国間の対話を通じた軍縮・不拡散外交も積極的に行っており、二国間原子力協力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進や原子力の安全なライフサイクル実施のための協力など(7)、その活動は多岐にわたっている。 (2)核軍縮 ア 核兵器不拡散条約(NPT) 2010年のNPT運用検討会議で合意されたNPTの3本柱(@核軍縮、A核不拡散、B原子力の平和的利用)に関する将来に向けた具体的な行動計画を各国が着実に実施していくことが重要である。次回の2015年NPT運用検討会議に向けて、2014年にニューヨークで第3回準備委員会が行われた。なお、同行動計画で2012年に開催することとなっていた中東非大量破壊兵器地帯設置構想に関する国際会議は、2014年中も開催の目途が立たず引き続き懸案となっている。 イ 軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI) NPDIは、メンバー国の外相自身による関与の下、現実的かつ実践的な提案を通じ、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たし、軍縮・不拡散分野における国際社会の取組を主導している。2014年4月には日本では初めての開催となる外相会合(第8回)が広島において開催された。同会合は出席者が被爆の実相に触れる機会となるとともに、NPDI各国として「核兵器のない世界」に向けた議論をこれまで以上に積極的に行うまたとない機会となった。また、日本が提案する、全ての種類の核兵器削減、核軍縮交渉の多国間化、核軍縮努力を行っていない国に対する核戦力の削減の要求、透明性の向上など、現実的かつ実践的な措置につき合意を得た。さらには、2015年NPT運用検討会議に向け、NPDIとして、国際社会をリードしていくため引き続き協力して今後の戦略を検討していくことで意見が一致した。なお、この外相会合に先立ち、岸田外務大臣は2014年1月、長崎で日本の核軍縮・不拡散に関するスピーチを行った。 第8回NPDI外相会合(4月11日〜12日、広島) ウ 包括的核実験禁止条約(CTBT)(8) 日本は、核軍縮・不拡散体制を支える重要な柱であるCTBTの早期発効を重視し、未批准国への働きかけなどの外交努力を継続している。日本は、他のCTBTフレンズメンバー国と共に、2014年9月、国連本部において第7回CTBTフレンズ外相会合を主催した。 エ 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)(9) CDにおけるFMCTの交渉がパキスタンの反対により開始されていないことを受け、2012年に国連総会で設置が決定されたFMCTに関する政府専門家会合(GGE)は2014年にも開催された。日本からは須田明夫元軍縮代大使が日本政府専門家としてGGEに参加しており、FMCTの交渉開始に資する議論となるよう貢献している。 オ 軍縮・不拡散教育 近年、軍縮・不拡散問題への取組を推進する上で、市民に対する軍縮・不拡散についての教育の重要性が国際社会に広く認識されてきている。日本は、唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散教育を積極的に推進してきている。具体的には、被爆証言の多言語化、各国若手外交官の被爆地研修の実施、NPT運用検討会議のプロセスにおける作業文書の提出や演説を実施している。このほか、被爆経験者を「非核特使」に委嘱し、国際会議などで被爆体験証言をするなど被爆の実相を国内外に伝達する活動を政府として後押ししている。さらに、日本における国連軍縮会議の開催に際した協力なども行っている。近年被爆者が高齢化する中、これまでの「非核特使」制度に加えて、新たに若い世代を対象とした「ユース非核特使」制度を創設し、広島・長崎の被爆の実相を世代を越えて語り継いでいく取組にも重点を置いている(詳細については169ページの特集参照)。 カ その他の多国間での取組 2014年9月、核兵器の全面的廃絶のための国際の日に関する国連総会非公式会合が開催され、日本から岸田外務大臣が出席した。また、10月、国連総会第1委員会においてニュージーランド及びオーストラリアがそれぞれ行った核兵器の人道的結末に関する共同ステートメントに、前年に引き続き参加した。また、12月にウィーン(オーストリア)で開催された第3回核兵器の人道的影響に関する会議については、政府関係者のみならず、専門家や被爆者が参加するオールジャパンの体制で会議に貢献した。さらに、第69回国連総会においては、12月、日本が1994年以降毎年提出している核軍縮決議案が過去最多の116か国の共同提案国を集め、賛成170、反対1(北朝鮮)、棄権14と圧倒的多数の支持を得て採択された。 世界の核弾頭数の状況(2014年) キ その他の二国間での取組 核軍縮・不拡散や環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じ、ロシアにおける退役原子力潜水艦解体関連の協力を実施している(10)。