第2章 地球儀を俯瞰する外交 各論 1 中南米諸国との関係強化と協力 (1)経済関係の強化 中南米地域は、世界有数の経済規模を有するブラジル(世界第7位、G20加盟国)やメキシコ(世界第15位、G20加盟国)、コロンビア、ペルー、チリ、パナマなどの成長著しい太平洋沿岸国やアルゼンチン(G20加盟国)、ボリビアなどの食料・鉱物資源の豊富な国々を擁している。その経済的潜在力には世界的な関心が集まっている。 中南米地域経済の成長は、2011年以降、商品価格の下落や域外主要国の経済失速などにより減速しているものの、日・中南米貿易額は過去10年間で倍増しており、中南米における日系進出企業数は2014年時点で1,962社となっている。 経済指標比較 日本は、中南米各国を共に成長する経済パートナーとして重視し、官民一体となって、日・中南米間の貿易・投資関係の推進や円滑化に取り組んでいる。日本政府は、貿易促進や進出企業のビジネス環境整備に資するEPA、投資協定などの法的枠組みの構築促進やこのような枠組みに基づく協議などを通じ、日本企業の進出の促進を始め、経済関係の強化を図っている。2014年には、計6回の日・コロンビアEPA交渉が行われるとともに、2015年1月、日・ウルグアイ投資協定への署名が行われた。 (2)人的交流の強化 秋篠宮同妃両殿下は1月から2月にかけてペルーとアルゼンチン、9月から10月にかけてグアテマラとメキシコを御訪問になったほか、高円宮妃殿下が6月にブラジルとコロンビアを御旅行になった。 中南米には、178万人の日系人が在住するなど、日本との人的・歴史的な絆も深い。こうした背景から、日本政府は中南米地域との人的交流を強化している。上記、安倍総理大臣の中南米訪問に加え、中南米からの若手外交官、日系人などの招へいや、2014年が節目の年であったメキシコ、キューバ、カリコム、ボリビアとの間の各種交流事業などを通じ、あらゆるレベルでの交流を強化した。 (3)中南米諸国の安定的な発展のための貢献 中南米諸国の安定的な発展のためには、持続的成長と政治的安定が課題であるとの認識から、日本は、中南米各国が民主主義を堅持しながら貧困や社会格差是正に向けた適切な努力を行い、安定的に経済成長を遂げることを重視している。このような観点から、教育や保健・医療など生活水準の向上や、中南米各国の持続的な経済成長に資する再生可能エネルギー開発や産業インフラ整備などの分野において、ODAなどを通じて積極的な支援を行っている。さらに、アルゼンチン、チリ、ブラジル、メキシコといった国との間では、他の開発途上国を支援するいわゆる三角協力を進めている。 また、ハリケーンや地震などの自然災害に対し脆弱(ぜいじゃく)な中南米各国とは、防災面でも多くの協力を行ってきている。生物多様性にも富み、気候変動による自然災害の増大にも関心が高いことから、環境分野においても積極的に協力している。9月には、ホンジュラスにおいて過去10年で最も深刻な干ばつが発生したことを受け、国連世界食糧計画(WFP)への通常拠出金から50万米ドルを支援した。 (4)地域機構を通じた中南米諸国との協力 中南米地域では、様々な地域統合の試みが漸進的に進んでいる。日本は、地域や国際社会の諸課題に対する連携を強化すべく、太平洋同盟、アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)、中米統合機構(SICA)、カリブ共同体(CARICOM)、南米諸国連合(UNASUR)、南米南部共同市場(MERCOSUR)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)やイベロアメリカ・サミットといった地域機構との連携を強化している。特に、2014年が日・カリブ交流年であったCARICOMとの間では、7月に第1回首脳会合、10月に第17回事務レベル協議を実施した。また、11月に行われた第4回外相会合では、首脳会合で安倍総理大臣が発表した対カリコム政策(@小島嶼(とうしょ)国特有の脆弱性克服を含む持続的発展に向けた協力、A交流と友好の絆の拡大と深化、B国際社会の諸課題の解決に向けた協力)を軸に今後の関係強化を行っていくことが確認された。今後ともこれら地域機構との連携を強化していく。 安倍総理大臣のコロンビア訪問(7月28日〜30日、コロンビア・ボゴタ 写真提供:内閣広報室) 日・カリコム首脳会談(7月28日、トリニダード・トバゴ 写真提供:内閣広報室) 進展する地域統合との関係強化 中南米における地域機構 日・カリコム関係 〜カリコムの魅力と課題〜 カリブ共同体(カリコム)は、人口1,000万人のハイチを除けば、人口が少なく、残りの国を全部合わせても700万人程度に過ぎません。その多くは、小さい島国です。しかしながら、14か国中12か国は英語国、しかも言論が活発な民主主義国であり、高い発信力をもって国際社会で存在感を発揮しています。私は、2014年1月以来、日・カリブ交流年担当大使として、カリコム諸国を回っており、これまでに14か国中12か国を訪問し、各国首脳に安倍総理大臣のメッセージを伝えるとともに意見交換を行ってきました。 ラモタ−・ガイアナ大統領(右)との会談にて 日本とカリコム 日本からカリブまでは、片道20時間以上かかり、一寸遠いのですが、不思議と日本人にとって違和感はありません。 まず目に付くのは日本でよく見る箱庭的景色、そして日本車が多いことです。日本車は、右ハンドルで、故障が少ないことが人気の理由とのこと。 そして、魚が新鮮でおいしいことです。日本の無償資金協力により建設された魚の水揚げから冷凍保存・販売、人材育成まで行う水産センターが地元経済に大きく貢献しています。 セントビンセントの水産センター カリコムを取り巻く厳しい環境 カリブの国でロケした映画は無数にありますが、実際、抜けるような青空、コバルト色の海、白砂の海岸は映画以上にすばらしいです。しかし、国土も経済規模も小さいことから、独立国としての運営が容易でないという現実があります。 カリブのある外相は、“For us, natural disaster is a national disaster.”(我々にとり、自然災害は国家をゆるがす災害である)と言いました。ハリケーンの一撃で2年分のGDPを上回る損害を受けたり、短時間の集中豪雨でも、日本であれば70-80兆円に相当する甚大な被害を受けたりします。農地として使える土地が少なく食料を輸入に頼らざるを得ません。電力も殆ど火力発電のため、燃料輸入が国際収支を圧迫し、国家財政も苦しくなっています。電力料金も高く、バルバドスでは4人家族で月額2万円程度と聞きました。多くの国では観光収入に大きく依存していますが、2008年のリーマン・ショックで大打撃を受け、その後の回復は思わしくありません。 こうした自然条件や国際経済の影響など、自分の力では如何ともしがたい問題に取り組むためには、国際社会の協力が必要です。特に、防災、再生可能エネルギー・省エネ、食料生産において、経験と技術を有する日本が果たすべき役割は大きいものがあります。 日・カリブ交流年担当大使 島内 憲