第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 日米安全保障(安保)体制 (1)日米安保総論 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力を向上させていくことは、日本の安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、2014年4月の日米首脳会談などを通じて確認された強固な日米関係の上に立って、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを始め、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。さらに、普天間飛行場移設や在沖縄米海兵隊のグアム移転を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。 マッキーグ米統合戦争捕虜・行方不明者探索司令部(JPAC)司令官と会談する宇都外務大臣政務官(1月15日、米国・ホノルル) (2)各分野における日米安保・防衛協力の状況 ア 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直し 2013年10月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、現行のガイドラインの見直し作業を開始することが合意された。その後、2014年10月、ガイドライン見直しについての国内外の理解を促進するため、「日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告」を公表した。12月の「2+2」共同発表においては、日米間で、ガイドラインの見直しと日本の安全保障法制作業との整合性を確保し、見直し後のガイドラインがしっかりとした内容となることの重要性について一致した。また、この法制作業の進展を考慮しつつ、2015年前半における見直し完了に向けて取り組むため、議論を更に深めることを決定した。 イ 弾道ミサイル防衛(BMD) 日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックII A)の日米共同開発の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、BMDシステムの着実な整備に努めている。また、2014年12月には国内2基目となるAN/TPY-2レーダー(Xバンドレーダー)が米軍経ヶ岬通信所(京都府)に配備された。 ウ サイバー 日米両国は、4月に第2回日米サイバー対話をワシントンD.C.で開催した。日米間における政府横断的な連携の必要性を踏まえ、前年5月に開催された第1回対話のフォローアップを行うとともに、日米双方の関係者が、安全保障分野に焦点を当てた議論を始め、重要インフラ防護、キャパシティ・ビルディング、サイバー犯罪など、サイバーに関する幅広い日米協力について議論を行った。 エ 宇宙 日米両国は、2月の安全保障分野における日米宇宙協議(審議官級会合)や5月の宇宙に関する包括的日米対話第2回会合などにおいて、安全保障分野を含め、宇宙に関する幅広い協力の在り方について議論を行った。5月には、日米両国は、宇宙状況監視(SSA)に関し、日本から米国に宇宙物体の軌道に関する情報を提供する協力を実施することで一致した。これにより、日米SSA協力取極(2013年5月締結)に基づく米国から日本への情報提供協力と合わせ、日米双方向でのSSA情報などの提供が可能となった。両国は、宇宙アセットの抗たん性の確保のための取組など、宇宙の安全保障分野での更なる協力を進めている。 オ 3か国間協力 日米両国は、アジア太平洋地域における同盟国やパートナーとの安全保障・防衛協力を重視している。特に、日米両国は、オーストラリア、韓国やインドとの3か国間協力を着実に推進してきている。3月の日米韓首脳会談や11月の日米豪首脳会談においても、これらの3か国間の対話は、日米が共有する安全保障上の利益を増進し、アジア太平洋地域の安全保障環境の改善に資するものであることが確認された。 カ 情報保全 情報保全は、同盟関係における協力を進める上で決定的に重要な役割を果たすものである。日米両国は、政府横断的なセキュリティ・クリアランスの導入や、カウンター・インテリジェンス(諜報による情報の漏洩(ろうえい)防止)に関する措置の向上を含む情報保全制度の更なる改善に向け協議を行っている。 キ 海洋安全保障 日米両国は、ASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジア首脳会議(EAS)などの場で、海洋をめぐる問題を国際法にのっとって解決することの重要性を訴えている。4月の首脳会談において、日米両国は、開かれた海を拠り所とする地球規模の貿易網を有する海洋国家として、航行及び上空飛行の自由を含む国際法の尊重に基づく海洋秩序を維持することの重要性を強調した。 (3)在日米軍再編 日米両国は、2006年に「再編の実施のための日米ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)を発表した。