また、ウクライナやカザフスタンとの間でそれぞれ設立した非核化協力委員会を通じ、核セキュリティ強化に資する協力を実施している(11)。 (3)不拡散 ア 大量破壊兵器などの拡散防止の取組 日本は、不拡散体制の強化のために様々な外交努力を行っている。まず、IAEA理事会指定理事国(12)として、その活動に人的・財政的貢献を行っている。国際的な核不拡散体制の中核的な措置であるIAEAの保障措置については、日本は、より多くの国が追加議定書(13)を締結すべくIAEAが主催する地域セミナーへの人的・財政的支援を含め、IAEAと協力し、様々な協議の場で各国に働きかけている。 輸出管理レジームは、兵器やその関連汎用品・技術の供給能力を持ち、適切な輸出管理を支持する国々による協調のための枠組みである。核兵器、生物・化学兵器、ミサイル(14)、通常兵器それぞれの輸出管理レジームに、日本は全て参加し、貢献している。特に、原子力供給国グループ(NSG)に対しては、在ウィーン日本政府代表部が事務局の役割を果たしている。 また、日本は「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の取組を重視しているほか、不拡散体制への理解促進と取組の強化を目指し、アジア不拡散協議(ASTOP)(15)やアジア輸出管理セミナー(16)を通じ、アジア諸国を中心に地域的取組の強化のための働きかけを行っている。さらに、ロシアや中央アジアなどで大量破壊兵器やその運搬手段の研究開発に関与していた科学者などを国際科学技術センター(ISTC)を通じて平和目的の研究に従事させるなど、大量破壊兵器に関する知識・技能の拡散防止と国際的な科学協力に貢献している。 大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器(関連物質などを含む)の軍縮・不拡散体制の概要 イ 地域の不拡散問題 北朝鮮の核・ミサイル開発の継続は、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、特に核開発は国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦である。2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮計画の存在を認め、これを契機に核問題が再び深刻化した(17)。2007年には、六者会合において、共同声明の実施のための「初期段階の措置」及び同「第二段階の措置」が採択されたが、まもなく、北朝鮮はこれらの文書に定められた措置の中断を発表し、さらに、2010年11月には、訪朝したヘッカー・スタンフォード大学教授らに、「ウラン濃縮施設」などを視察させた。 北朝鮮は、2013年2月には3度目となる核実験を強行し、4月には寧辺(ヨンビョン)の核施設の再稼働の意思を表明した。 2014年に入ってからも、北朝鮮は数次にわたり弾道ミサイルを発射した。また、同年9月のIAEA事務局長報告によれば、黒鉛減速炉に関連する水蒸気の排出などの兆候や、ウラン濃縮施設とされる施設についての増築の動きが確認されるなど、核・ミサイル開発を継続している。日本は、引き続き、米韓を含む関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、ウラン濃縮活動の即時停止を含め、全ての核兵器及び既存の核計画の放棄に向けた措置などを着実に実施するよう強く求めていく(詳細については第2章第1節1.(1)「北朝鮮(拉致問題を含む。)」参照)。 また、イランの核問題も、国際的な核不拡散体制における重大な課題である。2003年以降、イランに対し、ウラン濃縮関連活動の停止などを求めるIAEA理事会決議(18)及び国連安保理決議(19)が採択されてきたにもかかわらず、イランはウラン濃縮関連活動を継続していた。しかし、2013年8月にローハニ政権が発足して以降、その姿勢に変化が現れ、同年11月には、EU3(英仏独)+3(米中露)による制裁の一部解除に対し、イランが、5%を超えるウラン濃縮活動の停止、20%濃縮ウランの5%への希釈又は転換、アラク重水炉の活動の進展の停止を行うことなどからなる「共同作業計画の第1段階の措置」(20)を含む合意に至った。その後、包括的解決に向けて交渉が行われたが、妥結には至らず、2014年11月には、2015年6月末まで交渉期限が延長された。 日本は、問題の平和的・外交的解決を求めており、米国を始めとするEU3+3などと緊密に連携しながら、イランとの伝統的友好関係に基づく働きかけを継続している。2014年3月のザリーフ・イラン外相の訪日時には、岸田外務大臣から、IAEA追加議定書の批准などIAEAとの完全な協力を求めた。9月の日・イラン首脳会談においても、安倍総理大臣から、EU3+3との交渉にイラン側が柔軟性を持って臨むよう働きかけた。また、IAEAとの関係においては、イラン側が軍事的側面の可能性(21)に関連する措置を期限までに実施していないなどの状況があるが、日本は、引き続き、全ての未解決の問題の解明に向け、IAEAへの完全な協力をイランに対し求めていく。 