第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 各論 1 安全保障に関する取組 21世紀に入り、世界のパワーバランスは大きく変化し、グローバルな安全保障環境に複雑な影響を与えている。また、大量破壊兵器やその運搬手段の拡散などは、地域及び国際社会の深刻な懸念となっている。加えて、国際テロ、サイバー攻撃といった新たな脅威が出現し、軍事技術の革新も進んでいる。 東アジア地域では、北朝鮮による核兵器を含む大量破壊兵器の開発や弾道ミサイル能力の向上が日本の安全に対する明確かつ差し迫った重大な脅威となっている。特に、米国本土を射程に含む弾道ミサイルの開発や核兵器の小型化と弾道ミサイルへの搭載の試みは、日本を含む地域の安全保障に対する脅威を質的に深刻化させるものである。また、中国の透明性を欠いた軍事力の強化や日本周辺海空域や南シナ海における活動の急速な拡大は、日本を含む地域及び国際社会の懸念事項となっており、中国の動向について慎重に注視していく必要がある。 このように日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。また、グローバル化と技術革新の進展により世界のどの地域で発生する事象であっても、日本の平和と安全に影響を及ぼし得る状況が発生している。現在の世界では、どの国も一国で自らの平和と安全を維持することはできず、同盟国・有志国との連携、国際社会の平和と安定に向けた国際的協力の重要性が増大している。 これらの安全保障環境の認識を踏まえ、日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、日本の安全及び地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。平和国家としての歩みを堅持しつつ、国際社会の主要プレーヤーとして、米国を始めとする関係国と緊密に連携しながら、これを実践する。 ア 防衛装備移転三原則の策定 2014年4月、政府は、防衛装備の海外移転について、これまで武器輸出三原則などが果たしてきた役割に十分配意した上で、新たな安全保障環境に適合する明確な原則として、防衛装備移転三原則を策定した。新たな原則は、防衛装備の海外移転にかかる具体的な基準や手続、歯止めなどを明確に定めており、この原則に従い、平和貢献・国際協力の一層積極的な推進を図るとともに、各国との安全保障・防衛協力の強化などを通じて日本の安全保障の充実を図っていく。 防衛装備移転三原則(2014年4月1日国家安全保障会議決定・閣議決定) イ 安全保障法制の整備 日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化する中、日本の平和と安全を維持し、その存立を全うするとともに、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは、政府の最重要の責務である。また、日本の繁栄は、平和で安定した国際環境なしにはあり得ず、日本として、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、これまで以上に国際社会の平和と安定に積極的に寄与していかねばならない。そのためには、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備する必要がある。このような認識の下、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」から2014年5月に報告書が提出されたことを受け、与党における協議が重ねられ、7月に、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」閣議決定が行われた。この決定を踏まえ、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な国内法案の作成作業を開始した。 安全保障法制整備の基本方針に関する閣議決定を行った際の安倍総理大臣記者会見(7月1日、東京 写真提供:内閣広報室) この閣議決定については、関係国に対し透明性をもって丁寧に説明しており、アジア・大洋州、欧米、南米、中東諸国など、多くの国から歓迎と支持を得ている。引き続き、日本の安全保障政策について、様々な機会を利用して対外的な発信を進めていく。 〈閣議決定の概要〉 1.武力攻撃に至らない侵害への対処 (1)警察・海上保安庁などの対応能力の向上と連携強化、自衛隊による治安出動などの下令手続の迅速化を含め各般の分野において必要な取組を一層強化する。 (2)自衛隊と米軍が緊密に連携して切れ目のない対応がとれるよう、自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動に現に従事している米軍部隊の武器などを防護するための必要最小限の「武器の使用」を行えるようにする。 2.国際社会の平和と安定への一層の貢献 (1)他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する日本の支援活動は当該他国の「武力の行使と一体化」しないという認識を基本として、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で、必要な支援活動を日本が実施できるようにするための法整備を進める。 (2)PKOなどにおけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動について、武器使用を伴う活動を行っても、憲法との関係で問題が生じないことを確保することにより、こういった活動ができるよう法整備を進める。 3.憲法第9条の下で許容される自衛の措置 (1)ア 日本に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、 イ これを排除し、日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、 ウ 従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると判断する。 (2)このような「武力の行使」は、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合があるが、憲法上は、あくまでも日本の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、日本を防衛するためのやむを得ない自衛の措置としてはじめて許容されるものである。 ウ 領土保全 国家にとって基本的な責務である領土保全についても、日本の領土・領空・領海は断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅然(きぜん)かつ冷静に対応する。同時に、在外公館の人脈や知見を活かしつつ、領土保全に関する対外発信を強化するなど、積極的に取り組んでいる。