その後、在日米軍再編計画の検証を経て、2010年及び2011年には「2+2」による合意をもって「ロードマップ」を補完した。さらに、2012年の「2+2」共同発表においては、「ロードマップ」に示された再編計画を調整し、在沖縄米海兵隊のグアム移転及び嘉手納以南の土地の返還の双方を普天間飛行場の代替施設に関する進展から切り離すことを決定した。 米軍再編の全体像 こうした中、2014年4月のオバマ大統領訪日の際の日米共同声明で、日米両国は、グアムの戦略的な拠点としての発展を含む、地理的に分散し、運用面で抗たん性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢をアジア太平洋地域において実現することに向け、継続的に前進していることを確認した。また、この共同声明において、普天間飛行場のキャンプ・シュワブへの早期移設及び沖縄の基地の統合は、長期的に持続可能な米軍のプレゼンスを確かなものとし、この文脈で、日米両国は、沖縄への米軍の影響を軽減することに対するコミットメントを再確認した。 10月の日米共同報道発表では、日米両国は、普天間飛行場の代替施設(FRF)をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設する計画が、普天間飛行場の継続的な使用を回避する唯一の解決策であることを再確認した。また、「ロードマップ」及び2013年4月の統合計画に基づく嘉手納飛行場以南の土地の返還の重要性を再確認し、その実施に向けた取組を継続する決意を強調した。日本政府としては、引き続き沖縄の負担軽減に取り組むとともに、一日も早い普天間飛行場の返還が実現できるよう、全力で努力し、辺野古への移設を法令に基づいて粛々と進めていく。 さらに、同共同報道発表では、日米両政府は、2013年10月の「2+2」共同発表以降の再編及び影響の軽減に関する措置を歓迎した。具体的には、2014年中に、以下の措置を実施した。 7月から8月にかけて、空中給油機KC−130全15機の普天間飛行場から岩国飛行場への移駐が行われた。これは1996年の沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告が公表されて以来、18年越しの課題であったが、日米の負担軽減努力が実を結んだものである。3月には、沖縄本島の東方沖合にあるホテル・ホテル訓練区域の一部における使用制限の一部解除について、日米合同委員会において合意に至った。また、同月、米軍再編にかかる訓練移転の拡充について、三沢対地射爆撃場を使用した空対地射爆撃訓練を追加することについて、日米合同委員会において合意した。本合意に基づく訓練移転は、嘉手納飛行場における騒音軽減につながることから、沖縄の負担軽減に資する具体的な措置として位置付けられる。さらに、5月から10月にかけて、2013年10月の「2+2」共同発表を踏まえ、米空軍がグアムを拠点に運用しているグローバル・ホーク2機の三沢飛行場へのローテーション展開が行われた。同機の展開は、アジア太平洋地域における米軍の抑止力の維持・向上につながり、日本の安全保障と地域の安定にも寄与するものである。 (4)在日米軍駐留経費負担(HNS) 日本は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保していくことが重要であるとの観点から、日米地位協定の範囲内で、在日米軍施設・区域の土地の借料、提供施設整備(FIP)費などを負担している。このほか、特別協定を締結して、在日米軍の労務費、光熱水料など及び訓練移転費(NLP)を負担している。 在日米軍関係経費(日本側負担の概念図)(平成27年度案) (5)在日米軍の駐留に関する諸問題 日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動が周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍の施設・区域が集中する沖縄の負担軽減を進める重要性については、日米首脳会談、「2+2」、日米外相会談などの累次の機会に日米双方が確認している。 日本政府は、在日米軍再編に引き続き取り組む一方で、米軍関係者による事件・事故の防止、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域における環境問題などの具体的な問題については、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。 現行の日米地位協定には、環境に関する規定がないことから、2013年12月、日米地位協定を環境面で補足する新たな政府間協定を作成するための日米協議を開始することで一致した。2014年2月以降、日米間で課長級の交渉会合を9回行い、10月の「日米共同報道発表」にて、日米地位協定を環境面で補足する協定について実質合意に至ったことを公表した。この補足協定は、@日米両国の又は国際的な環境基準のうち、より厳しいものを採用する米国側の基準の発出・維持、A文化財調査を含む返還予定地の現地調査や環境事故の際の調査のための立入手続の作成・維持といった規定を明確な形で含み、これまでの運用改善とは異なる歴史的意義を有するものである。この報道発表後、関連文書の作成など所要の作業を進め、署名に向けて取り組んでいる。