シリアについては、2011年、IAEA理事会は、デイル・エッゾールの施設における未申告での原子炉建設がIAEA保障措置協定下の違反を構成することを認定した。シリアがIAEAに対して完全に協力し、事実関係が解明されるためにも同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが極めて重要である。 (4)原子力の平和的利用 ア 多国間での取組 近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性などから、原子力発電の拡充や新規導入を計画する国が増加している。東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会における重要なエネルギー源となっている。 一方、原子力発電に利用される技術や機材、核物質は軍事転用が可能であり、また一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得る。このことから、原子力の平和的利用に当たっては、@保障措置(を始めとする不拡散の取組)、A原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保など)、B核セキュリティ(核テロ対策)の「3S」の確保が重要である。日本はこれまで、二国間、多国間の枠組みを通じて、「3S」確保の重要性に関する国際社会の共通認識を形成するための外交を展開している。 また、東京電力福島第一原発事故の経験と教訓を世界と共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことは日本の責務である。この観点から、福島県に指定した「IAEA緊急時対応能力研修センター(IAEA・RANET・CBC)」において、2014年4月、11月に国内外の関係者を対象に、緊急事態の準備や対応の分野における訓練活動に関する研修を実施している。福島第一原発の状況については、国内のみならず、国際社会に対する適時適切な情報発信が重要である。この観点から、日本は、福島第一原発の廃炉作業・汚染水対策の進捗、空間線量や海洋中の放射能濃度のモニタリング結果、食品の安全といった事項について、IAEAを通じて包括的な報告を定期的に公表している。このほか、外交団に対する説明会の開催や在外公館を通じた情報提供などを行っている。 また、汚染水問題も含め、福島第一原発の廃炉は、世界にも例がない困難な作業の連続である。日本としては、国内のみならず、 IAEAを始めとする世界の技術や叡智(えいち)を結集して、その解決に取り組むこととしている。この関連では、2014年9月及び11月にはIAEA海洋モニタリング専門家の受入れを実施した。加えて放射線影響に関しては、同じく9月及び11月に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、福島県や都内においてセミナーやワークショップを開催するなど、国際社会との連携・協力を進めている。 日本は開発途上国を中心とした国際社会における原子力の平和的利用の促進を重視する観点から、IAEA技術協力基金への拠出や平和利用イニシアティブ(PUI)を通じた支援を実施してきている。 その中でも、特に、原子力科学技術を活用した医療や農業など、非発電分野での原子力の平和的利用の促進を重視している。また、発電分野においても放射線防護の強化に貢献するなど、原子力の平和利用の促進を通じて開発途上国の社会的・経済的な発展に貢献している。原子力事故の被害者の迅速かつ公平な救済・賠償の充実や法的予見性の向上などに資する、原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)については、2014年11月に国会の承認を得、2015年1月に締結した。日本の締結によりこの条約は2015年4月15日に発効し、国際的な原子力損害賠償制度の構築が進展することになる。 イ 二国間原子力協定 二国間原子力協定は、特に原子力の平和的利用の推進と核不拡散の確保の観点から、原子炉のような原子力関連資機材などを移転するに当たり、移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。 また、日本は、「3S」を重視する観点から、最近の原子力協定においては、原子力の安全面に関する規定も設けており、協定の締結により、原子力安全の強化などに関する協力の促進も可能となる。 福島第一原発の事故後も、日本の原子力技術に対する期待が、引き続き複数の国から表明されている。二国間の原子力協力については、同事故に関する経験と教訓を世界と共有することにより、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことが日本の責務である。この認識の下、日本は、相手国の事情や意向を踏まえつつ、世界最高水準の安全性を有する原子力関連資機材・技術を提供していく考えである。