第2章 地球儀を俯瞰する外交 2 シリア情勢 シリア・アラブ共和国では、2011年3月以降、シリア政府と反政府勢力との間の暴力的衝突が継続し、2014年6月以降はイスラム過激派勢力である「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」が勢力を拡大して三つ巴の衝突となる中、9月下旬、米国などによるシリア領域内のISILなどに対する空爆が開始された。 人道支援については、1月15日にクウェートで第2回シリア人道支援会合(「クウェート2」会合)が開催され、日本はシリア及び周辺国への人道支援として、約1.2億米ドルの追加支援を検討していると表明した。国連安保理では、人道アクセスの拡大のために2月22日に国連安保理決議第2139号が、7月14日に同第2165号がそれぞれ採択された。決議第2165号により、シリア当局への通報の下、国連人道機関などによる紛争ライン及び国境を越えた支援が可能となった。8月下旬にシリア国外に流出したシリア難民数が300万人を突破するとされる中、日本は、9月に中東の安定化のため約2,550万米ドルの支援を発表した。このうち、約550万米ドルは、シリア難民の最大の受入れ国であるレバノンに流入したシリア難民やホストコミュニティへの支援、及びシリアの中で国際社会の支援が届きにくい地域への支援(クロスボーダー支援)であった。 政治プロセスについては、1月22日、スイスのモントルーでシリアに関する国際会議(「ジュネーブ2」会議)が開催され、続いて、1月末から2月初めにかけて、ブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表の仲介の下でシリア政府と反体制派による初の直接対話が行われたが、成果は得られなかった。5月31日にブラヒミ特別代表が辞任し、6月4日のシリア大統領選挙でバッシャール・アサド大統領が3選され、政治プロセスは停滞した。一方、7月10日にブラヒミ共同特別代表の後任としてデ・ミストゥーラ国連事務総長特使が任命され、国連総会一般討論期間中の9月24日、いわゆる穏健な反体制派への支援を目的として、ニューヨークで「シリア政治プロセス閣僚会合」が開催された。同会合では、岸田外務大臣から、シリアの将来に責任を有する当事者間の対話を実現する環境を醸成すべく、各国が「シリア国民連合」(1)の取組をそれぞれが可能な形で支援していくことが重要であると強調した。 化学兵器の問題については、2013年9月の化学兵器禁止機関(OPCW)の決定や国連安保理決議第2118号に基づいて、2014年6月にシリア国外への化学剤の搬出が完了し、国際協力による廃棄作業が完了に近づいているほか、シリア国内の化学兵器生産施設についても廃棄に向けたプロセスが進められている。 日本としては、シリア情勢が悪化して以降、2014年までに4億米ドル以上のシリア及び周辺国に対する人道支援を実施してきている。シリア情勢の安定化には、「ジュネーブ・コミュニケ」(2)を通じた政治的解決が基本であるとの認識の下、引き続き、人道支援と政治対話への貢献を車の両輪として取り組んでいく(ISILと邦人殺害テロ事件については15ページのフォーカス参照)。 1 2012年11月にシリア反体制諸派が設立した組織。本部はイスタンブール 2 2012年6月30日のシリアに関するアクション・グループ会合(「ジュネーブ1」会合)で採択された文書で、移行的な統治主体の設立を含むシリアの政権移行プロセス等が盛り込まれている。