このため、原子力協定の枠組みを整備するかどうかについては、核不拡散の観点や、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係などを総合的に踏まえ、個別具体的に検討していくこととしている。 なお、日本は、2014年末現在、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、中国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)との間でそれぞれ原子力協定を締結している。 ウ 核セキュリティ ソ連崩壊後、核物質の防護に対する関心が高まり、また2001年の米国同時多発テロを受け、核物質その他の放射性物質を使用したテロ活動を防止するための「核セキュリティ」について、IAEAや国連、有志国による各種の取組を通じて国際協力が強化されている。 特に、オバマ米国大統領が提唱して開始された核セキュリティ・サミットの第3回会合が2014年3月にハーグ(オランダ)で開催され、53か国4機関が出席した。日本からは、安倍総理大臣が出席した(詳細については168ページの特集参照)。 また、6月には、日本は「核物質の防護に関する条約の改正」の受諾について国会の承認を得、受諾書をIAEAに寄託した。 (5)生物兵器・化学兵器 ア 生物兵器 生物兵器禁止条約(BWC)(22)は、生物兵器の開発・生産・保有などを包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである。条約遵守の検証手段に関する規定がなく、条約をいかに強化するかが課題となっている。 2014年は、8月に専門家会合が、また、12月に締約国会合が開かれた。日本は、専門家会合において、バイオ危機管理対策にかかる法体制本来の目的から外れ悪用・誤用され得るという二重用途性(デュアル・ユース)を有するバイオ技術・生物剤の研究への対応状況、今後の課題などに関する専門家による発表を行うなど、条約強化のための議論に貢献した。 イ 化学兵器 化学兵器禁止条約(CWC)(23)は、化学兵器の開発・生産・保有・使用などを包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めている。条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、ハーグ(オランダ)に化学兵器禁止機関(OPCW)が設置されている。OPCWは、2013年9月以降継続しているシリアの化学兵器廃棄において、国連とともに重要な役割を果たしており、日本はその活動に対して財政的支援を行った。 日本は、加盟国を増やすための協力、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化やそのための国際協力につき積極的に取り組んでいる。2014年8月には、ミャンマーの条約批准を促進するためのOPCWの活動の一環である模擬査察に専門家を派遣した。9月には、OPCWのプログラムの下で、日本の化学工場にマレーシア、ブータンからの研修生2人を受け入れ、工場の安全管理などに関する研修を実施した。 また、日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化した化学兵器と同様に廃棄義務を負っており、中国と協力しつつ、1日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。2014年3月、安倍総理大臣は、ウズムジュOPCW事務局長との会談において、引き続き、中国の協力を得ながら、できる限り早期の廃棄完了を目指し最大限努力していくことを表明した。 (6)通常兵器 ア クラスター弾(24) 日本は、クラスター弾の人道上の問題を深刻に受け止め、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施するとともに、クラスター弾に関する条約(CCM)(25)の締約国拡大に向けた取組を継続している。また、ラオスやレバノンなどのクラスター弾の被害国に対し、不発弾処理や被害者支援事業の協力を行っている(26)。 イ 小型武器 長年多くの犠牲者を出し、事実上の大量破壊兵器とも称される小型武器は、その操作の手軽さゆえに、拡散が続いている。少なくとも年間50万人が小型武器の使用の結果死亡しているとされ、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの一因となっている。日本は、毎年の国連小型武器決議の国連総会への提出を始め、国連における取組に貢献すると同時に、世界各地において武器回収、廃棄、研修などの小型武器対策プロジェクトを支援している。 ウ 対人地雷 日本は、実効的な対人地雷の禁止と被害国への地雷対策支援の強化を中心とした包括的な取組を推進している。アジア太平洋地域各国への対人地雷禁止条約(オタワ条約)(27)締結の働きかけに加え、1998年以降、50か国・地域に対して、南南協力を含め約580億円を超える地雷対策支援(地雷除去、被害者支援など)を実施してきている。 2014年6月には、モザンビークでオタワ条約第3回検討会議が開催された。同会議では、貯蔵地雷廃棄、埋設地雷除去、被害者支援などの分野において、締約国が引き続き取り組むべき今後5年間の具体的な行動が記載された「マプト行動計画」などの成果文書が採択された。日本は、同会議の地雷除去セッションでモザンビークと共に地雷除去常設委員会の共同議長を務めた。このほか、2014年1月から2015年12月までの任期で、地雷対策支援のドナー国から成る「地雷対策支援グループ」の議長役を務めている。 エ 武器貿易条約(ATT) ATT(28)は、通常兵器の国際貿易を規制するための国際的な共通基準を確立し、不正な取引などを防止することを目的としている。ATTは、2013年4月に国連総会で採択され、2014年9月に条約の発効に必要な50番目の批准書などの寄託が行われて、12月24日に発効した。日本は、以前から実効的で幅広い国の参加が得られる条約の必要性を主張し、交渉において、原共同提案国として積極的かつ建設的な役割を果たしてきた。5月には受諾書の寄託を行い、アジア太平洋地域で最初の締約国となるとともに、同条約未締結の国に対して早期締結を呼びかけている。 ハーグ核セキュリティ・サミット 1.核セキュリティ・サミットとは 2014年3月24日から25日まで、安倍総理大臣はハーグ核セキュリティ・サミットに出席しました。核セキュリティ・サミットとは、地球規模の安全保障に対する緊急の脅威となっている核テロについて首脳レベルで議論することを目的としたものです。オバマ米国大統領が提唱し、2010年4月に第1回が開催されました。 ハーグ核セキュリティ・サミット集合写真(3月24日〜25日、オランダ・ハーグ 写真提供:内閣広報室) 第3回となった今回のサミットには、31か国の首脳を含む53か国4機関が出席しました。これほど多くの首脳が一堂に会する機会は珍しく、このサミットの重要性がうかがえます。 2.今回のサミットの特徴 今回のサミットでは、各国の公式ステートメントの読み上げに終始せず双方向の議論を重視する議長国オランダの意向が反映され、架空のシナリオに基づいて核テロ対策について議論を行う「政策シミュレーション」、首脳同士が随員を交えずにサミットの将来について討議する「首脳リトリート」が新たに行われました。 3.成果 サミットでは、首脳レベルで活発な議論が交わされました。特に、核物質の最小化について、日本を含む複数の国が具体的な取組を発表したほか、核物質防護条約改正のいち早い発効に向けた取組の加速化や国際原子力機関(IAEA)の役割の重要性などにWAW!のWAついて多くの国が強調しました。これらの議論を踏まえて、サミットの最後にハーグ・コミュニケが採択されました。 4.日本としての発信 日本は、核セキュリティ強化策を紹介する安倍総理大臣のビデオメッセージなどをサミット公式ホームページで公開したほか、サミットの開催に合わせて、世界的な核物質の最小化への貢献に関する日米首脳共同声明を発表しました。そのほかにも、核物質防護条約の改正の締結に向けた取組強化や、日本が主導する有志5か国による輸送セキュリティに関する共同声明なども発表しました。なお、日本は、サミット終了後の2014年6月に、核物質防護条約の改正を締結しています。 議場 5.次回サミットに向けて 日本は核廃絶に向けた世界的な核不拡散・核軍縮の推進のため、核セキュリティの強化に、国内的にも国際的にも尽力しています。これは日本の「積極的平和主義」の実践でもあります。次回サミットに向けて、日本は引き続き、核セキュリティ強化に取り組んでいきます。 高校生平和大使 核兵器のない平和な世界を! 16年続いてきた高校生平和大使の想いを紡ぐため、今年も20名の高校生がスイスへと旅立ちました。 1998年、被爆地の若者の声を世界へ届けようという思いをきっかけに、高校生平和大使の歴史は幕を開け、今年は過去最多の500名が応募、20名の平和大使が選出されました。 高校生平和大使の集合写真(4月27日、広島) リレートークをする筆者 私たち第17代高校生平和大使は、外務省から「ユース非核特使」として委嘱され、8月16日から22日までの6日間で、国連欧州本部、UNI Global Union、World YWCAを訪問し、私たちの平和への想いをスピーチしました。 UNI、YWCAでは、様々な国の職員の方々から、高校生が世界に赴き平和活動を積極的に行っていることに刺激を受けている、共に未来の平和を創り上げていきたい、といった感想を頂きました。 その後、私たちは国連欧州本部を訪問しました。第17代の国連欧州本部訪問は、長崎活水高校2年小蜑樹さんが軍縮会議で高校生平和大使を代表して民間人初の発言を行う特別なものとなりました。これは、近年停滞気味であったこの会議に大きな刺激を与え、日本国内でも大きく取り上げていただきました。歴代の平和大使たちが築き上げてきた成果でもあり、小さな一歩であっても着実に踏み続け諦めなかったことがこのようなことにつながっていくのだということを改めて感じることができる出来事でした。小蛯ウんのスピーチは、69年前の悲劇を忘れないでほしいこと、被爆三世として次世代に被爆の実相を伝承する決意、自分たち日本の若者には核兵器廃絶を求める責務があるという全ての平和大使の想いを込めた内容でした。 この会議後、軍縮会議事務次長トーマス・マークラムさんとお会いしました。私たちのスピーチ後、核のない世界の実現は困難なことであるが、このような草の根レベルの運動が大きな力を発揮する、私たちの未来は自分たちの手にあるのです、Never Give Up. という激励の言葉を頂きました。 私たちは、若い世代の声に耳を傾け応援して下さる方、大きな期待を寄せて下さる方に出会いました。そんな方々がいる限り私たちは決して歩みを止めません。未来へ平和な世界を継承していくため、また新たに一歩を刻んでいきたいと思います。 第17代高校生平和大使 中村 祐里 1 より詳細な日本の核軍縮・不拡散分野の政策については2013年発行の「日本の軍縮・不拡散外交(第六版)」(外務省編http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/2013/index.html)を参照 2 2010年9月に日本とオーストラリアが立ち上げ、カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン及びナイジェリアの計12か国が参加 3 IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立された。事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会である。総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2014年12月現在、162か国が加盟。天野之弥氏が2009年12月以降事務局長を務めている。 4 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。 5 PSIとは、大量破壊兵器などの拡散阻止のため各国が国際法・各国国内法の範囲内で共同してとり得る措置を実施・検討するための取組で、2003年5月に発足。2014年12月現在104か国が、PSIの活動に参加・協力している。2014年8月には、2018年に日本がPSI海上阻止訓練の主催国となることを見据え、米国主催PSI阻止訓練「Fortune Guard 2014」へ積極的に参加するとともに、同年5月の米国主催オペレーション専門家会合(OEG)へも参加した。 6 核物質等がテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための措置 7 原子力潜水艦解体作業で取り出された原子炉区画を長期陸上保存するために必要な機材を供与(2012年) 8 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2014年12月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国が未批准、インド、北朝鮮、パキスタンが未署名のために未発効となっている。 9 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想 10 退役原子力潜水艦解体事業「希望の星」は、2002年のG8カナナスキス・サミット(於:カナダ)において合意された「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施され、2009年12月までに計6隻を解体して完了した。2010年8月からは、解体した原子力潜水艦の原子炉区画を安全に保管するため原子炉区画陸上保管施設の建設に対する協力を実施した。現在は完了した事業の事後評価などのフォローアップを行っている。 11 2011年1月、日・ウクライナ核兵器廃棄協力委員会を通じ、ハリコフ物理化学研究所核セキュリティ強化、さらに、同年11月、日・カザフスタン核兵器廃棄協力委員会を通じ、カザフスタン核セキュリティ防護資機材整備に対する協力をそれぞれ実施した。現在は完了した事業の事後評価などのフォローアップを行っている。 12 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始めG8などの原子力先進国が指定されている。 13 包括的保障措置協定に追加して、各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど、検認活動が強化される。2014年12月現在、124か国が締結 14 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」(HCOC)があり、日本は2013年5月から1年間議長国を務めた。 15 日本のほか、ASEAN10か国、中国、韓国、米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが参加し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う日本主催の多国間協議。最近では2015年1月に開催された。 16 アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などの参加により、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催しており、2014年は2月に開催し、44か国・地域・機関が参加した。 17 2003年1月、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、その後、1994年10月に米朝間で署名された「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワット黒鉛減速炉を再稼働させ、使用済み核燃料棒の再処理を再開した。 18 2003年9月のIAEA理事会決議や10月のEU3(英国、フランス、ドイツ)とのテヘラン合意を受け、イランは濃縮関連活動の停止の約束のほか、保障措置に関する是正措置やIAEA追加議定書の署名など一時的には前向きな対応を見せたものの、ウラン濃縮関連活動を継続した。 19 これまでイランの核問題に関連し、累次の国連安保理決議が採択されているが、これらの決議は、国連憲章第7章下で、イランに対し、全ての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止、未解決の問題の解決などのため、IAEAに対するアクセス及び協力を提供することを義務付け、また、追加議定書の迅速な締結を要請しており、決議第1835号は、イランに対しこれら4本の決議の義務を遅滞なく遵守するよう求めている。また、決議第1737、1747、1803号は、核関連物資の対イラン禁輸やイランの核・ミサイル関連個人・団体の資産凍結などの憲章第7章第41条下のイランに対する措置を含んでおり、決議第1929号は、イランに対する追加的な措置として、武器禁輸の拡大、弾道ミサイル開発の規制、資産凍結・渡航制限対象の拡大、金融・商業分野、銀行に対する規制の強化、貨物検査などの包括的な措置を含んでいる。 20 【第一段階の措置】  <イランによる措置>   ・5%を超える濃縮活動を停止   ・不拡散20%濃縮ウランの5%への希釈又は酸化ウランへの転換   ・濃縮能力増強の停止(新型遠心分離機や濃縮施設の新設禁止)   ・低濃縮ウランの貯蔵量の増加を禁止   ・アラク重水炉の活動の進展を禁止   ・IAEAの査察を強化  <EU3+3による措置>   ・限定的、一時的、対象を限定した、可逆的な制裁解除   ・金・貴金属、石油化学分野、自動車分野での禁輸措置の解除   ・航空分野における制裁解除(安全面での修理部品供給等)   ・イラン産原油輸入量を現在の相当程度削減した水準で維持   ・6か月間、核計画に対する新たな制裁措置の実施見送り   ・人道取引の促進と決済ルートの確立 【最終段階の包括的合意の措置(要素)】  ・不拡散国連安保理、複数国あるいは一国による核分野での制裁の包括的解除  ・双方で合意する濃縮プログラム(実際の需要に合致した、双方で合意する諸要素から成るもの。濃縮活動の範囲、レベル、能力、場所、濃縮済みウラン貯蔵量について合意される制約の中で、合意された期間の間認められるもの)  ・アラクにおける原子炉に関連する懸念を完全に解決し、再処理をせず、再処理能力を有する施設を建設しない。  ・合意された透明化措置及び強化された監視の完全実施と、追加議定書の批准及び実施  ・近代的な軽水炉・研究炉及び関連施設の取得を含む国際的民生原子力協力への参加と核燃料の供給 全期間にわたって最終段階の包括的解決を成功裡に実施した場合、イランの原子力プログラムはNPTの非核兵器国と同様に扱われる。 21 PMD(Possible Military Dimensions:軍事的側面の可能性) 2011年11月、IAEAは、イランの核活動に関し、十数項目からなる「軍事的側面の可能性」を事務局長報告として指摘。以降、現在に至るまで、本件はイランとIAEAとの協議における重要な論点として扱われてきた。 22 1975年3月発効。締約国数は171か国(2014年12月現在) 23 1997年4月発効。締約国数は190か国(2014年12月現在) 24 一般的には、多量の子弾を入れた大型の容器が空中で開かれて子弾が広範囲に散布される仕組みの爆弾及び砲弾のことをいう。不発弾となる確率が高いともいわれ、不慮の爆発によって一般市民を死傷させることなどが問題となっている。 25 クラスター弾の使用、所持、製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2014年12月現在の締約国数は、日本を含め86か国 26 クラスター弾対策及び対人地雷対策に関する国際協力の具体的な取組については、政府開発援助(ODA)白書(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index.html)を参照 27 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2014年12月現在の締約国数は、日本を含め162か国 28 2014年12月現在の署名国は123か国、締約国は54か国